表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ぱらのいあ  作者: 楸由宇
第1章 足跡
2/24

右と左

 右に大き月が出ていた。あれから、ずっと歩いてきた。そろそろ休んでもいいころかなと思う。でも、まだ、歩き続けたい気もする。動いていないと、何だか落ち着かなかった。やっぱり、まだ歩き続けようかと思う。右にある大きな満月を見ながら、私はあのときのことを思い出していた。思い出したくないのに、勝手に心に浮かぶあの光景。まだ、その事実を受け入れるには早い気がする。その事実を認めることはできなかった。いや、認めたくなかった。そのことを認めると私が私でなくなる。

 しかし、こんなことが起こることはわかっていた。でも、こんなに早く、自分の身に降りかかることとは思っていなかった。そんなことはまだまだ、ひとごとだと思ってきた。私が、そのことを受け入れられるようになるのはいつだろう?

 私にはまだわからない。

 右にあった月も徐々に低くなってきた。そろそろ、明るくなるころかなと思う。いったいどこまで歩けばいいのだろう。

 その事実に直面したとき、私は受け入れることを拒んだ。受け入れるかわりに、その事実から逃げ出すことを選んだ。その事実を認めるのがこわかった。心のどこかでは受け入れなくてはと思う。でも、別の部分では受け入れるなと叫んでいる。その事実を受け入れたら、自分が壊れてしまう気がした。こうして街から、離れて一人で歩いていても受け入れることはできなかった。ずっと苦しかった。この気持ちを何とかしたい。どうすればいい?

 起こったことを事実として受け入れてしまえば、楽なのだろう。でも、できなかった。心が、自分が、失われるのが悲しいから。

 右にあった月もだいぶ沈んでしまった。やっぱり休もう。太陽が昇ってきたら。歩き初めて、一ヵ月。そろそろ休んでもいいころかもしれない。あまり疲れていないけど、どうせ体はないんだ。少し休めば、まだ一月ぐらい歩いていられるさ。あの事故を、自分の死を受け入れさえしなければ。

 そろそろ、左に太陽が見えてくるだろう。少し休んだら、また歩き出そう。まだ迎えは来ないだろう、自分の死を受け入れなければ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