ドアが開く(習作〇二)
古ぼけた木のドアを開け薄暗い階段室へと身体を滑り込ませ地面の下へと続いている狭い階段を下りきると目の前にもう一つの古ぼけたドアがありノブをつかみそっと回すとカチリと音がして向こう側へドアが開く。地表より下にある饐えた匂いの篭るその部屋から闇が漏れ出てきた気がするがそれは気のせいでドアをギイッと開き隙間から中を覗くが薄暗い階段室よりなお暗い部屋の中にすぐ目は慣れず一瞬目の前が暗くなるがそれも一瞬で8畳ほどの部屋の真中に置かれている会議机を囲むように座る幾人かの人の目がドアへ集まる。意を決してドアをガバッと開けて中に入るとドアに集まっていた視線が俺に集まり居心地が悪くなるがそれもあっという間に消え去ってドアを閉めると闇の中に一人取り残された俺がいる。再び闇に目が慣れると四角く置かれた会議机に男4人女3人の計7人が座って俺を見ていることが判ったが誰も口をきかずこの部屋にいる8人全員がまるで石になったかのようにただただ黙って固まっているとドアから一番遠くに座っている一番年寄りで一番えらそうなババアがスッと右手を上げると今まで固まっていた全員がまるでスウィッチが入ったかのように動き出しババアが口を開く。
「ここは何処か」
質問の内容は予め聞いていたモノなので大して驚きはしなかったがそのしわがれた声は予想を上回るモノで少しだけ怯んだがこの饐えた闇の中にはとても馴染む声かもしれないと思い直し俺は口を開く。
「地の下」
答えを聞いたババアは少しだけ目を細め取り巻き6人も目を細め厭らしく口を横に広げ脂に汚れた前歯をニッと見せ身振りでドアに一番近いところにある空いている椅子を指差すが俺は見ない振りをしてただただ立ちすくみババアの次の声を待つ。
「ここの仕来りは知っていると思うが、お前に資格が在ると証明できるか」
黙って立ったままその言葉を聞いていたがババアの後ろの壁の右上にある染みの形がイタリアの長靴型に似ているような気がして気になって気になって仕方がない俺はババアの問いに応えることを一瞬忘れていたが我に返った俺はリーバイスの右の尻のポケットに差し込んであった温くなったナイフを取り出しグッと握るとそのまま右の首筋に刃を当ててスッとナイフを滑らす。皮が裂け肉も避け血管も裂けどす黒い血が闇に包まれ饐えた匂いの篭る直方体の中に迸るがどんどん体温が下がって目の前が暗くなって意識が飛んで俺は自分が自分で無くなって空の彼方へ飛んでいく。