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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ただトイレに行きたいだけ

作者: 北緯64度

社会的な死の音を聞いたことがある?

Aはそれを聞いただけでなく、一晩中何度も爆撃された。


五連休の前夜、Aは実家に帰るための切符を買い損ねた上、同僚が病欠したため、上司に頼まれて残業することになった。まだ18時半なのに、気づけば同僚は全員帰っており、残されたのはA一人。月曜朝の会議資料を作成するため、黙々とパソコンに向かっていた。


2か月前に卒業したばかりのAは、設立3年半で赤字から黒字に転じた会社が初めて採用した新人だった。そのため注目を集め、同僚たちは飴と鞭の二派に分かれ、それぞれの方法で「後輩を可愛がる」ことに熱心だった。


しかし、Aにとっては苦痛でしかなく、特別扱いも嫌いだし、大きな野心もなく、ただ自分の仕事をこなし、毎日定時に帰りたいだけだった。


業界の競争が激しいため、会社は特に平等と尊重を重視していた。役職に関係なく、社長は誰もが自由に意見を言えるようにしてほしいと望んでいた。だが、全社を見渡しても、それを実行するのはAの上司だけだった。会議中、社長の顔が険しくなっても、上司は話をやめることなく、社長も彼を止めることはなかった。


Aの机に弁当と飲み物を置いた後、上司は社長に呼ばれて食事に行った。一時間後、弁当を食べ終えると同時に、Aはデータの入力と検算を終え、小さなご褒美を自分に与えようと決めた。柔らかいカーペットを歩き、隣のビルとつながるテラスに向かった。


冷たい風を浴びながらタバコを一本吸い終わると、緊張していた筋肉がほぐれ、それと同時に便意が襲ってきた。急いでオフィスに戻り男子トイレに入ると、唯一の便器は汚水とトイレットペーパーで詰まっていた。


仕方なく反対方向にある、社長室の隣の使用頻度が極端に少ない多目的トイレを目指す。冷風に当たったせいか腹痛もじわじわと増し、歩みが遅くなった。やっとの思いで辿り着いたが、扉の表示は真っ赤な「使用中」。世界が終わった気分だった。


ドアをノックして助けを乞うか迷っていると、「ドン!」と重い音が聞こえた。何か重いものがドアにぶつかったような音で、扉が微かに揺れた。その後、衣服が擦れる音と、苦しんでいるのか楽しんでいるのかわからない喘ぎ声が響いた。


Aはその場に立ち尽くし、顔を真っ赤にしながら、驚きで便意の半分が吹き飛んだ。自分の運の悪さに呆れるばかりだ。残業を命じられた挙句、無料で謎のGVを聞かされる羽目になった。こんなについてない状況では、宝くじを買わないと逆に申し訳ないくらいだ。


ほかのフロアにもトイレはあったが、各階にはそれぞれ独立したセキュリティロックが設けられている。結局、Aは近くの暗がりで貧相な観葉植物と一緒に罰立ちするしかなかった。


しばらくして、水音と鍵を回す音が聞こえた。中の二人が誰か気にはなったが、職場の平穏が何より大事なので、Aはスマホをいじることに専念した。しかし、ふと聞こえてきた声にハッとする。そっと顔を覗かせると、少し開いた扉の向こうに見慣れた二人の姿があった。


上司は乱れた社長の髪とネクタイを優しく整え、社長は子供のような口調で甘えながら、両手で上司の腰を抱えていた。Aは再び暗がりに身を隠し、目を閉じた。誰かに殴られて気絶し、この記憶が消せたらどんなにいいだろうと思った。深呼吸を数回繰り返し、スマホを取り出して周辺の宝くじ売り場を検索し始めた。


どれだけ待ったかわからないが、ようやく周囲が静かになった。トイレの扉が閉まり、表示は待ち望んでいた緑色になった。廊下に誰もいないことを確認し、Aは勢いよくトイレに向かい、ほぼ無音で扉を開けた。しかし、中ではまだ上司と社長が唇を重ねており、明らかに鍵をかけるのを忘れていた。


0.1秒間の沈黙で三人の視線が交錯し、同時に声にならない悲鳴を上げた。


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