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第三話 ついすとぱんーばばーんがぱんじゃめなんふろしぇにんじんっ!

 「高野雅人(こうやまさと) 十六歳  男 

  冥利(みょうり)高等学校通信科二年 

  五月十三日  午後 二時四十三分  

  ―――――貴方は今から二時間後、

  ―――――――――死亡します」 


 天使が俺に真顔でそう告げた。

 何処からか、春の暖かな陽気の中に冷たい空気が流れ込む。

 俺は、一瞬世界の時が止まったかのような感覚に見舞われた。



 ―――――貴方は今から二時間後、

 ―――――――――死亡します。



 その言葉が俺の頭の中で渦を巻き、俺の思考を絡め取る。



 ―――――――死、亡―――――――?



 考えてもいなかった言葉。

 突然突きつけられたその言葉に、俺は膠着してしまった。


 「かっきり午後二時四十三分だっ。貴様がどう足掻こうと、その運命はもう変えられない。今から二時間後、貴様は死ぬのだ」


 「死亡原因までは言えないけれど、貴方の寿命は後二時間。私の貰った資料にもちゃんと書いてあるわ。ほらっ」


 天使が一枚の薄っぺらい紙を見せる。

 俺がゆっくり目をやると、そこには確かに、見慣れた俺の名前と先ほどから少女達が口にする時刻、そして重苦しい意味なのに軽々しく書かれた二つの漢字があった。


 「……死亡?……俺、が……?……まさか」


 俺はその突きつけられた紙を見て、微笑を浮かべる。

 冗談だと思った。

 冗談であって欲しかった。

 しかし、その希望は二人の少女によって直ぐさま掻き消された。


 「これが貴様の運命だっ」

 「これが貴方の運命よっ」


 笑っていなかった。本気だった。

 俺は、その言葉に動揺を隠せなかった。


 「……俺が、死亡……?……死?もう、俺は……死ぬのか?……俺は、この世界から、消える……のか?彼奴、みたいに……?」


 「……彼奴?」


 天使が俺にそう尋ねたが、俺はその問いには答えなかった。

 俺はその時、少し彼奴のことを思い出して憎悪を感じていた。歯をぎりりと噛み締める。

 しかしその後、俺は笑っていた。爆笑しそうだった。


 「……ふふっ、あははははっ!あはははははっ!!俺は死ぬのかっ!!そうかそうかっ!くくっ、あははっ!!」


 「……貴様っ?可笑しくなったのか?」


 「いやっ?だって、考えてみろよっ。俺の人生なんか、ろくなもんじゃねぇじゃないかっ。俺が死んで、誰が悲しむ?みんな、安心して喜ぶだろっ?……未練なんか無いっ。考えてみれば、別に悲しむ事も無いじゃないかっ。寧ろ、一思いに死ねた方が楽で良いじゃないかっ。……生まれ変わって、次の自分が幸せに生きれるのなら、その方がいいじゃねぇか。くく、あははははっ!!」


 俺は笑いながらそう言葉を発していた。しかし、特に口を開くにつれて、楽しくなど無かった。それなのに、俺の笑みは消えなかった。

 その時、俺は誰かの視線を感じた。俺は道の真ん中にいたことを思い出す。

 俺が辺りを見ると、近隣の人がざわつき、俺を黒い目線で見ているのが見えた。

 行く行く通行人が俺を不審そうに見ていき、立ち話をしていたおばさん達が嫌悪そうに俺を睨む。俺はそれを見ると歯を噛み締め、再び歩き出すと小声で少女達に言った。


 「……続きは俺の家に着いてから話そう。ここだと、俺は麻薬中毒(やくちゅう)に見られる」


 「……私も一瞬疑ったがな」

 「……私も一瞬疑ったけれどね」


 そう少女達に言われながら、俺は家路を歩いていった。



 「あくまっ」

 「まりあっ」

 「あ……あめっ」

 「め、めだかっ」

 「かくめいかっ」

 「か……、かじきまぐろっ」

 「ろっくんろーるっ」

 「るびーっ」

 「び……びすけっとっ」

 「とうにゅうっ(ばななおれあじっ)」

 「貴様っ!さっき豆乳は言ったでは無いかっ!ずるいぞっ!」

 「ぶっぶーっ!残念でしたっ!さっきのはとうにゅう(めろんおれあじ)ですよっ!全然味が違いますよーっ!」

 「……ちっ、くそっ!どっちも旨いが確かに味が違うっ!……じ……、じゅーすっ!」

 「すいかっ」

 「かすてらっ」

 「ら……らすくっ」

 「くっきーっ」

 「きゅういふるーつっ」

 「つ……いすとぱんっ」

 「んーばばーんっ」

 「っくそっ、答えられぬと思ったのにっ。……と見せかけ、んじゃめなっ!」

 「何ですってっ!?「ん」地獄から抜けるなんてっ!貴方も徒者じゃ無いのねっ。しかしっ、これならどうかしらっ?なんっ!」

 「んがぱんっ」

 「な……っ!そんな言葉があっただなんて……っ。ん……っ、……んー……っ」


 俺はもう死ぬというのに、呑気に少しおかしなしりとりをする少女達。

 此奴らには、俺の生死何てどうでも良いのだろうか。

 ……しりとりって、「ん」の地獄に魘される遊びだったっけか?「ん」を言ってはいけない遊びだよな?ってか「ん」から始まる言葉、俺知らねーし。それに「ぱん」付けたら、何でも「ん」で終わんだろっ。何味かまで付けたら永遠終わらねぇしっ。無しだろっ、確かに味は全く違うが豆乳は豆乳だと俺は思うっ。因みに俺はコーヒー味派っ。

