スカーレットの剣
前回の孤児院や治療院にする”寄付”についての続きからです★
少し長めですが、よろしくお願いします!
あれからーーーーー
孤児院や治療院の寄付については、お父様と約束したとおり、次の日にお母様も加わり家族3人で相談した。
私は前世の時と同じように、毛布など暖かくなるものを・・・と思っていたのだが、お父様によれば毛布などの寝具類は足りているらしい。
お父様とお母様は、お互いの事業を協力し合うようになり、特にお母様が妊娠してからは、お父様がお母様の代理として慈善事業へ積極的に関わるようになった。そのため、真冬に備えた防寒の準備は既に整っている、と。
前世とはあまりにも違いすぎていて、私は驚きを隠せなかった。
結局、孤児院へは勉強をするためのノートやペンの筆記用具類、治療院へはガーゼやタオル類を寄付することに決めた。
私が家族や友達に贈り物をできるように、貯めたお小遣いの半分を残して。
前世では、家族で相談をして何かを決めたことはなかった。
今世で両親に関わるうちに、なんでも話せるようになったとは思っていたが、どこかで相談をすることは躊躇っていたのだと、自分でも気づかない感情を抱いたままだったことを認識する。
実際に、お父様とお母様と相談をしていて感じたことは、私の気持ちを尊重し、私のことを大切にしてくれている想いだった。
そんな両親に、これからは素直に相談していこうと思うと、なんだか心が温かくなった気がした。
ーーーそして現在。
今日は学園はお休みで、領民たちの早朝訓練の日だ。
いつもなら、公爵邸から真っ直ぐ、演習場が見渡せる2階のバルコニーへと向かうのだが、今日は演習場がある建物の外で待機している。
なぜなら、待人が来るからだ。
私の隣にはお父様、お父様の後ろにはカーティスも控えている。
すると、蹄の音が聞こえてきた。
早朝の時間ということもあり、蹄の音が周囲に響き渡る。
単騎ではない。
数騎の蹄の音とともに、待ち人の姿が見えてきた。
向こう側からも、私たちの姿が見えたようで、
「ク〜リ〜ス〜ティ〜ナ〜さ〜ま〜!!!」
蹄の音にも負けない大きな声が響き渡り、大きく手を振ってくれている。
「スカーレットさま〜!!」
私も大きな声で待ち人の名前を呼び、大きく手を振る。
そうなのだ。
待ち人とは、スカーレット様なのである。
ーーーー時は遡ること、1週間ほど前。
その日、学園の食堂でお昼ご飯を食べながら、ここ数日は同じ話題で盛り上がっていた。
『フレイム兄上、かっこよかったぞい〜!!』
『ねぇ!ものすご〜く、かっこよかった!』
つい先日、学園の剣術大会があり、中等部の優勝者がスカーレット様のお兄様であるフレイム様だったのだ。
白熱した決勝戦、観客の大歓声も凄かった。
あの時の余韻が、まだまだ残っているスカーレット様。今も頬を真っ赤に染めて、頭から湯気が出そうな勢いだ。
ーーーー剣術大会当日、私たち4人は並んで観戦したのだが、スカーレット様の隣には2番目のお兄様であるシャーマ様、モアナ様の隣にはお姉様でもありフレイム様の婚約者でもあるマリエ様が鎮座していた。
「フレイム兄上〜!!頑張れぞいです〜!!!」
「兄上〜!力を見せつけてくださ〜い!!」
グスタフソン兄妹の大声が響き渡る反対側からは、
「フレイム〜〜〜!!!やっておしまいなさ〜〜〜い!!!!」
「お姉さま、、うるさい」
マリエ様の大音量な美声と、モアナ様の呟きが繰り広げられていた。
「ふふっ!」
「ふふふっ」
2つの家族の姿を見て、私とミレーネ様は顔を見合わせて笑ったのだったーーーー。
あれから数日たったにも関わらず、スカーレット様の興奮は収まらない。
『孤児院の友達にも話したら、とても興味津々だったよ〜!』
『そうに決まってるぞい!ミルルにもザックにも見せたかったぞい!・・・んっ?そういえば、ミルルも領地の訓練に参加してるぞいか?』
