第3回 張郃、一六歳になる
張郃は、一六歳となった。
この辺りの若者では、一番大柄な体躯の持ち主である。
好んで喧嘩をすることは無いが、弱い者いじめをしている者などは許せない性質であり、そういう者には注意をして、それでも聞かない時は手を出さざるを得ないと思い、行動している。
父である張景は、四一歳となった。
今は鄚県の顔役の様な存在であり、周りからも頼りにされている。
そんなある日、商人と思われる小集団が、血を流して命からがら逃げ込んできた。
どうやら、盗賊に襲われたらしい。
かなりの規模で、商人が雇っていた護衛一〇人程度は、すぐに殺されてしまったという。商人が言うには、一〇〇人くらいの規模ではないか、ということであった。
ここで、張景が動く。
地域の豪族や士族に声を掛け、私兵を出してもらった。
こちらも、約一〇〇人。人数は拮抗している。
張景が張郃を呼び出して、言う。
「張郃。敵も一〇〇人。我らも一〇〇人。接戦、乱戦になる可能性があるが、戦いに出る勇気はあるか。」
張郃は顔を紅潮させて言う。
「父上、もちろんでございます。そのために、毎日の稽古を欠かさずに行ってまいりました。」
「よろしい。お前にとって、これが最初の戦いとなる。戦う男には、字が必要だ。」
「字、でございますか。」
「そうだ。お前の字は今日より、“儁乂”だ。」
「儁乂、でございますね。心得ました。この張儁乂、必ずやお役に立って見せます。」
こうして、張郃は初めて実戦に参加することになった。
この自警団を率いるのは、父の張景である。
しかし、張景は張郃を自らの側にはおかず、他の若者たちに付けた。息子が近くにいることで、判断を誤ってはならないからである。張景にとって、自警団を率いての戦いは、常に「戦」であると思っている。
今回の盗賊は、比較的街道からそう遠くないところにある廃屋を根城にしている様である。張景が自警団の幹部を集めて話し合いをしようとしたところ、盗賊団が街道に現れたという情報が入ってきた。
急いで駆けつけると、まるでこちらを待ち構えていたかのようで、頭目と思われる男が言った。
「あんたらが、この辺りで有名な自警団か。面倒だから、ここで、正面から勝負しようや。お前たちを倒して、鄚県を根こそぎ俺たちのものにしてやるぜ。」
「お前がこいつらの頭目か。私は、張景。この自警団を率いるものだ。お望み通り勝負して、お前らの身柄、亡骸を役所に引き渡してやる。」
「けっ。言いやがるじゃねぇか。お前たち、やっちまえ。」
盗賊たちが思い思いの武器を持って、一斉に襲い掛かってきた。張景はまず、弓矢で応戦し、相手の出鼻をくじいた。
そして、この自警団で中核を為す槍の一団を繰り出した。ここに、張郃は配属をされている。張郃の足はかなり速く、張郃を先頭に、槍の一団が張郃についていく格好となった。
そして張郃は、間合いに入ると槍を振り回し、数人をなぎ倒した。その隙に後続の槍隊が突撃し、盗賊団の陣形は乱れ始めた。その流れに今度は張郃が乗った。
するすると合間を縫う様に走ると、馬上の頭目が間合いに入ってきた。張郃は馬上からの一撃をはじき返し、まずは馬にひと槍を入れて、馬が態勢を崩したと同時に、頭目の首元めがけて槍を一閃させた。
その槍は深く突き刺さり、頭目は絶命した。
恐れおののいた盗賊たちは、逃走し始める。張景は追撃を命じ、多くの盗賊たちを捕らえたのである。
そして、頭目や殺した盗賊の亡骸、生け捕りにした者たちを役所に突き出した。今回は、こちらも死者が二名出たことも併せて報告をした。
今回は、県令自ら出てきた。そして言う。
「張景よ。今回の争いごとは、戦と変わらぬ規模だ。こうしてなんとかなったからいいものの、事前にこちらに相談をしてもらわなければいけない案件であると心せよ。」
張郃は、お前らが何もしないからこちらでやっているのだ、と言いたかったが、ぐっと気持ちをこらえた。張景は、県令に詫びの言葉を入れて、自警団は解散となった。
張景は張郃に言った。
「儁乂よ、お前の働き見事であった。危なっかしいところもあったが、お前が稽古のための稽古ではなく、実戦の為の稽古を積んでいた証拠だ。」
張景は、すでに自分より身長が高くなった張郃の頭を撫でながらほめたたえた。
張郃は苦笑いをしながらも、嬉しそうであった。
こうして、張郃は字も決まり、張景にも一人前の男として認められたのである。




