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天使のほほえみ  作者: L
56/72

※3人娘の王都大冒険1⃣




 王都で多くの店が建ち並び、多くの人で賑わう”貴族通り”と”一般通り”。



 ある休日、一般通りに一台の馬車が止まる。馬車に家紋はない。とてもシンプルな馬車だ。



 そして、御者席から従者らしき格好をした2人の男性が降りる。


 そのうちの1人が馬車の扉をあけると、1人の女の子が馬車から降りてきた。


 その女の子は、炎の髪色に少し切れ長の黒い瞳。好奇心旺盛に周りをキョロキョロしている。


 そして、もう1人の女の子も降りてくる。


 その女の子は、ラベンダー色の髪色にラベンダー色の瞳。ややタレ目で眠たそうな目をこすっている。


 さらに、もう1人の女の子が降りてくるではないか。


 その女の子は、ダークブラウンの髪色にダークブラウンの瞳。眼鏡の奥の瞳は、緊張しているように周りを見渡す。


 女の子3人は、「貴族」までとはいかないが庶民の私服より仕立てのいいワンピースを着ている。平民でも裕福な「商家の娘」あたりだろうか。



 そして、炎の髪色をした女の子が大きな声で、


「着いたぞいよ〜!!」

「スカーレット、、うるさい」

「お父さまとしか王都の街には来たことがないから、緊張するな」



 そう、女の子3人とはスカーレット、モアナ、ミレーネである。


 3人は、”商家の娘風”な格好をして王都の街へ繰り出してきたのだ。


 商家の娘風な格好をコーディネートしたのは、モアナの姉マリエである。



「よ〜し!クリスティナ様の誕生日プレゼント、見つけるぞいよ!!」



 そうなのだ、今日はクリスティナの誕生日プレゼントを買うために、3人で集まったのだ。


 3人の後ろに控えている従者らしき男性たちはグスタフソン侯爵家の護衛で、「保護者が同伴できない代わりにグスタフソン家の護衛をつけるため、娘たちだけで贈り物を探しに行かせたい」と、スカーレットの父グスタフソン侯爵が、モアナの父ウェバー伯爵とミレーネの父ワグナー伯爵に相談してくれた。


 ウェバー伯爵もワグナー伯爵も、「第二騎士団長でもあるグスタフソン侯爵家の護衛であれば安心だろう」と、了承したのだ。


 だが、いくら治安がいいと言われる王都でも、「THE貴族」にしか見えない子供だけでは心配なため、こうして裕福な庶民風に変装したのである。


 朝からウェバー伯爵家にスカーレットとミレーネは赴き、3人は朝からテンションの高いマリエの着せ替え人形となったのは、クリスティナに話したいエピソードの1つになったことだろう。




「さぁ!誕生日プレゼントを求めて、出発ぞいよ!!エイエイオー!!!」


 大きな声で天高く拳をあげるスカーレット。


「オー、、」


 スカーレットの掛け声に慣れているのか、驚きもせず少しだけ拳をあげて気怠そうに返すモアナ。


「オ、オー!」


 驚きながらも、真面目に腕をピーンと伸ばして拳をあげるミレーネ。



 『3人娘』の冒険の始まりである。



 従者に扮している護衛たちもグスタフソン侯爵家で見慣れているのか、3人娘のやり取りを微笑ましく見守っている。周囲にいる街の者たちも、3人娘の服装やスカーレットの口調から、裕福な平民の子供が誕生日プレゼントを買いにきたのだろうと、ほのぼのと見ていた。



