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魔法学園の悪役令嬢、破局の未来を知って推し変したら捨てた王子が溺愛に目覚めたようで!?  作者: 朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます!


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2-7

 翌朝。

 ナイトラビット寮の食堂では、パンを焼く香ばしい匂いが漂っていた。

 眠そうにあくびを噛み殺しながら、生徒たちは温かい朝食を摂っている。


 焼き目の綺麗なパンにバターと蜂蜜を塗って美味しく味わっていると、セレスティンがサラダの皿を置いて隣に座った。

 

「パメラ、昨日は大変だったんだって? ボクもだけど」

「セレスティンは何があったの? 昨日、寮に帰ってくるのが遅かったよね」

「指名されて答えられなかったからって旧校舎の掃除を命じられてさ……コウモリの魔法生物とか蜘蛛の魔法生物がいっぱいいて……」

「うわぁ……言ってくれれば手伝ったのに」


 私たちが話していると、近くの席にいた二年生の男子の先輩が「それ、デイジー先生だよな」と会話に参加してくる。


「あの先生はナイトラビット寮の生徒が嫌いなんだ。歴代の生徒たちが不真面目で途中退学率も高いからって、最初から色眼鏡で見てるんだよ」


 そうそう、と他の生徒たちも同調してくる。


「変な絡まれ方したら言えよ、助けられないけど慰めることはできるから」

「愚痴るだけでも気分が晴れるしな」

 

 気づけばナイトラビット寮の食堂は「ナイトラビット寮だからというだけでどれだけ差別されたか」や「こんなに頑張ってるのに上手くいかない」といった自慢や悩み話でいっぱいになった。

 

 そこに、ルナル寮長が軽やかに入ってくる。とんがり帽子を被った小さな黒ウサギの寮長は鼻をひくつかせ、挨拶をした。


「おはよう、ナイトラビット寮の良い子たち。実は、みんなの寮について工事のお知らせがある」


 ――工事?

 ルナル寮長は木製の掲示板を魔法で浮かせると、そこに工事予定の図面を映し出した。


「ナイトラビット寮の外壁と配水路の一部に老朽化が見つかった。そのため、今日から、講義の時間帯に改修工事を行う。魔法を使って静音施工を行うので、騒音はほとんどない。ただし、足場を組む場所があるので、景観が少し変わる箇所も出てくる」


 小さなどよめきが起きる。

 

 ジェラルドが「じゃあ、お化けの通り道も直るのかな」と笑い、彼の取り巻きが「それは壊さないでほしい」と騒ぎだす。

 ……お化けの通り道?


「セレスティン。お化けの通り道って知ってる?」

「肝試しスポットだってこの前マルクが言ってたよ」


 名前が出たのを聞いて、マルクが「はい!」と眼鏡の縁を手でクイっと押し上げる。


「寮の建物の裏にある細い林道です。ものすごく美男子の幽霊が出るらしいです……!」

「なあに、それ」

 

 そんな肝試しスポットがあったんだ?

 原作にはナイトラビット寮の内部は出てこないから知らなかった。


「美男子の幽霊は生前、恋人とデートの約束をしていたみたいで、今でも彼女を待っているらしいですよ」

「ちょっとロマンチックね」


 興味を惹かれていると、ジェラルドを中心としたナイトラビット寮の先輩たちが肝試し大会を企画している。


「亡くなる前にかお化けの通り道で肝試し大会しようぜ」

「一年生も参加するんだぞー!」


 マルクが渋い顔で「僕は不参加です!」と不参加表明している。


「なんだ、マルク。この国の将来の宰相は勉強もできないし社交もできない奴なんだな」

「社交は得意な人に任せようと思うんです」


 ルナル寮長は生徒たちが和気藹々と言い合う様子を長い耳をぴこぴこと揺らして見つめている。

 その眼差しは保護者っぽさがあって、優しい。


「夜に肝試しするのは良いが、就寝時間は守るように。では、講義がんばっておいで」

「はーい」

 

