短い春休み② ~パン屋の娘アン~
タイトルが「短い春休み」ですが、今回のお話の時間軸としては、春休みに入る少し前です。
3月が誕生日であるモアナのために、クリスティナ、ミレーネ、スカーレットが王都に繰り出すお話です。
今後の物語に関係するため、クリスティナの回想だと思っていただければと(^^)
よろしくお願いします!
短い春休み中にしておきたいことの2つ目は、スカーレット様の誕生日プレゼントを買いに行くことである。
スカーレット様の誕生日は4月のため、もうすぐなのだ。
今回は、ミレーネ様とモアナ様の3人で王都の一般通りへ出掛ける予定である。
3月生まれのモアナ様と4月生まれのスカーレット様は、誕生日も近いのだ。
先日、モアナ様の誕生日プレゼントを求めて、初めて王都の一般通りを散策したときのことーーーーー。
ミレーネ様とスカーレット様が案内をしてくれて、まずは私へのプレゼントも買ったという雑貨屋さんに連れてきてもらった。
カラン、コロン。
可愛らしい音のバンブーチャイムが出迎えてくれて、内装も可愛らしい雑貨屋さんは、全てがハンドメイドの商品だという。
モアナ様の誕生日プレゼントは、ウッドボックスにした。蓋の部分に綺麗な彫刻がされたウッドボックスは、店主の娘さんの作品だという。
店主は”おばあちゃま”という呼び方が似合う可愛らしい高齢の方で、店主は刺繍が得意で娘さんは彫刻が得意なのだそうだ。
ウッドボックスには、モアナ様の大好きなお菓子を入れてプレゼントするつもりだ。
こうして私は、贈り物のコインケースを使って、初めてのプレゼントを購入したのだった。
そして、一般通りで量り売りしているお菓子を買い求めながら散策していると、
ゴーン、ゴーン。
王都の広場にある鐘が響き渡る。正午となったようだ。
「広場の屋台でお昼ご飯を食べようぞい!」
スカーレット様とミレーネ様は、広場にある屋台での昼食を楽しみにしているようだが、私は正直に言うと気が進まなかった。
屋台は楽しみなのだが、王都の中心にある広場といえば、前世の私が処刑されたところ......私の命が消えた場所なのだ。
そのようなことは言えるはずもなく、広場へと到着してしまった。
広場には、たくさんの屋台が立ち並び、たくさんの人で賑わい、大きな声も飛び交っている。
それは、罵声や怒号ではなく、人々の楽しいという喜びの声。
もちろん、断頭台も設置なんてされていない。
”あの時と違う”とわかっているのだが、私の顔はこわばっていたのだろう。
「クリスティナ様!大丈夫ぞいよ!わたしがいるぞいよ!!」
スカーレット様が、私の右手をつないでくれる。
「クリスティナ様、いっしょに美味しいの食べに行こう!」
ミレーネ様が、私の左手をつないでくれる。
「ロバート公爵令嬢様。我々がお守り致しますので、ご安心ください」
従者に扮したグスタフソン侯爵家の護衛の方々も、優しく声をかけてくださる。
きっと、私が人の多さに怖くなってしまったと思ってくれたのだろう。
学園祭の時と同じだ。
また私は、ひとりで不安になっていた。
『大丈夫!私は、ひとりじゃない!!』
今世で、私自身が歩いてきた道を信じるんだ。
前世の恐れは、ひとつひとつ手放していけばいいんだ。
大丈夫、ここに私を傷つける者は誰もいない。
「ありがとう!行こう!」
私は、スカーレット様とミレーネ様とつないだ手に力を込めて、3人で屋台に向けて走り出したのだった。
そして、屋台飯やらお肉の串焼きやら食べながら、次の目的地へと案内される。
香ばしい匂いがしてきたと思ったら、ログハウスの建物が現れる。どうやら、ここはパン屋さんのようだ。
「ア~~ン~~!!」
スカーレット様が誰かの名前を呼びながら、慣れた様子でパン屋さんの扉をあける。
「スカーレット!あっ!ミレーネも来てくれたんだ!いらっしゃ~い!!」
『まさかの呼び捨て!?』
私の誕生日プレゼントを買いに来てくれた時に、3人が貴族ということは隠してパン屋さんの娘と友達になったということは聞いていた。娘も私たちと同じ年齢だという。
『私だって、まだ呼び捨てにできていないのに~!!』
