表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/11

第六話 ぽりぽりぽりぽり、かりかりかりかりっ。

 『ぽり、ぽり、ぽり、ぽり、ぽり、ぽり、ぽりっ。ぽり、ぽり、ぽり、ぽり、ぽり、ぽりぽり……』


 真剣みに包まれた、シリアスな雰囲気が漂い始めた部屋の中。

 そんな場面に響いていたのは、少女達の奏でる菓子を食す音だった。


 『ぽり、ぽり、ぽり、ぽり、ぽり、ぽり、ぽりっ。ぽり、ぽり、ぽり、ぽり、ぽり、ぽり、ぽり……』


 「……なぁ、なんか今シリアス場面なのに、この効果音ってどうなんだろうか……」


 「えぇ?別にいいんじゃないの?場が和んでいいじゃないっ」

 『ぽり、ぽり、ぽり、ぽり、ぽり、ぽり、ぽり……』


 「……なぁ、何か画面が一面『ぽ』と『り』で埋め尽くされてるんだが、シリアス突入したのにいいのか?」


 「あぁ?別に良いのではないか?もともと、コメディで登録してあるのだし。

それに、多少ふざけていようとこの文字ばっかりの読みづらいつまらんくだらん小説なんぞ、誰も読んでいなかろうっ。気にするでないっ」


 『ぽり、ぽり、ぽり、ぽり、ぽり、ぽり、ぽり……』


 「いや、確かにそうだけれども……。ってか、中の事情を言うなっ!……ったく、だから誰も読まねぇんじゃねーかっ、お前らのせいだぞっ」


 「いいえっ、違いますわよっ!中の人の文章力の無さと、ストーリー構成がヘタだからですっ!

私たちのせいにしないでくれますっ?汚らわしいっ。」

 「そうだ、そうだっ!私たちのせいでは無いっ!だから私たちは心おきなくポッキィを食べるっ。……てゆうか、なんだか貴様とワンセットにされると、イライラするのだが。これはどうしたらよいのだっ?……だから取り敢えず貴様は滅びろっ!」

 

 『ぽり、ぽり、ぽり、ぽり、ぽり、ぽり、ぽり……』

 

 「へぇ?なんですって?イライラするのは私のほうですわっ!だから貴方が滅びなさいっ!」

 

 『ぽり、ぽり、ぽり、ぽり、ぽり、ぽり、ぽり……』


 「……酷い言われようだな、まぁ、事実だが。……そうか、お前らの口喧嘩もその効果音で少し緩和されるのか。行が空くから少しは読みやすくなってるぞっ。……だが、なんか俺までイライラしてくるのは何故だ?なぁ、おいっ」


 「はぁ?滅びるのは貴様の方だと先から言っておろうっ!まったく、聞き分けの悪い奴だなっ。天使は都合の良いことしか聞かなくて困るっ。話が通じないから、話すのが面倒だっ。だから黙れっ、そして私の前から消え失せろっ!」


 『ぽり、ぽり、ぽり、ぽり、ぽり、ぽり、ぽり……』


 「……例によって俺は無視か」


 「何を言っているのかしら?私はきちんと全て聞いていますし、きちんと理解もしていますわよっ?聞き分けの悪いのは貴方の方では無くて?悪魔はなんでも自分達の言いようにしか聞きませんからねっ。話が通じなくて、話すのが面倒ですわっ。だから黙りなさいっ、そして私の前から消え失せなさいっ!」


