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第3話♡ えっち人間ワースケベ

  甘く、しかしどこか爽やかな香りが鼻腔(びくう)をくすぐる。まるで桃のような香りに、自然と唾液が出てきた。


 ――喉、乾いたな……。


 眼を開けると、俺はタオルケットに包まれていた。病院かと思ったけれど、そうでもないらしい。

 書籍が並べられた本棚に、パソコンが据えられた机。パステル調の家具や、小さなぬいぐるみなんかも飾られているところをみると、女の子の部屋のようだ。

 意識を失っている間に人の姿に戻っていた、という訳ではない。前脚は銀の体毛に包まれているし、タオルケットは全身を包んでもなお余りあるサイズになっている。


 仔犬だか仔狼みたいな姿だ。


 ……何があったんだろ。っていうかここはどこなんだ……?

 どうしていいか分からずに周囲を眺めるが、本能を直撃するような芳醇(ほうじゅん)な匂いのせいで思考がまとまらない。

 桃みたいな匂いの元は僕を包むタオルケットだ。じたばたしながらなんとか抜け出す。

 と同時。


「あ、起きたっ!」


 ドアが開き、入ってきた天使と目が合った。

 にっこりと微笑みながら俺にぱっちりとした目を向けているのは、呼吸を忘れるほどの美少女だった。


 艶やかな栗色の長髪に、抜けるような白い肌。

 端正な顔立ちはまるでモデルか芸能人のよう。

 おっとりとした雰囲気に優しげな瞳は天使か、あるいは聖母か。華奢な肢体には不釣り合いなほど立派なお胸様。

 聖母の象徴と言っても過言ではないサイズ感だが、天使の方が似合ってしまうと思うのは、清楚な雰囲気によるものか、あるいは背中から生える純白の翼のインパクトが強いからか。


 僕はこの子を知っていた。


 ――天塚聖奈(あまつかせいな)


 超が付く世界的に有名な配信者にして、希少ジョブである【天使】に覚醒したことで各国に支部を置くダンジョン協会からSランクに認定された実力派のダンジョン探索者だ。


 日本のみならず国外にも多くのファンがいるという少女が微笑んでいるという事実に、僕の思考がフリーズした。


 ……天塚聖奈に助けてもらった、のか……?


「混乱してる、のかな……? 大丈夫、怖くないからね~。ダンジョンで危なかったからお姉ちゃんのお家に連れて来たんだよ」


 あっ、やっぱり助けてもらったんだ……って、ここ天塚さんの家!?

 驚く僕の脇の下に手を入れた天塚さんは、仔犬の状態になっている僕を抱えるようにむぎゅっと抱っこした。


 あっ、当たってます!

 当たってるっていうか埋まりそうです!

 いっそのこと埋めてもらえませんか!?


 天塚さんは僕のことを仔犬か何かと思っているのだろう。何の警戒もためらいもなく、豊満な胸に押し当てられてしまった。


「ほら、怖くないよ。お姉ちゃんはキミの味方だからね~」


 優しい声とともに背中を優しく撫でられ、そのまま意識を手放しそうになる。慈しむような瞳に、壊れ物でも扱うかのような優しい手つきはまるで聖母である。


 ……胸部の母性もすごい存在感だし。張りがあるのにどこまででも沈んでしまいそうなおっぱいの感触と、甘く瑞々しい香りに包まれて僕の思考が濁っていく。


 五感を直撃する気持ち良さに、唐突な事態への混乱や、サキュバスに殺されそうになっていた恐怖、そして女の子の部屋にいるという緊張が溶け消える。


 代わりというにはあまりにもあんまりだが、戦闘態勢になっているのは股間の獣くらいのものである。


「んー? どうしたの……あっ」


 服を着ている仔犬などいるはずもなく、僕は股間のエベレストを天塚さんの胸に押し当てる形になってしまっていた。持ち上げたことで気づいた天塚さんが困惑しながらも頬を染める。


 ……いや、あの、そんなまじまじと見つめないでほしいです……。


 美少女の眼前にいきり立ったエベレストを見せつけるとか、即座に有罪になるレベルの変態行為である。どうやったら人間に戻れるかは分からないけれど、少なくとも天塚さんの前で戻るわけにはいかなくなってしまった……!


「んんんん……これって、そういうこと、だよね……なんでだろ……?」


 透けるような白い肌を羞恥に染めながらも、天塚さんは俺の山頂を興味深げに見つめていた。


 ダメだよ天塚さん!

 清純な天使なあなたがアルピニストになっちゃうなんて全国のファンが泣いちゃうから!


