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天使のほほえみ  作者: L
55/72

※リュドヴィック、誕生日を知る




 あと数週間もしないうちに新年となる12月のある日ーーー。



 

 オレは学園の授業が終わると、いつも通りにダミエレとともに馬車の待機場へと向かっていた。



 すると、女子生徒の大きな声が聞こえてくる。



「今日は、本当にありがとう!とっても嬉しかった!大切に使うね〜!!」

「誕生日おめでとうぞいよ〜!!」

「いっぱい、、美味しいの、、食べて」

「ご家族で楽しんでね〜!」



 声の主に覚えがあり、そちらに急いで体を向けてみると、あの子が馬車から顔を出して手を振っているところだった。



 『んっ?誕生日?美味しいの?楽しんで?・・・・あの子の!?』



 オレは迷わず、あの子が手を振っていた相手のところへと歩き出す。


「殿下?急にどうしたんです?」


 オレが王宮の馬車が待つ場所とは逆に歩き出したため、ダミエレが後ろから慌ててついてくる。


「今、”誕生日”って聞こえなかったか?」

「はい?」


 そして、あの子が手を振っていた女子生徒3名の前にたどり着く。


「グスタフソン嬢」


 1番手前にいたスカーレット・グスタフソン嬢に話しかける。




「なんぞい?わっ!リュドヴィック殿下ぞいではないですか!ビックリしたぞいです!!」

「スカーレット、、言葉が、、変」


 グスタフソン嬢の隣にいたモアナ・ウェバー嬢が何やらツッコミを入れているが、そのようなことは気にしない。なぜなら、それよりも大切な用件があるからだ。


「驚かせてすまない。今、”誕生日”と聞こえたのだが、今日は誰かの誕生日なのかい?」


 オレは、内心ドキドキだったが、それを悟られないように努めて冷静に質問してみる。


「そうぞいですよ!今日は、クリスティナ様の誕生日ですぞい!!」

「だから、、スカーレット、、変」

「あー、グスタフソン嬢、その不思議な敬語ではなくて、普通に話してくれていいよ」

「そうぞいか?殿下のお願いとあれば、わかったぞい!」


 さすがグスタフソン侯爵家。忠義に厚い。


「それで・・・今日、誕生日なのは”ロバート公爵令嬢”で間違いないかな?」

「そうぞいよ!」



 『なんてことだ!?今日が、あの子の誕生日だったとは!?もし知っていれば、お祝いを伝えるために話しかけられたのに!!」



 オレは頭の中で、自分の頭を抱える。



「なんぞい?殿下もクリスティナ様の誕生日、祝いたかったぞいか?」

「まぁ.....そんなところだ」



 リュドヴィックとスカーレットの会話が続くなか、モアナの後ろにダミエレが移動しコソコソと話しかける。


「殿下とスカーレット嬢って、いつの間に話すような仲になったんだ?」

「たぶん、、入学式、、以来、、だよ」


 全く人見知りもしない、王族相手だからと委縮しない、頑丈なハートをもつスカーレットである。


 ちなみに、ダミエレとスカーレットは、ダミエレの祖父が宰相、スカーレットの父が第二騎士団長という間柄のため、幼い頃から付き合いがあった。それは、必然的にスカーレットの幼なじみであるモアナも、ということである。


 モアナの隣では、急なリュドヴィックとダミエレの登場に驚きすぎて、石のように固まってしまったミレーネがいる。




 すると、グスタフソン嬢が爆弾発言してきた。


「殿下も、クリスティナ様のことが好きなんぞいね!」

「なっ!?す、す!?」


 グスタフソン嬢のド直球に、オレは狼狽えてしまった。


「あ~〜〜」

「あら、、ま」


 ダミエレとウェバー嬢の「言っちゃったよ」的な呟きが聞こえてくる。


「クリスティナ様は優しいし可愛いし、みんな大好きだぞい!ねっ、モアナ!ミレーネ様!」


 グスタフソン嬢に同意を求められたウェバー嬢とミレーネ・ワグナー嬢は、コクコク頷いている。



 『そ、そういう意味の”好き”か・・・』



 動揺してしまった自分が恥ずかしいが、どうにかして平静を装う。


「そうだね。彼女は公爵令嬢として素晴らしいと思うよ。ボクもぜひ、お祝いしたかったな」


 外向きの一人称を使って返すと、グスタフソン嬢がキラキラとした眼差しをオレに向けてきた。


「そうぞい!そうぞい!殿下もクリスティナ様のお祝いをしたくなる気持ち、わたしも分かるぞい!クリスティナ様は本当に頑張り屋さんで優しいんだぞい!だから、みんな大好きなんだぞい!来年は、殿下もお小遣いを出し合って、クリスティナ様の誕生日プレゼント、いっしょに買おうぞい!!」


