新しい命
つ・い・に!!!
新年を迎え2ヵ月が過ぎた頃。
日曜日の朝だった。
その日は、朝からシンシンと雪が降っていて、王都の隣にあるロバート公爵領も、珍しく雪が降り積もるかもしれないと新聞に載っていた。
ーーー私とお父様は、朝からソファに2人並んで座り、その時を今か今かと静かに待っていた。
お母様の部屋の隣で。
時計の針と、ずっと睨めっこしている私とお父様。
ーーーーちょうど正午になった時だった。
「オギャ~~~~~!!!!!」
「「!?!?」」
慌ただしい足音と、慌ただしいノックのあと、すぐに私たちのいる部屋の扉が開いた。
「お産まれになられました!!」
お母様の専属侍女が、そう高らかに宣言する。
私とお父様はすぐさま立ち上がったものの、私は嬉しさのあまり何も考えられず呆然としてしまう。『人間って絶望した時だけではなくて、嬉しすぎても呆然としてしまうのね』なんて、頭の隅で思いながら。
「ティナ」
優しく私を呼んだお父様が、動けない私を見て抱っこしてくれた。
いつもなら抱っこを恥ずかしがるけど、今だけは大人しくお父様に抱っこをされて、隣のお母様の部屋へと向かう。
お母様の部屋の前で少し待っていると、扉が開いた。
「お待たせいたしました。どうぞ、お入りください」
いつもは毅然とした侍女長が目元を潤ませながら、私とお父様を招き入れる。
私はお父様に抱っこされたまま、お母様の部屋へと入った。
その時、私の目に飛び込んできた光景は、一生忘れないだろう。
ベッドから起き上がったお母様の腕に、小さい小さい赤ちゃんが抱かれていたこと。そして、その赤ちゃんを見つめる、お母様の慈愛に満ち溢れた微笑みを。
私とお父様に気づいたお母様が顔をあげて、
「グレイソン、ティナ、こちらへ来ても大丈夫よ」
お父様はお母様のベッドへ近づくと、私をベッドの上に座らせてくれて、お父様はベッドに腰掛ける。
「元気な男の子でございます。母子ともに問題ございませんよ」
好好爺な主治医の言葉を受けて、
「先生、ありがとうございました」
「妻と息子を、本当にありがとうございました」
両親が揃ってお礼を口にする。
「アリアナ様、よく頑張られましたな。今日は無理せずにお休みくだされ。明日、また来ますぞ」
いくつかの注意点を侍女長に伝えたあと、主治医は退出していった。
改めて、私に顔を向けたお母様は、
「ティナ、待ちに待った、あなたの弟よ」
そう言ったお母様は、抱いている弟の顔が見えるように向きを変えてくれた。
眠っているのか目は瞑っているが、お母様と同じ赤茶色の髪色。
「触ってもいい?」
「いいわよ。優しく触ってあげてみて」
目の前に小さな弟がいるのに、まだ現実味のない私は、ソーっと人差し指で弟の頬っぺたを触ってみる。
すると、フニっとした。
赤ちゃんを触ったことがない私は知らなかった。フニフニのあとは、スベスベが待っているということを。
「頬っぺたフニフニ〜!スベスベ〜!!」
そして、温かかった。
たしかに、ここに存在しているのだ。
ここに”私の弟”がいる、”新しい命”があるのだと、急激に現実味がわいた。
その瞬間、私は涙が溢れてきた。
「ふぇ....やっと....やっと、会えたねぇ.....私の弟だぁ〜」
すると、目を瞑ったままの弟の瞼がピクピクと動いた。うっすらと目を開こうとして、また閉じてを繰り返し、一生懸命に目を開こうとしていた。
そうして、開いた瞳はお父様と同じ薄い青色だった。
弟は、一生懸命に腕を持ち上げて何かを探しているようだ。
弟の頬っぺたを触っていた私の指に弟の腕があたると、弟の手が私の指をキュっと掴んできた。
それは、小さい小さい手で「ここにいるよ」と、弟が私に教えてくれているようで、私はまた新しい涙が溢れてくる。
