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天使のほほえみ  作者: L
53/72

7歳の誕生日①






ーーー遠くから、とても大好きな人たちの声が聴こえてくる。






「ーーーぷぷっ、見てみなよ。とても可愛らしい寝顔だよね。どうして、俺らの娘はこんなに愛らしいんだろう」

「ーーー本当にね。いつまでも見ていて飽きないわ〜」




 その声を求めて、私は白いモコモコの中から抜け出す。


 『意外と簡単に出られたなぁ』と思っていると、自分のベッドで目覚めていた。




「あっ、可愛くて愛らしい瞳が見えてきたよ」

「あらっ、起こしちゃったかしら?」

「.....おとう....さま?....おかあ....さま?」



 お父様とお母様が揃って私を覗き込んでいるものだから、まだ先ほどの不思議な世界にいるのかと錯覚してしまう。



「おはよう、ティナ」

「私たちの可愛いティナ、おはよう」

「.....おはよう....ございます?」



 優しく朝の挨拶をしてくれる両親に、霞かかった頭のまま返事をすると、両親が優しく「ふふっ」と笑い、私の右頬をお母様の手が、左頬をお父様の手が包み込みこんでくれた。




「「ティナ、お誕生日おめでとう」」




 私は、目を見開いた。

 

 そうだ。


 今日は、私の7歳の誕生日だ。


 去年は言ってもらえなかった言葉。


 前世からの10年間、ずっと、ずっと、言ってもらいたかった言葉。



ーーーー霞かかった頭が、いっきに晴れていく。


 私は勢いよく飛び起きて、お父様とお母様に抱きついた。



 「あ、ありがとう!お父様!お母様!」



 一粒の涙が零れ落ちるが、これは嬉し涙だから許してほしい。


 両親が笑いながら、私の頭や頬を撫でてくれる。


「ふふふっ、去年は言ってあげられなかったから、今年は誰よりも先に言いたかったのよ」

「去年は寂しい思いをさせてしまったからね。仕事に行く前に、どうしてもティナの顔を見て言いたかったんだ」

「嬉しい!・・・あれ?お父様、もうお仕事に行くの?」


 時計をチラっと見ると、まだ仕事へ行く時間には早い気がする。


「うん、今日はティナの誕生日だからね。早く帰ってこられるように、早く行って仕事をチャチャっと終わらせてくるよ」

「お父様.....」



 私と過ごす時間のために、そのように考えてくれることが嬉しかった。


 私は、お父様とお母様にさらにギュっと抱きつく。


「ありがとう!!お父様の帰りを楽しみに待ってるね!」

「ぷぷっ、朝食はいっしょに食べられないけど、夜は楽しみにしているんだよ。ティナも課外授業が終わったら、寄り道しないで真っ直ぐ帰っておいで」

「うん!」

「まぁ!グレイソンじゃないんだから、ティナは寄り道なんてしないわよ!」



 そう言って、親子3人で顔を見合わせて笑い合う。



「それじゃあ、名残惜しいけど俺は行ってくるよ」

「行ってらっしゃい!お父様!」

「ティナも着替えて食堂にいらっしゃい。今日は、ティナの好きなフレンチトーストよ。料理長が朝から張り切っていたわ。いっしょに食べましょう」

「わぁ〜!フレンチトースト!」

「ぷぷっ、行ってくるよ。俺の可愛いお姫様」


 そして、お父様は私の頬にキスをして、お母様といっしょに部屋を出るため扉へと近づく。


「お父様、気をつけてね〜!」


 その後ろ姿に声をかけると、お父様は振り向き笑って手を振ってくれる。


 隣にいるお母様も振り向き、微笑んでいる。



 両親の後ろ姿を何度、眺めていたことだろうーーー。


 振り向いてもらえなかった、あの頃ーーー。


 今は、両親とも振り向いて笑ってくれる。


 たったそれだけのことで、最高の誕生日プレゼントをもらえた気分だった。



 『なんて、素敵な誕生日の朝なんだろう』





 こうして、2度目の7歳になる誕生日が始まった。



 お母様といっしょに、料理長が張り切って作ってくれたフレンチトーストを食べて、学園に行くために馬車へと乗り込む。


 私の誕生日ということもあってか、公爵邸の使用人たちはいつもより忙しなく動いていた気がする。


 しかし、その顔は晴々としたものだった。


 両親が不在の誕生日を迎えていたことで、使用人たちにも気を使わせてしまっていたから、なんとなくハラハラした顔をさせていた。


 今年は、そのような顔をさせずに済んでよかったと、心から思う。



 馬車に揺られながら、寝ていた時に見た不思議な世界のことを思い出す。


 なぜ、”誰かの記憶”だと思ったのかは、今もわからない。




ーーーー前世の成人した姿のメアリー。


 前世でメアリーは、ヒュース様と知り合いだったのかしら?


