表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/32

第30話 意地

「死ぬまで殺してやる」


 爪を振るう。走り抜ける。

 爪を振るう。走り抜ける。殺す。切る。爪を振るう。走り抜ける。引き裂く。爪を振るう。走り抜ける。爪を振るう。走り抜ける。引き裂く。断ち割る。爪を振るう。切り裂く。走り抜ける。爪を振るう。斬り落とす。走り爪を振るう。斬る。死ぬまで殺す。走り抜け爪を振るう。走り抜け爪を振るう。切る。走り抜け爪を振るう。殺す。走り抜ける。断ち割る。走り走り走り、振るい、振るい、振るい。切り裂く。引き裂く。切る。斬る。斬る、切る、斬る、走る、斬る、斬る走る斬る振るう切る斬る斬る振るう斬斬斬走斬、走斬斬死死、死斬斬走斬斬振、斬斬斬切斬斬斬走斬斬斬斬爪斬斬、斬斬振斬斬斬斬斬斬斬斬切切斬斬斬殺殺殺殺斬斬断落断断斬斬斬斬割斬斬爪斬爪裂斬斬振裂落斬斬走斬走斬斬裂裂斬斬振斬斬斬振斬、斬斬斬走斬斬裂割斬斬断斬爪爪振斬斬振振振斬斬斬走斬斬走斬切斬爪斬斬裂斬振斬斬走斬斬落斬斬落落斬切斬斬斬斬斬切斬斬断斬斬死死斬斬斬斬振斬落斬斬割斬、斬斬割斬斬斬振斬斬振斬斬走斬斬落斬爪斬斬切斬爪斬斬走斬斬斬殺斬死斬斬走斬断落斬断断断落斬斬斬割斬斬振斬斬斬振斬斬斬斬走斬斬裂斬斬振斬斬断斬斬死死斬斬斬斬振斬落斬斬割斬斬斬斬割斬斬斬振斬斬振斬斬走斬斬落斬爪斬斬切斬爪斬斬斬斬爪斬爪裂斬斬振裂落斬斬走斬走斬斬裂裂斬斬振斬斬斬振斬斬斬斬走斬斬裂割斬斬断斬爪爪振斬斬振振振斬斬斬断断断落斬斬斬割斬斬振斬斬斬振斬斬斬斬走斬斬裂斬斬振斬斬断斬斬死死斬斬斬斬振斬落斬斬割斬斬斬斬割斬斬斬振斬斬振斬斬走斬斬落斬爪斬斬切斬爪斬斬斬斬爪斬爪裂斬斬斬走斬斬走斬切斬爪斬斬裂斬振斬斬走斬斬落斬斬落落斬切斬斬斬斬斬切斬斬断斬斬死死斬斬斬斬振斬落斬斬割斬斬斬斬割斬斬斬振斬斬振斬斬走斬斬落斬爪斬斬切斬爪斬斬走斬斬斬殺斬死斬斬走斬断落斬断断断落斬斬斬割斬斬振斬斬斬振斬斬斬斬走斬斬裂斬斬振斬斬走斬斬斬殺斬死斬斬走斬断落斬断断断落斬斬斬割斬斬振斬斬斬振斬斬斬斬走斬斬裂斬斬振斬斬斬走爪斬爪裂斬斬振裂落斬斬走斬走斬斬裂裂斬斬振斬斬斬振斬斬斬斬走斬斬裂割斬斬断斬爪爪断斬斬死死斬斬斬斬振斬落斬斬割斬斬斬斬割斬斬斬振斬斬振斬斬走斬斬落斬爪斬斬切斬爪斬斬走斬斬斬殺斬死斬斬走斬断落斬断断断落斬斬斬割斬斬振斬斬斬振斬斬斬斬走斬斬裂斬斬振斬斬裂斬斬裂斬斬走斬斬斬裂裂斬斬斬斬殺斬斬走斬斬斬割割斬斬切斬振斬斬斬振斬斬斬斬走斬斬斬裂斬斬斬斬割斬斬走斬走斬斬斬斬割斬斬死斬斬斬走斬斬斬斬斬切斬斬斬斬斬――……


 心臓が破けそうなほどに早く脈打ち、肺が破けそうなほどに痛かった。口の中は鉄錆の味で満たされているし、無理な動きに筋肉がブチブチと断裂していき、関節はみしみしと悲鳴を上げている。

