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第一話 北海道男爵いも100%使用ボリューム満点ガッツリカレーコロッケ

 「だめっ!その北海道男爵いも100%使用ボリューム満点ガッツリカレーコロッケから手を離しなさいっ!」


 「絶対に離すなっ!その北海道男爵いも100%使用ボリューム満点ガッツリカレーコロッケを取った手は絶対にっ!」


 「……えっ?」


 コンビニのコロッケパンを手に取り、それを懐に入れようと手を動かしたその時、俺の後ろから声がした。

 俺はその声に驚いて、慌てて後ろを振り返る。

 そして次の瞬間、俺は後ろに広がっていたその光景を見て唖然とし、そのコロッケパンを床へと落としてしまった。コロッケパンが力無くその場に落ちる。

 しかし俺はそんな事に気を掛ける事はなく、少ししてからまた目の前のものに対する言葉を返した。


 「……え?」


 そこに、人間の姿は無かった。

 そこにあったのは、

 ―――――羽を持ち宙を浮かぶ、二人の小さな少女達の姿だった―――――。



 数分前  秋の肌寒い昼下がり―――


 「……腹減ったぁ」

 やる事も無く一人町を歩く俺は、自分の腹が鳴るのを聞いて虚しくそう思う。

 そういえば朝はろくに飯を食っていなかった。俺だって一応食欲旺盛な一六歳だ。腹が減るのも無理は無い。

 しかし、かといって金を持っているわけでも無く、家に帰っても冷蔵庫に何かあるという希望は無い。

 そんな時、目の前にコンビニが見えた。

 それを見て俺は何の抵抗もなく思う。


 「なんかパクって食うか」


 たまに寄る近所のコンビニ。昼下がりだというのに、今日は客が二、三人しかいなかった。店員も、入り口側のレジにアルバイトの女が一人のみ。

 そこは寂れ始めた田舎町の街外れであるから、対して珍しい事でもない。

 それに、ここはたまに棚に虫が死んでたりする為、あまり評判も良くないのだ。

 俺は店内に入ると、平然とした顔で取り敢えずいつも立ち読みする漫画を読み、それが読み終わると、菓子コーナーなどをちら見しながらパンコーナーへと向かっていった。

 俺は、何度かここで万引きをした事がある。だから知っているのだが、ちょうど入り口側のレジからパンコーナーは死角だ。カーブミラーも付いているが、そんなものは防犯に無意味。逆に、レジの様子を知れる万引き犯の良い味方と成りうるのだ。

 それにこのコンビニの防犯カメラはダミーだ。只のお飾り。予算があまり無かったのか、本物は買わなかったようだ。それは俺にでもすぐに分かった。筐体が本物に比べるとちゃちすぎる。

 俺はパンコーナーの目の前に立つと、獲物を選び始めた。なるべく棚の中段にある、取りやすくておいしそうなもの。

 ソーセージパンか、カレーパンか、コロッケパンか、ピザパンか……。

 そこは悩んだが、何となく気分で俺はコロッケパンを取る事にした。

 それを決めると、俺はカーブミラーを使って、レジの状況と客の状況を探る。

 客が俺の見える位置から去り、レジでは会計が始まった。

 俺は今だと思い、棚のコロッケパンへと手を掛けた。

 その時だった。


 「だめっ!その北海道男爵いも100%使用ボリューム満点ガッツリカレーコロッケから手を離しなさいっ!」


 「絶対に離すなっ!その北海道男爵いも100%使用ボリューム満点ガッツリカレーコロッケを取った手は絶対にっ!」


 「……えっ?」


 俺はその声に驚いて慌てて後ろを振り返った。

 そして次の瞬間、俺は後ろに広がっていたその光景を見て唖然とし、そのコロッケパンを床へと落とした。コロッケパンが力無くその場に落ちる。

 しかし俺はそんな事に気を掛ける事はなく、少ししてからまた目の前に対する言葉を返した。


 「……え?」


 そこには、人間はいなかった。

 その代わりに、そこには妙なものが宙に浮かんでいた。

 この世のものとは思えない生物。

 手のりサイズほどの小さな羽の生えた少女達の様なものが――――。


 いやいやいやいやっ、なわけないだろ、何見てるんだ俺の目はっ!!