パン屋さんの娘アンは、私たちのことを庶民だと思っているだろうから、呼び捨てにされることは構わない。ただ.....ただ.....簡単に呼び捨てにできてしまうのが羨ましいのだ。
「今日は、また新しい友達を連れてきたんだぞい!」
スカーレット様が私を紹介しようとして、アンが私の顔を見た瞬間、
「えっ!?」
と、驚きの声をあげた。
「もしかして......ク、ク、クリスティナ・ロバート公爵令嬢さまですか!?」
「えっ!?私のこと知っているの!?」
今度は、私が驚きの声をあげてしまった。
ちなみに今日も、庶民風コーデに仕上げてあるのだが。
今日は、モアナ様の誕生日プレゼントを買いに行くため、マリエ様にコーディネートしてもらうためにウェバー伯爵家に行くわけにもいかず、事前にマリエ様から庶民風コーデのポイントを教えてもらい、メアリーに準備してもらったのだ。
まさか、すぐに見破られてしまうとは。この王族に近い髪色のせいだろうか。
「あれれ?アン、クリスティナ様のこと知ってたぞいか?」
「うん!あたしも、王都とロバート公爵領の境目にある露店でパンを売ってるんだ!毎日ではないんだけどね。それで、ロバート公爵領の孤児院の子たちに、ロバート公爵令嬢さまが勉強を教えているのを見てたから・・・」
どうやら話を聞くと、アンは自分で作ったパンの形がまだ不格好のため店頭には置けず、露店で安く売っているらしい。
「そこまで考えてなかったな~!」
「アンは記憶力がいいんだぞいね!」
「クリスティナ様はカワイイから、一度見たら忘れないよね」
アンは露店で勉強している姿を羨ましく見ていたそうだが、自分は王都側の露店のため声をかけられなかったそうだ。王都側の露店から公爵領の露店へ、公爵領の露店から王都側の露店へ声をかけてはいけない決まりはないが、女の子1人で声をかけることは容易ではないだろう。
アンも学校の勉強をしようと教科書を持ってきているそうだが、わからないところがあっても教えてくれる人がいないため、いつも中途半端になってしまうらしい。
「・・・ってことは、スカーレットもミレーネも、本当は......お貴族さま?」
「うっ!これは、正直に話すぞい!わたしはグスタフソン侯爵家だぞい!騙していたわけではないんだぞい!本当だぞい!!」
「わ、わたしは、ワグナー伯爵家なの。もし、アンのこと傷つけてしまっていたら、ごめんなさい......」
「ど、どうしよう!?みんなのこと、呼び捨てにしちゃった!あっ、してしまいました......」
「いいんだぞい!わたしは敬語も使われないことも、呼び捨てにされることも嬉しかったんだぞい!身分関係なく友達になれて、本当に嬉しかったんだぞい!!」
「わたしも!アンと友達になれて、呼び捨てにされたのは新鮮で嬉しかったの!」
「本当に?あっ、ですか?」
「アン!ここでは、いつも通りに接してほしいぞい!外で会うことがあったら仕方ないけど、ここでは敬語もなしで呼び捨てにしてほしいぞい!!」
「わたしも、それを望むよ!」
「ぜひ私にも、スカーレット様やミレーネ様と同じように接してほしいな!」
最後は、アンも笑いながら、
「わかった!じゃあ、ここではいつも通りにするね!あたしたちだけの秘密!!」
こうして、私たちはアンと小指を絡めて約束をした。
そして、ここのパン屋さんは以前に食べたスコーンや、学園祭の時にお父様がお土産で買ってきてくれたワッフルを売っている人気のパン屋さんだったことを知った。
私も、公爵邸のみんなや孤児院の友達に買って帰ろうと大量に買ってしまう。
アンの優しそうなお兄さんに会計をしてもらい、2人の兄妹に見送られながらパン屋さんを後にしたのだった・・・。
パン屋の娘アンと友達になったクリスティナ。
実は、スカーレットは初めてパン屋に来たあとも、兄のフレイムやシャーマと度々来ていたのです。
スカーレットが貴族だと知ったアンは、
「えっ!?じゃあ、フレイム兄ちゃんもシャーマ兄ちゃんもお貴族さま!?」
と、驚いてしまいました。
貴族だとバレてしまったあと、パン屋を訪れたフレイムとシャーマは、
「今まで通り、”兄ちゃん”と呼んでほしい!!」
と、アンにお願いしたそうです。とくに、シャーマが(笑)
”兄ちゃん”呼びを気に入っている、グスタフソン兄弟なのでした(=゜ω゜)ノ