「まずは!教えてもらったお店を目指すぞい!!」



 モアナの姉であるマリエに、一般通りにあるお店だが、質もよく可愛らしい商品が多いと評判の雑貨屋さんを教えてもらったのだ。


 学園に通う女子生徒にも人気があるそうで、マリエも学園の友人とよく訪れるらしい。




ーーー先月、「クリスティナの誕生日プレゼントをどうしようか?」と、3人娘は相談した。


 クリスティナに「みんなの誕生日はいつなの?」と尋ねられて、この時にクリスティナの誕生日が12月ということを3人娘も知ったのだ。


 クリスティナは友達だが、公爵令嬢である。


 この場にいる3人娘の誰よりも家格が上だ。


 まだ初等部だからといって、おかしなものを公爵令嬢に贈るわけにもいかない。


 たとえ、おかしなものでもクリスティナなら笑って受け取ってくれるとわかってはいても。


 自分たちの親に頼んで、公爵令嬢に相応しく貴族らしい高価なプレゼントを用意してもらうのは可能だが、3人娘は考えた。


 貴族らしい高価なプレゼントは、すぐに思いつくのはネックレスやイヤリングなどの装飾品であるが、それは将来、好きな男性に贈られたいだろう。


 それよりも、やはり自分たちで選びたいと強く思ったのだ。


 3人娘のお小遣いを合わせても、高価なものは買えないが、それでも今の自分たちで買えるものを自分たちで見て選びたい。


 年齢が上がるごとにお小遣いも増えるだろうから、その年齢に見合ったものを贈っていこうと。


 こうして、3人娘の意見は一致したのである。




「クリスティナ様ともいっしょに来たかったね」


 歩きながら、ミレーネがポツリと呟いた。


「うん、、でも、、クリスティナ様の、、プレゼント、、見られちゃ、、ダメ」

「あっ!そうぞい!わたしたちで一般通りをしっかり見て、こんどクリスティナ様を案内するぞいよ!!」

「うん!それいいね!」

「オー、、」



 どこから現れたのか従者に扮した護衛が1人増えて、3人娘と3人の護衛は目的の雑貨屋さんへと向かう。


 好奇心旺盛に手当たりしだい辺りをキョロキョロ見回すスカーレット、お菓子屋さんやケーキ屋さんを凝視するモアナ、本屋さんや古書店をチラチラと気にするミレーネは、無事に目的の雑貨屋さんに到着した。


「ここぞいね!」


 こぢんまりとしたお店で、通りに面して大きな窓が2つあり、可愛らしい小物が並べられているのが外からも見えた。



カラン、コロン。



 お店の扉をあけると、これまた可愛らしい音のバンブーチャイムが出迎えてくれる。


「わぁ〜!かわいいのがたくさん!」

「すごい、、ね」

「端から端まで見るぞい!!」


 三者三様の反応である。


「いらっしゃい、小さなお嬢さんたち。ゆっくり見て行っておくれ」


 ここの店主であろう老婆が、にこやかに声をかけてくれた。


 老婆ではあるが、若い頃は可愛らしい顔をしていたのだろうと想像がつく顔立ちで体格も小柄だ。この店と似たような雰囲気を醸し出している。


 3人娘は笑顔で頷くと、店内に並べられた雑貨を見ていく。


 まだ午前中のためか、他にお客さんもチラホラいる程度だ。



「手鏡もいいね〜。あっ、かわいい刺繍がされてるよ」


 ミレーネが手に取った手鏡の裏には、小鳥の刺繍がされていた。


「この、、ポーチも」


 モアナが手に取ったポーチにも、薔薇の刺繍が。


「クッションにもあるぞい!」


 スカーレットが手に取った大きなクッションにも、若葉の刺繍が。ちなみに、大きなクッションに隠れてスカーレットの顔は見えない。


「ハンドメイドのお店なのかな?」

「たしか、、お姉さまが、、そう、、言ってた、、気がする」

「すごいぞい!これほどの数の刺繍をするとは!!」



 そのようなことを話しながら、店内を見て歩いていると、ミレーネがある棚の前で止まった。


「これも、一つひとつ違う刺繍だね」

「コイン、、ケース」

「本当だぞい!こっちは鳥!こっちは花!こっちは・・・天気!」

「星、、ね」


 ミレーネとモアナも、一つひとつ手に取って観察する。


「コインケース、いいかもしれない」

「うん、、わたしも、、同感」

「あっ!クリスティナ様、コインケース持ってなかったぞい!」






 あれはーーーーー学園祭の日のこと。


 貴族は大人になれば、貴族御用達のお店で買い物をした場合、まとめて請求書が家に届くため、その場でお金を支払うことは少ない。


 だが、学園内では別だ。


 学園祭のように屋台などで購入する時も、その場でお金を支払うし、中等部からある食堂やカフェテリアでも自由にメニューを選ぶため、その場でお金を支払う。


 初等部の昼食のメニューは全員が同じため、その場でお金を支払うことはないが、学園祭で初めてクリスティナたちも支払いをすることになったのだ。


 学園祭の日、クリスティナがお金のコインを入れていたのは巾着袋だった。


 公爵家らしく質のいい生地を使った巾着袋で、初めてクリスティナが刺繍をした時のものだという。


「えへへ、コインを入れるのに丁度よさそうなものが、これしかなくて。初めて刺繍した時のだから、恥ずかしいんだけどね」と、頬を染めて話してくれたのを3人娘は思い出したのだ。






「どれがいいぞい?どれがいいぞい?」


 3人娘はコインケースにされている刺繍を真剣に見比べる。


「「「これ・・・・」」」



 ついに、クリスティナにピッタリなものを発見!


