表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役側の視点で  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/26

22話 ミルディアン大森林

 フェンリルと出会った翌日。

 そのひのうちにでも聴取にくるかと思われた騎士団は、けっきょく屋敷には来ず、いや下っ端が『今は火急の要件で騎士団の手が空いていないため、明後日に話し合いの場を設けたい』という旨の言葉を伝えに来た。


 いや、あんたが聴取すればいいやん。

 と思ったが、流石に新人らしき団員に貴族の聴取をとれというのも酷だ。俺が団員だったら翌日には辞めてる。


 ということで、事件については学園の授業が終わり次第に行われることになった。


 その間、外出に関しての規制等もない。

 今は外に出て冒険者ギルドに向かっているところだ。


「どんな依頼があるか楽しみですなあ!」


 同行者はいつもと同じマルスとシルだ。


 目的は金策だ。

 この頃立て続けの出費があったため(ほとんど露店のばあさん)、そろそろ減った分を補填しておきたい。


 まあ、Eランクの依頼の報酬などたかが知れている。

 これで補填を考えるとしたら、一体どれだけの時間がかかることやら。


 それでも冒険者ギルドにいくのは、もちろん理由がある。

 冒険者に対する依頼表が貼られた掲示板。

 あそこには依頼表の他にも、魔物の生息範囲や環境変化の情報が書かれている。


 数人単位での観測のため、精度はまちまちだが方針を決めるには十分な指標だ。

 環境の変化から、その状況でしか採取できない素材も存在するため、なにも命懸けで魔物を狩る必要もない。


(繁殖可能な種なら、こっちで流通を操作すれば定期的な収入になるな)


 もしそれをするとしたら、口の堅い人材が必要だろう。

 ずっと植物に手を出していられる時間が俺にはないからな。


 頭の中で、人材を思い浮かべながら冒険者ギルドの扉を潜る。


 前回はすぐに流れた周囲の視線だが、今日はなにやら視線が強い。

 なんだ? と疑問に思い心当たりを探る。


(・・・・・・昨日のあれ、か)


 おそらくは、何処で見たのかしらないが、一部現場をみて流された噂が原因。

『騎士を土下座させる悪党』、『血まみれで笑う殺人鬼』だったか。


 とても十代の人間から出てくる噂じゃないな。


 ちらりと受付を見れば、顔を真っ青にした嬢が目に入る。

 なにかを察したか、休憩中だっただろうベテランが後方から現れ、震えてる嬢を静かに後ろに下げて場所を後退した。


 大変素晴らしい連携だ。

 後輩と思わしき嬢は頬を染めて、ベテラン受付嬢の顔を見つめている。


(前世の過激派が見たら拝んでそうな光景だな)


 百合のシーンになるのは結構なことだが、その理由が俺に基づいているというのがなんともいえない。


 そもそもカウンターに向かってる訳でもない。

 カウンターの前を通りすぎ、そのまま掲示板に向かう。


「やっぱり渋いな」

「Eランクの依頼となるとこんなものですな~ ただ、これを乗り越えてこそのDランク! 気張って参りましょうぞ!」


 気合十分なマルスは隣で嬉しそうに依頼表を眺めている。

 彼は騎士になる以前は冒険者として活動していたため、久しぶりにみるものにテンションが上がっているかもしれない。


 反対にシルは静寂そのものだ。

 一歩引いた位置で俺の動きを邪魔しないよう、もしくは俺がやらかした場合にすぐに対処できるよう構えている。

 相変わらずなにを考えているかは分からないが、すきに動きたい俺としては好都合。


 二人の様子を横目で見つつ、目的の情報へと視線を移す。


 ***


【ミルディアン大森林 王国周辺部・定期生態報告(第87号)】

 発行:中央ギルド観測班

 更新日:王暦1425年 蒼雷月4日


 ■ 現在の危険度:★★☆☆☆(警戒推奨)

 ■ 目撃・確認された主な魔物種

 フォレストウルフ(群れ規模:中~大)

 フェザーホーン(局地出現・繁殖期入り)

 ツリースネーク(活性化傾向、特に南東部)

 グリーンスライム(乾季により出現頻度低下)

 ■ 特記事項(生態変動・分布移動など)

 ・王都北東部(白樺の丘周辺)にて、フェザーホーンの群れが南下中。従来は高地に留まる種であるため、餌資源や天候変動の影響が考えられます。徒歩での移動者は上空への警戒を強めること。

 ・南東部の小渓谷付近にて、ツリースネークの密度が急増。周辺に死骸が確認されており、獲物の取り合いによる小競り合いが発生中。ソロ行動は非推奨。

 ・月影の泉周辺にて、希少個体“白帯ウサギ”の目撃報告あり。危険性は低いが、高額買い取り依頼が出ているため乱獲に注意。

 ■ ギルドからの推奨装備・対応

 鳥型魔物への対空用網具が有効との報告あり。

 状況によっては一時的な採取・狩猟制限区域が設けられる可能性あり。


 ***


 生体報告書を眺めながら首を傾げる。


(フェザーホーンにツリースネークが活性化・・・・・・?)


