第3話 所持金、−200万円との事です
本当にこの家、いや城に住む事になってしまった。凄くありがたいのだが、よそ者が突然押し入っているので肩身が狭い。そんな事を考えながら食堂でロズを待っていると、メイドの一人が話しかけてくれた。背の高い藍色のショートヘアのかっこいい女性だ。
「何かお飲み物はいかがですか?」
「あ、すみません。では紅茶を頂けますか?」
「はい、直ぐにご用意いたします。……ところで、ルカ様お一人で帰ってこられたと言うことは、アルヴァール様がロズ様に叱られているのですね」
(わあ、すごい。どうしてそこまで解るのだろうか。優秀だなぁ〜。)
「となると少々時間がかかりますから、私が話し相手になりますよ。質問など御座いましたらなんなりと。申し遅れましたが、私はメイド長の『スズラン』と申します。『スズ』で構いません。今後ともよろしくお願いいたします」
「助かります、スズさん。では……」
用意してくれた紅茶を頂きながら、ロズと魔法についてスズさんと話をした。
ロズは知っての通りこの国の第二王女で、小さい頃から高い魔法技術を持っていたらしい。そのため、将来は王国魔法士などの誉高い身分を期待する声が多いらしい。それがロズには重荷なようだ。
魔法については、なんとなく「電気っぽい」事は分かったが、口頭でちょっと聞いただけだとあんまり頭に入ってこない。後で絶対ロズに教えてもらおう。魔法は男の子のロマンだから。
「お待たせ〜、あれ、スズさんと何話してたの?」
そうこうしているうちにロズが帰ってきたらしい。
「魔法の事とかロズの事をちょっとね」
「……そ、そっか、魔法に興味あるの?」
なんだかロズの顔が曇ったような気がした。聞いちゃまずかったかな?
「うん、僕の世界では魔法は空想上の物だったからね」
「え!? 魔法が……?」
「こっちでは別の技術が発達してたからね。なんならこの世界より発展してたよ」
「そうなんだ……」
「そうだロズ、今度魔法教えてくれないかな?」
「もちろん! ……っと、その前に買い物に行かなきゃね」
「あ、そうだった」
「それと、外では『カレット』って呼んでね。流石に一国の王女が街を出歩くと騒ぎになっちゃうから、隠蔽魔法に加えて名前も変えてるんだ〜」
「おっけー、了解」
そうしてロズ改めカレットと一緒に僕の服を買いに街に出た。
「ここが普段私たちが使ってる洋服屋さんだよ」
堂々とそこにある凄まじく高そうな洋服屋さんがそこにはあった。こんな庶民的かつボロボロになった服で入るのが烏滸がましい程だ。
「いや、絶対高いでしょ……なにこの雰囲気……? 僕は庶民的な服で良いんだけど……。てか入りたくない……怖い……」
「そりゃ普通の服を買うよ? オーダーメイドで」
「は? いや、それいくらかかるの……?」
「さあ?」
「『さあ?』じゃないよ!!」
「いいから入るよ〜!」
強引だ。勘弁して欲しかったが、無理矢理店に押し込まれた。中は外見に負けない高級感で、いかにも高そうな礼服たちがショーケースの中からこちらを覗いている。「40」とか「100」と値段の付けられた礼服だ。単位が分からないけど結構高そうだ。え? 僕ここでカジュアルな服買うの? そもそも売ってる?
そんな僕の考えをよそに、ロズは一直線でカウンターに向かう。カウンターに辿り着くと、ロズが店員さんになにやら上品なコインを見せた。途端に店員の表情が一変し緊張感が伝わってきた。急いで店の奥から60代ぐらいの女性を連れてきた。店長さんかな?
「いらっしゃいませ、本日はどのようなご用件でいらしたのですか?」
「この子の普段着をオーダーしたいの」
「かしこまりました。ではお客様、こちらへどうぞ」
「は、はい……よろしくお願いします……」
すると店の奥に案内された。ちょ、ロズ、一人にしないでくれ……。
そんな願いは叶わず、連れて行かれた。
そこで要望などを訊かれ、とりあえず無難な普段着を頼んだ。幸い異世界のファッションは地球と大差ないようだ。あとはついでに礼服も用意してくれるらしい。
そうしてやっとロズの元に戻れた。
「こちらの値段になります」
「ここに請求してください」
「承知いたしました。またのお越しをお待ちしております」
――気のせいかな? なんだか「200」ぐらいの値段が書かれてる気がしたんだけど? さっきの高そうな礼服が「100」なんだよね……? これは後々返さないとな……返せたら……。
「よ〜し! これでルカの服も買えたし、次はどこ行こっか?」
「その前に聞きたい事があるんだけど、さっきの、どれぐらいの値段だったの……? それにあのコインは?」
「ん〜、確か200万ルンだったね。あのコインはうちの紋章だよ。あれを持っていることは王族であることの証明になるからね」
「なるほど、それであの店員さんはあんなに緊張してたのか……。……てか、200万ルンってどれくらい?」
「そんなに緊張してたっけ? ま、いっか、お金について教えるね〜」
そうしてロズからお金の説明を受けた。貨幣には高いものから「金貨」「大銀貨」「銀貨」「大銅貨」「銅貨」の五種類あり、それぞれ十倍の関係にあるらしい。そして銅貨1枚で1ルンで、1ルンが大体1円みたいだ。じゃああれは200万……。体調が悪くなってきた。とりあえず考えない事にしよう……。
「てか気になったんだけど、コインを何枚も持つのって、流石に重く無い?」
「ん〜、『金』とは言ってるけど、それは見た目だけで、実際は結構軽いよ? 私とかは『マジックボックス』って言う鞄に入れてるから、重さは感じないんだ。それに、金貨何千枚とかの取引には、『白金貨』を使うよ。一枚で金貨100枚だね」
「ひ、百……」
「いいからご飯食べに行くよ〜!」
一枚で100万円……とんでもない代物だ。
居候が決まったかと思ったら早々に200万円の借金。仕事探さなきゃな……。 ……更にこの家での肩身が狭くなった。
???「早速200万の借金を背負ったようですね。まあ、肝心のロズさんはそんな事気にも留めてないようですが。因みにスズさんはめっちゃ強いです」