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悪役側の視点で  作者:
1/3

1話 転生

 仕事帰り。

 花の金曜日には友人と酒を飲んで鬱憤を解消するのが楽しみ、そんな三十代だった。


「あぁ、異世界転生したいなあ」

「なんだそれ?」

「頑張っている僕達を労って、神様が別の世界に転生させてくれないものかと」


 友人は少し酔った様子でそんな冗談を言った。


「また餓鬼からやり直すのか? あの頃に戻りたいとは思わないけどなぁ」

「確かにどこの世界でも大変だろうけど、そこは記憶を引き継いで転生させて貰うのさ。それだけで大半のことは覚える必要はなくなるし、他者より一歩リードできるじゃないか」

「なにをしたらそんなことができるんだ」

「神様に交渉とか?」


 言って、お互いに苦笑する。

 前世どれだけの徳を積んだら、神様にお願いが出来るような存在になるのか。そもそも面と向かって相対できるかも疑わしい。


 でもまあそんな細かい事はどうでもよかった。

 馬鹿みたいな妄想でもなんでも。阿呆なことを言って笑うような単純な会話を言い合える空間に安らぎを得ていたから。


「ふふっ」

「あっ! 鼻で笑ったな!」

「いや、素晴らしい考えだなと脱帽してたんだ」

「くそぉ馬鹿にしやがって」


 そもそも異世界なんてものが既にファンタジーだ。

 知的生命体が生存できる気体がある惑星の誕生は奇跡のような確率で成り立っているのだから。


 まあ要するに、異世界転生なんてのは存在しない夢物語である。







 拝啓、友人殿。

 あの時の発言を訂正しようと思う。

――異世界転生はありました。


「貴っ様ぁ! 恥を知れぇ!」


 洋式の部屋、その中央で相対するのは俺ともう一人の男。

 男は金髪に少し髭を生やした美丈夫だ。綺麗に整えられている髭や服を見るに几帳面な性格が読み取れる、そんな男は()()()()父親である。


 父親が憤怒の表情を浮かべ、俺を殴り飛ばす。

 脳が揺れる鋭いパンチだった。


 足がいう事を聞かず、ふらふらとしながら後ろに下がり尻餅をつく。


(あっ、俺転生したのか)


 そして、殴られた衝撃によって俺は前世の記憶を思い出したのだ。

 混乱している中、今世の親の怒声をバックミュージックに記憶を整理する。


 自分の立ち位置、知識、容姿、全てを統合する。


(いや、まさかそんな。ありえるのか?)


 辿り着いた結論に、思わず眉間に皺が寄る。

 どうやら俺は、ゲームの中に転生したらしい。

 ・・・・・・うん、やはり突拍子もない考察だ。夢である確率の方が高いと思うが、五感に感じるものは明晰夢のそれとは違った。


 今世の俺の名は、クリス・ローウェン。

 ゲーム『楽園』に出てくる悪役キャラだ。

 ちなみにこのゲームには十八禁要素。つまりは性的な場面が存在する、ようはエロゲ―である。


 このゲームに前世の俺ははまり、かなりやり込んだ。

 エロゲ―をやり込むと聞けばおかしな印象があるだろうが、実はこのゲーム、エロ以外の要素も非常に作り込まれたマニアックゲームなのだ。


 ゲームのキャッチコピーは『全てが叶う世界』である。

 実際にゲーム内の自由度は大きく、掲示板で願いが叶わなかったという記述は一度も見た事がない。


 ちなみに俺がなにをやり込んだのかと言うと、ファンタジー生物との触れ合いイベントである。

 このゲームを知ったきっかけは、友人から進められて手に取ったのだが、ゲーム内での生物に心を射止められ休日はずっと触っていたように思う。


 ヒロインとの関係そっちのけで(生物関連イベントはコンプ)熱中したのはいい思い出だ。


 この世界のファンタジー生物の総数は、仲間と確認できただけでも一万を超える。

 それら全てにCGと設定が組み込まれていたのだから、制作陣は変態集団に違いない。


 毛の細部まで描かれたCG。

 各種ごとに丁寧に設定された生物の生態。

 現実では目にすることのない非現実的な存在。


 はまらない訳が無かった。

 想像が広がり、日頃のストレスからも解き放たれるような錯覚さえ覚えた。


「会いてえな」

「なっ?! やはり王都から離して正解だったか! 被害者の心情を理解しようともせずまた女性に手を出そうというのか!」


 思わずでてしまった呟きに父親が青筋を立てながら反応する。


 何故か俺が転生? 憑依? しているクリス・ローウェンははっきり言って屑だ。


 貴族以外をただの玩具と考え、種族も人族以外を蔑視している。

 王都では毎日のように市民へのちょっかいと女あさりをする日々、ゲームの日間タスクかよとつっこみたくなるぐらいには常に他人に迷惑をかけている。


 そして現在怒声を浴びている理由は、学園に通う平民の女生徒を無理矢理襲おうとしたからだ。武器を片手に、家族にも危害が及ぶような言葉まで語って。運よく他生徒が発見して事なきを得たが、あと少しで惨事になるところだった。


