第5話 同居人、+2
一体何が起きているんだ……? 何故か僕の部屋にはキャストさんと、さっきの神殿にいた神様がいる。一体どこから入ったんだ?
「ほら、やっぱり困惑してるじゃないですか」
「ふむ……? 私は確かに『またお会いしましょう』と言ったのですが……?」
「それで伝わるわけが無いでしょう!?」
「……えっと……何故ここに居るんですか……?」
「奴隷が主のもとに居るのは当然では?」
「だからって神様がここまで来ますか……? てか僕は隷属なんて認めて無いですからね!? ……っと、あの、貴方は……?」
僕はさっきの金髪の神様に目を向ける。
「初めまして、ルカさん。私はキャスト様の下に仕えております、下級神の『フリージア』と申します。キャスト様の付き人として来ました」
「あ、はい、よろしくお願いします」
「これまではルカ様の居場所が分からなかったので謝りに来られませんでしたが、先ほどお会いした際に調べてここに転移してきました」
「そうですか……」
それにしても「神様が奴隷になっちゃった」なんて、どう説明しよう? てへぺろって感じで押し切れ……る訳は無いか。とにかく正直に言うしか……。ひとまずロズに事情を説明しよう。そう考え、ひとまずロズを呼んできた。部屋に入った途端、ロズは驚愕した顔で二人を見ていた。
「なななな、なんで神様が!??」
「え〜……っと、こちらは下級神のフリージアさんと、中級神のキャストさんで――」「キャスト様!!?」
「え!? うん、キャストさんだけど……?」
「ちょ、ちょっとルカ、どうゆう事!? キャスト様って……!??」
ロズが僕の両肩を揺さぶって訊いてくる。ちょ、待って、脳が揺れる……。
「はい、私は中級神の『キャスト』です。魔法を司っております。この度ルカ様の奴隷になりました」
「ちょ、ちょっとキャストさん言い方――」
「ルカ……? 一体どういう事なの……?」
ロズに掴まれた肩がビキビキ言い出した、痛い痛い本当に折れる……! ――キャストさん、貴方「過程」ってのを知らないんですか!?
脱臼の危機の中、とにかくロズを落ち着かせて事情を説明する。キャストさんが申し訳なさそうに僕の事情説明を聞いている。「キャストさんに非はない」と強調はしたが、やはりキャストさんはまだ気にしているみたいだ。
「……それ、ほんとなの……? キャスト様がルカの……?」
「はい、全ては私の責任です、ですから、私はルカ様に贖罪の意味も込めてお仕えする事に致しました」
「そ、そうだったんですね……」
「はい」
「…………そ、それにしても、魔族は何が狙いだったんだろう……?」
なんだか空気が重かったから、別の話題を振ってみる。
「…………分かりません。ただ、神界に実害が無かった以上、上級以上の神々が動く事はありませんし、魔族の狙いが分からないため、当てをつける事もできません」
「まあ、僕としてもあまり大事にはしたくありませんね」
「……分かりました。ただ、必要とあらば私とフリージアで動きます」
「なるほど……フリージアさん、ご迷惑をおかけします」
「いえ、大丈夫です」
「で、では、キャスト様とフリージア様の件は私から父に伝えておきます」
「ごめん、ありがとう、ロズ」
本当にロズに迷惑かけてばかりで申し訳なくなってくる。
ひとまず話がひと段落して、ロズにお風呂を勧められたので、浴場に行く事にした。例の事故で消えたのは「三大欲求」だけなので、やはり日本人としてはお湯に浸かりたい欲が湧いてくる。よくよく考えればこっちに来てから二日ほどお風呂に入っていない。……いや、半分くらいは寝てたんだけど。
「薄々勘付いてはいたけど、やっぱり広いな……」
案内された浴場はまさに「大浴場」と呼ぶに相応しい代物だった。日本でも見た事ないぐらい広い湯船には白濁したお湯が静寂を貫いており、ほんのり石鹸の匂いが脱衣所まで漂ってくる。そんな脱衣所はジメジメしておらず、むしろ外より乾燥している。
そんな日本人の夢の具現化に胸を躍らせていると、ふと着替えを持っていない事に気がついた。今日買った服がまだ届くはずは無い。とりあえず戻ってロズに相談する事にした。
「あ〜、そういえばそうだったね〜」
「どうしよう……?」
「予備のメイド服でも着る?」
「よくその選択肢出せたね?」
「流石にダメか〜、ん〜……あ! 私の服あげるよ! 着る機会が無かったのがいくつかあるから」
「……え? ロズの服……?」
思い返してみると、ロズはボーイッシュな服をよく着ている。その上ロズが着てない。いくら僕にそういう欲が無いとはいえ、女の子の、それも友人の服を着るのは世間体的にまずい。だが、ボーイッシュな服で未着用なら何ら問題は無い……はずだ。
「あとでタオルと一緒に持って行かせるね〜」
「ごめん、助かるよ」
二日ぶりのお風呂、一人でゆったり楽しもう。