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魔法学園の悪役令嬢、破局の未来を知って推し変したら捨てた王子が溺愛に目覚めたようで!?  作者: 朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます!


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5-2

 試験当日の朝。

 学園の中庭には、見たこともない巨大な建造物が出現していた。

 生徒たちは寮ごとに集まり、ざわざわしている。

 

「……なにあれ」

 

 セレスティンが呆然と呟く。

 そびえ立つのは、塔みたいな建物だ。

 石造りの壁が淡く光を放っている。

 

「すごい……」

 

 これ、たぶん魔法で作ったんだよね?

 すごすぎる。

 

「全生徒、集合してください」

 

 学園長の声が魔法で増幅され、響き渡る。

 少年の外見をしている学園長は、妖精族で年齢は三桁だ。

 ペイトリオン・エドナミイル教授の(ひい)お爺様という設定もあって、弟だと思ってしまうくらい似ている。

 

「本日の試験は『魔導迷宮試験』と呼ばれる特別形式で行う」

 

 魔導迷宮試験?

 原作ではそんな試験のシーン、なかったけど。

 

「迷宮には5つのフロアがあり、各フロアには実技課題と座学問題の両方がある。座学問題は個人用の空間で解いてもらうが、実技課題は助け合いが認められている」

 

 助け合いができるんだ? 

 マルクが「やった!」とガッツポーズしている。

 

 教授たちが、迷宮の周囲に並んでいる。

 全身黒づくめのネクロセフ教授、紫のローブドレス姿のヴァンフォード教授。

 真っ白の髭が立派なジオメトリウス先生、小妖精(フェアリー)族のブロッサム助教授……。

 

「我々教師陣は、監視の水晶(スクライングオーブ)を通じて全てを見ている。心して挑むように」

 

 学園長が杖を振ると、空中に無数の水晶球が浮かび上がった。

 それぞれが異なる角度から迷宮内部を映し出している。

 

「それでは――試験開始!」

 

   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆

 

 迷宮の入口に殺到する生徒たち。イベント感がたっぷりだ。

 

「パメラ、一緒に行こう!」

 

 セレスティンが私の手を引く。

 

「うん!」

 

 私たちは入口をくぐった。

 内部は広々としていて、天井が高い。

 石畳の床には魔法陣が描かれ、壁には松明が灯っている。

 

「おお……」

 

 ダンジョン攻略感があってわくわくする。 

 私たちがきょろきょろしていると、ヴァンフォード先生の声が響いた。

 

「第一フロアへようこそいらっしゃいました。このフロアでは、箒での飛翔技術を試しますの。前方に見える巨大な空洞を、箒で飛んで渡ってくださいな」

 

 前を見ると、確かに巨大な空洞がある。

 深さは見えないほどで、向こう側まで少なくとも50メートルはありそうだ。

 

「箒は入口に用意してありますわ。助け合いは認められていますが、自力で飛べない者を無理に運ぶのは危険ですから、ご注意を」

 

 試験だし、ある程度は自力で飛びなさいよという圧力を感じる。

 幸い、私は箒で飛ぶのが得意だ。

 入口に箒が並んでいるので、一本手に取った。

 

「よし、行こう」

 

 セレスティンが箒にまたがる。

 

「待って……」

 

 後ろから震えた声が聞こえた。

 振り返ると、マルクが青い顔で箒を見つめている。

 

「僕……箒、苦手なんです……」

 

 うんうん、知ってる。

 

「大丈夫、マルク。私が落ちないように隣で支えるよ」

 

 私は箒に横座りして、マルクの左側に並んで片手を差し出した。


「それだとパメラが片手を放して箒に乗ることにならない? 危なくないかな?」

「危ない時だけ支える感じでいけないかな?」

   

 セレスティンがマルクの右側に回り、片手を伸ばして「いけそうかな?」と試している。

 

「すみませんお二人とも。頼らせていただきます。今度、うちの父さんにご馳走を作ってもらいますので……」

「それは楽しみだわ。マルクのお父さんのお料理、美味しいのよね」


 マルクがぷるぷると生まれたての小鹿みたいに震えながら箒にまたがり、私たちは「せーの」で魔力を自分の箒に流した。

 ふわり、と浮き上がると、それだけでマルクは落ちそうになった。

 

「ひいいっ!」

 

 高所恐怖症なんだろうか。

 セレスティンと二人で箒を寄せて肩を支え、私たちはゆっくりとマルクを引っ張った。

 

 空洞の上を、ゆっくりと横切る。

 下を見ると、底が見えない暗闇だ。ちょっと怖いかも。

 でも、先生が監督しているから落ちても大丈夫なはずだよね。

 

「下を見ちゃダメだよ、マルク。前だけ見て」

「は、はい……!」

 

 順調に進んでいた――そのはずだった。

 ちょうど空洞の真ん中あたりまで来たとき。

 

