天使殿の掃除③
私とメアリーが天使像を磨くことになり、ミレーネとマーヤさんがステンドグラスの窓、スカーレットとモアナが椅子を拭くことになった。侍女たちは各々の主人につく。
それからのメアリーの行動は驚くほど早かった。
私に天使像の磨き方を教えながらにもかかわらず、もの凄いスピードで磨きあげていく。私はというと、初めて天使像に触れるということもあり、おそるおそる磨いていた。
メアリー曰く、「天使像の磨き方を熟知していたことと、ロバート公爵邸直伝のお掃除スキルの賜物」らしい。
磨き終えた天使像は、少し黒ずんでいたのが銀色に生まれ変わったではないか。
「綺麗な銀色だね~」
「本当ですね。アーリエル様と同じお色です」
「よかったね!ラファエル様!」
「ふふふ、こうして近くで拝見させていただくと、ラファエル様の像のほうがアーリエル様より大きいですね」
「そうなんだ!」
「両手を胸にあてているお姿はアーリエル様と同じですが」
「へぇ~、アーリエル様も両手を胸にあてているんだ。何か意味があるのかな?」
「何か意味があるのかは聞いたことがございませんが、こんど使徒長様に聞いてみたいと思います」
「ぜひ聞いてみて!お二人とも同じポーズをしているなんて、絶対に意味がありそうだもん!」
「お任せください」
「それにしても、アーリエル様は”大天使”と呼ばれているし、王国一の大天使殿にあるから、すご~く大きな像だと想像していたんだけど、”ラファエル様のほうが大きい”って聞いて驚いちゃった!」
すると、メアリーの目が点になる。
「たしかに・・・そうですね。アーリエル様の像は、人間の背の高い女性と同じくらいです」
「ラファエル様は、人間の男性より背が高そうだね!さて、みんなのお手伝いをしようか!」
少し考え込んでいる様子のメアリーは顔を上げて、移動する私の後ろをついてきた。
マーヤさんにどこを手伝えばいいか確認しようと思い、マーヤさんが掃除している窓のほうへと向かいながら、みんなの様子を見てみると、スカーレットもモアナも椅子の脚や裏面まで一生懸命にゴシゴシと拭いている。ミレーネも台に乗って、優しく丁寧にステンドグラスの窓を拭いていた。
マーヤさんはミレーネの侍女と何やら話しているところだった。
「上の窓まで届く梯子は、ここにはないんだよ」
「今まで、どうやって拭いていたのかしら?」
「もしかしたら、隣の屯所にならあるかもしれないね」
すると、私の後ろにいたメアリーが、
「それでしたら、私が屯所へ伺いましょうか?天使像は磨き終わりましたので」
「もう終わったのかい!?」
天使像を見たマーヤさんとミレーネの侍女は目を見開いた。
「あ、あんなに綺麗な銀色だったとは・・・・」
「な、なんてスピードなの......そして、あの美しさ。さすが、ロバート公爵邸の侍女ね......」
2人が啞然としているところで、
「王都警備隊屯所には行ったことはないんだけど、借りられるかな?」
私の言葉に我に返ったマーヤさんが、
「どうでしょう?私も借りたことはないんですが、気のいい人たちなので大丈夫だと思いますよ」
「じゃあ、私とメアリーで行ってくるね!どうぞ、みなさんは気にせずに続きをして!」
そうして、私とメアリーは第三騎士団である通称~王都警備隊~の屯所へと向かう。
初めて足を踏み入れた屯所の受付に警備隊員がいたため、すぐに対応してくれた。
「こんにちは。どうかされましたか?」
「こんにちは。私は、ロバート公爵邸の侍女をしておりますメアリーと申します。そして、こちらがロバート公爵令嬢であるクリスティナ・ロバート様でございます」
「ロ、ロ、ロバート公爵家!?」
公爵令嬢が庶民風コーデをしているため驚いているのだろう。隊員は、私とメアリーの顔を忙しなく交互に見る。
「初めまして。クリスティナ・ロバートです」
私がペコリと挨拶をすると、
「なっ!?か、か、顔をお上げください!公爵令嬢の方がどうなさいましたか!?もしかして事件ですか!?」
おそらく、私の髪色からロバート公爵家の者だと信じてくれたみたいだ。
私は顔を上げて、
「長い梯子があったら借りられないかと思って!」
「は、は、梯子?」
子供のように元気よくお願いしてみたが、隊員は目を白黒させてしまったため、メアリーが「実はですね・・・」と説明をしてくれた。
その後、快く引き受けてくれた隊員の方が梯子を持ってくれて、いっしょに隣の天使殿へと戻る。
「借りられたよ~!」