「ボリジがあったぞい!!」


 スカーレットが、青い星形のボリジが刺繍されたコインケースを上へ掲げる。



「いいのが見つかったかい?」


 すると、先ほどの老婆の店主が話しかけてきた。


「見つかったぞい!このボリジの花は、友達が好きなんだぞい!!」

「その、、友達の、、誕生日、、プレゼント」

「そうかい、そうかい、それはよかった」


 店主は、穏やかに微笑む。


「ボリジが刺繍されてあるものは珍しいですよね?」


 ミレーネが問いかけると、


「ボリジはあまり知られていなかったからね。だけど、この前の王立学園での学園祭で、リュドヴィック殿下がボリジを描いた作品を展示して話題になっただろう?それでボリジの知名度が広がったのさ。ワタシもボリジは刺繍したことがなかったから、刺繍してみたくなってね」


 ミレーネは、スカーレットが持っているコインケースを示しながら、


「こちらは、ご自分で刺繍されたのですか?」

「そうだよ。この店のほとんどはワタシが刺繍したものさ。最近では、ワタシの娘も手伝ってくれるよ」

「全部、、ハンド、、メイド、、すごい」

「器用でうらやましいぞい!」

「あははっ、すごくなんかないさ。こういう作業が昔から好きなだけだよ。けど、ありがとうね、小さなお嬢さんたち。さて、お友達への誕生日プレゼントだったかい?どれ、綺麗に包んであげるよ」



 スカーレットが老婆の店主へコインケースを渡して、3人娘はお小遣いを出し合い会計を済ませる。


 3人娘はワクワクしながら、店主が包んでくれるのを待っていた。



「はい、できたよ」


 可愛らしい桃色のリボンで包まれたクリスティナへのプレゼントを、代表してミレーネが受け取る。


「綺麗に包んでくださって、ありがとうございます!」

「ありがとうぞいよ!ここに来てよかったぞいよ!!」

「ステキなの、、いっぱい」

「こちらこそ、ありがとうね。また、いつでも遊びにおいで」



 そうして、3人娘は店主に手を振りながら店を出る。 




「無事にクリスティナ様のプレゼント!見つけたぞい!」

「クリスティナ様にピッタリなものがあって、よかったね〜」

「あの、、お店、、また、、行きたい」



ゴーン、ゴーン。



 すると、鐘の音が響き渡る。


 これは、王都の広場にある鐘の音で、正午を知らせる鐘が鳴っているようだ。



「もう、お昼ご飯の時間ぞいか?楽しいから、あっという間にお昼だぞい!」

「楽しいと時間がたつの早いよね〜」

「オナカ、、すいた」

「よ〜し!広場の屋台でお昼ご飯にしようぞい!!」



 今日は商家の娘風コーデのため、気兼ねなく屋台でも買い物ができる。


 休日ということもあり、広場には多くの屋台が立ち並び、たくさんの人で賑わっていた。


 家族連れもいれば恋人同士、友達同士も多い。ほとんどが平民ではあるが、チラホラと貴族の若者も見かける。



 この広場は、王国民の憩いの場所なのだ。



 3人娘は、ホットドッグとジュースを買って、近くに空いていたベンチに座る。


 屋台での買い物は、学園祭のおかげで慣れっこだ。


 貴族の家では食べられない、フォークもナイフもいらない、このような食事が大好きになった3人娘。

 

