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ある少年の白い記憶
勇者はいない。けれど――彼女はたしかに、誰かの勇者だった。
*
白。
ぼくの初めての記憶は白だ。
目が覚めると、真っ白な部屋にいた。
目の前には、これも真っ白なベッドと、そこで眠る一人の少女。
灰色がかった黒い髪の毛が波打つように、白い布団に広がっている。
ぼくは、この少女を知っている。
名前も何も思い出せないけれどーー
部屋は静寂に包まれている。
少女はよく眠っているようだ。静かな寝息を立てている。
――ああ。
やっと、ゆっくり休めたんだね。
よかった。
もう、きみの涙を見なくてすむ。
もう、僕は何もできない自分に苛立つこともない。
静寂。
振り向くと、そこには白い扉。
ぼくは歩き出す。
扉をそっと押し開ける。
きみを、目覚めさせるために。
ぼくは、扉の外に一歩踏み出す。




