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張郃  作者: 涼風隼人


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第16回 張郃、父親の喪に服す

 白狼山の戦いより、曹操軍は「鄴」に帰還した。

 

 「鄴」はかつての袁紹の本拠地であり、曹操は「軍事拠点」をこの鄴に移したのである。

 

 献帝は「許都」におり、帝都自体は「許都」ということになる。

 

 張郃が鄴に戻ると訃報が届いた。父の張景が亡くなったという。享年、七〇歳であった。老衰による静かな死であったという。

 

 父親が亡くなった場合、この時代であれば、官職を辞し、三年間の喪に服すのが理想とされていた。

 

 しかし、張郃の場合、将軍という立場であり、実際には難しい側面もある。張郃は、曹操に報告した。曹操が言う。

 「儁乂よ、父上の死、望外の悲しみであろう。」

 

 「はい。若きときに別れてから、時折文のやり取りはしましたが、その後は全く会わずじまいで、親孝行の一つもできておりませぬ。」

 

 「そうか・・・。儁乂、私はお前の主として三年の喪に服すがよい、と言ってやりたい。しかし、お前が三年不在となると、軍への影響がかなり大きい。そこで、父上の喪に服す期間を“三ケ月”にして欲しい。」

 

 「わかりました。私をそれほどまでに必要とお考えいただいていること、父も嬉しく思うことでしょう。故郷に帰り、三ケ月間誠心誠意喪に服し、また改めて参上をさせて頂きます。」

 

 「すまぬ、本当にすまぬ。儁乂がいない間、お前の将兵は高覧に任せることにする。これで、何の心配もあるまい。」

 

 「何から何までご配慮を頂き、ありがとうございます。」

 

 張郃は拝礼して、退出した。

 

 その足で、張郃は高覧を訪ねた。そして、喪に服すため故郷の鄚県に戻ることを伝えた。高覧が言う。

 「儁乂よ、三ケ月間は、他の事を気にせず、ただただ、親父様の弔いだけを考えて暮らせばいい。後の事は、俺に任せてくれ。」

 

 「いつも済まない。心より感謝する。」

 

 「三ケ月なんてあっという間だ。心配するな。」

 

 こうして、張郃は鄚県に戻った。


―五日後―

 張郃は、久方ぶりに故郷の鄚県の土を踏んだ。

 

 主を亡くした実家は、少しもの寂しい雰囲気を漂わせている。存命である母の楊丹が迎えてくれた。

 

 「儁乂・・・。何年ぶりでしょう。今や将軍様となって、立派にやっていると風の噂で聞いております。」

 

 「母上。本当にご無沙汰をしており申し訳ございません。父上の喪に服すため、三ケ月、こちらで暮らさせて頂きます。」

 

 「三ケ月・・・。期間の短い、長いは問題ではありません。心の問題です。心から父上を思い、弔うのですよ。」

 

 「わかりました。そうさせていただきます。」

 

 父である張景は、自警団の長として、長らくこの鄚県を守ってきた。既に引退して久しいが、周りの者から慕われ、尊敬されその人生を終えたのである。

 

 父との「初陣」は今でも忘れない。鮮明に思い出すことが出来る。そういった過去の思い出一つ一つを思い出し、墓前で父と語らう生活を三ケ月間続けた。雨が降ろうと、風が強かろうと、毎日、毎日繰り返し祈りを捧げた。

 

 そして、鄴に戻る日となった。やややつれたものの、健康状態に問題はなかった。張郃が言う。

 「母上。よろしければ、私と共に鄴に向かいませんか。家人ともども、養うくらいは今の私にはできます。」

 

 「いいえ。私は、あの人と暮らしたこの土地を離れたくはありません。生涯をかけて、添い遂げたいと思っています。」

 

 「しかし、私は母上が心配でなりませぬ・・・。」

 

 「心配などしなくて結構。私は、まだまだ元気です。儁乂、一つ言っておきます。」

 

 「はい、何なりと。」

 

 「私がもし、亡くなった時は、父上と同じお墓に入れてください。それと、喪に服すのは一日。一輪の花と共に、墓に詣でてくれれば十分です。」

 

 「何をおっしゃるのですか。」

 

 「儁乂、お前はもう将軍様という立派なお立場。尽くすべきは親ではなく、君主様にお尽くしなさい。これは、母としてあなたへの命令です。」

 

 「・・・。わかりました。儁乂、仰せの通りに従います。」

 

 こうして、気丈な母と別れ、張郃は再び鄴に戻るのであった。

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