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悪役側の視点で  作者:


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21話 異端 sideハリシュ

 騎士団と言っても日々事件がある訳ではない。

 国民同士の小競り合いや、無銭飲食の対処などの些事が多くを占める。

 第四騎士団は国民にとっては頼りがいのある仲裁者、と思われているような立ち位置であった。


 ただ、その日は少し違った。


 詰所の中を慌ただしく移動する団員は、上階にいる幹部に情報を伝える。

 貴族の家で働くメイドからもたらされた情報だ。


 そんな人物が何故? と疑問符が浮かんだが、もたらされた情報の緊急性を考慮し素早く思考を切り替える。

 第四騎士団団長――ルメオ・デルトリアは相手の戦力を考え適任者に指示を飛ばす。


「ハリシュ、騎士を十名程選出し会場内の制圧を実行しろ」

「はっ!」


 ハリシュと呼ばれた男は第四騎士団内で十騎長の位にいる男だ。

 役職としては中間。上には百騎長、副団長、そして団長職がある。


 とはいえ実力は十二分。

 今回任命されたのも、彼がいれば不確定要素があっても問題ないと判断されたからこそである。


 ハリシュと指名された団員達は素早く準備を済ませ目的地へと向かう。

 報告をしたメイドも『使える屋敷の御子息がいる』ということで同行。色々と疑問が脳裏に湧き出るハリシュであったが、今はその時ではないと言葉を飲み込み現場へと急いだ。



(数は二か)


 違法なオークションが行われているという場所の外には二人の監視役。

 立ち姿、魔力量を認識したハリシュはその実力を正確に見抜き、同行する団員二名に指示を出す。


 一人が土魔法を使用する。

 地形を操作し、警備に気付かれないようもう一人を移動させる。

 死角に回った所で、移動した一人が即座に駆け出し無防備な見張りを昏倒させる。


 直様他の団員が拘束し、入り口を占拠した。

 周囲の建物から他の見張りがいないかの確認も早い。


(見事ですね。一人一人の練度が高い)


 武術の心得もあるシルは第四騎士団の動きをそう評した。

 騎士団に入ってまだ間もないであろう者を伴ってなお完璧な統率がとれている。

 犯罪者達が騎士団の名前を出すだけで震えるのも頷けた。


(ただ・・・・・・)


 戦闘という分類、直近の劇的な光景が自然と思い浮かび天秤にかかる。

 今の騎士団の動きとクリスの動きとを比べたのだ。


 その答えを彼女は考えないようにして頭を振る。

 それ自体が答えである事を気付いていながらも、善とは言えない存在が、成人にも満たない状態で既に片鱗を見せている事を認めたくなかった。


 葛藤するシルの傍ら、ハリシュは無言で指示を飛ばし建物の中へと侵入を図る。


 内部の状況、敵の配置は把握している限りをシルから伝えられている。


(階段先に見張り一、そして魔方陣が刻まれた扉が一つだったな)


 扉に施された魔法が起動する前に侵入する必要がある。

 階段は一本道、魔法が発動する前にその距離を詰めるのは難しい。


 そう判断したハリシュは魔力を操作し、身体能力を高めながら並行して遠距離の魔法を手の中で待機させる。


「行くぞ」


 短く頷いた団員達を見て、ハリシュは飛び出す。

 そのまま扉近くにいるであろう見張りに魔法を放とうとして、異変に気付き魔法の発動を中断した。


 扉は既に半ばまで開かれており、見張りは昏倒している。

 その傍らには内部を睥睨している偉丈夫が一人。


 ハリシュに気付いた偉丈夫――マルスが僅かに振り返る。


(【剛腕】のマルスか?)


 ハリシュは冒険者時代のマルスを知っていた。

 力ある冒険者を騎士団に引き抜けないかと、一度交渉したこともある。

 残念ながら断られてしまったが、真っ直ぐな人柄だったとハリシュは記憶していた。


(我慢できないなにかが出たか? しかし、動いてしまったならもう大半には逃げられたか・・・・・・)


 マルス一人で全員を逃がさず捕らえることは不可能。

 力の強さと万能性は比例しない。


 事態が既に動いてしまっている事に『またか・・・・・・』と敵を逃がしたことの悔しさを滲ませながらも、少しは残っていることを願ってオークション会場に足を踏み入れる。


 体を半身ずらしたマルスの横から侵入し、声を張り上げた。


「全員動くな!」


 叫び、そして気付く。

 遥かに多い人数が残っている事に。


 軽く見渡すだけでいの一番に逃げるはずの逃がさなければはずの人物たちがいる。


(おい待て、名のある商会に貴族までいるじゃねえか! パトロンとして価値のある存在を何故・・・・・・?)