 前世の私は、メアリーの私生活を知る余裕はなかった。


 私が学園や王太子妃教育で王宮へ行っている間、メアリーがどこで何をしていたのか知らない。


 もちろん、メアリーが辞したあとのことも・・・・。


 あの雰囲気から想像するに、もしかして前世は恋人同士だったとか?身分違いの恋愛で、あのように

切ない顔をしていたとか?メアリーは平民でヒュース様は貴族だから、あり得そう話ではある。


 さすがに今世では、ヒュース様はまだ中等部1年生のため、まだ出逢ってはいないだろう。



 メアリーとヒュース様に似た、見知らぬ2人は誰だったのか。


 そして、あの美しい女性の声。


 「早く出逢ってほしいよね」・・・・・かぁ。


 昨日は寝る前にメアリーと話したし、ヒュース様のことも思い出したため、あのような夢を見たのだろうか。


 ただの夢だったのか謎ばかりが残るーーーー。






 学園に到着して教室に入ると、ミレーネ様、スカーレット様、モアナ様の3人が待ち構えていた。



「「「クリスティナ様!!!お誕生日おめでとう!!!」」」

「わぁ〜!ありがとう!!」



 3人からの祝福の言葉が嬉しくて、胸が高鳴る。


 するとミレーネ様が、


「クリスティナ様、わたしたち3人からのプレゼントなの」


 とても恥ずかしそうに言いながら、リボンが飾りつけられた小さめの箱を差し出してきた。


「えっ!?えっ!?」


 クラスメイトからプレゼントをもらったことのない私は、驚きすぎて3人の顔を凝視してしまう。


「3人でお小遣いを出し合ったんだぞい!!」


 スカーレット様もモアナ様も、期待に満ちた目でニコニコ笑っている。



 『受け取っていいんだ・・・・』



「.....っ、ありがとう!」


 私は、嬉しすぎて涙が出そうになるのを必死に抑えながら、両手でプレゼントを受け取る。


「あけてみてもいい?」

「「「うん!!!」」」



 自分の席へと座り、机にプレゼントを置いてリボンをほどく。


 3人が、机の周りを囲んでワクワクしながら見守っている。


 小さめの箱から現れたのは、青い星形のボリジが刺繍された”コインケース”だった。



「本当に....うれ...しい....あり....が....と」



 私は、感じたことのない喜びで我慢できず、ついに涙腺が崩壊してしまった。


 泣きながら、プレゼントのコインケースを胸に抱いて俯いてしまう。


「泣いて....ごめんね....お友達....からの....プレゼント....初めてで....嬉しくて....」


 すると、3人が私を抱きしめてきた。


「泣くほど嬉しくなるなんて、わたしも嬉しいぞい!」

「今日、、だけ、、じゃない、、来年も、、再来年も、、あるよ」

「大人になっても、お祝いしようね」


 私は、3人の言葉に顔を上げて、力いっぱい笑ってみせた。


「うん!!」




 このコインケースは、一生、一生、大切にしよう。


 授業中、窓から見える空を見上げ、3人の誕生日の日にちを思い返してみる。


 お父様に、「お友達の誕生日プレゼントとか、あげたくはないかな?」と聞かれた時、みんなの誕生日を知らないことに気づいた。


 前世では、誰かの誕生日を自分から聞くことなどなかったから。


 ただ1人を除いては・・・・ね。




 お父様と話した次の日に、早速3人に誕生日を尋ねた。


 スカーレット様は4月、ミレーネ様は9月、モアナ様は3月だった。


 なんということだ、すでにスカーレット様とミレーネ様の誕生日は過ぎているではないか。


 しかし、3人が言ってくれたように、来年も再来年もあるのだ。


 まずは、3月のモアナ様の誕生日をお祝いすることが待ち遠しい。





ーーーーーただ1人、前世で誕生日を知っていた人。


 それは、リュドヴィック殿下だ。


 殿下の誕生日は8月。


 夏の太陽のように光り輝く金色の髪、夏空のような青い瞳の持ち主に相応しいと思ったものだ。


 前世のリュドヴィック殿下は、初等部の時は婚約者がいなかったため、公平性を保つために誰からも贈り物は受け取らなかったし、誕生日会を開くような方でもなかった。