『うん!参加してるよ!あっ.....でも、ミルルはまだ幼すぎて、木刀が持てないんだよね.....木刀が大きすぎて.....』
孤児院のザックやザイ、ダイたちが早朝訓練に参加してから何度目かの時、ミルルも付いてくるようになった。さすがにミルルは孤児院から演習場までは走って来られないため、ミルルが疲れたらザックたちが交代でおんぶして走ってきているらしい。
『ふむぞい!ふむぞい!幼い子供用の木刀がないってことぞいね!』
『そうなの!ザックは同じ年齢の子たちより体が大きいけど、それでもギリギリ持ててるって感じだもん!』
早朝訓練では、演習場に以前からある木刀を使っているため、幼い子供には大きすぎるのだ。それでもミルルは、目をキラキラさせながら訓練風景を目で追っている。走ったり体操したり、ムリがない範囲で体も動かしてはいるが。
『それなら、わたしが幼い頃に使っていたものがあるぞい!それを譲ってもいいか、父上に聞いてみるぞいよ!』
『えぇ〜!!いいの!?』
『幼い頃に使っていたものを、ずっと持っていても仕方ないぞい!』
『今だって、、幼い、、くせに』
『うっ!?もっともっと幼い頃ぞい!!』
ーーーーーそうして、今日に至る。
スカーレット様のお父様であるグスタフソン侯爵は、快く賛成してくれたそうだ。
私の友達とはいえ、侯爵家の令嬢がロバート公爵領の領民のために来てくれるのだから、こうして公爵領主であるお父様も出迎えようとしているわけである。
スカーレット様は1人で乗馬している。この年齢の女の子が1人で乗馬できるとは、さすがグスタフソン家である。
訓練服なのかズボン姿だ。前世では炎のように赤く長い髪をポニーテールにしていたが、今はそれよりも短い髪をポニーテールにしている。馬に揺られて、短いポニーテールがぴょこんぴょこんと揺れている姿が可愛らしいではないか。
3名の護衛の方が、スカーレット様を囲むように同行していた。
スカーレット様が私たちの前まで来ると下馬し、同行した護衛とともに胸に手を当て騎士の礼をとる。
すると、お父様がニコニコしながら、
「おはよう、スカーレット嬢。こんなに朝早くから来てくれて、ありがとう」
「ロバート公爵様!おはようございます!そして、お久しぶです!わたしも、朝は鍛錬で早くに目覚めますので、大丈夫です!!」
「それなら、よかった。みんな、スカーレット嬢が来てくれることを楽しみに待っていたんだよ」
「スカーレット様、おはよう!来てくれて、本当にありがとう!」
「クリスティナ様!おはようぞい!わたしも早く渡したくて楽しみにしていたぞい!!」
早速、語尾が砕けたスカーレット様。もし、ここにモアナ様がいたら鋭いツッコミを入れていただろう。
「ぷぷっ。さぁ、スカーレット嬢、演習場に案内するよ」
「はいっ!!」
お父様の案内で、スカーレット様や護衛の方とともに演習場へと向かう。実は、私も演習場の地面に足を着けるのは初めてなのだ。いつもバルコニーから見ているだけだったから。
演習場に到着すると、2階から見ている光景とは違う感覚となる。
すでに訓練を開始していたようだが、お父様やスカーレット様の姿を認めたためか、指導役である私兵団の騎士が号令をかける。
「集合!!!」
その場にいた私兵団の騎士たちは横一列に整列し、その後ろに訓練に参加していた領民たちがスカーレット様に目を向けながら「なんだ?なんだ?」と集まってくる。
全員が揃ったところでお父様が、
「みんな、おはよう!」
いつもより、大きく張りのある声を発する。
「「「おはようございます!!!」」」
「今日は、可愛らしいお客様が来てくれたんだ。こちらは、グスタフソン侯爵家のスカーレット嬢だ。私の娘クリスティナの友人でね。スカーレット嬢のお父上は、みんなが知っている第二騎士団長だよ。スカーレット嬢、我が公爵領の者たちに、声をかけてもらっても構わないかな?」
お父様がスカーレット様に優しく問いかけると、スカーレット様はニカっと笑いながら前へと出た。