 フェザーホーンに至っては北部の山脈から南下している。

 どちらも穏やかな生物で、活発な行動をするのは繁殖期に入ってからが殆ど。


 だが時期的を考えるとそれは考えづらい。

 気候変動にしても、変化は徐々に表れやすいが、これは突発的な行動に見える。


(観測班が見つけてない捕食者が出たか・・・・・・)


 大森林で発生する魔物を幾つか思い浮かべる。


(幅が広すぎて特定できねえな)


 季節、発生場所、捕食対象、生態系の関係。

 その他諸々の条件を考慮してもなお、百以上の種の可能性が出てくる。


 面倒な点は大森林近くに生息しているということ。

 他の山脈と沼地に今の俺がいくにはリスクが高過ぎる。


「出会わなければ、いいよな・・・・・・?」


 言って、自分の運のなさを思い出す。

 あまり物事の成り行きを運のせいだとは言いたくはないが、それでも口に出してしまうぐらいには、幸運とは縁のない人生だった。


 だから、もしもがあった時の手段を確かめる。

 いくつかのアーティファクト、そして護衛二人。

 魔物との戦闘は想定しない。

 ただ、逃げる。その一点だけを考慮すれば、おそらく七星、先日出会ったフェンリルの一つ下の階級からは、ギリギリ逃げられるはずだ。


「行くぞっ」


 星八以上の魔物がいる確率、自分の持つ手札を再確認して、大森林で希少な植物の採取に乗り出す事に決めた。


「まだ依頼は受けておりませんが?!」


 いつまでもEランクの依頼を見てるマルスはひっぺがして連れて行った。



 ・・・

 ・・・・・・



 ミルディアン大森林。

 ローウェン領のカルナ大森林とはまた違った生態系のある場所だ。

 この森林は兎に角、生物の種が多い。


 それだけ穏やかで、かつ豊かな自然が広がっている。

 生物の食料に満たされた楽園だ。


「ここに来たのも久しぶりですなあ。若い頃は無鉄砲にも大森林の最奥にいこうとしたものです」

「馬鹿だろ」

「はははっ! 今になって思えばあれは自殺行為でしたな!」

「奥に進むにつれて脅威が上がっていくことは存じていますが、具体的にどれ程なのでしょう?」


 ミルディアン大森林に初めて足を踏み入れたシルがそう尋ねる。


「どれ程、というと少々難しい。ただ、皆が考えるような、徐々に敵が強くなるというものではないな」


 そう、徐々にではない。

 ゲームの1-1面から、いきなり5-1面に飛ばされるような感覚だ。


 この森林の特徴として、植生が《《綺麗に分かれて分布している》》というのがある。

 一様に広がっていたら、また違うだろうが。分離がなされている事で、生物もまた、ある一定の範囲で突然その種を変貌させるのだ。


 頭を悩ませながら、シルに説明するマルス。

 彼等の掛け合いをBGMに歩いていると、突然声が聞こえなくなった。


(ん?)


 言葉の途中で消えた音に異変を覚え、後ろを振り返る。

 だが、後ろにいたはずの二人の姿はない。


「いったい――」


 背後で感じた空気の震え。

 言葉を言い切る前にその場を飛び退く。


 瞬間、なにかが地面に激突し、地響きと共に砂煙を巻き上げる。


 自然と大勢は低くなり、息を潜める。

 砂煙が徐々に収まりながら見えた先、竜が血を流して倒れている姿があった。


 ()()()()()()、フォレストドラゴン。


 それが、息絶えている。

 もう一体の生物によって。


 ゆっくりと視線を上げて、それを見上げる。


「・・・・・・」


 言葉は出ない。

 あり得ない出会いだ。

 こんな場所で出会う自分は、幸運なのか。

 はたまた、最も不幸な人間なのか。


 星十(フルスター)指定生物――神龍ミルグラド


 この世界で、最強に位置づけられた生物がそこにいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