 いや、きっとクリスティナも好きだろう。


 このあとには串焼きとかも食べ歩きしたいから、まずはホットドッグだけ「いただきます」する。



 スカーレットがホットドッグをモグモグしながら、


「リュドヴィック殿下のおかげで、いいプレゼント買えてよかったぞい〜!リュドヴィック殿下さまさまだぞい!!」

「ふふっ、そうだね!描いただけで庶民にも広がるなんて、殿下の影響力ってすごいんだね〜」

「殿下、、さまさま、、そういえば」

「んっ?どうしたぞい、モアナ?」

「最近、、よく、、殿下、、見る」

「そう言われてみれば、たしかに廊下や食堂で、よくお見かけするような気がするね」

「たしかに!よく廊下ですれ違うぞいし、食堂でもわたしたちの近くを行ったり来たりしてるぞいね!」

「誰かと、、話した、、そうに、、してる」

「誰とぞい?」

「・・・・知ら、、ない」

「殿下は王族なのに、話しかけられない相手がいるんだぞいね!わたしならいつでも話すぞい!!」

「この、、鈍感」


 スカーレットは周囲の動きをよく見ているが、周囲の思惑には鈍い。


「んっ?なんか言ったぞいか?」

「なんでも、、ない、、ミレーネ様は?」

「えっ?」


 急にミレーネに話をふるモアナである。


「ダミエレ様、、とは、、話せた?」

「えっ!?ダ、ダミエレ様!?ま、ま、まさか!話せていないよ〜!」


 食べかけのホットドッグを持ちならが、ブンブン両手を振るミレーネ。


 ホットドッグについているケチャップと少〜しのマスタードが飛び散らないあたり、さすが伯爵令嬢である。まだお子様なので、マスタードは少量だ。


「な〜ん、、だ」


 モアナが悪戯っ子のように笑う。


「宰相様のお孫さんとなんて、気軽に話せないよ・・・」

「なんでぞい?たしかにシュルーダ宰相は怖いけど、いい人だぞい?」

「うん、、いい、、おじー、、ちゃん」

「お、おじいちゃん!?」


 シュルーダ宰相を、まさかの”おじいちゃん”呼びに驚くミレーネである。


「モアナなんて学園に入る前まで、宰相の髭を掴んで遊んでたんだぞい!」

「ひ、髭!?」


 宰相には、立派に整えられた白い顎髭があるのだ。


「うん、、触り、、ごこち、、いい」

「そ、そうなの!?」

「でも、、学園に、、入学、、したから、、触るの、、ダメ、、って」

「あ、あは、は〜」


 王国の重鎮である宰相の髭を、遊び道具にしていたと聞かされて、乾いた笑いしか出せないミレーネである。


「ダミエレ様はご両親を馬車の事故で亡くしてるぞい。だから、お祖父様であるシュルーダ宰相がダミエレ様の親代わりなんだぞい!」

「そうなんだ.....」

「それで、ダミエレ様は幼い頃からリュドヴィック殿下といっしょに行動してるんだぞい!でも、殿下に用事があってダミエレ様が王宮に行かない日は我が家に来て、フレイム兄上やシャーマ兄上が鍛錬をしたり勉強を教えていたんだぞい!」

「ダミエレ様が、スカーレット様のお家に?」

「そうぞい!父上は第二騎士団長だから、シュルーダ宰相とも親しく?してて、頼まれたらしいぞい!」

「それで、スカーレット様もモアナ様も、ダミエレ様のことをお名前で呼ぶんだね」


 モアナと姉マリエは、幼い頃からグスタフソン家に入り浸っていたため、必然的にダミエレとも知り合いになるわけだ。


「そうぞいよ!でも学園に入学してからは、ダミエレ様はリュドヴィック殿下の側近候補として側にいるから、無意味に声をかけたらダメだ、って父上に言われたんだぞい.....でも!無意味じゃなかったら、話していいってことぞい!だから、今度いっしょにミレーネ様もダミエレ様に話しかけるぞい!!」

「そ、それは.....」

「あくま、、でも、、自然に、、ね」

「ダミエレ様も本が好きだから、ミレーネ様も仲良くできるぞいよ!」



 ダミエレも自分と同じ”本好き”ということを知って顔を赤くしたミレーネは、コクンと頷く。



 その後も、グスタフソン侯爵家でダミエレの面倒を見ていた時に、モアナの姉であるマリエが「なんなの!このクールなお子様は!!」と言いながらも、甲斐甲斐しく世話を焼いていたことなどを聞きながら、その当時の光景を容易に想像できてしまい、クスクス笑うミレーネなのであった。










スカーレット、モアナ、ミレーネによる「3人娘」をお届けしています(*^^*)

無事にクリスティナの誕生日プレゼントを選んだ3人娘☆彡

次回は、たくさん王都を散策しますよ~(*'▽')

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