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エピローグ


「はぁ……」

 溜息をつきながらリモコンをぽちぽち。テレビのチャンネルを変えていくが、どこの局も『とある一般家屋が吹き飛んだ』というニュースを取り上げていた。

 きれいに家屋が吹き飛び、死者・行方不明者も多数出たことで、コメンテーターは張り切ってあちこちを批判している。


「……ガス管の老朽化に役所の怠慢、ねぇ」

「だから言ったでしょ? 月詠の家のことだから適当に情報統制されるって」


 キッチンから出てきたのは、ピンクのふりふり付きエプロンを身に纏った瑠璃華さんだ。なんとなく新妻感があるけれど、言ったら酷いことになるのでお口にチャックである。


「はいコレ。ブランチ」


 差し出されたのはサラダとトースト、そしてスクランブルエッグがまとめられたワンプレートだ。昨晩も遅くまで《《運動》》していたので、きゅるる、と腹の虫が鳴る。


「ありがと」


 受け取ってちらりと台所に視線を向けると、そこには純白のエプロンを身に纏った聖奈さんがいた。

 ……そう。

 あの後、色々あって僕の家に二人が転がり込んできた。


 最初は『どちらが僕に相応しいか』なんていう、男なら誰でも一度は夢見るシチュエーションで言い争っていた二人。

 あれよあれよという間にベッドに運び込まれて色々と味わうまではまだ良かった。


 問題はその後である。


 えっちに関することだけではなく、食事や風呂、果ては歯磨きやらトイレまで……ことあるごとにどっちが上だの下だのと散々争って互いを追い出そうとする二人に、僕も我慢の限界が訪れたのだ。


 具体的に言うと、二人が泣きながら許しを乞うまでシまくった。


 僕の眷属になったことでついてきた〈感度操作〉を使ってみたんだけれど、これがまたすごかった。何しろキスだけで――っと、朝から元気になっちゃうからやめとこう。


 お陰でというか、それがトドメというか、一人では僕の欲望を受け止めきれないことを理解した二人は停戦協定を結び――そしてなぜか僕の家に居ついたのだ。


 ちょっとその、まぁ、【ワースケベ】のせいで火が付いたと言いますか、冷静になってみるとやりすぎな気がしないでもないけど、二人も悦んでくれてたはずだし、問題ないと思う。多分。きっと。メイビー。


「お姉ちゃん達がしっかり面倒見てあげないと……ただでさえ覚醒者の体力なのに、ルゥくんはサイズも出す量もすごいんだから。普通の人にやったら死んじゃうんだからね?」

「目移りしないように私達がしっかり躾けてあげるわ……ペットが発情期なせいで人が死ぬなんて、冗談じゃないもの」


 あんなに悦んでいたのに、酷い言われようである。


「そうね……特に瑠璃華は脱水で――」

「わぁぁぁっ!? 朝から何を口走ってるのよ!」


 ちなみに眷属になった二人には、副次的な効果もあった。

 すなわち、


「もうあんな無様は晒さないわ! 私はたくさんレベルアップしたんだから!」

「でも、私達がレベルアップするのと同じだけルゥくんもレベルアップしてるよね?」

「……あ」

「私と瑠璃華で特訓する? ほら、前にコラボ配信の話したじゃん」

「ッ!?!?!?!?!? なななっ、何言ってんのよ!? 配信しながらするなんて――」

「ダンジョン、いきたくない?」

「~~~っ!!」


 自らの勘違いに気づいた瑠璃華さんが頭を抱えて悶えていた。

 いきたくないわけじゃないだろうけど、昨日イキすぎて思考がそっちに染まっちゃってるんだろうね。


「とーや! 何笑ってんのよ!」

「えっ!? 僕!?」


 今のは瑠璃華が勝手に勘違いしてただけじゃん!


「ルゥくんは何もしてないよ?」

「くぅぅぅ……! たくさんレベルアップしてぎゃふんと言わせてやるんだから!」


 そう。二人はえっちなことを通じてレベルアップするようになった。【ワースケベ】の効力は眷属にまで及ぶらしく、なぜか二人にも天の声が聞こえるようになり、レベルアップの宣告がされるようになったのだ。