 その言葉に、生徒たちは次々と立ち上がる。

 朝の光がステンドグラスを透かして床に模様を描き、その上を生徒たちの影が踊り……いつもの一日が幕を開けた。


「パメラ、講義の教室とか先生って覚えられる? 教授とか助教授とか外部講師とか先生とか、ボク、違いもわからないし全然覚えられないよ」

「うーん。こういうのって、慣れていくものだと思うから無理して覚えようとしなくてもいいんじゃないかな?」


 セレスティンと一緒に学園の地図を片手に移動する。


「大切なことはね、セレスティン。シグフィード・ネクロセフ教授が最高ってことだけよ」

「パメラはぶれないね……ボク、そういうとこ好きだよ」


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 午前の講義は『移動学』から始まった。

 

 教室に入ると、教壇の前には紫のローブドレス姿の貴婦人が立っていた。


「ヴァンフォード教授だ」


 セレスティンが名前を覚えるように呟いた。

 紫色に染めたブロンドを夜会巻きにしている気品ある佇まいの教授は、学者一族として名高いヴァンフォード侯爵家の女性当主だ。

 

「皆さん、おはようございます。私はリディア・ヴァンフォードと申しますの。移動学を担当していますわ」

 

 優雅な声が教室に響く。

 先生は短杖(ワンド)で空中に文字を描き、優雅な貴婦人の挨拶(カーテシー)をした。

 

「この世界の魔法師には、様々な移動手段がありますわ」

 

 光の文様が形を変え、馬車の映像になる。

 

「まず基本として、人々は馬に乗ったり馬車に乗ったりしますの。これは誰もが知っていることですわね」

 

 映像が変わり、今度は翼を持つ巨大な鳥が現れた。

 

「次に、魔法生物への騎乗。グリフォンや飛竜などに乗ることができますわ。ただし、これには専門の訓練が必要です。また、飛翔禁止エリアでは絶対に飛翔してはいけません」

 

 飛翔禁止エリアが板書される。

 『王侯貴族の敷地内、神殿および聖域、軍事施設周辺』――これ、試験に出そう。ノートに書いておこう。

 

 先生の解説に合わせて動いたり変わったりする映像は、まるで動画だ。

 マジカリア王立学園ではこんな風に映像魔法を活用する講義スタイルが多く採用されていて、眺めているだけで楽しい。

 

 先生が短杖(ワンド)を振ると、複雑な魔法陣の映像が現れた。

 

「こちらは、『転移拠点(ワープポイント)』と呼ばれる魔法陣ですわ。主要な都市には必ず設置されていて、拠点同士を瞬時に移動できますの。非常に便利ですが、設置と維持に莫大な魔力が必要なため、数は限られていますわよ」

 

 この転移拠点(ワープポイント)は使用料金が高めで、予約制だ。

 試験に出そうなのでノートにしっかり書き留めておこう。

 

「さて、皆さんが今日体験するのは、魔法の箒による飛翔ですわ」

 

 わぁ……魔法の箒!

 

 先生が教室の隅を指差すと、そこには何本もの箒が立てかけられていた。

 普通の箒の三倍くらい大きくて、持ち手の部分に魔石が填められているのと、クッションがある。

 

「箒での飛翔は危険が大きく、体力も消耗しますの。実用性が低くて不人気な移動手段ですわ。しかし、魔法騎士団や魔法師団に所属する方は、いざという時のために飛翔訓練を受けます。緊急時、箒があなたの命を救うかもしれませんわ」

 

 なるほど、と私は頷いた。

 普段は使わないけど、非常時のスキルなんだ。

 

「それから、重要なことを覚えてくださいな」

 

 先生が短杖(ワンド)で地図を描く。

 

「この国では、飛翔できる場所とできない場所が法律で定められていますの。例えば、王侯貴族の敷地内は飛翔不可エリアです。違反すれば罰金、場合によっては投獄されますわ」

 

 それはそうだよね。

 極端な話、王様が寝ている部屋のすぐ外に箒にまたがった不審者が飛び回れる法律だと危険すぎるもの。

 

「ここは試験に出ますので、しっかり覚えましょうね」

 

 先生が優雅に微笑む。

 

 試験に出る……!

