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天使のほほえみ  作者: L
54/72

7歳の誕生日②




 賑やかな課外授業が終わり、真っ直ぐに公爵邸へと帰宅する。



 玄関を入ると、お父様とお母様が出迎えてくれた。


「「ティナ!!おかえり!!」」

「ただいま!お父様!お母様!」


 お母様の大きくなったオナカに気をつけながら、両親に抱きつく。


「さぁ、お祝いの用意はできているからね」

「ふふっ、楽しみね〜」


 私は両親の顔を見上げて、


「早く着替えなきゃ!」


 そう言うと両親から離れて、近くに控えていたメアリーの手を掴む。


「早く!早く!」


 メアリーの手を引きながら、早く自室へ行って着替えようと走り出す。


「お嬢様!そんなに走らないでくださぁ〜い!」


 階段を駆け上がっていると、後ろから両親の笑い声が聞こえてきたのだった。






 着替えが終わりメアリーを伴ったまま、綺麗に飾りつけられた食堂へ入ると、お父様、お母様、執事のセバスチャンや庭師のジャンなど、多くの使用人が勢揃いしていた。


 テーブルの上には、たくさんの料理や飲み物も用意されており、取り皿やグラスの数も多い。


 椅子は壁側に移動されている。


「これって・・・・」


 私は、目を見開いてしまった。


 すると、お父様が近づいてきて、私の目線に屈んでくれる。


「セバスチャンから聞いたんだ。去年、俺もアリアナもティナの誕生日を祝えなかった時、こうして使用人たちが祝ってくれたんだ、って。その時のティナが本当に楽しそうだった、と。俺たちは貴族だから、家族や友人だけの少人数でする祝い事は、これから機会は多くある。だから我が家の誕生日会は、このスタイルがいいな、って思ったんだ。ティナは、どうかな?」



 『ダメだ.....今日は涙腺が弱すぎる.....』



 私は、きっと涙目になりながら笑っていることだろう。


「......っ、嬉しい!大賛成です!!」

「はははっ、よかった!」


 お父様が、私の頭を撫でてくれる。




 お父様は公爵家当主にも関わらず、使用人たちといっしょに食事をすることを良しとする。


 きっと、これを良しとしない貴族はいるだろう。寧ろ、そちらのほうが多いかもしれない。


 しかし、お父様は使用人も大切な領民、いや家族の一員だということを知っているのだ。


 場を弁え、許される範囲のことを考慮してのことだろう。


 柔軟な考え方をする父親でよかったと、心から思う。




「ジャン、あれを」


 お母様が庭師のジャンに声をかける。


「はい、奥様」


 すると、ジャンが何かをお母様に渡した。


 それを受け取ったお母様が、私に近づいてくる。


 お母様が手に持っていたものは、ポインセチアを使った花冠だった。



「ジャンとメアリーが作ってくれたのよ。この素敵な花冠を、今日の主役に」



 そう言いながら、花冠を私の頭にのせてくれる。


「ありがとう!ジャンもメアリーも、みんな、みんな、ありがとう!!」

「まぁ!本当にお姫様みたいだわ〜!」

「俺らの可愛いお姫様は、なんだって似合うな〜!」




 そして、この場にいる全員でグラスを持ち、お父様がよく通る声で、


「今日は我が娘クリスティナの7歳の誕生日だ。この場に集まってくれたこと感謝する。そして、去年は皆がティナの誕生日を祝ってくれたことにも感謝している.....不甲斐ない父と母で......申し訳なかった.....」



 隣にいるお母様が、私の手を握ってくれた。


 不思議に思いお母様を見上げると、お母様が泣きそうな顔で私を見てくるものだから、私は笑って首を横に振った。



 お父様が言葉を続ける。


「だが、ティナがたくさんの者に愛されているからこそ、皆が祝ってくれたのだろう。ティナは可愛いし心優しい子だ。そんな我が子を、俺は誇りに思う!今年は去年の分まで祝いたい!取り戻したい!」



 なんだか、お父様の祝いの言葉が熱い演説のようになってきてしまった。


 少しだけ痛ましげな雰囲気になっていたのだが、お母様も使用人たちも肩を振るわせて、笑いを必死に抑えているのが丸わかりである。



「今夜は盛大に祝うぞ!ティナ!誕生日おめでとう!!」


「「「「「おめでとうございます!!!!!」」」」」


 使用人一同の祝いの言葉を受け、グラスを高く掲げて乾杯をする。



「ティナ、誕生日おめでとう!」

「ありがとう!!」


 お母様が私のグラスにチンっと当てて乾杯してくれる。


 お母様の顔は笑顔に戻っていた。



「奥様、こちらにお座りくだされ」


 ジャンがお母様に椅子を持ってきてくれたようだ。


 去年と同じ誕生日立食パーティーのため、身重のお母様がずっと立っているのは辛いだろう。


「ありがとう、ジャン」


 お母様がジャンにお礼を言いながら、椅子に座る。


「ジャンも今年は座っていいんだからね!」


 私がすかさず言うと、


「まだまだ!ワシの足腰は丈夫ですぞ!」


 ジャンは、去年と同じようにウインクしながら返してきた。


「あははっ!」




 賑やかで楽しい誕生日立食パーティーは、去年と同じようで同じではない。


 お父様もお母様もいる。


 その光景に感極まったのか、メアリーもセバスチャンも涙目だ。


 お父様もお酒のせいか、泣きそうになりながら去年のことを悔いていたり、泣きそうになりながら笑ったりと忙しい。




 今年は泣き上戸ばかりの、楽しい、楽しい誕生日立食パーティーとなったのであるーーーー。






ーーーーいつもより少し遅くなった就寝の時間。



「メアリー!今日はありがとう!」


 私は、ベッドに腰掛けてお礼を伝える。


 私が寝る前に飲むホットミルクを準備していたメアリーは、手を止めて私を見た。


「そんな!私は何もしておりません!私も、とても楽しい時間を過ごさせていただきました!」


 まだ10代の若いメアリーは「とんでもない!」と、慌てて手を胸の前で振っている。


 私は、メアリーとジャンが作ってくれたポインセチアの花冠を見せながら、


「この花冠だって用意してくれたでしょう?それに、メアリーたちが去年してくれたから、今年もみんなにお祝いしてもらえたんだもん!」

「そう言っていただけるのは、本当に嬉しいです!まさか、今年は旦那様がお許しくださるとは思っていなかったのです。ですから、旦那様から許可が出た時には、使用人全員が驚きと喜びで大変でしたよ!」