 学園からは一か月の停学処分を言い渡された。

 正直退学でもいいだろうと思うが、家の家格が少し高いのと、未遂という点が考慮されたのかもしれない。


「くっ、どこで育て方を間違えたのか」


 顔を右手で覆い苦悩の表情を浮かべる父親のアルバ。

 実際彼の言うように育て方にも問題はあって、クリスはかなり緩く育てられた。

 よく言えば自由に、悪く言えば放縦に。


 既に時期当主になる長男がいて、もしもの時の次男もいる。

 三男のクリスはそこまで真剣に教育を行う必要はなく。好きなことを好きなようにさせてきた結果、女性を軽く誘う軟派な性格になった。おまけに自分の思い通りにならないことに癇癪を起すのだから始末に負えない。


 それが今の俺。いや、俺が記憶を取り戻す前のクリスの評価だ。

 頭が痛くなりそうなのを堪えながら、まずは噴火寸前の父親を鎮静化させようと口を開く。


「申し訳ありません父上。会うというのは、怖がらせてしまった女生徒に直接謝罪できないものかと思いまして、つい口に出してしまいました。その元凶が言ってよい言葉ではありませんでしたね」

「むっ」


 ・・・・・・言ってて口に合わない。

 こんなかしこまった台詞より、多少荒い言葉が馴染みだが、この場で舐めた口をきこうものならなにされるか分からん。


 アルバは僅かに目を開き押し黙る。

 俺の、というかこのクリスから出る発言ではないからだ。

 前世を思い出さない状態ならなんと口走っていただろう。クリスの思考も持ち合わせているため想像はできる。


『はっ、この俺に抱かれるのですよ? 光栄に思いこそすれそれをまるで暴漢に襲われたかのような態度で震えて、折角の機会をくれてやったというのに、むしろこちらが謝罪をして欲しいぐらいでしょう。そうだな、家のメイドとして永遠に使い潰してやるぐらいでやっと釣り合うぐらいでしょうか?』


 ・・・・・・うん、記憶を取り戻して正解だったな。

 そんなことを口走った時には手足の一本は切り落とされていたかもしれん。


「・・・・・・どうやら今回ばかりは反省している様だな。しかし、心というのは時間が経てば変わる。その気持ちも忘れられては困る。この謹慎中にその精魂を一から叩きなおす。覚悟するように!」

「承知しました」


 一端の収まりを見せる流れに、やはり甘さを感じてしまう。

 息子だから簡単に騙せるのか、それとも嘘を見抜けないのか。

 いや、魑魅魍魎の住まう貴族界隈で伯爵として生きている人物だ。この程度の嘘は見抜いているはず。

 おそらくはこんな演技すらしようとは思わない。する必要性を全く感じないのがクリスという男だからだろう。


 まるで世界が自分中心に回っているのではと勘違いしているような奴だ。

 流石はゲーム世界の悪役と言えばそれまでだが、当の本人になって今までの思考を読み取れば、想像以上にぶっ飛んだ性格をしている。

 もうここまで来れば環境云々よりも、元来のものを感じずにはいられない。


 今からの生活が少し憂鬱になる。

 ・・・・・・いや待てよ、別に俺にはどうでもいいのでは?


 伯爵家とはいえ三男だ。どうせこの家を継ぐことはなく外に出る事になるのだから、社交とか人脈はそれ程重要ではない。

 今までの悪評をどう雪ごうかと考えていたが、無理に誠意を見せる必要はないのかもしれない。

 そして俺がこの世界で主題に置いているのはなにか。

 決まっている。【ファンタジー生物】だ。


 そこに交流関係が必要か? ・・・・・・ほぼ必要ない。

 必要最低限の交流はしつつ、自分の夢に没頭すれば、誰にとってもウィンウィンな関係になるのではないだろうか。


 思い返せば、前世では色々と雁字搦めな生き方をしてきたように思う。

 あまり自分の望みを出せず、願望を殺してただ生きていた。

 ならばこそ今世は、望みのままに生きてもいいのではないだろうか。その望みをある程度叶えられる地盤に既に立っているという事実が、余計に己の欲望を掻き立てているという事実は否定できない。


 この奇怪な現象が何故起こったのかは分からないが、ここでは生物に直接触れ合い、意思疎通を図ることが出来るのだ。画面越しにしか見る事の出来なかった彼等に会えるならばなんだってできる気がする。


 僅かな逡巡、しかしすぐに行動方針は決まった。


 (今世は好きなように生きたい)


 そう覚悟を脳裏に浮かべながら、反省している演技をして部屋に戻った。


「くっ、俺はなんて馬鹿なことを・・・・・・」


 取り敢えずの呟きも添えて。


取り敢えず、完結まで毎日更新予定(`・ω・´)ゞ

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