 

 私は慌ててノートにメモを取った。周囲からも、紙に文字を書く音が聞こえてくる。

 

「さて、実際に箒を使って飛翔してみましょうか。ただし、これは危険を伴う実技ですわ。無理は絶対にしないこと。今日は低空飛翔のみですからね」

 

 先生が短杖(ワンド)を振ると、箒が一本ずつ生徒の前に飛んできた。

 

「身長以上の高さには昇らないよう気を付けて。さあ、箒に座って魔力を流してくださいな」

 

 私は箒を受け取った。

 木製の柄は意外と軽く、穂先はしなやかに揺れている。

 

 どうやって乗るんだろう……。

 

 周囲を見渡すと、生徒たちは思い思いの方法で箒にまたがっている。

 横座りする子もいれば、普通にまたがる子もいる。

 

「乗り方は自由ですわ。自分が一番安定すると思う方法でどうぞ」

 

 先生の声に、私は箒に横座りしてみた。

 

 手のひらから、そっと魔力を送り込む。すると。


「わっ……!」

 

 ふわり、と体が浮いた。

 

 地面から数センチ離れ、宙に浮いている。

 不思議な浮遊感に、思わず笑みがこぼれた。

 

「すごい……浮いてる……!」

 

 隣では、セレスティンが器用に箒を操っている。

 

「パメラ、見て見て! こうやって前に進むんだよ!」

 

 セレスティンの箒が、すいっと前に滑った。

 

 念じると動くのかな?

 

 私も試してみる。

 前に、と思うと――箒が前に進んだ!

 

「おお……!」

 

 右に曲がろう、と思えば右に。

 左に曲がろう、と思えば左に。

 速度も思いのままだ。

 わぁ、これ、楽しいかも!

 

 私がセレスティンと一緒に箒で遊んでいると、マルクの悲鳴が聞こえてきた。

 

「わぁぁ~~っ!」

 

 見ると、マルクが箒からずり落ちて両手でしがみついた姿勢で、ぐんぐん上昇している。天井付近まで一直線だ。

 

「あらあら。降下(ダウン)ですわ」

 

 ヴァンフォード先生が素早く短杖(ワンド)を振った。

 次の瞬間、マルクはゆっくりと地面に降りていく。

 

「魔力を流しすぎですわ。もっと少量で構いません。それに、箒にはちゃんと腰かけてくださいな」

 

 先生が優しく注意して、マルクを座り直させている。

 

「はい先生、あっ、うわっ、うわっ、うわっ……!」

 

 乗り直したマルクは、バランスを崩してひっくり返っている。

 幸い、低空だったので怪我はなさそうだ。

 

「あらあら。体幹が大事ですのよ。腹筋に力を入れて、姿勢を保ってくださいな。怖がり過ぎないで。落ち着いて。先生が支えていますからね」

「ふええ……」

  

 なんとなくだけど、初めて自転車に乗る子どもに似てる。

 私は自転車に乗れるし、毎晩のストレッチとスクワットと腹筋のおかげで姿勢もばっちりキープできている。

 

 バランスを保ちながら、私は教室の中をゆっくりと飛んだ。

 

 右に、左に。

 前に、後ろに。

 

 慣れてくると、とても楽しい。

 

「まあ、タロットハートさん! とても上手ですわ。安定していますね」

 

 先生が満足そうに頷き、ニコニコとしながらみんなの前で褒めてくれた。

 

「みなさん、タロットハートさんを見本にしてください。姿勢が良く、無駄な動きがありません。魔力の流し方も適切ですわ!」

 

 周囲の視線が一斉に集まる。拍手してくれる人まで出てきた。

 ちょっと恥ずかしいような、誇らしいような気分だ。

 私は箒から降りて淑女の礼(カーテシー)をした。

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