第18回 張郃、南征可否の軍議に参加をする
張郃は、喪から戻ったことを曹操に報告した。
曹操は、短期間しか喪に服させなかったことを改めて詫び、健康などまで気を使ってくれた。そして、言った。
「儁乂よ。まずはゆっくりしてくれ、と言ってやりたいが、次なる戦いに向けての軍議が行われている。途中からで申し訳ないが、お前も参加してくれ。」
「わかりました。して、次の戦いとは。」
「南方遠征。まずは荊州、そして呉を何とかしたい、と考えている。」
「南方・・・。そうすると、水軍も必要ですね。」
「ああ。そういった視点を含めて、多くの者の意見を聞いたうえで決めたい。明日から、早速頼む。」
「わかりました。」
張郃は拝礼して、退出した。その足で、高覧の所に向かった。高覧が、笑顔で出迎えてくれた。
「おお、儁乂。戻ったか。少しやせたように見えるが。」
「ああ。問題ない。先ほど、曹操様に復命した帰りだ。」
「そうか、なら、南方遠征のことは聞いているな。」
「流石に曹操様、動きが早いな。北方が片付いたら、すぐに南方か。」
「ここだけの話、実際どう思う。俺は、白狼山の様な速戦を好むが、それは地上戦での話だ。南方、特に呉との戦いでは、水戦が主となるだろう。その時に、自分が役に立てるかどうか、正直、自信は無い。」
「水戦に自信を持っている人は、この陣営にはおるまい。おそらく、先に落とす荊州の水軍をあてにしているのだろう。」
「なるほど、荊州水軍か。しかし、そう簡単に我々の思い通りに動かせるのか。」
「わからん。南方の事は、全く知らんからな。」
「確かにな。まあ、俺たちは軍議に参加しても、正式に決定するのは曹操様だし、後は参謀の面々の議論を聞く形だ。俺たちとしては、やれと言われたらやる、で問題ないだろう。」
「そうだな。明日を待つとしよう。」
―翌日―
軍議が招集された。
参加する面々は、参謀陣である荀彧、荀攸、程昱、賈詡、それに将軍の者たちである。話し合いは、曹操と参謀陣を中心に行われ、将軍の者たちは、意見があればその表明は許されている。
現在の賛否の情勢としては、曹操、荀攸、賈詡は「賛成」であり、荀彧と程昱が「反対」を表明しているという。
曹操が言う。
「まずは、反対している荀彧、程昱の意見を聞かせてくれ。」
程昱が発言する。
「まず、我が軍は連戦が続いており、兵の疲労困憊が深刻です。その様な状況下で、気候も風土も違う南方に遠征を敢行すれば、疫病などの心配もございます。そして、何よりも我が軍は水戦の経験は皆無と言ってよく、水の上が主戦場となる南方の遠征は時期尚早、と考えております。」
荀彧が発言する。
「まず、程昱殿のご意見、全てごもっともと思います。更に、荊州の者たちは我が軍を恐れております。徐州からの難民もかなり多く、そういった場所の統治は困難を極めるのではないでしょうか。」
「徐州か・・・。」
曹操は以前、徐州牧「陶謙」の部下に、父である「曹嵩」を殺されたことがあり、その報復戦として、徐州を血の海にした経験を持つ。冷静な曹操が感情のみで動いた唯一の暴挙と言ってよいであろう。
その時、徐州の民たちの多くは荊州に流れてきており、曹操への恨みは計り知れないものを持っている。
そういった土地を統治することの困難性を、荀彧は述べている。
曹操は続いて、賛成派の荀攸、賈詡の意見を聞こうとしたその時である。
軍議中であるにも関わらず、火急の要件、という急報が入ったのである。
「荊州の劉表、死す」
この急報を聞いて、曹操は立ち上がり、拳を上げた。
「この機会を逃す手は無かろう。劉表亡き今、荊州を我が手中に収める最大の好機だ。ここは、速さが勝負となろう。全軍、至急南征軍の編成に移れ。」
こうして、荊州遠征の話は決定したのである。張郃と高覧は目を合わせて、「こうなればやるだけだ」と決意を新たにしたのである。




