7歳の誕生日②
賑やかな課外授業が終わり、真っ直ぐに公爵邸へと帰宅する。
玄関を入ると、お父様とお母様が出迎えてくれた。
「「ティナ!!おかえり!!」」
「ただいま!お父様!お母様!」
お母様の大きくなったオナカに気をつけながら、両親に抱きつく。
「さぁ、お祝いの用意はできているからね」
「ふふっ、楽しみね〜」
私は両親の顔を見上げて、
「早く着替えなきゃ!」
そう言うと両親から離れて、近くに控えていたメアリーの手を掴む。
「早く!早く!」
メアリーの手を引きながら、早く自室へ行って着替えようと走り出す。
「お嬢様!そんなに走らないでくださぁ〜い!」
階段を駆け上がっていると、後ろから両親の笑い声が聞こえてきたのだった。
着替えが終わりメアリーを伴ったまま、綺麗に飾りつけられた食堂へ入ると、お父様、お母様、執事のセバスチャンや庭師のジャンなど、多くの使用人が勢揃いしていた。
テーブルの上には、たくさんの料理や飲み物も用意されており、取り皿やグラスの数も多い。
椅子は壁側に移動されている。
「これって・・・・」
私は、目を見開いてしまった。
すると、お父様が近づいてきて、私の目線に屈んでくれる。
「セバスチャンから聞いたんだ。去年、俺もアリアナもティナの誕生日を祝えなかった時、こうして使用人たちが祝ってくれたんだ、って。その時のティナが本当に楽しそうだった、と。俺たちは貴族だから、家族や友人だけの少人数でする祝い事は、これから機会は多くある。だから我が家の誕生日会は、このスタイルがいいな、って思ったんだ。ティナは、どうかな?」
『ダメだ.....今日は涙腺が弱すぎる.....』
私は、きっと涙目になりながら笑っていることだろう。
「......っ、嬉しい!大賛成です!!」
「はははっ、よかった!」
お父様が、私の頭を撫でてくれる。
お父様は公爵家当主にも関わらず、使用人たちといっしょに食事をすることを良しとする。
きっと、これを良しとしない貴族はいるだろう。寧ろ、そちらのほうが多いかもしれない。
しかし、お父様は使用人も大切な領民、いや家族の一員だということを知っているのだ。
場を弁え、許される範囲のことを考慮してのことだろう。
柔軟な考え方をする父親でよかったと、心から思う。
「ジャン、あれを」
お母様が庭師のジャンに声をかける。
「はい、奥様」
すると、ジャンが何かをお母様に渡した。
それを受け取ったお母様が、私に近づいてくる。
お母様が手に持っていたものは、ポインセチアを使った花冠だった。
「ジャンとメアリーが作ってくれたのよ。この素敵な花冠を、今日の主役に」
そう言いながら、花冠を私の頭にのせてくれる。
「ありがとう!ジャンもメアリーも、みんな、みんな、ありがとう!!」
「まぁ!本当にお姫様みたいだわ〜!」
「俺らの可愛いお姫様は、なんだって似合うな〜!」
そして、この場にいる全員でグラスを持ち、お父様がよく通る声で、
「今日は我が娘クリスティナの7歳の誕生日だ。この場に集まってくれたこと感謝する。そして、去年は皆がティナの誕生日を祝ってくれたことにも感謝している.....不甲斐ない父と母で......申し訳なかった.....」
隣にいるお母様が、私の手を握ってくれた。
不思議に思いお母様を見上げると、お母様が泣きそうな顔で私を見てくるものだから、私は笑って首を横に振った。
お父様が言葉を続ける。
「だが、ティナがたくさんの者に愛されているからこそ、皆が祝ってくれたのだろう。ティナは可愛いし心優しい子だ。そんな我が子を、俺は誇りに思う!今年は去年の分まで祝いたい!取り戻したい!」
なんだか、お父様の祝いの言葉が熱い演説のようになってきてしまった。
少しだけ痛ましげな雰囲気になっていたのだが、お母様も使用人たちも肩を振るわせて、笑いを必死に抑えているのが丸わかりである。
「今夜は盛大に祝うぞ!ティナ!誕生日おめでとう!!」
「「「「「おめでとうございます!!!!!」」」」」
使用人一同の祝いの言葉を受け、グラスを高く掲げて乾杯をする。
「ティナ、誕生日おめでとう!」
「ありがとう!!」
お母様が私のグラスにチンっと当てて乾杯してくれる。
お母様の顔は笑顔に戻っていた。
「奥様、こちらにお座りくだされ」
ジャンがお母様に椅子を持ってきてくれたようだ。
去年と同じ誕生日立食パーティーのため、身重のお母様がずっと立っているのは辛いだろう。
「ありがとう、ジャン」
お母様がジャンにお礼を言いながら、椅子に座る。
「ジャンも今年は座っていいんだからね!」
私がすかさず言うと、
「まだまだ!ワシの足腰は丈夫ですぞ!」
ジャンは、去年と同じようにウインクしながら返してきた。
「あははっ!」
賑やかで楽しい誕生日立食パーティーは、去年と同じようで同じではない。
お父様もお母様もいる。
その光景に感極まったのか、メアリーもセバスチャンも涙目だ。
お父様もお酒のせいか、泣きそうになりながら去年のことを悔いていたり、泣きそうになりながら笑ったりと忙しい。
今年は泣き上戸ばかりの、楽しい、楽しい誕生日立食パーティーとなったのであるーーーー。
ーーーーいつもより少し遅くなった就寝の時間。
「メアリー!今日はありがとう!」
私は、ベッドに腰掛けてお礼を伝える。
私が寝る前に飲むホットミルクを準備していたメアリーは、手を止めて私を見た。
「そんな!私は何もしておりません!私も、とても楽しい時間を過ごさせていただきました!」