 裏の組織にとって貴族のパトロンは決して見捨てる事ができないはずだ。

 金もそうだが、利用できるルートの幅が桁違いになる。

 それに貴族はもしもに備える連中だ。蜥蜴の尻尾斬りなどとしようものなら手痛いしっぺ返しがくる。


 ここまでを想像して、なお行動出来なかった理由があるはずだと視線を動かした。


「火球」


 団員の一人が、ステージ側の照明の代わりに魔法を放った。

 まず映るのが力なく倒れ伏している血まみれの男。

 それは騎士団でも把握している人物、安全マージンをとるなら、二人以上での団員で対処する必要がある身体強化魔法の使い手。


 おそらくマルスがやったのだろうと、一旦思考を流したハリシュは、無意識に剣の柄を握った。


 ――そこに野生の獣を幻視した。


 いや、よくよく見ればそれは少年の姿をしていた。

 ただ、少年から滲み出る殺気が、正常な目を歪ませた。


「その子達から離れなさい!」


 威勢よく飛び出したのは団員の一人。

 敵が隠れ潜んでいるのかと警戒したハリシュだが、見当たらない。

 ならどこに向かって、と女性団員に視線を戻したハリシュは分かりやすく顔を青褪めさせた。


「ちょ待――」

「てやぁあああ!」


 制止の声は遅く、女性団員の飛び蹴りで吹き飛ぶ少年の姿を見て、ハリシュは一瞬走馬灯が流れた。




 結論としては、なんとか首一枚繋がった。

 代償はあるが、大分軽い方だ。他の貴族が相手なら投獄か鞭打ち、高位貴族が相手なら市民権の剥奪もありえた。


(にしても・・・・・・)


 役職柄、貴族の噂には敏感だ。

 それは当主のみならず、次世代を担う子供達に関しても例外ではない。特に、金の卵である学園生に関してはより一層高いアンテナを立てていた。だと言うのに、聞いていた話と違う。

 クリスと言葉を交わしたハリシュは違和感を抱かずにはいられなかった。


 平民を蔑視する貴族。

 スライムに敗北した男。

 どれも一様に、クリスという貴族は悪い噂しかない。


 一番最近では、決闘でも背を向けたやら、テストの不正疑惑も出ている程。

 後者に関しては学園が見抜けないことなどないはずであるが、それを加味してもなお、その人間性から仮定を抱かれるような人物である、というのが傍から見た結論であった。


 しかし、対面したハリシュが抱いた印象はその真逆と言っていい。


 無能な貴族は感情論に走ったり、根拠のない主張をするものが多い。

 対して、余裕を持った姿勢に的確な指摘、結論を端的に述べるクリスは無能とはいいがたいものだった。


 ここまでで判断できるのは、『実は有能だが周囲の嫉妬でおかしな噂が広まっている』もしくは『全てを掌握している悪性の人物』か。


 前者なら諸手を振ってスカウトしたい人物。

 後者なら警戒対象になる。


(不手際はあったが、逆につながりを持てたことは良かったのかもしれない。彼の人柄を見極めるためにも、上層部の方に一度声を上げてみるか?)


 もしかしたら国に多少の利益をもたらしてくれるかもしれない人物。

 そんな認識だった。


 ――数分後の光景を見るまでは。


 誰も声を上げられない空間。

 容易に命を刈り取る存在を前にして、それに向けられる殺気を全体で感じて、生物が平静を保てるはずがなかった。


 人間の根幹、危機意識が鳴らす警鐘。

『即時撤退』を思い浮かべながらも、守るべき市民がいる王都で背を向けることなどできるはずがない。


 幾重にも貼られた王都の結界を無視して侵入した獣。

 それだけでも七星以上が確定している。命を懸けても何秒ともたないだろうと、どうやってコンマ数秒を稼ぎ後ろに繋げるかを考える中、静寂の空間でその声はとりわけよく響いた。


「まずは子供たちの無事を伝えたい」


 少し前まで自身と交わしていたのと同じように言葉を交わすのは騎士団ではない。

 まだ学生の貴族家三男だった。



 会話を終え、空間を跨いで姿を消す獣。

 それに続くように去ろうとするクリスを慌てて止め、今回のことについて改めて話の場を設けたい事を告げた。


「ハリシュ十騎長、申し訳ありませんでした!」


 勢いよく頭を下げるのは、クリスを蹴り飛ばした女性団員のミリーだ。


「ふむ、まあ今回は少々軽率な行動だったな。あの場にいたからと賊と判断するには早計だ」

「はい」

「質の悪い貴族だったらこの場で腕の一本でも取られてもおかしくなかっただろう」

「・・・・・・はい」

「帰ったら報告書の作成と一か月のトイレ掃除だな」

「うぐっ、承知しました!」


 取り敢えず死体の血を流すかと近づいた所で、打撃痕を見つける。

 おそらくは徒手による攻撃。問題は武器を使用するマルスではないだろうこと。打撃痕の大きさから相手の手を想像して、眉間に皺を寄せた。


「・・・・・・なに一つ噂に合わない、か」


 死体の血を洗い流した後、応援を呼んでいた団員が戻りハリシュはそれぞれに指示を出す。


「私は一度戻る。後の指示はモリス、君に任せる」

「はっ!」


 情報量でパンクしそうになりながら、ハリシュは急ぎ移動する。

 先程の獣の出現を、間違いなく各団の団長は気付いている。

 おそらく王宮は今緊急警備状態に移行しているだろうと判断し、早急に情報を持ち帰るために身体強化までかけて走る。


 そして第四騎士団の団長には別の報告もしなければならない。


 確実に味方に入れなければならない人物の大頭を。

 もしも敵に回るならば、早急に対処しなければならない異端の存在を。


 その明晰な頭脳でカテゴライズされる重要案件に【クリス・ローウェン】の名が刻まれた。


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