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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。

"爪と牙"

掲載日:2026/03/23

「何度も申し上げて居ります通り」


「私の幸せは、『誰も幸せにならない事』なんですよ」



『心理相談室』の構造は、私には留置場に視える


小さなテーブルと、一対の椅子

壁はクリーム色をして居るが、だがそれは『人の心を落ち着かせるのに効率の良い色』だからだ


意図が視え透いて居て、それは私を癒やすものでは無い


そして、いま気付いた事が有る

私のけだるげに薄く開かれた眼は、先生と話す時、まばたきをして居ない



「それだけが、私を癒やします」



「お言葉ですが……」


言いづらそうに、心理士の先生が言葉を返す



「一般に『自由』とは、他者を害さない範囲でのみ赦されると、定義されて居ます」


「そのような事を仰れば、この世の総てから嫌われる事になりますよ」


先生は優しい

きっとこの仕事も、天職なのだろう



「ええ」


「ですので」


一拍だけ、間を置く



「他人には殊更、この事は申し上げないようにして居ります」


諦めたように先生は小さく嘆息する

きっと、聞こえて無いとでも思って居るのだろう


話す事も、もう無い

私は部屋を出る



廊下は静まり返って居る

私は『穏やかだな』と感じながら、行くあても無く歩く

幾つかの部屋を視送る頃、同い歳位の少女が後ろから駆け寄って来て、私の背中に声を掛けた



「先程の、立ち聞きさせて頂きましたわ」


「貴女も罪を恐れない方でいらっしゃるのですね!」


一言目に目的を語らない人間には、嫌悪感が在る

だが、彼女の話が面白い可能性を僅かに感じ、私は黙って次の言葉を待った



「互いに罪を悦ぶ者として、私と共に生きて下さいません?」


─────『仲間』


要するに仲間

乃至(ないし)は、それに準ずるものを求めて居るのか


短い思案の後

私は可能な範囲内で柔らかな表情をして、彼女へと振り向いた



「嬉しい申し出ですね」


「実はいま、ちょうど助けて頂きたい事が有ったんです」


………上手く、私は笑えて居ただろうか?

解らなかったが、少女はまさに『感激した』と言った表情で瞳を潤ませ、私の両手に自分のそれを、包むように重ねると「何でも仰って下さい!」と言った



「ありがとう」


「では少しの間だけ、向こうを向いて下さいますか」


………私は今、笑ってしまって居ないだろうか?


先程とは逆の事を考える

どうやらそれは全然出来て居らず、左右の口の端は私が出来る中で、最も獰猛な形へと吊り上がってしまって居たようだった



「ありがとうございます」


きっと彼女は育ちが良いのだろう

正直に背中を向けた少女に、心からの感謝を告げる

私はズボンのポケットから折り畳みナイフを片手で取り出すと、刃を出す事と、それを眼の前の、柔らかな肉のケーキへと突き立てる事を同時に行った


事が終わると、少し遅れて芳醇さが私の鼻孔を突いた


血の匂いだった



「このナイフ、持っていられない程に冷たかったんです………」


「でも、お陰で暖まりました」


「重ねて礼を言います、『ありがとう』………」



「それでは、私はこれで」


廊下には、一定の間隔でダストシュートが在る

彼女は華奢な躰をして居た為、私がダストシュートの蓋を開けて背中を蹴飛ばすと、亡骸は一瞬にして奈落の底へと勝手に消えていって、視えなくなった

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