 逃げられてしまったリリン=リ・リや、実力不明のシュタイン=デ・ルモントは聖奈さんのことも瑠璃華さんのことも認識していた。


 さらにいえば二人ともカル=シ・オラスとも因縁がある相手である。


 人質や見せしめ、精神的な動揺を誘うため……二人が狙われる可能性がある以上は、強くなってもらうのが悪いことなはずもない。


 とはいえ、だ。

 眷属化にはデメリットも存在していた。


「……とーや、ダメだからね」

「ふふっ……いざ始めると、瑠璃華のほうがノリノリになるのにね」

「そっ、それは仕方なくよ! 眷属化のせいで、とーやとえっちしないと生きていけない身体になっちゃったんだから!」


 正確に言うならば、僕の体液を摂取しないといけない身体になってしまったらしい。

 それをしないでいると、少しずつ弱っていき、最後は死んでしまうんだとか。

 本能的に分かった、と言われたときは目が点になった。


「えー? そりゃ確かに、ずーーーっとえっちしなければ死んじゃうかもしれないけど、そんなに嫌なら半年とか一年に一回でも十分に――」

「嫌なんて言ってないでしょ!」


 このタイミングで関わると意見や助力を求められたりして不幸な目に遭いがちなので、じゃれ合い始めた二人を無視して再びテレビに集中する。


 ――そして、そこに映っていた文言に、思わず息を呑んだ。


『RENAのスキャンダルは捏造だった! 一緒にいたのはただのお兄さん!?』


 僕がダンジョンに入るきっかけになったRENAの熱愛騒動――そのお相手と噂されていた素行不良の覚醒者は、なんとRENAのお兄さんだったらしい。

 モニターには、丸刈りにスーツ姿の覚醒者が記者会見を開いている様子が映し出されている。


「俺は馬鹿だし、色々騙されたり遊ばれたりして変な噂も多いから、妹の足を引っ張りたくなくて隠してたんです」

「今までのスキャンダルについて一言!」

「……信じてもらえないかもしれませんが、俺は二股とかしたことないし、何ならお金だけいっぱい払わされてデートすらしてない子とかもいます」

「RENAさんとの関係は本当に兄妹なんですか!?」

「はい。血の繋がった妹です」


 ……全部僕の勘違いだったのか。

 衝撃を受けて固まっていると、映像が切り替わる。RENAがSNSにアップロードした釈明動画である。

 何を言うのか、と身を乗り出したところで、左右の耳を摘ままれた。


「ねぇ、ルゥくん。私達がいるのに、何でアイドルの子に釘付けになってるのかなぁ?」

「……決めた。昨日は不覚を取ったけど、今日こそアンタが泣くまで絞りとってやるんだから!」

「えっ!? 違う、そうじゃなくて――……と、とりあえずシャワー浴びてこようかな!」


 何とか切り抜けようと立ち上がった僕の腕を、左右から素早く絡め捕られた。


「お風呂でシたいなんて、ルゥくんったら甘えん坊だね♡」

「いや、違うよ!?」

「へんたい、すけべ、ばかとーや……そのうちダンジョンの中でも我慢できなくなるんじゃないでしょうね?」

「そうなったらお姉ちゃんに声かけてね。ルゥくんならいつでも良いから♡」

「ちょっと聖奈! 誰が結界張ると思ってんのよ! 外なら私が先だからねっ!」

「……えっ!? 外!?」


 驚いて瑠璃華さんをみたら、脇腹を殴られた。


「ふふっ……ルゥくんが寝てる間に、私のパーティに瑠璃華も加入させちゃったんだ♡ これからはずーっと一緒だからね♡」

「目移りなんてしたら、絶対許さないんだからね!」

「ふ、二人とパーティ組んでるなんて知られたら、絶対に刺される……」


 聖奈は世界的に有名な配信者。瑠璃華も、聖奈には負けるとはいえ、競えるほどに人気のある配信者なのだ。ガチ恋勢に見られたら僕は即日あの世生きだろう。

 ぼやいた僕に、二人揃ってにんまり笑う。


「「ワンコに嫉妬するやつなんていないわ」」

「えっ!?」

「ルゥくんがお風呂もダンジョンもお姉ちゃんと一緒なのは当たり前でしょ♡」

「飼い主がペットと一緒なのは普通のことよ」


 ……なる、ほど……?


「さぁルゥくん。お姉ちゃんとお風呂入ろーね♡」

「と、とーや! 特別に体を洗わせてあげるっ! 私と入りなさいっ!」


 左右から引っ張られてたたらを踏む。


 ――やれやれ、自らの群れも御せぬとは……


 やかましいよっ!

 あれから何度僕が心の中で語りかけてもまーーーったく出てこなかったくせに、こういう時だけ……!


「とーや? 無理せず聖奈なんて断りなさい」

「ルゥくん? お姉ちゃんが守ってあげるからこわーい飼い主の言うことなんて無視してね」

「とーや!」

「ルゥくん」


 どこか蠱惑的な二人の瞳が、僕をまっすぐに射貫く。


「「……どっちとえっちしたいの?」」


 蕩けるような笑みを浮かべて僕を見つめる二人に、僕は――


【了】


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