 それでも僕は止まらない。

 止まる訳にはいかない。


 後から後から湧いてくる触手の全てを引き裂き、断ち割り、斬り落としていく。


 反撃も。

 逃走も。

 悲鳴さえも引き裂いていく。


「ハァっ……ハァっ……ハァっ……!」


 どれほどそうしていただろうか。

 限界とともに膝を突いた僕の目に映ったのは、回復することなく消え始めたローパーの残骸だった。


 風に撒かれ、塵になって消えていくローパーの奥から、崩れた顔が覗いた。


「…………」


 微かに動いた唇は、感謝の言葉を紡いでいるように見えた。


 ……倒した。


 確信したが、まだ終わりではない。


「ルゥくん!」

「だい、じょ、ぶ」


 言葉とともに、血が零れる。無理をしすぎたのだ。


 ダメージを追っているのは肺や気管だけではない。関節も、内臓も、骨も、筋肉も。

 痛くないところが存在しないくらいにダメージが蓄積していた。


 おまけに魔力もごっそり持っていかれた。

 でも、まだ戦える。


「ふふふっ……良~いオトコになったじゃなぁい♡」


 リリン=リ・リが僕の前に立ちはだかる。


「アタシのセフレにしてあげても良いわよぉ?」


 蠱惑的な笑みを浮かべながら耳障りな鳴き声を発するが、顔色は悪い。


 こいつも限界なのだ。

 地上に転移した時点で苦しんでいたし、戦闘を眷属化した者やローパーに任せていたのがその証拠である。


「つれないわねぇ……そのオンナをぶち殺してあげたら気が変わるかしらぁ?」


 殺す。

 もはや喋る余裕すらなかった。

 僕の中にある魔力を必死に搔き集める。


「……ッ!? まだそんな魔力が――」


 僕の中に渦巻く魔力に気づいたリリン=リ・リが顔を歪め、そしてすぐに驚愕に目を見開いた。


「……なんでアンタの中にアイツの……カル=シ・オラスの魔力があるのっ!?」


 応えない。

 搔き集めた魔力を僕の右腕に集める。

 ただの人に戻っていた僕の腕が、再びミシミシと変形していく。


「間違いなく殺したはずなのに!」


 空へ逃げようとするリリン=リ・リにありったけの魔力を搔き集めた拳を振り抜く。

 衝撃が空中を貫き、リリン=リ・リの顔へと突き刺さる。

 鼻の軟骨がへし折れ、派手に血を飛沫かせるが、致命傷にはほど遠い。


 ……もう一度だ。


 ぐらぐらと揺れる視界の中、歯を食いしばって拳を握りしめる。


「アタシにかかずらってる間に、もう一人の子が死ぬわよッ!」

「ッ!?」


 瑠璃華さんのことが頭をよぎり、一瞬だけ拳が止まった。その瞬間、空に魔法陣が現れる。

 魔法陣から顔を覗かせたのはシュタイン=デ・ルモントだ。


「随分ボロボロじゃないか。だから言っただろう? 奴は霊的な存在になっただけで早々滅んではいない、と。そもそもアレは魂に――」

「いいから早く助けなさいよ……!」

「もとよりそのつもりだ。当たり前だが、救出の礼に霊体化したカル=シ・オラスの駆除を手伝ってもらうからな」


 もう一度拳を振り抜くが、〈スキル〉か、あるいは別の仕掛けか。僕の攻撃はあっさりと弾かれてしまった。

 再び魔法陣が浮かび上がる。


「……アタシの顔に二回も傷をつけたアンタのこと、絶対に許さないから」


 リリン=リ・リの捨て台詞を最後に、再び転移が発動して二人は消えた。


 同時に僕にも限界が訪れる。


 カクン、と膝が折れ、身体から力が抜ける。視界がどんどん狭まる。

 聖奈さんが慌てて駆け寄ってくるけれど、声がやけに遠くぼやけて聞こえた。


 まずい。


 ……ここで意識を失ったら、瑠璃華さんが……!


