第7話♡ 生きていくために水分は必要不可欠だから、必死になるのも仕方ないよね
大きくなった僕は、配信のクロージングを終えた天塚さんとともに聖奈の自宅に戻った。
バイクみたいなサイズのオオカミともなれば、入退場の管理や素材・装備の売買などを管理するJDAでぎょっとされたり、街中でも物凄く注目を集めたりもした。
……まぁ僕というか、僕にデレデレな天塚さんに注目している人も多かったけれど。
蕩けるような笑みで魔狼を甘やかす天塚さんは犯罪的に可愛かった。異性のみならず同性までもが天塚さんを見て頬を赤らめていたほどである。
大きくなってからスキンシップも増えたし、たゆん、ぷるんとウルトラ大きな双丘が眼前で跳ねたり僕に押し当てられたりするたびに、僕の中のオオカミが遠吠えをあげそうになっていた。
口の中が唾液で溢れているのにとんでもなく喉が渇くとかよく分からないことにもなっている。
今すぐ何か飲まないと死ぬかも、と思わされるような危機感とは裏腹に、僕の本能は天塚さんからふわりと漂う桃のような香りにばかり気を取られてしまっている。
事あるごとに理性を痺れさせるような甘露の味を思い出し、我慢するのが大変だった。
閑話休題。
天塚さんの自宅は、見るからに高級なマンションだ。入り口には手入れが行き届いた植え込みがあり、エントランスはシックで落ち着いた石材。
オートロックで配達用のでっかいロッカーまでもが当然のように備え付けられていたほか、制服姿のコンシェルジュが受付に常駐している光景は、どこかの企業ビルのようですらあった。
「あっ、聖奈さんおかえりなさい……えっと、そのワンちゃんは……?」
「やだなぁ、今朝も見せたじゃないですか」
「えっ!? だって今朝は仔犬――」
「仔犬の成長は早いって言いますし」
「限度がありませんか!? それにそんな大きな仔を連れていくのは――」
「ここ、ペット可ですよね?」
「そうなんですけども、さすがにサイズが――」
「可、ですよね?」
ぐっと受付カウンターに身を乗り出し、月島遥という名札を下げたお姉さんに迫る天塚さん。
脅迫ではない。
どちらかというと、上目遣いで目を潤ませる姿はおねだりしている感じだ。
自分が魅力的であることを十分に理解しての言動ではあるけれど。
「ぐぅっ……それは、そうなんですが……」
おそらくは二〇代前半の月島さんは剣道とか薙刀が似合いそうな凛とした感じの美人なんだけども、例に漏れず天塚さんの顔を見て頬を赤らめていた。
分かりますよ。天塚さんのその表情って実質、凶器みたいなもんですからね……理性をぶん殴るタイプの。
「駄目、ですか……?」
「……………………………………き、規則上は問題ないです」
「遥さんありがとう!」
仲が良いのか、下の名前で呼んだ天塚さんがパッと月島さんの両手を握り、上下に振った。
「ふぁぁぁ」
変な声を出しながら頬を染める月島さんだが、敏感な僕の鼻は、彼女の身体から微かに立ち上る甘酸っぱい――天塚さんとは違うけれど、ちょっと嗅ぎ覚えのある香りを捉えていた。
明らかに発情していると確信できるのは僕が変態だからではなく、【ワースケベ】の能力だと思いたい。
「じゃあ、よろしくお願いしますね」
にっこりと微笑みながらエレベーターに向かう天塚さん。月島さんはぽやんと熱に浮かされたような表情をしながら手を振っていた。
「帰ったらお風呂入ろうね♡」
艶やかな爪でかしかし、と僕の頭を軽く掻きながら告げた天塚さん。
モンスターはほぼ一撃だったし、移動もてくてく歩く感じだったのでそんなに運動らしい運動をしたわけではない。