まだ10代の若いメアリーは「とんでもない!」と、慌てて手を胸の前で振っている。
私は、メアリーとジャンが作ってくれたポインセチアの花冠を見せながら、
「この花冠だって用意してくれたでしょう?それに、メアリーたちが去年してくれたから、今年もみんなにお祝いしてもらえたんだもん!」
「そう言っていただけるのは、本当に嬉しいです!まさか、今年は旦那様がお許しくださるとは思っていなかったのです。ですから、旦那様から許可が出た時には、使用人全員が驚きと喜びで大変でしたよ!」
「ふふふっ!そうだったんだ!」
「はい!今年はセバスチャン様も参加することができて、本当に安心いたしました。セバスチャン様も嬉しそうなお顔をされていて、皆様でお嬢様のお祝いができて、本当によかったです!」
去年、セバスチャンが参加していなかったことに気づいてはいたが、その理由までは聞いていない。
しかし、去年のことをお父様に伝えたのはセバスチャンみたいだし、今度改めてセバスチャンにもお礼を伝えようと思う。
前世でも、最後の最期まで見守っていてくれたセバスチャン。
本当は、たくさんのお礼を伝えたい。
「お嬢様、ホットミルクの準備ができましたよ。お熱いので気をつけてくださいね」
メアリーがホットミルクの入ったカップを渡してくれる。
私はそれを受け取りフーフーしながら、ずっと気になっていたことをメアリーに質問してみた。
「そういえば、メアリーは好きな人とかいないの?」
・・・・・・・・。
沈黙が流れ、目線だけカップからメアリーに向けてみると、そこには顔を真っ赤にしたメアリーがいた。
『唐突すぎたかしら・・・・』
私と目が合ったことに気づいたメアリーは、
「な、な、何を急に仰るんですか!?」
あわあわするメアリー。
「こういうの巷では”恋バナ”って言うんでしょ?メアリーと”恋バナ”ってしたことないな、って思ったの!」
「どこで、そのような言葉を・・・」
『言葉を知ったのは前世だけどね・・・・』
「メアリーも17歳だし、結婚していても不思議ではない年齢でしょ?だから、好きな人いないのかな〜、って!」
「結婚!?た、たしかに、この年齢で結婚している者もおりますが、私には相手もいないですし。それにですね、私は公爵家で働けること、お嬢様のお側で仕事をできることが何よりも嬉しいので、結婚には程遠いかと・・・」
「私もメアリーには、ずっと側にいてほしいけど、好きな人ができたら教えてね!だって、メアリーにも幸せになってもらいたいし!応援するから!」
「お嬢様.....ありがとうございます。しかし、まだまだ先だと思いますよ。出逢いもありませんし」
「メアリーは、どんな人が好みなの?」
「好みですか.....あまり考えたこともないですし、そもそも男性とも公爵家に勤めている人以外で、あまり話したこともないですし.....」
「しいていうなら?」
「グイグイきますね、お嬢様.....」
「恋バナだもん!」
「そうですねぇ、しいていうなら.....真面目で頼りになる人?ですかね?」
「じゃあ、騎士とか?」
「騎士様ですか?」
「そう!公爵家の私兵団ではなくて、例えば王宮の騎士団の騎士とか?」
「王宮の騎士団!?畏れ多すぎます!」
「”真面目で頼りになる騎士”とか、メアリーとお似合いだと思うんだけど!」
「平民の私が、王宮の騎士様とは絶対にムリです!」
「そうかな〜。平民の方でも、実力があれば王宮の騎士団に入れるじゃない?」
「そうですけど、騎士様に知り合いなんておりません!」
顔をますます真っ赤にしてムキになるメアリー。
まだヒュース様とは出逢ってないらしい。
それもそうか、ヒュース様はまだ中等部1年生だ。
私は、持っていたカップをベッド脇のサイドテーブルに置いて立ち上がる。
そして、メアリーに私から抱きついた。
「メアリー、いつも側にいてくれて、ずっと.....ずっと、見守っていてくれて、ありがとう」
今世だけではない、前世からの10年以上の想いを込めて。
「お嬢様.....」
顔は見えないが、メアリーの声が震えて聞こえる。
「メアリーにずっと側にいてほしいのも本当。でも、メアリーに幸せになってほしいのも本当だよ」
「はい.....」
「だから、もし好きな人ができたら、ちゃんと教えてね?」
「わかりました....。しかしお嬢様、これだけは言えます。今の私は、お嬢様のお側に仕えていられることが、何よりの幸せでございます.....」
「ありがとう....メアリー.....」
そして、もっと強く、強く、メアリーに抱きついた。
去年の誕生日は、私からメアリーにお願いをして頭を撫でてもらった。
それから何年も、メアリーは私のことを抱きしめてくれた。
今度は、私からメアリーを抱きしめたいと思う。
たくさん、たくさん、抱きしめたい。
メアリーが私に”安心”を与えてくれたように。
ーーーーーいつか、本当にメアリーが結婚する時がくるかもしれない。
それは、メアリーとお別れになる時かもしれない。
それでも、前世のような悲しいお別れではなく、幸せで喜ばしいお別れであってほしいと、切に願う。
脳裏に思い浮かぶのは、”誰かの記憶”なのか、ただの”夢”なのか、何もわからない不思議な世界で見た、メアリーとヒュース様に似た男女2人が、幸せそうに寄り添う姿であった・・・・。
次回は、リュドヴィック目線です(#^^#)