 っていうか全世界のファンに僕が殺されるだろう。天塚さんにはそれくらい多くの人から人気を集めているのだ。


 逃げようと思ったが、曲がりなりにも今の僕は覚醒者である。不意に暴れて、僕を助けてくれたであろう天塚さんを傷つけるなんてことができるはずなかった。

 結果、美少女の眼前で噴火寸前の桜島を見せつけることになっていた。変な扉が開いてしまいそうである。


「おち〇ちんって……こんな風になるんだ……」


 ぽつりと呟いた天塚さんが、まさかの行動に出た。

 すなわち、血に飢えた僕の妖刀マサムネにほっそりとした指を伸ばしたのだ。


「……保護したからには責任があるよね……!」

「わふっ!?」


 しっとりとした手が、俺の股間を包み込む。


「大丈夫だからね。怖くないよ~……お姉ちゃんに全部任せて大人しくしててね」

 見た目通りにそういう方面に疎いらしい天塚さんは、勝手も加減も分からないようで相当戸惑っていた。だが、飼い主だか保護者の責務として一生懸命に頑張ってくれた。

 その結果、僕の桜島は空前絶後の大噴火をすることになった。


「すごい……こんなに出るんだ」


 本来ならば賢者タイムになるはずなのだが、天塚さんを見てるだけで再び復活しそうだった。

 というかすでに富士山くらいにはなっている。エベレストに比べればまだまだだが、言わずと知れた日本最高峰である。


・――ジョブ名【ワースケベ】のスキル〈眷属化〉〈強制発情〉が発動します。

 ・――〈眷属化〉に失敗しました。一定以上の量の体液を、粘膜に摂取させてください。

  ・――〈強制発情〉が一部抵抗されました。


 突然響いた天の声。その内容に耳を疑った。


 粘膜に摂取させる!?

 ンなことできるかぁぁぁッ!


 思わず遠吠えしそうになったけれど、必死に堪える。

 覚醒した時は死にそうになってたしそれどころじゃなかったから気づかなかったけど、そもそもワースケベってなんだよ!?


 パニックを起こしそうになるのを必死に堪え、頭の中で情報を整理する。


 【ワースケベ】は聞いたことのないジョブだ。

 天塚さんの【天使】みたいに前例のない希少ジョブなのだろう。

 せいぜい分かるのは体が狼だか犬だかに変化したので【エルフ】や【ワ―タイガー】のように見た目から変化する種族系ジョブだってことくらいか。


 ……《《わー》》、たいがー……?


 ワ―タイガーは鋭敏な五感と人間をはるかに超えた膂力。そして鉄をも引き裂く爪と牙を持った、二足歩行のトラみたいな容姿になるジョブだ。

 平たく言うならばトラ人間。それがワータイガーというジョブである。

 ちなみにタイガーは英語でトラ。

 ってことは、だ。


 トラ人間(ワ―タイガー)トラ(タイガー)人間(ワー)


 ……ってコトになる。


 じゃあ、スケベってのが何なのかを特定できれば、僕のジョブがどういうものなのか分かるわけだ。

 脳裏の片隅にすぐに思いつく単語があるが、それを必死に封じ込めて別の可能性を探っていく。


 ほら、エロマンガ島だって偶然そういう名前になっただけで、島全体がR18の書籍で溢れてるわけじゃない。

 イク湖(ロシア)だってエロー(イギリス)だってオマン湖(カナダ)だってただの偶然で、卑猥な土地じゃない。


 つまりスケベだってただの偶然だっ!


 自らに言い聞かせるように心の中で断言したとこころで、再び脳内に天の声が響いた。

 僕の希望を打ち砕くような、無慈悲な声が。


 ・――性経験によりレベルアップしました。

  ・――性経験によりレベルアップしました。

   ・――性経験によりレベルアップしました。

    ・――性経験によりレベルアップしました。

     ・――性経験によりレベルアップしました。 

      ・――性経験によりレベルアップしました。


 《《性経験》》。

 要するにえっちなあれこれでレベルアップしたのである。

 つまりワースケベ――僕が覚醒したジョブは。


 【《《えっち人間》》】だった。





★お知らせ★

本日の更新はここまでとなります。

第一部完結まで毎日更新予定ですので、「面白かった」「続きが読みたい」と思っていただけたらブクマと★★★★★評価をしていただけると嬉しいです。

また、作者をフォローしていただくと予定変更や新作・別作品等々のお知らせが読みやすくなるので便利かと思いますので是非!

それでは、本作をよろしくお願いします。

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