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張郃  作者: 涼風隼人


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31/40

第31回 張郃、漢中平定を目の当たりにする

 張郃の夜襲は見事成功をおさめた。選抜をした精鋭二〇〇人は、奇跡的に全員が無事であった。

 

 陽平関を陥落させた後、曹操は素早く軍を動かした。

 

 張魯はもともと、それほど戦意が高かったわけではなく、弟の張衛に押し切られての、陽平関での戦いであった。

 

 陽平関が突破された今、張魯の戦意はさらに低下し、戦意を喪失した張衛も、南方に逃走を図った。

 

 しかし、曹操軍に簡単に追い詰められ、兄弟そろってやむなく降伏するに至った。

 

 ここで問題になったのが、張魯と五斗米道の扱いである。

 

 まず、張魯は鎮南将軍に任命して、厚遇することにした。弟の張衛も、偏将軍に任命された。

 

 そして、五斗米道に基づき政治を行ってきたこの漢中の特殊性をそのままとすることはせず、魏の一般領土の扱いと同様とした。

 

 これで五斗米道は終わりを迎えたわけだが、個人で信仰を継続する者は多く、曹操は、そこはやみくもに弾圧することはせず、事実上、黙認することになった。

 

 曹操はこの戦の一番手柄を張郃とした。曹操が言う。

 「儁乂よ、まさかあの断崖絶壁をよじ登り、更に関内に突撃し関門を解放、主力軍を導きいれるという大手柄。しかも、精鋭二〇〇人全員無事の帰還とは、本当に見事であった。」

 

 「ありがとうございます。山岳戦の訓練を日々怠ることなく実施していたことが報われました。しかし、私個人の手柄ではなく、一人一人の兵士が脱落せずついてきてくれたことが勝因であります。」

 

 「張郃よ、いつもながら殊勝なことだ。張郃軍全員に褒美と酒を取らせる。本日は、ゆるりと過ごすといいい。」

 

 張郃は、拝礼して退出した。

 

 自分の軍営に戻るときに、高覧の事を思い出した。

 

 赤壁の戦いでは、疫病で没した高覧の無念を晴らすことが出来なかった。しかし、今回はいくばくかは、高覧の弔いになったと感じた。

 

 「高覧がいれば、俺もやる、と必ず言っていただろうな。」

 一人呟き、軍営に戻る張郃であった。

 

 そして、張郃は軍営に帰ると、曹操からの言葉を伝え、本日は無礼講である、と宣言した。


 兵士たちが沸く。戦い続ける者たちのひと時の休息であった。

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