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悪役側の視点で  作者:


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5話 露店

 今日は市井にでて必要な素材等の購入を予定している。

 必要な素材というのは目的生物の好む料理の素材だ。


 父親の外出許可を取るのも想定したよりも簡単だったのは有難い誤算だった。


 ――父上、失念しておりましたが戦闘となるとやはりもしもを考慮した備えが必要かと思います。緊急時を想定すれば公爵邸の物を使う訳にも参りません。そこで、見聞を広げることも含め、私自ら市井に足を運び物品の購入をしたいのです。そして領民の現状も理解できればと考えております。どうかご一考を!


 と(別の)思いの籠った説得で森へ行くのとは別に勝ち取った。

 他の人間に頼んでも良かったが、一度市場を見て俺の知識との齟齬がないかを確認したかったため今回はやや強引に出てきた。


 若干父親が引いていた気がするが、あれぐらいの勢いがないと突破できなかっただろうから仕方ない。


 とはいえしっかりとお目付け役は同行している。

 メイドのシルと護衛の騎士二名。


 ま、護衛とは名ばかりで彼等は俺の暴走を止めるために配置されたのだろう。

 自領の市井に行くのに四年目の騎士など普通は同行させない。


 ものは考えようだ。

 優秀な荷物持ちがわざわざ来てくれたと思えばいい。




 途中まで馬車で移動した後、徒歩での移動に移る。

 露店に向かう道中、周囲から視線を感じるのに居心地の悪さを覚えつい眉間に皺が寄る。


 視線の種類は不満や怒り、もしくは恐怖と諦めだろうか。

 無関心の人物はそもそも長く視線を向けてこない。


(随分と評判が悪そうだ。残念ながらそこに間違いがないのがクリスなんだが)


 俺がこの領の政策に加わる何て言ったら暴動が起きそうだな。

 彼等が手を出してこないのは俺が三男で領主になる可能性が極めて低いからだろう。


 政などという頭の痛い事はやれと言われても御免蒙るが。

 数字で頭を悩ませるより、愛らしい生物と触れ合っていた方が何倍も有意義な人生になる。堅苦しい事はやりたい奴がやればいい。意欲がある人間なんて幾らでもいるのだから。


 さて、そうこうしている内に露店に着いた。


「へい、らっしゃ・・・・・・らっしゃい」


 元気に呼び込みをしていたのに、俺の顔を見て一気に尻すぼみの声になる店主。

 一回止まってんじゃねえよ。お前の生え際後退させんぞ。


 ちなみに生え際を後退させる魔法は存在する。

 闇魔法はその成り立ちを思えば分かるが、かなり私利私欲に塗れた魔法が多い。

 言い換えると、それだけ実用性も高いとも言える。


「モカの実を九、ピニャを四、林檎を六個を頼む」

「はいよ」


 ぱっと見た感じだがどうやらゲーム内の素材は記憶のものと同じようだ。

 林檎のような現実にもあるものと、ゲーム内特有の素材がある。


 前者を使えば地球に存在するものと同様に大抵のものが作れるが、ゲーム内特有の素材を用いる事でプラスに働く要素がある訳だ。

 例えば一時的に身体能力や耐性を上げる事ができたり、生物に対して友好度を高められるようなものだ。


「じゃあ帰るか」

「まだ予算には余裕がございますが他に買われるものはございませんか」

「必要ない」

「畏まりました」


 武器屋と露店を見るだけと言ったはずだが、父親から渡された金はそれなりの宝石が買えるぐらいの額だった。


 予算を全て使えばかなり性能の高い装備一式を揃えることができるだろう。

 流石に息子の命を考えれば出し惜しみすることはしなかったのか?