「うわっ!」

 

 マルクが大きくバランスを崩した。

 箒が傾き、マルクの体が横に傾く。

 

「マルク!」

 

 私とセレスティンが同時に手を伸ばした。

 私は左から、セレスティンは右から、必死でマルクを支える。

 でも。

 

「重い……!」

「支えきれないかも!」

 

 マルクの体重が、二人にずしりとかかる。

 私の箒がぐらりと傾いた。

 

「きゃっ……!」

 

 落ちる――そう思ったその瞬間。

 

風の抱擁(ウィンドエンブレイス)

 

 低く落ち着いた声が響いて、柔らかな風が、私たちを優しく包み込む。


「わっ……!」

 

 ふわり、と体が持ち上がった。

 

 まるで見えない手に掬い上げられたみたい。

 私たちはゆっくりと宙を移動していった。

 

「え……?」

 

 振り返ると、少し後方にアトレイン様がいた。

 白銀の短杖(ワンド)を掲げ、集中した表情で魔法を維持している。

 その周囲には、淡い緑色の風が渦巻いていた。

 

「アトレイン様……!」

 

 彼の魔法に乗せられて、私たちは安全に向こう岸へと運ばれていく。

 地面に足がつくと、風が優しく消えていった。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 マルクが荒い息をついている。

 

「助かった……」

 

 私も胸を撫で下ろした。

 アトレイン様が私たちのところに降り立った。

 

「大丈夫か?」

 

 心配そうな黄緑色(ペリドット)の瞳が、私たちを見つめる。

 

「はい……ありがとうございます」

 

 私が礼を言うと、アトレイン様は少し照れたように視線を逸らした。

 

「いや……ずっと後ろから見ていて、声をかけるタイミングを見計らっていたんだ。もっと早く助ければよかった」

 

 ずっと?

 

「後ろからずっと……?」

 

 セレスティンが驚いたように尋ねる。

 

「ああ。危険だと判断したから、魔法を使った。すまない、もっと早く手を出すべきだったかもしれない」

「いえ!」

 

 マルクが勢いよく頭を下げた。

 

「殿下のおかげで助かりました! 本当にありがとうございます!」

 

 涙目のマルクに、アトレイン様は優しく微笑んだ。

 

「無事でよかった」

 

 その笑顔に、私の胸がきゅんとなる。

 心なしかマルクも頬を染めている。あれ? マルク?

 目が合うと、マルクはハッとした顔で眼鏡を直した。

 

「さ、さあ、行きましょうみなさん!」

 

 張り切って進むマルクに付いて行くと、前方には大きな扉があった。

 扉の前には、光る文字が浮かんでいる。

 

『座学問題に挑戦してください。ひとりずつ、専用の空間に転送されます』


「ここからは座学みたいですね! 僕の得意分野ですよ!」

「マルク、得意分野といっても順位は下の方……」

「セレスティンは本当のことを言わないでください!」


 マルクとセレスティンが騒ぐのを見て、アトレイン様は爽やかな笑顔で「仲がいいね」とコメントしている。

 気付かなかったけど、後ろにはいつのまにかレイオンとコレットも追いついてきていた。

 

「専用の空間に転送されるんだって?」

 

 どのように?

 首をかしげながら扉に触れると、視界が歪む。

 


「……あっ」

 

 

 気づけば、私は小さな部屋にいた。


 家具は何もなく、壁に三つの扉がある。

 床には光る文字で問題が書かれていた。

 

『問:この国で飛翔が禁止されている場所を全て選び、扉を開けなさい』

 

 部屋の奥にある三つの扉には、選択肢が書かれていた。

 

『A:王侯貴族の敷地内、神殿および聖域』

『B:王侯貴族の敷地内、神殿および聖域、軍事施設周辺』

『C:王侯貴族の敷地内のみ』

 

 これはBだ。

 Bの扉を開くと、また扉が三つある小部屋に繋がっている。

 まるでループものだ。


 でも、床には違う問題が書かれていた。

 扉を開けて、問題が変わって、また扉を選んで。

 それを合計で五回繰り返した後、私は他の生徒たちがいる大きな部屋に出た。

 

 座学、今ので終わり?

 

 他の生徒たちが輪になって集まり、「あのクイズ、何を選んだ?」と答え合わせに興じたり、肩を並べて階段を上ったりしている。

 部屋の入り口近くにいたアトレイン様とコレットは、私の姿を捉えると、息ぴったりに片手を上げてきた。セレスティンとレイオンも戻ってきた。

 

「マルクは?」

「遅いね」


 しばらく待っていると、ヴァンフォード先生に連れられたマルクがやってきた。


「マルク、どうしたの?」

「悩んでいたら時間切れだと言われちゃいました」

 

 まさかの時間切れだった……。

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