「この子は、ティナがお姉ちゃんだってわかっているのね~。ねっ、グレイソン?......って、ちょ!?ちょっと!もうヤダ~、グレイソンったら!ふふふっ!」
お母様がお父様を見て笑うものだから、私も弟からお父様へ顔を移してみる。
私は、お父様を見てギョ!っとしてしまった。
だって、泣いていたから。
お父様は、静かに泣いていたのだ。
たしかに、お父様はずっと静かだった。一番、お父様が大騒ぎしそうなのに。私は弟に夢中で、お父様が泣いていたことに気づかなかった。
これほどに泣いているお父様の姿は初めて見たため、驚きすぎたおかげで私の涙は止まったが、どうやらお父様の涙はまだまだ止まりそうにない。次から次へと、涙を流している。
「うっ.....みっともなくて.....ごめん。ただ.....愛おしすぎて.....家族4人で.....こうしているのが.....なんて幸せなんだろうって。アリアナ.....よく頑張ってくれた.....ありがとう」
「ふふっ、みっともなくないわ。だって、家族4人のための嬉し涙でしょ?ほらグレイソン、あなたも抱いてあげて?」
お母様はお父様へ弟を託すと、お父様はとても慣れた手つきで弟を抱いた。
「あぁ.....なんて可愛いんだ。まさか、俺に息子ができるなんてなぁ。瞳は俺で、髪はアリアナから譲り受けたかぁ。ティナとは逆だけど、顔立ちはティナに似ているよね」
「本当!?私と似てる!?」
「えぇ、似ているわ。ティナが生まれたばかりの頃にそっくりよ!あの時も、グレイソンは泣きながらティナのこと抱いていたわよ~。グレイソンはね、たくさんティナのこと抱いてくれたのよ」
可愛い弟と似ていると言われて、嬉しかった。
私が生まれた時も、お父様が私のために泣いてくれたことを知って、嬉しかった。
私も生まれてきてよかったんだと、改めて感じることができたから。
「お父様、お母様、ありがとう」
私の小さな呟きは、両親に聞こえたかどうかはわからない。
「ふふふっ。グレイソンのことだから、すでに名前は決めてあるんでしょう?」
お母様がお父様に問いかけると、
「あぁ、決めてあるよ。この子の名前は・・・」
『弟の名前......すっごく......ドキドキする!!』
私は前のめりになりながら、お父様の言葉を待った。
お父様は抱いている我が子を愛おしく優しく見つめながら、
「ネオ。ネオ・ロバートだ」
お父様の言葉を聞いたお母様が、
「ネオ」
我が子の名前を呼ぶ。
「ネオ?ネオ......ネオ!ネオ!」
私は確認するように、何度も弟の名前を呼んだ。
「ぷぷっ、そうだよ、ネオだ。ネオという名前には、”新しい”、”新時代”、”次世代”という意味があるんだ。それに、ネオという短い名前も領民たちに覚えてもらいやすいだろう?」
その後、お母様とネオを早めに休ませるため、そろそろ退室しようとお父様に促される。
少し寂しい気もするが、生まれたばかりなのだから仕方がない。
ベッドから下りようとして目線をネオから上げると、大きな窓から外の景色が見える。
いつのまにか雪は止んでいたようだ。
ベッドから下りた私は、大きな窓へと近寄った。
窓から見える景色は一面が銀世界になっていた。
そして、曇り空の隙間から美しく伸びる光の筋。
「わぁ~!綺麗だね~!」
「天使の梯子だね」
「天使の梯子?」
「そうだよ。雲の隙間から伸びる光の柱のことを”天使の梯子”というんだ」
いつの間にか、私の後ろにいたお父様が教えてくれる。
”天使の梯子”が出るなんて、まるでネオの誕生を祝福してくれているかのようだ。
ネオという意味は、”新しい”、”新時代”、”次世代”。
前世ではなかった命が、今”ここに”ある。
まさに「新しい時代」の幕開けだ。
私は窓から勢いよく振り返り、