 『ぽり、ぽり、ぽり、ぽり、ぽり、ぽり、ぽり……』


 「っくっ!なんだとっ!?貴様なぁ……」


 「……あっ!」

 「……あっ!」


 チョコレート菓子を食べながら口論をしていた少女達の手が硬直し、少女達が驚いたように声をあげた。

 そして、互いの顔を見合わせる。

 俺がその光景をどうしたものかと見ていると、その時、少女達が俺の方をキッと睨んだ。


 「おいっ!どうしてくれるんだっ!ポッキィが無くなってしまったではないかっ!」

 「ねぇっ!どうしてくれるのですっ!ポッキィが無くなってしまったじゃないっ!」


 「……いや、そりゃ食べたら無くなるだろうっ!」


 「もう一つ持って来ないかっ!」

 「もう一つ持って来なさいっ!」


 「いやっ、もう無いんだがっ!それになんだよその態度っ!俺のポッキィだっつーのにっ!」


 そう言うと、少女達は悔しそうに少し身を退いて数秒間膠着する。

そして少し考え込むと、少し頬を赤らめながら、頭を下げた。


 「……もう一つっ、下さいっ!」

 「……もう一つっ、下さいっ!」


 『ゴツっ!!』


 「あぎゃっ!!」

 「あぎゃっ!!」


 しかし、テーブルとの距離感がいまいちつかめていなかったのか、二人そろってテーブルに頭をぶつける。


 「……いやっ、そこ直しても、無いものは無いんだがっ。……大丈夫か?」


 「……余計なお世話だっ!」

 「……余計なお世話だっ!」


 二人の少女は痛そうに頭をさすりながら、俺に向かって言葉を吐いた。

 そんな二人のことを少し心配そうに見ながら、俺は少し思い出したように考え込む。

 そして、思い出すと少女達に向かって思い出したように呟いた。


 「そういえば、少し前に安かったから買った徳用ラスクがあったな。

まだ賞味期限切れてないと思うんだが……」


 「ラスクっ!?」

 「ラスクっ!?」


 案の定、二人はその単語に食いつく。

 そして我先にと言わんばかりに、俺に手を伸ばした。


 「それをよこせっ!私にそれを早くよこすのだっ!賞味期限が切れる前に私が食べてやろうっ!」

 「それをよこしなさいっ!私にそれを早くよこすのですっ!賞味期限が切れる前に私が食べて差し上げましょうっ!」


 「……それが人にものを頼む態度か?」


 「……あぁっ」

 「……えぇっ」


 「うっ、天使と悪魔めっ!……じゃあ、質問を変えるっ。……果たして、それがラスクを頼む態度か?」


 「……うっ!」

 「……うっ!」


 今度は効いたらしい。

 少女達は狼狽し、俺のことを睨んでいる。……恐い。

 しかし、少女達はぶすっくれた顔で少し考え、段々恥ずかしそうに顔を赤らめた。


 「……らっ、ラスクを、下さい……っ」

 「……らっ、ラスクを、下さい……っ」


 『ゴツっ!!』


 「あぎゃっ!!」

 「あぎゃっ!!」


 そして少女達はまた頭を下げて頭をぶつけた。……学習能力ないな。

 しかし、俺はそんな少女達が面白くって、頭をさする少女達を心配する傍ら、首を横に振る。


 「……駄目だな、そんなんじゃあげねーぞっ?もっと丁寧にだっ!」


 「てっ、丁寧に……?」

 「てっ、丁寧に……?」


 少女達は驚いて、少し困惑した様子を見せる。

 そして少し考え込むと、もっと顔を赤らめた。


 「……らっ、ラスクを、下さいますか……?」

 「……らっ、ラスクを、下さいますか……?」


 「もっともっと、丁寧にだっ!自分を下げて、俺を上げてっ!」


 「はぁ?そんなこと……っ」

 「えぇ?そんなこと……っ」


 「……じゃないとあげねーぞ?」


 「……うっ!」

 「……うっ!」


 少女達は言葉をつまらせる。

 すると少し考えて、今度は顔をリンゴのように真っ赤にして、言葉を発した。


 「……わっ、私めに、貴方様のらっ、ラスクを……下さいます、か……?」

 「……わっ、私めに、貴方様のらっ、ラスクを……下さいます、か……?」


 「まだだなっ!もっとだっ、もっとっ!……そうだな、俺のことを、ご主人様って……」



 『ドガっ!!』


 「いだぁっ!!」 


 「そんなこと出来るわけなかろうっ!下劣者がっ!!」

 「そんなこと出来るわけないでしょうっ!下劣者っ!!」


 少女達の顔を見たとたんに、拳が飛んできた。

 ……まぁ、それもそうだな。俺はテーブルに頭をつけながら、少女達に俺の部屋にあるラスクの在処を教えた。



 「……しかしこの家、汚いなっ。お前の部屋もまるで溝ネズミの家のようであったっ。賞味期限よりも、衛生面が気になるっ。おい、もし私がお腹を壊したらどうしてくれるっ?お前を呪うどころでは済ませんぞっ!」 