「ふふふっ!そうだったんだ!」

「はい!今年はセバスチャン様も参加することができて、本当に安心いたしました。セバスチャン様も嬉しそうなお顔をされていて、皆様でお嬢様のお祝いができて、本当によかったです!」



 去年、セバスチャンが参加していなかったことに気づいてはいたが、その理由までは聞いていない。


 しかし、去年のことをお父様に伝えたのはセバスチャンみたいだし、今度改めてセバスチャンにもお礼を伝えようと思う。


 前世でも、最後の最期まで見守っていてくれたセバスチャン。


 本当は、たくさんのお礼を伝えたい。




「お嬢様、ホットミルクの準備ができましたよ。お熱いので気をつけてくださいね」


 メアリーがホットミルクの入ったカップを渡してくれる。


 私はそれを受け取りフーフーしながら、ずっと気になっていたことをメアリーに質問してみた。



「そういえば、メアリーは好きな人とかいないの?」



・・・・・・・・。



 沈黙が流れ、目線だけカップからメアリーに向けてみると、そこには顔を真っ赤にしたメアリーがいた。



 『唐突すぎたかしら・・・・』



 私と目が合ったことに気づいたメアリーは、


「な、な、何を急に仰るんですか!?」


 あわあわするメアリー。


「こういうの巷では”恋バナ”って言うんでしょ?メアリーと”恋バナ”ってしたことないな、って思ったの!」

「どこで、そのような言葉を・・・」



 『言葉を知ったのは前世だけどね・・・・』



「メアリーも17歳だし、結婚していても不思議ではない年齢でしょ?だから、好きな人いないのかな〜、って!」


「結婚!?た、たしかに、この年齢で結婚している者もおりますが、私には相手もいないですし。それにですね、私は公爵家で働けること、お嬢様のお側で仕事をできることが何よりも嬉しいので、結婚には程遠いかと・・・」


「私もメアリーには、ずっと側にいてほしいけど、好きな人ができたら教えてね!だって、メアリーにも幸せになってもらいたいし!応援するから!」


「お嬢様.....ありがとうございます。しかし、まだまだ先だと思いますよ。出逢いもありませんし」


「メアリーは、どんな人が好みなの?」


「好みですか.....あまり考えたこともないですし、そもそも男性とも公爵家に勤めている人以外で、あまり話したこともないですし.....」


「しいていうなら?」


「グイグイきますね、お嬢様.....」


「恋バナだもん!」


「そうですねぇ、しいていうなら.....真面目で頼りになる人?ですかね?」


「じゃあ、騎士とか?」


「騎士様ですか?」


「そう!公爵家の私兵団ではなくて、例えば王宮の騎士団の騎士とか?」


「王宮の騎士団!?畏れ多すぎます!」


「”真面目で頼りになる騎士”とか、メアリーとお似合いだと思うんだけど!」


「平民の私が、王宮の騎士様とは絶対にムリです!」


「そうかな〜。平民の方でも、実力があれば王宮の騎士団に入れるじゃない?」


「そうですけど、騎士様に知り合いなんておりません!」



 顔をますます真っ赤にしてムキになるメアリー。


 まだヒュース様とは出逢ってないらしい。


 それもそうか、ヒュース様はまだ中等部1年生だ。




 私は、持っていたカップをベッド脇のサイドテーブルに置いて立ち上がる。



 そして、メアリーに()()()抱きついた。



「メアリー、いつも側にいてくれて、ずっと.....ずっと、見守っていてくれて、ありがとう」



 今世だけではない、前世からの10年以上の想いを込めて。



「お嬢様.....」


 顔は見えないが、メアリーの声が震えて聞こえる。


「メアリーにずっと側にいてほしいのも本当。でも、メアリーに幸せになってほしいのも本当だよ」

「はい.....」

「だから、もし好きな人ができたら、ちゃんと教えてね?」

「わかりました....。しかしお嬢様、これだけは言えます。今の私は、お嬢様のお側に仕えていられることが、何よりの幸せでございます.....」

「ありがとう....メアリー.....」



 そして、もっと強く、強く、メアリーに抱きついた。


 去年の誕生日は、私からメアリーにお願いをして頭を撫でてもらった。


 それから何年も、メアリーは私のことを抱きしめてくれた。


 今度は、私からメアリーを抱きしめたいと思う。


 たくさん、たくさん、抱きしめたい。


 メアリーが私に”安心”を与えてくれたように。






ーーーーーいつか、本当にメアリーが結婚する時がくるかもしれない。


 それは、メアリーとお別れになる時かもしれない。


 それでも、前世のような悲しいお別れではなく、幸せで喜ばしいお別れであってほしいと、切に願う。




 脳裏に思い浮かぶのは、”誰かの記憶”なのか、ただの”夢”なのか、何もわからない不思議な世界で見た、メアリーとヒュース様に似た男女2人が、幸せそうに寄り添う姿であった・・・・。








次回は、リュドヴィック目線です(#^^#)

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