 相当腹が減っているなこりゃ。おいっ、しっかりしろ、俺!!

 いや、じゃあ何故俺の万引きを止めようとする声が聞こえたんだっ!?

 ……いや、きっとそれは僅かに残ってる俺の良心がしでかしたんだっ!そうだ、きっとそうに違いないっ!!

 そうだとしたら、これは只の俺の幻覚だ。そうだ、きっとこれは俺の幻覚なんだ。ほら、よく漫画であるじゃないか、主人公が悪事を働こうとすると、天使と悪魔が現れて言い争うやつっ!!そうだ、俺はそれを見てるんだっ!!

 ……かなり疲れてるな、俺。

 しかーしっ、そんな天使と悪魔が現れようと関係ないっ!!俺は腹が減ってるんだっ、するべき行動は只ひとーつ!!

 俺はこのコロッケパンを――――っ!!


 「だめっ!その北海道男爵いも100%使用ボリューム満点ガッツリカレーコロッケから手を離しなさいっ!」


 「絶対に離すなっ!その北海道男爵いも100%使用ボリューム満点ガッツリカレーコロッケを取った手は絶対にっ!」


 「っだあぁぁぁぁぁっっ!!っうっせえなっ!!聞こえてるっつーのっ!!てめぇらっ何なんだよっさっきからっっ!!」


 「まぁっ。言葉が荒々しいですわねっ。何って、私は貴方がその北海道男爵いも100%使用ボリューム満点ガッツリカレーコロッケを万引きをしようとしてるのを止めているのじゃない。分からないの?貴方って、資料に書かれているより魯鈍なのね」


 「おい、馬鹿にしてんのかっ?そのくらい俺にだって分かんだよっ!!魯鈍分かんねーけどっ!!そこじゃないんだよっ!!静かにしてろよっ!!」


 俺に答えを返したその少女は、ふわふわとカールさせた長いブロンド髪を持つ、真っ白いロリータ服に身を包んだ、見た目十才位の小さな少女だった。背中には真っ白い羽を持ち、頭上に光るリングを浮かばせている。あきらか天使っぽい。俺の天使のイメージってこんな感じなのだろうか。


 「では、貴様は何を聞いたのだ?何故干渉するのか、か?それはお前がその北海道男爵いも100%使用ボリューム満点ガッツリカレーコロッケを万引きしようとしたからであろう?」


 「それも分かってるっつーのっ!!静かにしてろっつっただろうっ!?あとその北海道男爵いも100%使用ボリューム満点ガッツリカレーコロッケっつーのもの凄いいらつくんですけどっ!!……ちっ、分かった、俺の質問が悪かった。じゃあ聞く。お前らは何者か?俺の幻覚か?幻覚なら黙ってろっ!!」


 今度答えを返した少女は、さらっとした濃い紫色の長い髪を高い位置で二つに結んだ、真っ黒いゴスロリ服に身を包んだ、こちらも見た目十才くらいの少女だった。背中に真っ黒い羽を持ち、黒く細長い尻尾が生えている。俺の悪魔のイメージがこんな感じなのだろうか。いや待て、俺ってロリコンなのかっ?!


 二人は暫くぽかんとした表情で俺を見つめると、同時に溜息をついて、答えを返した。


 「この私が貴様の下劣な妄想な訳が無かろうっ!!汚らわしい」

 「私が貴方の不浄な妄想だなんて、冗談でも笑えませんわっ」


 「私はっ」

 「私はっ」


 「『悪魔』だ」

 「『天使』よ」


 その二人の言葉に、俺は訝しげに疑問符を返した。


 「……はぁ?」



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