 「そうですわっ!もし私がお腹を壊したらどうするのです?お菓子の家一つ奢ってもらうどころでは済ませませんわよっ!」

 

 俺の部屋から無事ラスクを奪還してきた少女達は、口々に文句をその口から吐き、その問題のラスクを何の躊躇もなくカリカリと食べる。


 「……じゃあ、食べなければいいじゃないかっ!」


 「……そうはいかんっ!早く食べなくては、食べる人も賞味期限も切れてもったいないであろうっ!……こんな美味しいもの……」

 「……そうはいかないわっ!早く食べなくてはね、食べる人も賞味期限も切れてもったいないでしょうっ!……こんな美味しいもの……」


 「・・・じゃあ、文句言わずに食えよっ!」


 ぶつぶつと口答えをする少女達は、もくもくとラスクを食べる。

 部屋の効果音が『ぽりぽり』から『カリカリ』へと変わった。

 ……耳障りであることに変わりは無いのだが、俺はそんなことを少女達に言っても仕方がないと思ったので、先の話の続きを持ち出した。


 「……なぁ、話を戻るんだが、俺が良いことも悪いことも同じようにしかしてこなかったって、つまり、具体的にどういうことだ?いまいちピンと来ないんだが……」


 すると少女はラスクを食べながら、俺の質問に耳を傾け答えを返した。


 「そのままの意味だっ。具体的に言うと、お前でいう悪いところは、まぁ、第一にその万引き癖だろうっ。……窃盗罪だからなっ。そう軽くは無い悪い点だっ」


 「だけど、人間は根本的な所から悪い者ではないわっ。日々の生活上では、基本的良いことばかりしているのっ。それが、たとえ自分のためであっても、少しでも人の為になっていたら、+ポイントが加算されるわっ。具体的に言うと、お店で何かを買っただけでお店の為になるから+ポイントですし、ゲームセンターで無駄にお金を浪費するのだって+ポイントですわっ。……貴方の場合ですと、それプラス、多少の母親に対する孝行や高校に通っていること、仕事をしていることに、たまに何気なくする募金とかがそうでしょうっ。それで、-を相殺していた訳ですわっ。……わかりまして?」


「なるほど……。……てかっ、全部俺の行動バレてんのか?恐ぇーな……」


 分かりやすく説明してくれた少女達だが、俺は少女達の言語に身を強張らせる。

 すると少女達はそれを聞いて顔を赤く染めた。


 「……まぁ、な。貴様のことを取り敢えず調べたからなっ。……仕事だし。だから、その……貴様が、たまにコンビニで、エロ本買ってたのも、その成り行きで……」


 「あっあわわわわーーーっ!!ななななんてことまで調べてやがんだぁっ!?おおおお前らっ!!」


 「しょうがないだろっ!!仕事なんだからっ!!」


 「なんて破廉恥な……っ。不浄な輩だわっ!!私も知っていましたがっ!!

近づかないで下さいよねっ!!不潔なっ!!」


 「不潔ってなんだよっ!!くっそ……っ」


 俺も顔を真っ赤にさせたが、少しして気を落ち着かせ、話を戻した。


 「……でっ、なんで0だといけないんだ?何か面倒事でもあんのかよっ?」


 「……あぁ、かなり面倒だっ」

 「……えぇ、かなり面倒よっ」


 少女達はまだ顔を赤らめながら言葉を返す。


 「考えてみろっ。天国にも地上にも行けない奴がいつまでも輪廻転生出来ずににいたら、いろいろと大変だろうっ?」


 「……あっ、そうか。」


 「だから、私たちが貴方の所に来たのよっ。不幸な境遇に生まれた人や、不幸な事故で亡くなってしまった人には、救済ポイントっていうものもあるけれど、生憎その制度は+ポイントの人にしか適用しないですしねっ」


