表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天使のほほえみ  作者: L
6/72

暗闇での目覚め⑤

 連れていかれた場所は、貴族で罪を犯した者が収容される貴人の塔ではなく、大罪人が収容される地下牢だった。地下牢に入れらると、着ていたワンピースから囚人用の服へと着替えさせられた。

そして、すぐ尋問が始まった。


「お前がやったんだな?」

「やった、やってない、どちらかで言うのであれば、やっておりません」

「どんな方法でやったんだ」

「やっていないものを説明することは出来ません。もし説明したとしたら、それが嘘の証言となってしまいます」


 看守らしき人物は、先程から人形のように同じ尋問をしてきて、私も同じ返答を繰り返している。

その度にムチ打ちされたり、顔を叩かれたり。そして、また同じ尋問を繰り返され、叩かれる。

ただただ、その繰り返しだった。


そして、連行されてから3日後に、異例の早さで私の公開処刑が決まった。


こちらが否定したとしても、証拠は揃っているらしい。


 隣国への軍事機密漏洩は、隣国の王子へ宛てた私直筆の手紙があるそうだ。隣国がコフィア王国に攻め込めるようにと。確かに、隣国の王子とはお会いしたことはある。昨年、コフィア王国で王家主催の舞踏会に、国賓として招かれていたからだ。私も、王太子殿下の婚約者ということで同席したが、挨拶のあと二言、三言ほど言葉を交わしたくらいだ。

それに、私は王太子殿下の婚約者という立場なだけで、まだ公務にも携わっていない。王宮への出入りはあったとはいえ、それは限られていた場所だけだ。まだ王族の身分でもないのに、自由に歩き回れるわけがない。たかだか婚約者が、どうやって軍事機密を盗むというのだ。


 それに隣国と言えば、精霊に愛されている国だ。

とくに精霊は戦ごとを嫌うので、隣国の王子が戦争を企てているなんて精霊に知られたら、精霊が隣国からいなくなってしまう。

しかも両国は良好な関係にあるのだから、隣国がコフィア王国の軍事機密を知る必要性などないのだ。

少し考えれば分かることなのに。


 それから、民からの搾取?領地経営をしているのは両親なのに、どうやって私が領民から違法な方法で搾取するのだ。仮にやっていたとしても、すぐに両親に見つかるだろう。

王都の民に対してなら、もっと無理だ。王都の民は王宮が管理してるのだから。

民からの訴えもあるらしいが、本当に訴えがあったのなら、両親の耳にも入っているはずだ。それなのに、私に何も言ってこないのはおかしい。

昨日だって、馬車に乗っていたら領民から挨拶をしてくれて手を振ってくれたのだから。


 これが仕組まれていることなのは分かるが、ここまでする理由は?公爵領が目的?殿下の婚約者?

どれが答えだったとしても、もう遅い。

明日には処刑される。


何も得られない人生だった。


何もない人生だった。


 両親にも婚約者にも必要とされなくて。愛されなくて。

思い返せば、殿下に公式行事に同行する際、ドレスや宝石を贈ってもらったことはあるが、殿下の髪や瞳と同じ色の物を贈ってもらったことは一度もなかった。贈り物は、本当にただの義務でしかなかったということだ。


 何もしない人生だった。

民のためとか、国のためとか、そんな大層な考えなんてなかった。

ただ自分のためだけだった。

自分の欲のためだけに頑張ってきた。

学園で虐げられてる同級生を見ても、助けることもせず見てるだけ。

お母様は慈善活動に力を入れていたけど、一度も孤児院や治療院の慰問に行ったことはない。

学園の授業や王太子妃教育で刺繍したハンカチなどを寄付することはあっても、忙しさを理由にして自らの足で行ったことなどないのだ。


 自分の冷えきった心と同じような、何もない冷たい石の床を見つめる。手は縛られたままなので見えないが、着せられた服もボロボロで傷だらけの自分の足が視界に入る。


やっと、この人生から解放される。


虚な目で、明日を待った。


そして、処刑されたのだった・・・➖




 私は、自分の人生の振り返りを終えて、自分はなんて愚かだったのだろうと思う。

地下牢で最後、やっと人生から解放されるなんて、どれだけ身勝手な想いだろう。

私の処刑が決まり、メアリーはどう思っただろう?セバスチャンは?公爵邸の皆は?

お父様とお母様は無事だろうか。


 どれだけ私のことを大切にしてくれた人たちがいたのかも忘れて、”解放される”などと、どの口が言うのだ。

必要とされない、愛されないからと、ただ逃げていただけではないか。

誰とも向き合おうとしなかったのは自分自身だ。


最期の最期に、メアリーに会えて良かった。


大切なことを思い出させてくれたから。


 きっと、私の死によって、少なからず悲しでくれた人がいる。涙を流してくれた人がいる。

その大切な人たちを、もう二度と抱きしめることは出来ないけど。もう二度と会うことは出来ないけど。


もし。

もしも。

また次の生があるなら。


目を閉じて、私は最期の瞬間に願ったことを、もう一度願う。


「私がもらった優しさを、私から誰かに返します。

私がもらった恩を、私から誰かに返します。

大切な人たちに直接は返せないけど、巡り巡ってその人たちに届くように。

そして、私から誰かを心から愛します。

”メアリー”のように。

そう、”メアリー”のように」


 手を胸の前に組み合わせて、声に出して願った。

願いを言い終え目を開くと、一筋の細くて白い光が、スーっと私の目の前まで伸びてくる。


 私は咄嗟に立ち上がり、その白い光を辿って走り出した。

ただただ無我夢中に走った。

白い光が途切れているところまで辿り着いたが、先は真っ暗だ。思わず白い光が途切れているところに手を伸ばしてみると、何かに触れた。ドアノブのようだ。

どうやら、目の前には扉があって、扉の鍵穴から光が漏れていたようだ。


私は一瞬の迷いもなくドアノブを捻って、勢いよく扉を開けた。


 すると、視界いっぱいに白い光が飛び込んでくる。

眩し過ぎて目を細める。

空間いっぱいに、どこまでも白い光が君臨している。


 私は一歩踏み出し、白い光の中へと駆け出した。




 その駆け出した後ろ姿を、見つめている者がいたことには気づかないまま...。


眩い白い光の向こう側へと駆け出したクリスティナが、行き着く先はドコなのか・・・。

続きの前に、次回は侍女メアリー目線をお届けします★

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