天使殿に入った隊員の方は、目の前で椅子を拭いているスカーレットと目が合う。
「その燃えるような赤髪・・・ま、まさか、グスタフソン第二騎士団長のお嬢様!?」
「そうだぞい!わたしはスカーレット・グスタフソンだぞい!!」
「こ、これは、大変失礼致しました!!!」
と、梯子を片方の肩に担いだままビシッと騎士の礼をとる。
さすが騎士団だけあって、スカーレットの顔は広い。
「いつも、王都の安全を守ってくれてありがとうだぞい!梯子もありがとう!!」
「いえ!とんでもございません!!」
「騎士様、お忙しいのに申し訳ございません。あちらの窓のところに梯子を置いてくだされば、あとはお戻りいただいて大丈夫です」
そうメアリーが声をかけると、
「いえ!自分も手伝います!今は急ぎの案件もありませんし、女性の皆様にこのような高い梯子を登らせるわけにはいきません!!」
「で、ですが・・・・」
メアリーが恐縮していると、
「あはは!いいじゃないか!男性、しかも騎士様が登ってくれるって言ってんだ!やってもらおうじゃないか」
「マーヤのためじゃねーぜ!」
「あはは!アタシには手厳しいね!」
どうやら、マーヤさんと隊員は顔見知りらしい。
結局、隊員の方は長い梯子に登り、中からも外からも高い位置にある窓を全て拭いてくれたのだった。
最後に、みんなで床掃除をして完了である。
「終わったぞ~い!!」
「つか、、れた」
「大変だったけど達成感があるね!」
「みんな、お疲れさま~!」
全員で長椅子に座りながら、掃除を終えたばかりの天使殿を見回す。
「天使様、あんなに銀色に輝いてキレイだね~!」
うっとりと見つめるミレーネである。
「なんだか、空気がさらに軽くなった気がするぞい!!」
「スカーレットの、、頭も、、軽い」
「前よりも勉強してるぞい!」
軽口をたたき合うスカーレットとモアナである。
すると、窓拭きを手伝ってくれた隊員がポツリと言った。
「自分は初めて天使殿に入りましたが、まさか、ここまで清廉された場所だとは想像もしていませんでした」
「隣なのに入ったことがなかったの?」
私が質問すると、これまでのことを隊員とマーヤさんが説明してくれた。
「はい。ここが天使殿だと知ったのも、マーヤから天使殿の鍵を預かったからなんですよ」
「一応、ここは王宮が管理しているところですし、私も毎日は来ることができないので、何かあった時のために隣の警備隊にも鍵を預けるようにと王宮から言われたのです」
「マーヤから鍵を預かる前は、古くて立派な建物にじいさんが住んでるな~、くらいにしか思ってなかったのです。マーヤから天使殿だということを聞いても、あまりピンとこなくて。不思議ですよね、大天使アーリエル様のことは誰もが知っているのに」
「私もですよ。私も王都で職業紹介所をやっているのに、天使殿のことは知らなかったのですから。王宮から、天使殿の管理人を庶民向けにも募集してほしいと依頼されたから知ったのです。新しい管理人が決まるまでは、私が鍵を預かって天使殿の様子を見ることになりました」
「やっぱり、不思議だぞいよね!?みんな知らなかったなんて。わたしもモアナも王都生まれだけど知らなかったぞいもんね!」
「、、うん」
そして、隊員が立ち上がると伸びをしながら、
「しかし、本当に気持ちのいい場所ですね!心が落ち着くというか洗われるというか」
マーヤさんも立ち上がり大きく深呼吸する。
「そうだろう?アタシも気に入ってるんだよ、ここ」
「なんでマーヤがドヤ顔すんだよ!」
「せっかくだから祈ったらどうだい?」
「祈り方、知ってんのか?」
「アタシが知るわけないだろ!」
マーヤさんと隊員の軽快なやり取りに、みんなが笑い合う。
「なら、みんなでお祈りしようぞい!!」
「そうだね!私たちも祈り方はメアリーから教えてもらったの!いっしょに祈ろう!」
そうして、マーヤさんも隊員も侍女たちもいっしょに天使像の前で膝をつき、
「この国を守護し、天界を統べる天使様。私とご縁があった方々に、ご加護をお与えください」
ーーーー全員で祈りを捧げる。
すると、磨いたばかりのステンドグラスから陽の光がさらに強く降り注ぎ、銀色に輝くラファエル様の像を照らし出す。
その幻想的な光景に、私たちは誰も声を発することができず、ただただラファエル様の像を見つめるのだったーーーーー。
次回は、王立図書館に行きますよ~☆彡
あっ、もちろん天使殿の2階にも行きますッ!!