 「良いことをした人には、良い扱いを……」


 「その通りだっ。それが、貴様の所に来た理由の全てだ」


 ぼそっと呟いた俺の言葉に少女が頷く。

 部屋には少女達が食すラスクの音がまだ途絶えることなく響いており、段々とこの部屋に馴染んでいっていた。

 しかし、俺の疑問はまだ終わらなかった。

 俺は他の疑問を少女達に尋ねる。


 「……で、お前らの仕事は、その人間の死後のことを一貫してやることなのかっ?」


 すると、少女達はその問いに少し考えてから返事を返した。


 「……まぁ、そうねっ。簡単に言えばっ。」


 「天使は+ポイントの人々の死後の」

 「悪魔は-ポイントの人々の死後についての仕事を大体している」


「そんな境遇の生物だから、特権もあるのよ」


 「特権って?」


 俺がそう言うと、少女達は自慢そうな表情になり、言葉を発した。


 「簡単な魔法が使えたりっ」

 「食べ物は何でも食べたいものが手に入ったりっ」

 「人間に多少の意地悪が出来たりっ」

 「人間に多少の幸福を与えることが出来たりっ」

 「娯楽施設が全て整ってたりっ」

 「たまにボーナスでデズニーのチケット貰ったりっ」

 「道でティッシュ二つ貰えたりっ」

 「がりがりっくんの当たりが出やすかったりっ」

 「チヨコボールの銀のエンジェルは二枚で応募出来たりっ」

 「福引きのはずれは無かったりっ」

 「ミルキイの四つ葉のクローバー一つの紙に二つあるときがあったりっ」

 

 「あとは……」

 「あとは……」


 「あ、いいや、もう……」


 俺はその自慢げな少女達の言葉を少し苦笑いをしながら止めた。

 すると、少女達はつまらなそうに少ししゅんとさせた。


 「そうか……」

 「そうですか……」


 そんな少女達を見て、俺は少し悪いような気がしてしまったが、一つの疑問があったので、それを黒の少女に聞いた。


 「……なぁ、一つ質問なんだが、『悪魔が人の魂を食う』っていうのは本当か?」


 そう尋ねると、少女達は少しぽかーんとした顔をして、そのあとげらげらと笑い出した。


 「わははははははっ!!ぷっ、貴様っ、そんなのを信じていたのかっ!?ぷっ、あはははははははっ!!わはははははははははははっ!!」

 「わははははははっ!!ぷっ、貴方っ、そんなのを信じていたのっ!?ぷっ、あはははははははっ!!わはははははははははははっ!!」


 その様子を見て、最初の内はぽかーんとしていたが、そのあと何だか恥ずかしくなって、俺は少しムキになって言った。


 「……んなっ、悪いかよっ!!人間界ではそう言うんだっ!」


 「いや、悪いわけではないがっ!いやっ、ついつい可笑しくてなっ!」

 「ぷくくくくくっ!!」


 そう言うと、少女達は少し笑いをおさめ始め、大分落ち着いてから俺に話した。


 「その話しはなっ、結論から言って嘘だっ!あれは昔、たまに地獄から逃げ出した人間が、何かしらの手段で地上の人間をそそのかして、魂を千切り取り、何処かに隠してしまうことから広まったのだろうっ。しかし、最近ではそんなことは一切無いから安心しろっ!時代の発達により、セキュリティーは万全だっ!でなければ、そんな仕事を増やすようなことするかっ!」


 「ごめんなさいねーーっ!夢壊しちゃってっ!ぷくくくくっ!!」 


 「なんかうぜぇ……」


 少女達が可笑しそうに笑い、俺は恥ずかしそうに少し顔を赤らめる。

 この部屋に、大きな笑い声が響いた。

 俺は恥ずかしいことこの上なかったが、この家に、そんな大きな笑い声が響いたことは、初めてのことだった。

 俺も、思わず少し笑ってしまった。

 その笑いを見て、少女達はまた可笑しそうに笑う。

 もう、何で笑ってるのかいまいち分からなくなってきたが、俺は、思いっ切り笑った。

 三人の大きな笑い声が響く。

 こんなに笑ったのは、初めてだった。

 誰かと一緒に笑ったのは初めてだった。

 自分が可笑しくなるのではと思ったが、楽しかった。

 陰気なことが全て飛んでいきそうだった。

 笑うって、こういうことなのか。初めて知った。

 何だか暖かな気分になった気がした。

 ……楽しかった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