第27回 張郃、潼関の戦いに参戦をする(中)
―翌日―
曹操は、自ら陣頭に立ち声高らかにこう言った。
「馬超よ、昨日は惜しかったな。もう一歩で、この首は無くなっていたぞ。敵ながら、その凄まじい武勇、我が配下に欲しいくらいだ。」
馬超が陣頭に出てきて応える。
「そう、まさにあと一歩であった。猛将の許褚に感謝するがいい。」
「許褚は我が親衛隊長。もちろん、感謝しておる。馬超よ、少しばかり韓遂殿と話をさせてくれないか。」
「我らが総大将と何を話すというのだ。」
曹操にはその問いには答えず言う。
「文約よ、まずは出てこないか。知らない間柄ではあるまい。」
韓遂が出ようとすると、馬超が止める。
「韓遂殿、曹操のことです。何か策略があるかもしれませぬ。ここは自重した方が。」
「孟起よ、曹操は単身陣頭に出てきているのだぞ。ここで私が出なければ、こちらの士気も下がるというもの」。ここは、出ていくしかあるまい。」
「・・・。わかりました。あちらが妙な動きをしたときは、すぐに対処します。」
韓遂は頷き、陣頭に出る。
すると曹操は馬に乗り、韓遂の陣に向かって来て、その真ん中で止まった。韓遂も馬に乗り、曹操に歩み寄った。曹操が言う。
「文約よ、久しいな。こうやって話すのは、若かりし頃の洛陽以来か。」
「ああ、そうだな。お前は漢の丞相、私は反乱軍の首領と、立場が全く違うが。」
「まあ、そう言うな。ところで、この戦、互いに矛をおさめることは出来ぬものか。」
「孟徳よ、残念ながらそれは出来ない。仮にお前の言う通り、漢中の張魯討伐で通路を借りるまで、と言っても誰も信用しないであろうよ。西の者は、中央の者を毛嫌いしているからな。」
「そうか・・・。戦うしかないか。」
「ああ。」
「それならば、この書状を、そちらの主だった者たちの前で開けてみて欲しい。私の偽らざる思いと、そちらの処遇について記している。」
「そうか・・・。見るだけなら問題あるまい。とりあえず、預かろう。」
曹操は韓遂の肩を抱きよせながら言った。
「頼むぞ、文約。」
こうして二人は自陣に戻っていく。
曹操が賈詡に聞く。
「文和よ、どうだった。私の演技は。」
「上々でございます。曹操様の演技の結果が楽しみですな。」
一方、韓遂はどうか。
馬超が韓遂に聞く。
「韓遂様、随分親しそうに話をしていましたが、どういった内容でございますか。」
「ああ。実は、この書面を預かった。こちらの主だった面々全員で見て欲しいとのことだ。孟起よ、悪いが我が軍営に来るように皆に伝えてくれまいか。」
「・・・。わかりました。急ぎます。」
しばらくして、馬超が主だった面々を引き連れて韓遂の軍営に来た。
韓遂は書面を取り出した。
すると、所々墨で上塗りして、読めない部分があった。馬超が聞く。
「韓遂様、この墨で消したところには何が書かれていたのですか。」
「いや、私も書面を見たのは今が初めてだ。曹操め、間違えて下書きを私に寄こしたのか。」
「・・・。あの曹操が、そんな手違いを犯しましょうか。」
「孟起よ、私もここで初めて見たのだ。」
「・・・。そうですか。しかし、韓遂様はこう言っているが、皆の者、どうだ。」
豪族の一人が答える。
「俺も、曹操がそんな間違いをするとは思えない。」
皆も、その意見に賛同する。再び馬超が言う。
「韓遂様、正直にお答えください。ここには何が書いてあったのですか。」
「いや、先ほども申した通り、私もこの書面を確認したのは、まさしく、皆と同じ、今なのだ。墨の上塗りなど、しておらぬ。」
「わかりました。韓遂様、申し訳ないが、私はあなたを信用することが出来ない。よって、この場で身柄を拘束させていただく。」
そう言うと、馬超は力ずくで韓遂を抑え込み、動けない様に縄で縛りあげた。馬超が言う。
「この書面の吟味を皆でさせてもらう。その結果によっては、お命を頂戴する場合もあるとお思いください。」
「孟起よ。これは、曹操の計略だ。こうやって、こちらを疑心暗鬼にさせて分裂させようとしているのだ。」
「いずれにしても、しばしそのままでお待ちいただく。」
「・・・。わかった。気のすむまで吟味すればよかろう。」
書面の内容は、たわいのないものであった。それ故、わざわざ黒塗りされた部分に何が書かれているのか気になるように細工をされていた。これは賈詡の提言による「離間の計」の仕掛けである。
結局、書面を吟味しても何もわからなかったが、全員が韓遂を信用できない、ということで韓遂の身柄は馬超の軍営で拘束し、韓遂の兵士の指揮権も馬超が掌握した。
反乱軍の軍営で何かが起きているのは、曹操の軍営の方からも良く見えた。曹操が賈詡に言う。
「文和よ、どうやら策にかかったようだな。」
「そのようですな。明日、決戦を仕掛けましょう。」
こうして明朝、両軍は再び激突するのである。