もしかして僕って獣臭い? と鼻をすんすんさせると同時、不意打ちで本能がぶん殴られたような感覚がした。
完熟した桃のような香り。
酔ってしまいそうなほどの濃密な香りが、天塚さんから漂っていた。
「お風呂はいったら、お姉ちゃんを……じゃなかった、お姉ちゃんと遊ぼうね♡」
「わふっ!?」
驚く僕の顔をむぎゅっと両手で挟む天塚さん。その目が見つめているのは軽く開かれた口から覗く僕の舌である。人間のものよりも薄く、そして大きなそれを注視する天塚さんは、まるで恋する乙女かのように頬を染めていた。
「ルゥくんが教えてくれたんだし、もうダメって言ってもぺろぺろしてたくらいだから、嫌じゃない……よね?」
期待と不安が入り混じった表情を浮かべる天塚さんに、僕の理性がラクレットチーズよりもとろとろのデロデロに溶かされていく。
やることを考えるとチーズじゃなくてバターの方が適切かもしれないけれど、そもそも犬じゃなくて狼なので些末事だ。
乙女の秘密を堪能するために探検隊になりたいのを必死に我慢する。今すぐにでも意識が飛びそうだった。
前に舐めた時に分かったけれど、天塚さんはそういうことをした経験がないはずだ。
だというのに――……否。
経験がないからこそ、未知の体験にドはまりしてしまったのだろう。
「お姉ちゃんと遊ぶのは気持ちいいってちゃんと覚えてね♡」
本格的にバターなドッグへと躾けられてしまいそうだったけれど、嫌な気持ちになるどころか期待してしまっていた。むくむくと湧き上がる欲望を押さえ、何とか玄関に到達。
ぎりぎりのところで踏ん張っていた僕の理性は、補強入りのロングブーツを脱ぐ天塚さんを見てあっさりとノックアウトされてしまった。
天塚さんが、ブーツを脱ぐために玄関にぺたんと座っていたのだ。
ドレスアーマーの天塚さんが上がり框に腰かけるだけでもかなり際どいポーズになる。
四足歩行で視線が低めの僕からは、スカートに隠された健康的な太腿とさらに奥に隠された秘密の花園ががっつりと見えてしまっていた。
座ったことでぎゅっとした布地からは、はっきりと天塚さんの形が分かる。
乙女の誰もが恥じらい隠そうとする部分。
見ようとすれば社会的に終わる部分。
それが、僕の眼前に広がっていた。
「わぅんっ」
「きゃっ、ルゥくん!? ……んんっ、あっ、はぁぁっ」
身体が勝手に動く。
僕は迷うことなく――しかし最新の注意を払って、鼻先をスカートの中に突っ込んでいた。
思考を痺れさせるような香りが一層濃密になり、口の中が一瞬で砂漠になった。
僕の舌が太腿と言わずショーツと言わず、スカートの中を蹂躙する。もう何年もまともに水分を取っていないかのように、必死で舐めあげていく。
「る、ルゥくっ、んんんっ……あぅっ、はっ、くぅんっ」
スカートが捲れないように抑えた天塚さんだけれど、その程度でスカートの中にいる僕を留められるはずもない。
それに、一瞬にも満たない蹂躙劇の間に、僕の舌は豊かに湧き出る水源を見つけていた。
「んっ……あっ、駄目っ、だめだよぉっ……!」
まさに桃源郷。まさに酒泉。ルルドの泉もかくやと言うほどに湧き出る聖水というか性水というか、ある意味では清らかな水を夢中で味わっていく。
ごくんっ、とそれを飲み下したところで微かに理性が復活した。
……こ、こんなことしちゃ駄目だ……無理やり襲っているのと何も変わらないじゃないか!
今更ではあるけれど、暴れまわる欲望を必死に抑えつけたところで、息を荒くした聖奈と目があった。
「る、ルゥ……くん……?」
ほら、僕に突然襲われて、今にも泣きそうな表情で――……
「何でやめちゃうの……?」
ぼくのりせいは、しんだ。




