第16話 後から思い返してヒヤッとすることって結構あるよね
「良し、ようやく元気出てきたな」
「……海成?」
「珍しく刀夜の方から連絡来たと思ったら妙にしょげてるし、心配してたんだぞ」
海成はそういうと、つぶらな瞳で僕を見つめていた。
馬鹿だしエロいしすぐ調子に乗るけど、こいつは良いやつなのだ。
……どうやらこいつは僕のことを心配してくれていたらしい。
ありがたいことである。
「失恋したかEDにでもなったかと思ったぞ……未使用のまま最終処分される燃料棒とか可哀想すぎるからな」
全然ありがたくない……!
前言撤回。こいつは良いやつだけど馬鹿でエロくてすぐ調子に乗るのだ。
「まぁ元気になって何よりだ。ケモナーってことは女の子を取り合う心配もないわけだし……俺はケモ耳とか、手足がちょっとケモっぽいくらいまでが限界だからな」
「だからケモナーじゃないって!」
「分かってるよ心配するな――世間的にはそういうことにしておいてくれってことだよな」
「何にも分かってないだろ!?」
「そんなことより人獣の話だ。ほれ、何か他に気になることないのか?」
「はぁ……人獣は変身できる形態がいくつかあるって聞いたけど、それについても知りたい」
ネットで書かれていたけど、イマイチごちゃごちゃなので解説が欲しかった部分である。
「元の人間であるヒト形態だろ。あとベースになったアニマルの姿になれる獣形態と、今の俺みたいな人獣形態だな」
ネットにもあった通りなのでこくりと頷く。
獣形態というのは、僕の場合は〝ルゥくん〟状態だろう。
問題は人獣形態――今の海成みたいに二足歩行の獣の形態である。僕もなれるんじゃないかと思ったんだけど、変身の仕方が分からなかったのだ。
獣形態やらヒト形態になる時は訊ねてくれた天の声も、うんともすんとも言わなかった。
「とりあえず変身してみてよ」
ヒントを探るためにもリクエストすると、海成に肩をすくめて溜息を吐かれた。
シャチの癖に器用なもんである。
「……虎とか熊とか狼だったら全然良いけどよ、俺はシャチだぞ?」
「なんか問題あるの?」
「今みたいな二足歩行の人獣形態なら問題ないんだけど、がっつり獣形態になると死ぬ」
「えっ!? 何そのエクストリームな結末!」
「陸に打ち上げられたシャチが生きてける訳ないだろ。水中ならスイスイだけど、地上だと自重で肺が潰れるんだよ……あとはまぁ、だいたいすべての人獣に当てはまるけど、変身するとサイズとかシルエットが大きく変わるから全裸になる」
「……確かにそれは見たくないな」
「見たいとか言われたら友達辞めてるわ。まぁそんなわけで、獣人と人獣を比べると、瞬間的なスペックで言えば人獣の方が上だけど、ダンジョン攻略中に人間に戻ったら死ぬしかねぇし、リスクのない獣人も良いよな、とは思う。あと単純に、装備がほぼすべて特注になるから超高い」
ちなみに調べたり聞いたりしたものの、人獣の変身に省燃費モードとか幼獣モードなど存在しなかった。
まぁそんなのが一般に存在してたら、いくら天塚さんといえどもあそこまで溺愛はしないだろうし、ある意味納得である。
……何となくだけど、最初に聞こえてきた謎の男声によるものだと思っている。
あの声自体もネットになかったものだし、天の声だって本来はこんなに頻繁には聞こえないはずらしい。何が起こっているのか分からないことだらけである。
「ちなみに、だ。一応伝えておくが、人獣にしろ獣人にしろ発情期があるぞ」
「えっ!?」
「しかも覚醒者の体力だからとんでもねぇことになる。具体的に言うなら朝から晩までだ」
「朝から晩まで!?」
脳裏に頬を赤らめた猫耳美少女が現れる。がっつり肉食系の美少女に朝まで貪られるなんて最高のシチュエーションじゃないか!