 だから、中等部にあがり自分が婚約者となってからは、やっと殿下に贈り物ができると喜んだ。


 しかし、時が経つにつれて殿下との距離がひらいていき、贈り物を準備しても渡せないまま。


 5年分の贈り物は、クローゼットの奥にしまったままだった。


 渡せないからと捨てる勇気もなかった。




 渡せなかった贈り物は、今でも私だけの心の奥にしまってあるーーーーー。






 そして、授業が終わり4人で馬車の待機場まで向かう。


「今日は、お家でお祝いするぞいか?」

「うん!お父様も早く帰ってこられるように、朝も早く仕事に行ってくれたの!」

「素敵な、、お父さま、、だね」

「来年は、家族も増えてるから楽しみだね〜」



 3人とも、私を見送ってくれると言う。


 最初に私が馬車へ乗り込み、窓をあけて顔を出す。


「今日は、本当にありがとう!とっても嬉しかった!大切に使うね〜!!」


 大きく手を振りながら、改めて感謝の気持ちを伝えると、


「誕生日おめでとうぞいよ〜!!」

「いっぱい、、美味しいの、、食べて」

「ご家族で楽しんでね〜!」


 3人とも大きな声で返してくれる。


 お互いの姿が見えなくなるまで、私たちはずっと手を振り続けていた。




 そうして、護衛のカーティスと合流して課外授業のために露店へ行くと、ここでも熱烈にお祝いしてくれた。


 ザック、ロラ、ザイ、ダイ、ココが露店の当番でいてくれて、孤児院の全員で作ってくれたという、押し花にした栞とクッキーをプレゼントしてくれた。


 チロとミルルも、覚えたばかりの拙い文字で「おたんじょうびおめでとうございます」と、手紙を用意してくれていた。


 女の子の絵も描かれているが、どうやら”私”らしい。


 文字も絵も一生懸命に書いてくれたのだと一目でわかり、微笑ましくなる。




 栞は補強して、大切に、大切に、使わせてもらおう。











それぞれが、学園祭から帰宅した夜⑤


〜ロバート公爵家編〜



父グレイソンと学園祭から帰宅したクリスティナ。


父グレイソンと母アリアナと3人で夕食を食べながら、アリアナに学園祭のことを話して聞かせていた。


「キャペプっていうのが、とても美味しかったの!」

「キャペプ!懐かしいわ〜!私の故郷が西部地方だから、その辺りではよく食べられていたのよ〜」

「お母様、キャペプ食べたことあるの!?」

「アリアナの故郷のフォンターナ領は、隣国側で西側だからね〜。俺も食べたことないけどさ」

「あら!?食べたことないの?まぁ、たしかに王都の下町でも売ってなかったかしら?材料さえあれば作れるわよ」


「「本当に!?」」


クリスティナとグレイソンが同時に口にした。


「うふふっ!似たもの親子ね〜!それくらい作れるわよ〜」

「食べたい!材料を教えてくれ!買ってくるから!」

「食べたい!食べたい!」

「わかったわよ〜!それで、そっちの箱とかには何が入っているの?」

「ふふん!よくぞ聞いてくれた!これは夕食が終わってからのお楽しみだ!」


父グレイソンは得意げに答える。


夕食後、リビングに集まった家族3人。

セバスチャンが用意してくれた紅茶とともに、グレイソンが買ってきてくれた学園祭のお土産の箱たちを囲む。


「まずは・・・これ!ジャジャ〜ン!」

グレイソンがあけた長細い箱の中身を見たアリアナは、

「チュロス!しかもチョコレートとシュガーもあるわ〜!」

感激した声を上げる。


「チュロス?」

「ティナは見たことがないかしら?これはね、チュロスというお菓子で、私とグレイソンが学生時代に食べたものなのよ〜」

「そうそう。生徒会の伝統で、このチュロスを食べながら仕事をするっていうね。まぁ、生徒会ではプレーンだけだったけど」


前世のクリスティナは、中等部からあるカフェテリアにあまり行ったことがないため、チュロスの存在を知らなかった。


「そうなんだ!それなら、お父様もお母様も食べていたっていうプレーンを食べてみたいな!」

グレイソンから、チュロスのプレーン味を受け取ったクリスティナは、パクっと一口食べてみる。

「美味しい〜!」

「そうでしょ?庶民のあいだでも人気のお菓子なのよ!」