 いや、以前のクリスは高価な物に目が無かったたため、それを想像したのかもしれない。

 もしくは、大金を手にしてなにをするのかを確認したかったとか、わざわざ予算に余裕があるとシルが口にしたのはなんだか違和感を感じるしそちらの方が信憑性がありそうだ。


「おい! 女の子を苛める悪い奴!」


 館に戻ったら早速購入したもので作成しようと考えながら歩く帰り道。

 幼い少年の声が響いた。


 まさか自分に向けられた言葉ではないと思いながら足を止め声の主に振り返る。

 視線を下げると、小学生低学年ぐらいに見える頭一つ分小さい餓鬼がいた。


 とんでもない犯罪者でもいるのかと思ったが、そいつの視線はどうやら俺に向けられているようだった。

 ごくりと誰かが唾を飲み込む音がやけに鮮明に聞こえた。


「貴族だからってなにしてもいい訳じゃないんだぞ!」


 流石に俺以外の貴族がここに居るはずはなく、罵倒している相手が確定してしまう。

 周囲がざわつき始める。一部の連中は騒ぎに巻き込まれないよう離れ、この少年を知っているであろう人物ははっとした表情でどこかに走る。


 その先は少し離れた場所にいたのか母親であろう女性の元で、女性は一瞬で顔を青く染め慌てて餓鬼の元へと走り寄り頭を下げさせた。


「も、申し訳ございません! この子が失礼を働いたようで・・・・・・」

「ちょっ、か、母さん! 悪いのはこいつで俺は」

「馬鹿! 申し訳ございませんっ、申し訳ございません!」


 頭を下げるだけでは足りないと、地面に伏せる母親。


 俺はそんな二人を見下ろしながら距離を近づけるように足を進める。


「クリス様、ここは私共が」


 二人の騎士が左右から俺を止めようと手を伸ばす。


「邪魔だ」


 濃密な魔力は放出するだけで相手に畏怖を与える。

 感覚的なもので魔物との戦闘経験が多い者ほど鋭敏だ。知能の高い一部を除き魔物は魔力を隠すようなことはしない。


 この騎士達もそれなりの経験があるのだろう。

 咄嗟に身を引いたのは本能か。剣に手をかけなかったのは流石だ。


 後ろのメイドはナイフの持ち手を握っている様だが。

 物騒だから早く放せアホ。


「おい餓鬼。一つ訂正だ、俺は女だけじゃなく男も苛める。平等主義者なんでな」

「ッや、やっぱり」

「でも誰も俺を止めることができない。何故か分かるか?」


 こんな餓鬼にいう事ではないが。

 今回みたいな無鉄砲な行為で親族が危険に合うということを教えないと、次があったら寝覚めが悪い。


 市民は団結すれば強いが、背後の勢力が無い状態で無鉄砲な発言をすればただ狩られるだけだ。それは元居た日本でも言える事だが、この世界ではより顕著である。


「権力者だからだよ。お前等がなにを言っても封殺できる力を持っているからだ。そんな相手に歯向かえばただではすまないのはその空っぽの頭でも理解できるだろう」

「あ、う・・・・・・」

「誰かを指摘するような発言は同等以上の力を持つ個人、もしくは組織がなくてはそもそも成立しないものだ」


 餓鬼の隣にいる母親を指さす。


「それを理解していなかったお前の行動の責任を、今母親が取っている訳だが・・・・・・なにか感想は?」

「ご、ごめん、なさい」


 無鉄砲なが気でも流石に家族に危険があると分かれば謝罪の言葉を出せるらしい。

 ここで批判でもしようものならアイアンクローを見まってやるつもりだったが、その必要はなさそうである。


「ああ許そう」


 一瞬安堵の表情を浮かべた家族に少々追い打ちする。


「いつ首が飛ぶともしれない日常でびくびくと震える姿はさぞ滑稽だからな。精々俺の機嫌が変わらないように祈っていろ」


 畏怖の視線が周囲から突き刺さる。

 ここで慈悲のポーズをとって今までのイメージを払拭というのも一案だったがやめた。

 クリスは問題児であった方が、裏の連中との接触もしやすいだろうしな。

 パイプの確保という意味では俺の噂は最低であった方が動き易い。なんとも残念な話だ。


「ま、それが嫌なら精々俺と同等の権力者になることだ。その可能性は限りなく絶無だろうがな」


 そう吐き捨て、背を向けて警戒を解かない護衛共と帰る。




 この少年、アルバはこの時の光景を忘れなかった。

 成長するにつれ、知識を補い、力を付ける。


 彼は後の王国騎士団第三部隊隊長となるなど誰が想像するだろうか。

 その話はまたいづれ。



 ◇




 さて、気分良く今後の予定を実行していく中で、どうしてもちらつくものがあった。

 クリスによって屋敷を離れていった使用人達についてだ。


 順当にいけば、使用人としてのキャリアをつんでいって不自由ない暮らしができたはず。

 その人生設計を破壊したままでは、いかに前世を思い出す前のこととはいえ、すっきりした気分では行動ができない。


 それを多少なりとも払拭するため、屋敷の使用人達が寝静まった深夜にベッドから抜け出す。


 被害にあった使用人達の情報は既に把握している。

 名前と容姿、魔力の性質を分かっていれば、おおよその位置は闇魔法を使えば特定できる。幸い、全員がまだローウェン領にいるようだった。

 別の領に移動してたら深夜の内に走って到達するのは難しいところだった。


 にしても位置が把握できるというのは現代社会なら、芸能人にとっては最悪の魔法だろうな。まあこの世界でも、闇魔法の詳細が知られていないだけで、もしこの魔法がばれれば問答無用で投獄されなかねないぐらいの性能ではある。


 兎に角、ことに及ぶために行動だ。

 俺の姿を模倣した魔力体を代わりに寝かせ、窓から街に飛び出す。


 やる事は単純。

 まず対象が住んでいる家に近付く。

 そして色々と詰めた袋を窓から入れたら終わりだ。


 袋の中には、二年は食つなぐことができるだろう硬貨と、紙だ。

 紙には能力を活かすことができるだろう就職先を書いている。更に能力を発展させる方法も書いたが、別に伸ばさなくても全員が貴族に雇われていた優秀な人材だ。無視してくれても問題ない。


 転職するまでは二年分の硬貨でなんとかしてもらうしかないだろう。

 窓から入れられた怪しい袋をそもそも開けるかも問題だが、そこは祈るしかない。本当は面と向かって渡すのがけじめだと思う中で、それでは悪役としてのロールが果たせない。


 ようは、自分可愛さだ。

 聖人君子ではないから、内心での謝罪で済ませる。


(金を稼がないとな・・・・・・)


 入れた硬貨は父親から渡されたもの。

 いずれ倍にして返す必要があるだろう。


 時間にして三時間程。

 ようやくかつての使用人達へ配り終り、最後の一軒へ。


 昼間の少年の家だ。

 ただの自己満足だが、この家にも袋を入れた。


 もし領を離れたくなった時の資金。

 そして紙束。


 内容は文字かきから初等教育の範囲まで。

 本にして渡すと、屋敷からの盗品だとされる恐れがあるため、簡単に直筆で作ったものだ。


 大人たちが距離を離すだけの中、声を大にして自分の意見をぶつけた少年。

 ただの世間知らずだと言えばそれで終わりだ。


 だが、なにかを変えたいという姿は、かつての自分と少し重なって見えて。

 ついついなにかをしたくなった。



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