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魔法学園の悪役令嬢、破局の未来を知って推し変したら捨てた王子が溺愛に目覚めたようで!?  作者: 朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます!


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5-4


 日暮れの魔法が、静かに降りてくる時間。

 夕空が薔薇色と薄紫色のグラデーションを纏う、昼と夜のあわいの刻。

 

 学園の中庭は、色とりどりの灯りで彩られていた。

 

 屋台が立ち並び、音楽隊が陽気な曲を奏でている。

 学生たちは思い思いに食事を楽しみ、踊り、笑っていた。

 

「わあ……綺麗」

 

 私が感嘆の声を上げると、アトレイン様が微笑んだ。

 

「そうだな」

 

 でも、アトレイン様の視線は風景ではなく、私に向けられていた。

 

 え……?

 

 その視線に気づいて、思わず目を逸らす。

 

 すると、目の端に――香ばしい匂いを漂わせる串焼きの屋台が見えた。

 

「あ、あの……アトレイン様。あれ、美味しそうです」

「……ああ、そうだな。行ってみようか」

 

 アトレイン様が微笑んで、私の手を軽く取る。

 その手の温かさに、胸がどきんと鳴った。

 

 屋台のおじさんが笑顔で串を差し出す。

 学園に雇われている料理人さんだ。普段は街で食堂を切り盛りしているらしい。

 

「お嬢さん、殿下。試験お疲れ様でした。特製の串焼きですよ!」

 

 鶏肉の塩焼き串だ。湯気が上がっていて、いい匂い!

 私は一口かじった。柔らかいお肉は塩が効いていて、噛むとじゅわっと肉汁が溢れる。熱々だ。

 

「美味しい……!」

 

 殿下も一口かじり、微笑んだ。

 

「本当だな。味わい深いけど、しつこくなくて後味も良い。あなたに似ている」

「な、何ですかそれ……私、串焼きなの?」

 

 ちょっと意味がわからない。あと、恥ずかしい。

 思わず視線を逸らすと、少し離れた場所でネクロセフ教授が学生たちと談笑しているのが見えた。

 

 あ、ジェラルドがマルクを抱えてはしゃいでいる。楽しそうだな。

 

 微笑ましく祭りの雰囲気を見ていると、アトレイン様が私の腕を軽く掴む。

 

「パメラ、あっちに行こう。噴水のほうが静かだ」

 

 どこか拗ねたような声音に、胸がくすぐったくなる。

 

 もしかして……嫉妬、してる?

 嬉しい。

 ああ、やっぱり、私はこの方が好きなんだな。

 

 やがて、空に大きな鐘の音が響いた。

 

虹灯篭(レインボーランタン)の時間だ!」

 

 誰かが叫ぶ。

 

 学生たちが、それぞれ灯篭を手に取る。

 真実を口にすると虹色に光る、魔法の灯篭だ。

 みんなが自由な言葉で灯篭を光らせ、空へと打ち上げていく。

 灯篭は花や動物といった光の模様を浮かび上がらせていて、とても綺麗だ。


 マルクが眼鏡をきらりとさせ、灯篭を打ち上げている。

 

「僕は国で一番偉くなりますよ。フフフ!」


 それを見て呆れ半分、面白がる気配半分で笑うのは、ジェラルドだ。


「おー、光らせてやがる。本気なんだな。面白い奴。はははっ」

 

 楽しそうな生徒たちを見て、私の胸には不安が込み上げてきた。

 別に、愛の言葉を言わないといけないなんて取り決めはない。

 「打ち上げパーティが楽しい」みたいな発言でもいいんだ。

 

 原作では、パメラが「殿下を愛しています」と言ったのに、灯篭は光らなかった。

 もしかしたら原作のアトレイン様はパメラの愛は「ある」と信じていて、愛がなかったことに傷ついたんじゃないだろうか。

 

 虹灯篭(レインボーランタン)は、今の私なら、光るだろうか。


 私は……アトレイン様を、愛してる?


 胸に手を当てる。

 心臓が、早く打っている。


 彼の笑顔を思い出すと、胸が温かくなる。

 彼の悲しそうな顔を見ると、胸が痛む。


 これは……愛?


 でも、もし違ったら。

 もし、私の気持ちが、ただの憧れだったら。


 ――怖い。

 

「パメラ」

 

 アトレイン様が、私の前に立った。

 手には、虹灯篭(レインボーランタン)を持っている。

 

「あの……」

「聞いてほしいことがある」

 

 アトレイン様の誠実な瞳が、真っ直ぐ私を見つめている。

 

「俺は――」

 

 その時、空に魔法花火が上がった。

 ドォン……!

 大きな音に、彼の声がかき消される。

 

「え……?」

 

 口が動いているのが見える。

 でも、花火の音で、何も聞こえない。

 

 そして――彼の手にある虹灯篭(レインボーランタン)が、カラフルに光った。

 模様は花だ。カルディアの花に似ている。

 

「あ……」

 

 真実の言葉を口にしたんだ。

 

「アトレイン様、今、何と……」

 

 私が尋ねようとした時、人垣の向こうに夕陽色の髪をした背の高いレイオンが見えた。

 保護者みたいな顔をして、セレスティンとコレットを連れている。

 彼の視線は、学園の銅像に向いていた。


 ――なんて温かな眼差しなんだろう。


 あの銅像は確か……。


 彼の腕が、私を強く抱きしめた。

 

「きゃっ……!」

「他の男を見るな」

 

 その声が、拗ねたように響く。

 

「え……?」

「パメラが好きだ」

 

 耳元で、はっきりと聞こえた。

 

「俺は、あなたが好きだ」

 

 心臓が、止まりそうになった。

 

「アトレイン様……」

「さっきも言ったが、もう一度言う」

 

 彼が私の肩を掴んで、真っ直ぐ見つめてくる。

 

「パメラ。俺はあなたが好きだ。愛している」

 

 その言葉に、涙が溢れそうになった。

 

「でも、俺の真実は、もしかしたらあなたにとって好ましくないかもしれない」

「え?」


 真実とは?


 不思議なことを言い出すので首をかしげていると、彼はどこか後ろめたそうな目になった。


「俺は、あなたに隠し事をしているんだ。隠したままだと不誠実に思えてならないから、告白させてほしい」

「は……い?」

 

 一体、何を隠しているというのだろう。

 闇属性のことなら、もう聞きましたが?

 まだ何か秘めてたの?


 なんだか怖くなってくる。 

 

 そわそわと見守っていると、彼は何かを取り出した。

 

「ノート……?」

「パメラ。これを見てほしい」

 

 アトレイン様は覚悟を決めた様子で言うと、ノートを開いてページを一枚一枚破り始めた。

 

「え……、な、何ですか?」

 

 破られたページが、風に舞う。

 アトレイン様が、風の魔法で周囲に浮かべているんだ。

 空の灯篭の光に照らされて、文字が見えた。

 

『パメラが笑うと、世界が輝く』

『パメラの優しさが、俺を変えた』

『パメラを愛している』

 

「これは……」

 

 さらにページがばらまかれる。

 

『彼女が可愛すぎてつらい。至近距離の上目はクる。世の男性はどのようにあの試練に耐えているのだろう。ずっと理性を試されている気分だ』

『雨に濡れたあなたを優しく抱きしめて、俺は切実に囁いた。『俺をこれほど振り回して、嫉妬させて……悪い子だ』言葉を返そうとするあなたの吐息を俺の唇で奪ってしまう』

 

 待って。

 私が書いた小説の教授が「俺」になっていて、視点も「俺」で書かれている。

 ……こ、これは……私の夢小説の改良版!?

 


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