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雨宮遼1.2

 弊学で行われるCHテストとはComprehensive Humanity Score。即ち総合的人間力スコアを測定するためのテストで、何でもアルファベット二文字に略せばいいというわけではないと思うのだが、どうして僕がその話をしているのかといえば今からCHテストが始まるからだ。CHスコアは、人格、思考様式、リーダーシップ、共感性、問題解決能力といった様々な角度から多面的に判定されるものであるが、今回行われるCHテストはあくまで思考様式と問題解決能力、俗にいうIQを測定するためのテストである。


 生徒全員に学習用タブレットが配布され、それを用いてテストが行われる。入学試験を数か月前にしたばかりであるのに、何故入学式から1週間後の今日に再度テストを行うのかは甚だ疑問であったが、どうやら入学試験と今回のCHテストを合わせて初めて学年全体でCHスコアランキングが作成されるらしい。


 そうとなれば少し本気を出すしかないなと思うが、高スコアをとったことにより自ずから学内政治に巻きこまれることになるのは避けたいので、あくまで平均少し上のスコアを取ることを意識する。単純なペーパーテストは割と得意なのだ。


「ただいまより1年次第1回CHテストを開始します。ブザーと共に試験を始めてください」


 スピーカーから女性のアナウンスが聞こえる。公平を期すために、全クラス同時に流しているのだろう。数分後、ブザー音が鳴り試験が始まった。計算や回答入力はすべてタブレットで行う。謎技術によって作られた専用のタッチペンは、タブレットの液晶と接したとき適度な摩擦が生まれ、まるで鉛筆で紙に書いているような質感を生み出す。これは凄いな、と感嘆するのも程々にしよう。恐らく、計算過程や思考過程をデータとして保存されているということは、そのデータもCHスコアを測定するために使われているのだ。そこに注意しないと、思考力に対する点数が酷く乖離しかねない。


 主要5教科に加え、時事・論理パズルのようなテストを終えたころには、時刻は15時を回っていた。


「テスト、どうだった?」


 渡会が僕の肩をちょんちょんと叩いて言った。ボディータッチは思春期男子には刺激が強い。


「平均ぐらいかな。特別出来たって感じもしない」


「ふ~ん」


「…」


 渡会が何やら質問してほしそうな目で僕を見ている。可愛らしい目で見つめても何も出てこないぞ!


「渡会は出来」


 僕が言い終わるよりも先に渡会は顔をニヤつかせて言う。


「かなり!出来たんじゃないかなっ。上位10%に入ってるかも!」


「バドミントンだけじゃないんだな」


「…うるさいなぁ。遼くんより点数高いかもしれないよ?」


「じゃあ、もし僕より高かったら1週間パシられてあげよう。靴でも何でも舐めるよ」


「言ったね?」


 渡会の言い分が本当なら僕は1週間パシられることになる。それは8割5分僕の目論見通りで、ある程度人との関わりを持つことで、今後の学生生活が優位になるかもしれないという汚い算段だ。真栄館高校において人間関係は青春を謳歌するためだけでなく、自分の思い通りに事を運ぶのに大事な要素なのだ。ちなみに残りの1割5分は、可愛い女の子にお近づきになりたいという、これまた汚い算段であるのは内緒だ。


 今回のテスト結果が出ることで、本格的な学内政治がスタートするだろう。CHスコア上位者。それは学内カーストの上位者であることを意味する。彼らに協力し、対立し、時には裏切ることで、CHスコア上位者でないものは己の地位を保とうとする。彼らの当面の目的は、2年生1学期に行われる生徒会長選挙当選だ。僕は生徒会長になんてなりたいとも思わないが、この学校に通っている以上避けては通れない話題である。あと、傍観者で居続けるのつまらない。


「遼くんが私の下僕になる日ももうすぐか…」


「本性漏れてるよ!」


 彼女は僕の利となってくれるだろうか。




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