「ネオ!ようこそ、ロバート公爵家へ!!」
私には、ネオが満面の笑みを浮かべているように見えた。
その時、クリスティナの背後には、美しく伸びる光の筋が放射状に広がり、いくつもの天使の梯子が輝いていたのだった・・・・。
ーーーーー王宮の、とある執務室。
コンコンコンッ。
いつもより早めのノックだ。
「入れ」
いつもより早めに扉が開かれる。
「ご報告申し上げます!ロバート公爵夫人、無事に男児をご出産なされたとのことです!」
「わかった。ご苦労だった、下がっていい」
伝令の者も興奮しているのが丸わかりだ。
グレイソン・ロバートは、この王宮内でも人気が高い。とくに男どもに。
報告を受けた主は、伝令の姿が見えなくなると、腕を頭の後ろに抱えてボフっと椅子の背もたれに体を預ける。
ハッキリ言って行儀が悪い、ということだ。
「あははっ!ついに、ロバート公爵家嫡男の誕生だね~!」
まるで自分のことのように喜ぶ、コフィア王国の王であるリュベルトであった。
ーーーーーーネオの誕生は、とある場所でも知る者がいた。
そこは、白い空間。
果てしなく、白だけの空間が続いているような場所。
そこには、モコモコした白い雲で出来た泉のようなものが広がっているところがあり、それを覗いている1人の少女がいる。
少女は、明るい金髪のミディアムストレートにスカイブルーの瞳の色をした美少女だ。
「兄様!兄様!」
その少女が興奮した様子で誰かを呼ぶと、少女より少し年上に見える少年が姿を現した。
「ハニエル、そんなに大きな声を出してどうした?あっ、また雲泉を覗いてたの?好きだね~、まったく」
そう呆れるように言った少年も、ハニエルと呼ばれた少女と同じ髪と瞳の色をした美少年である。
モコモコした白い雲で出来た泉のようなものは、”雲泉”という。
「それよりもアズラー兄様!見て!ついに、ついにあの人が生まれてきてくれたの!!」
アズラーと呼ばれた少年は「まさか......」と呟きながら、半信半疑の顔で雲泉を覗いてみる。
雲泉には、ロバート公爵家が映し出されていた。
「ねっ!?あの人でしょ!?」
「たしかに......この魂の色は、あいつだな」
「やっぱり!!やっと、やっとよ!きっと、この時代を選んできたのよ!だから、ロバート公爵家を選んだのね!名前は”ネオ”だって!新しい時代にピッタリね!!」
「ネオ、か.....。古の言葉では”復活”という意味もある。まぁ、俺の子孫はそこまでは考えてないだろうけど」
「もう!そうやって兄様は、すぐイジワルなこと言うんだから!でも!」
ハニエルの背に白い羽が生え、ハニエルは嬉しそうに白い空間を飛び回る。
「あと少しで、あの人に会えるんだわ!きっと会える!何千年も待ったんだもの!あと数年なんて短いものよ!」
「その前に、問題は山積みだよ」
すると、ハニエルは飛び回るのをやめて、アズラーの隣へと降り立つ。
「わかってるわ。あと少しでサキューは完全に目覚めてしまう」
「あぁ。だけど、彼のおかげで天使族と魔族は完全に消滅しないということがわかった。彼らが己の力に気づいた時は、俺らが力になろう」
ハニエルは、アズラーの言葉に力強く頷いた。
「あなたに荷を背負わして、本当にごめんなさい。あなたの選択に全てがかかっている。どうか、どうか、あの人を.....この国を護って......」
ハニエルとアズラーが覗くモコモコした白い雲泉には、ネオを見守るクリスティナの姿が映し出されていたのだった・・・・。
パンパカパ~ン(^^♪
弟『ネオ』誕生しました♬
そして、ハニエルとアズラーは何者なのか!?
白い空間、白い羽・・・ということは?( ̄ー ̄)ニヤリ
ちなみに、羽は飛ぶときに自由に生やすことができるんだって\(◎o◎)/!