「あっ、いや……僕には関係ないな」
「隠すなって。草食系というか絶食系というか、人畜無害なふりしてる刀夜だって男だ。一応は、な」
「なんで一応なんだよ! 普通に男だぞ!?」
「ははは。ミニスカートの女子を見てもドキドキしないお前が男を名乗るなよ」
「してるよッ! 海成みたいにド直球でガン見しないだけだっつの!」
「うわっ、ヒくわ……むっつりすけべじゃん……!」
ああ言えばこう言う……!
思わず拳を握りしめるが、さすがに殴るのは我慢だ。僕が覚醒前だったらグーで殴ってもノーダメだったんだけど、今は普通に痛いだろうからね。
「ちなみに男側も発情期があるけど、そっちはかなり気を付けろって言われてる」
「……なんで? 暴走するとか?」
どきりとした僕だけれど、明後日の回答が返ってきた。
「どういう理屈か、ヤると魔力がなくなってくんだよ」
「……はぁ?」
「出しすぎると魔力切れを起こして変身が解ける。女の子側は何回イっても関係ないのに、男はほんと一瞬で人間に戻る……気づいたらって感じだった」
何でも、精液に多量の魔力が含まれているらしい。
そういえば、お風呂で相当絞られたことがある気がするんだけど、もしかしてものすごく危なかったのでは……?
「って、ちょっと待って。何でそんな体験談みたいな言い方を……?」
「すまないな、刀夜。俺は大人の階段を駆け上っちまったんだよ……ッ!」
相手はシャチ姿が可愛い、と告ってきた例の彼女だそうだ。春休みでお互いに時間があったことも手伝って、何度かデートした後、ベッドインまでこぎつけた。そこまでは良かったものの、調子に乗って朝までヤッた結果、変身が解けたんだとか。
その後がどうなったかは、海成の落ち込んだ雰囲気から簡単に察せてしまった。
「……ひでぇよな。告ってきたのも、ベッドに誘ってきたのも向こうなのに」
「そうだな……まぁ元気出しなよ。ラーメン奢るからさ」
いまだに傷心中らしくしょんぼりする海成。こちらから呼び出したこともあって奢りを提案したが、あっさりと首を振られた。
「すまん。夜はダンジョンで知り合った女子大生のお姉さんのお家でデートなんだ」
差し出されたスマホに映っていたのは、泣きぼくろがセクシーなお姉さん。
ダウナーというかアンニュイというか、なんとなく艶っぽい雰囲気の女性だ。
「……ハァ!? 今フラれたって言ってなかったか!?」
「初彼女にはな。人鯱ってこう見えても結構強いし、ルックスも他の人獣よりチャーミングだろ? 逆ナンされちゃってさぁ……ラーメンは今度奢ってくれよ。まぁ、俺は童貞が奢るラーメンでもちゃんと食べてやるからさ!」
「誰が奢るかッ! 煮込んで出汁取ってやるかな!?」
「残念だったな。俺の出汁はダウナー系お姉さんに絞り尽くされる予定なんだ」
「……変身解けろ!」
「まぁ、それは気を付ける。刀夜も好きな子とする前にちゃんと覚醒して、がっつり鍛えとけよ。具体的には徹夜で腰を振れるくらいに」
「だからそんなんじゃないってば! 腰振るなキモい!」
「ま、ちったぁ元気になったようで良かった。何があったか知らんけどあんまり抱え込むなよ。話くらいなら聞くからさ」
「お、おう」
「彼女とデート中じゃなければな」
「もげろ! 腐り落ちてしまえ!」
僕の呪詛を、がははと笑い飛ばす海成……フラれたのは可哀想だが、変身が解けたくらいで海成を振るような女の子に引っ掛からなくて良かった、と心の中で思う。
馬鹿でエロくてすぐ調子に乗るけど、良いやつなのだ、こいつは。
「相手がどんな種族だろうと、結局は人間だ。大切なのは相性だぜ――心と身体のな」
「うっさい!」
「おっとすまん。童貞にはまだ早いアドバイスだったな!」
馬鹿でエロくてお調子者だけど。