「お父様とお母様は生徒会に入っていたの?」


前世では、リュドヴィックは生徒会に入っていたが、クリスティナは入っていなかったため、生徒会について詳細は知らない。


「そうだよ。俺は初等部から入っていたし、アリアナは高等部から入ったんだ」

「生徒会のベランダは屋上庭園とつながっていて、屋上庭園に行けるのは生徒会に入っている者だけの特権なの!あの屋上庭園から王都が一望できるのだけど、その景色がとても綺麗で、今でも忘れられない大切な思い出の場所よ!もし、ティナも生徒会に興味が湧いたら、ぜひ生徒会に入って屋上庭園からの景色を見てほしいわ〜!」


「学園に屋上庭園があるなんて知らなかった!見てみたいなぁ!」


クリスティナは、学園に屋上庭園があることを本当に知らなかったのだ。もしかしたら、リュドヴィックはサキュバーヌ男爵令嬢と屋上庭園に行っていたかもしれない、と想像してしまう。

少しだけ胸がチクっと痛んだ。


「これは、アリアナも知らないだろう!」


バーン!と、グレイソンが新しい箱を差し出す。


クリスティナは思考を打ち消すように、アリアナとともに箱の中身を覗いてみる。


「「これは??」」


クリスティナとアリアナが同時に口にした。


「ぷぷっ、似たもの親子だね〜。これは、”ワッフル”というんだ」

「「ワッフル??」」


ワッフルというお菓子は、見た目はパンのようだけど回りがギザギザしていて、白と茶色の格子模様となっている。


「前に、スカーレット嬢が我が家に来た時にスコーンを持ってきてくれただろ?あのスコーンを売っているパン屋の新商品なんだ。学園祭で特別にワッフルも売っていたんだよ」

「あのスコーンも美味しかったものね〜!」

「同じパン屋さんの商品だなんて楽しみ!」


親子3人でワッフルを頬張ってみると、

「なに!?この回りのザクザク感!?新しい!」

「この食感は初めてで面白いわね〜!」

「これ、ワグナー領産のバターを使ったら、もっとバターの風味が出るかもね」


グレイソンの感想は、さすが領地経営をしているだけ的を得ている。

ちなみに、この”ワッフル”が進化していき貴族の間でも有名になるのは、もう少し先のお話。


「それにしても、たくさん買ってきてくれたのは嬉しいけど、私たちだけでは食べられないわよ?」

「ついつい楽しくて、買いすぎちゃったんだよね〜」

「それなら!メアリーやセバスチャンたちにも、わけてもいい!?みんなと食べたら、もっと美味しいよ!」


大勢で食べると、もっと、もっと、楽しくて、美味しくなると身をもって知っているクリスティナは、そう提案してみる。


「うん、いいよ、呼んでおいで」

「料理長がこのワッフルを食べたら、衝撃を受けて新しいレシピとか開発しそうよね」

「ありがとう!お父様!お母様!」


そう言うや否や、クリスティナは小走りでリビングを出て行くと、

「メアリ〜!セバスチャ〜ン!!」

と、大きな声で使用人たちを探しに行った。


グレイソンとアリアナは、そんなクリスティナの姿を見て、夫婦で笑い合う。


本当は、グレイソンも公爵邸で働く者たちの分まで計算して買ってきていたのだが、わざわざそれを口に出しては言わなかった。

クリスティナがどう行動するか、というのも見てみたかったから。


そして、メアリーやセバスチャン、料理長など多くの使用人たちを引き連れて、クリスティナはリビングに戻ってきた。


使用人たちは少し恐縮しながらも、ワイワイと学園祭のお土産のお菓子を頬張る。


クリスティナも、アリアナのオナカにいる弟妹に、一つひとつお菓子を説明しながら頬張っている。まだ見ぬ弟妹と、いっしょに食べている気分になっているのだろう。

クリスティナがオナカの子に話しかけるたび、オナカの子が蹴るものだから、アリアナは笑いを堪えるので大変だった。


もう少しで、お姉ちゃんになるクリスティナ。


母のオナカの中にいる弟妹に話しかけるクリスティナを、穏やかな眼差しで見守っている父と母は思う。


『俺らの娘は』

『私たちの娘は』

『『優しく聡明で、なんて”天使”のような子なんだ・・・』』

と。

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