「あ、あぁ.....ぜひお願いするよ」


 ダミエレとウェバー嬢が「そういうことじゃないだろ」的に、オレとグスタフソン嬢をジトーっと見てくるが、今は気にしないでおこう。


 だが、急にオレから贈り物をされても困るだろうから、贈り物をしても不自然ではない関係性を築かなければならない。



 そこに、石のようにカチンコチンになったままのワグナー嬢が視界に入る。



 『そういえば、入学式からあの子といっしょにいるから、ワグナー嬢とも話したことがなかったな』



 そう思い至り、ワグナー嬢のほうへと歩み寄る。


「ワグナー伯爵令嬢だよね?やっと挨拶することができる。ボクはリュドヴィック・コフィアだ。同級生としてよろしくね」


 オレが話しかけると、ワグナー嬢の髪型であるツインテールが、ピーンと空に向かって立ち上がったかのように見えるくらい、緊張しているのがオレにも伝わってきた。


「ワワワワワ、ワグナー伯爵家が長女、ミミミ、ミレーネ・ワグナーと、も、申します。よ、よろしくお願い、します......」


 緊張しているのかプルプルしながらカーテシーをする姿は、小動物を連想させる。


「そんなに緊張しないで大丈夫だよ。ボクもここでは一生徒だし、学園では平等だからね」

「はい.....」


 次に、ダミエレがワグナー嬢の前へと移動し、


「ボクも初めまして、ですよね?ダミエレ・シュルーダといいます。よろしくお願いしますね」

「は、はい、よろしくお願いします」


 ダミエレと挨拶を交わして顔を上げたワグナー嬢は、先ほどより顔が真っ赤である。



 ダミエレとワグナー嬢のことを、交互に忙しなく見ていたグスタフソン嬢が、


「あっ!そういえば、ダミエレ様!学園祭に飾っていたペン立て!誰かにあげたぞいか?」

「いえ?あれは、ボクの部屋の棚にしまってあるけど・・・なんで?」



 『ダミエレは、グスタフソン嬢やウェバー嬢には砕けた口調なんだな』



 と、改めて思う。


 幼い頃から交流があることを知ってはいたが、砕けた口調で話せるのが少し羨ましいと感じてしまう。


 ダミエレは立場上、王族のオレには敬語だから・・・・。



 ダミエレの質問に対してグスタフソン嬢が、


「あのね!それは、ミ....」

「スカーレット、、」


 グスタフソン嬢の言葉をウェバー嬢が遮ってしまった。


「み?」


 ダミエレが、さらに聞き返す。


「ミ、ミ、みんな!そう!みんなで、ダミエレ様のペン立ての絵がキレイだって話してたんだぞい!!」

「それは・・・ありがとう」


 フ~〜〜っと、グスタフソン嬢が息を吐いて汗をぬぐっている。


 熱いのだろうか。冬なのに?



「夜空の、、ようで、、キレイ、、だった」

「イメージしたものが伝わっていたようで、よかったよ」

「あっ、あの!」


 ワグナー嬢が、とても勇気を振り絞って言葉を発しようとしている。


「リュ、リュドヴィック殿下の巣箱に描かれていたボリジの花もステキでした」


 緊張のあまりか、息継ぎをしないで一気に言い終えた。



 これがお世辞だったとしても、


「ありがとう。ボリジの花だと伝わっていて安心したよ」

「つ、伝わっています」

「ロバート公爵令嬢も、ボリジの花だと気づいてくれただろうか?」

「クリスティナ様ですか?もちろん、気づいていました」



 気づいてくれていれば、それでいい。



「殿下もボリジの花が好きぞいか?」

「あぁ。あの花言葉は”勇気”なんだ。その言葉に、何度救われたことか」

「花言葉、、意外と、、乙女」

「モアナ様!」


 ワグナー嬢が唇に人差し指を当てて、ウェバー嬢にシーっとしている。


「それなら、クリスティナ様もボリジが好きだぞい!リュドヴィック殿下とクリスティナ様、いっしょのものが好きだなんて、すごい偶然ぞいね!」



 グスタフソン嬢が、ニコニコしながら「すごいぞい!これは友達になっても気が合うぞいね!」と、得意げに言っている。


 純粋って・・・・怖い。


 ダミエレとウェバー嬢が、肩を震わせて笑っているではないか。


 ワグナー嬢は、何がなんだかわからないといった感じで、目を白黒させていた。


 オレは居た堪れない気持ちになりながらも、今後のことを思案する。



 『オレがあの子の誕生日を祝っても不自然ではない方法・・・・あっ、オレの誕生日に招待して、その”お返しに”と言えば不自然ではないよな?』



 今まで、オレは誕生日会を避けていた。


 誕生日会を開けば規模が大きくなるし、子供同士でも美辞麗句ばかりを言い争うし、ただ疲れるだけだ。


 しかし、この手を使わない方法はない。少しズルい気もするが、ここまであの子と接点を持てないのだから仕方がない。


 まずは父上と母上に相談をして、規模は縮小できるように交渉しよう。




「殿下、誕生日会をするぞいか?」

「えっ!?」

「声に出てましたよ....」


 ダミエレからの呆れた声が返ってくる。


 なんという不覚!!こうなったら誤魔化すしかない!!



「もし、もしも、ボクが誕生日会を開いたら、みんな来てくれる?」

「もちろん行くぞい!!」

「行く、、王宮の、、お菓子、、食べたい」

「い、行きます!」

「ありがとう。ただ、まだ確定ではないから内密にね」

「わかったぞい!」


 グスタフソン嬢の返事に合わせて、ウェバー嬢とワグナー嬢もコクコク頷く。



「ダミエレ!急いで王宮に戻るぞ!」

「えぇ、はい」


 ダミエレの気の抜けた返事を聞きながら、王宮の馬車へと向かう。


「では、みんな!また明日、学園で会おう!」


 そう言って手を振ると、グスタフソン嬢は元気よく、ウェバー嬢は気怠そうに、ワグナー嬢は控えめに手を振り返してくれた。




 オレが乗った馬車が動き出すと、



「リュドヴィック殿下、話しやすくて面白い方ぞいな〜!!!」




 グスタフソン嬢の大きな声が聞こえてきたのだった・・・・。

 


 



 



リュドヴィックとダミエレを乗せた馬車が見えなくなったあと、スカーレットはモアナに「余計な、、こと、、言わない」と、まったりゆっくり怒られたそうな。


そして、


「リュドヴィック、、殿下と、、話した、、内容は、、まだ、、クリスティナ様に、、言っちゃ、、ダメ」と、釘を刺されたスカーレットなのでした。


「ごめんなさいぞい~.....」






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