 ……まぁ、そこら辺は敢えて言わないことにしよう。


 「……んーっ、んー……っ」

 「ギブアップか?貴様。早く降参と言ったらどうだ?」

 「んー……んふろしぇにっ!」

 「何っ!?に……、に……にんじんっ」

 「ん!?ん……っ、んー……」


 「……なぁ、なんでしりとりしてんの?」


 「暇だからだが?」

 「暇だからだけれど?」


 「……さっきっからものの三分も経ってねぇんだけど。静かに出来ねーの?」


 「別に誰にも聞こえてないんだから良いではないか」

 「別に誰にも聞こえてないのだから良いじゃない」


 「……俺の迷惑は関係ねぇのかっ。つーか俺死ぬんだよな。なのになんでそんな呑気なんだよっ。真剣になってたのが馬鹿みたいじゃねーか」


 「だって馬鹿じゃないっ」


 「うっせーなっ!これでも昔はまあまあ頭良かったっつーのっ!」


 「……貴様が五月蠅いっ。端から見るとそれこそ麻薬中毒(やくちゅう)に見られるぞっ。……人間如きに一々感傷するわけ無かろう。死後の人間に関わる仕事をしているというのに。やはり馬鹿だなっ」


 「ば……っ!?はぁ。まぁ、そう考えればそうかっ」


 俺は一人で納得すると、また淡々と歩き出す。

 ……しかしあいつら、何であんなに気が合うんだよっ。仲が良いんだか悪いんだか……。

 ……いや、悪いのか。じゃなきゃあんな悪質なしりとりも毒舌も吐かねぇか。……つーか、んーばばーんって何っ?んじゃめなって何っ?んがぱんって何っ?んふろしぇにって何っ?!何語だよっ、食べ物かっ?呪文かっ?……復活の呪文的な?んーばばーんって復活すんのかっ?……いやっ、きっとんーばばーんはばよえーん的な、気分を上げる的な何かだっ!……んじゃめなはきっと「んっ、じゃあなっ!」的な、挨拶じゃね?……んがぱんっはきっと、あの、あれだ、……あんぱん投げつけて攻撃的な?……んふろしぇにって何?謎なんだけどっ。これこそ復活の呪文じゃね?……何かが復活しそうじゃん。……魔王とか?……不利だなっ。……てかっ、ぜってー違ぇよな。

 そんな死ぬ前に絶対に相応しくない葛藤を繰り広げながら俺は十字になった道を右に曲がる。

 すると最初に見えた家の門に手を掛け、俺はその中へと入っていった。


 「……ここが貴様の家か?」

 「……ここが貴方の家ですの?」


 「……あぁ。」


 一時しりとりを中断した少女達が、門に手を掛け中に入りながら俺に尋ねる。

 その問いに俺は簡単に言葉を返すと、ぼそっと言葉を漏らした。


 「……良い思い出は、無いけどな」


 田舎町の普通の家。大きくもなく、小さくもない。周りの家と比べても、外見は何の変わりもない。

 ひっそりしているわけでもなく、堂々としているわけでもない。しかし何故か、(うち)はいつも周りの家と比べ、浮いている気がした。……特に、あの日から。


 「まぁ何にも無いが、とにかく入れっ。お菓子やっから」


 「本当かっ!甘いのかっ?!じゅるっ。何処だっ!何処にあるのだっ!?」

 「本当ですのっ!甘いのですかっ?!じゅるっ。何処ですっ!何処にあるのですっ!?」


 ポケットの中に入れていた鍵で玄関の鍵を開け、扉を開けると、二人の少女が吸い込まれるように、真っ先に中へと駆け入っていった。

 相当お菓子が好きなのか、もの凄いハイテンションだ。

 ……此奴ら、ぜってぇ只の人間のガキだったら、簡単に誘拐されてるだろうな。

 そう思い、彼女らのテンションの高さに溜息をつくと、俺もゆっくりと家の中へと入っていった。



※ンーババーン…スワジランドの首都。日本語では「ムババネ」と表記されることが多いが、現地の発音は、ンーババーンの方が近い。決して、気分を上げる的な何かでは無い。

※ンジャメナ…チャドの首都。決して、「んっ、じゃあなっ!」的な挨拶では無い。

※ンガパン…インドネシアの都市。決してあんぱん投げつけて攻撃的なものでは無い。

※ンフロシェニ…スワジランドの町。決して魔王を復活させる呪文では無い。


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