  焦る僕の脳内に、声が響いた。


 ――彼奴等を殺せなかったのは不満だが、お前にしてはよくやった。

 ――売女の顔を殴ったことを褒めてやる。

 ――何よりも、

 ――自らの命よりも群れの雌を優先したことを、認めてやる。


 尊大で不遜な声が。


 ――褒美をやろう。


 魔力が体を駆け巡る。

 痛みが嘘のように消えていき、五感が戻ってくる。


「……ぷはっ」

「ルゥくんっ!」


 ……ぷはっ……?


「ルゥくん、大丈夫? 息してなかったんだよ! 心臓の音も聞こえなくなっちゃったし、本当に死んじゃうかと思ったんだから!」


 気がつけば、僕は聖奈さんに抱き締められていた。呼吸ができなかったのはおっぱいに埋まっていたせいである。

 ぼろぼろと涙を零す聖奈さんによると、どうやら僕は本当に死ぬところだったらしい。


 ――おい。早くしろ。

 ……何がだ。

 ――結界に隠れた群れの雌。放置しておくと死ぬぞ。


 カル=シ・オラスの言葉に、ガバリと立ち上がった。


「ルゥくん、はやく病院に――」

「いや、大丈夫。それよりも、瑠璃華さんを探さないと」


 僕の言葉に聖奈さんもハッとして周囲を見回す。

 眷属化され、魔力を奪われた聖奈さんだからこそ、いま瑠璃華さんが置かれている

状況をよく理解していた。


「……急がないと本当に死んじゃう……どこなの!?」

「落ち着いて」

「でも、瑠璃華がっ……痕跡もなくて!」

「大丈夫」


 結界の痕跡なんてないけれど、そもそもそんなのは必要ない。


「――すぅぅぅぅぅぅぅ」


 僕には嗅覚があるんだから。


 血の匂い。汗の匂い。土の、植物の、木材の、家、人、服――ありとあらゆる匂いをかき分けて、瑠璃華さんの匂いを探していく。


「……見つけた」


 駆け出し、何もないところに拳を振るう。


 ――パァァァァァンっ!


 派手な音とともに、結界が細かな飛沫となって飛び散った。

 そして、何もなかったはずのところに一人の少女が現れる。自らの服を乱しながらも、必死に歯を食いしばる瑠璃華さんだった。


「あ、うぅ……!」


 涙をぽろぽろとこぼした瞳が、僕を映す。


「瑠璃華っ! まだ無事でよかった! でもどうして――」

「瑠璃華、さまをっ……なめんじゃ、ないっ、わよ……!」


 ――ふむ。自らに結界術をかけていたか。珍しい使い方をするな。


 聖奈さんが飛びついて抱き起こすが、それを跳ね除けるように瑠璃華さんは自ら立ち上がった。生まれたての小鹿のようにぷるぷるしているが、それでもきちんと立ち上がり、僕を睨みつける。


「瑠璃華、このままじゃ瑠璃華が――」

「聖奈は黙って……とーや、アンタ、人間だったのね……!」

「…………うん。ごめん」

「赦さない、わ」


 よろよろと歩き出した瑠璃華さんが僕にのしかかった。僕への怒りや憎しみがそうさせるのだろうか。


 ……無理もない。


 犬だと思ったからこそあられもない姿を晒したんだろうし、人には言えないことをしたり、あるいはするのを許したりしたんだろう。それが同年代の男でした、なんて許せるはずがない。


 押されるがままに倒れ込む。

 このまま首を絞められたり、あるいは魔法を発動されるようならば、大人しく受け入れよう。

 そう考えて目を閉じようとした僕に、馬乗りになった瑠璃華さんが告げる。


「……責任、取ってもらうんだから」

「……………………………………………………えっ?」


 言っていることが理解できずに呆けた僕に、耳まで真っ赤にした瑠璃華が怒鳴った。


「わ、私はっ! あの女のせいで、おかしくなってるの! だからこういうことするのだって別に好きだからとか、シたいとかじゃないんだから!」


 怒る瑠璃華さんの背後、悪魔のような笑みを浮かべた天使のような少女が手を伸ばした。


「瑠璃華もルゥくんのこと好きなんだ……二人の関係は後でしっかり聞くとして、まずはルゥくんに助けてもらお♡」

「あっ、んんっ……せぇっ、な! どこ、触って――」

「喋るのも辛いでしょ? 無理しちゃだめ。ルゥくん、すごいから大丈夫だよ♡ ぜーんぶお願いしちゃおうね♡」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