そして、大きく息を吸って・・・、
「スカーレット・グスタフソンです!敬愛するロバート公爵領の訓練に参加できること、とても楽しみにしていました!!わたしも、騎士を目指しています!!!いっしょに頑張りましょう!!!!」
スカーレット様の大きな声が、演習場に響き渡る。
スカーレット様の後ろでは、護衛の方たちが直立不動のままだが、その目元は柔らかく穏やかな眼差しでスカーレット様を見守っている。
ーーーーーパチパチパチ
少し遅れて、驚いて呆けていた私兵団の騎士や領民たちが拍手を送る。
「えへへっ!」
照れ笑いをするスカーレット様。
そして、全員と簡単な自己紹介を終えると、
「クリスティナさま~!スカーレットさま~!!」
「クーしゃま~!しゅかれっしゃま~!!」
ザックがミルルを抱っこして駆け寄ってきた。
”スカーレット様”と、まだ発音できないミルルである。
「「ザック!ミルル!」」
私とスカーレット様は同時に彼らを呼び、私たちも2人に駆け寄る。
「ビックリしたぜ!!まさか、スカーレットさまがここに来るなんて思わなくて!」
「ミルルも!ミルルも!」
「スカーレット様!サプライズ、成功だね!」
「これが”サプライズ”っていうぞいね!2人にも会いたかったぞいよ!!」
「スカーレットさまも、訓練しに来たのか?」
「それもあるかもだけど・・・実は、スカーレット様がミルルに渡したいものがあるんだよね!」
「ミルルに?」
そして、ザックが抱っこしていたミルルを地面へと下ろす。
スカーレット様とミルルが向かい合うようになり、スカーレット様が腰につけていたものを引き抜き、それを両手に持つとミルルの目線に屈みこんだ。
「ミルルに、これを譲りたいんだぞい!」
「ちっちゃい・・・けん?」
「そうぞい!わたしがミルルの年齢の頃に、父上から貰ったものぞいよ!」
「しゅかれっしゃまのおとーさんからもらったもの、たいせつ・・・ミルルがもらっていいの?」
孤児院で暮らす子供たちは、理由は様々だが両親がいない。それを思い出したスカーレット様は、小さい木刀を俯いてしまったミルルに優しく握らせる。
「いいんだぞい!これは小さくて、もう使えないんだぞい!父上にも許可はもらったし、何より誰かに使い続けてもらったほうが、父上も嬉しいって言ってたぞい!だから、ミルルに使ってほしい!!」
その言葉に、涙目になって顔を上げたミルルは、
「しゅかれっしゃまも、しゅかれっしゃまのおとーさんも、ミルルがつかったら、うれしーの?」
「嬉しいぞい!これを使って、ミルルが騎士になったら、もっと嬉しいぞい!そうしたら、わたしは自慢するぞい!!」
「ミルルも、うれしー。あり.....が.....と.....ご.....じゃい.....ます.....」
とうとうミルルは、嬉しくて泣き出してしまった。父親からの愛を、受け取った気分なのだろう。
小さな木刀が、小さな涙で濡れていく。
そんなミルルを、スカーレット様は抱っこしてみたが、
「うっ!?思っていた以上に重いぞい・・・まだまだ鍛錬が足りないのだな!」
「ふふふっ!」
「あははっ!」
スカーレット様の悔しそうな言い方に、私もザックも笑ってしまう。
それを見ていたミルルも、
「きゃはは!」
流していた涙は止まり、ミルルも可笑しかったのか笑い始めた。
「むむっ!笑うなぞい~!!」
スカーレット様はミルルを抱っこしたまま、クルクル回り出した。
「きゃはは!きゃはは!」
ミルルの楽しそうな笑い声も、どんどん大きくなる。
「あんなに抱っこしたまま回れるなんて、スカーレットさま、やっぱ力あるな~」
ボソっと呟いたザックが可笑しくて、私も声をあげて笑ってしまったのだった。
その後、スカーレット様直々にミルルへ木刀の握り方や、幼い女の子向けの基礎体力向上や体幹トレーニング方法を教えていた。それらを、孤児院の兄たちであるザック、ザイ、ダイにも伝えている。
スカーレット様はザイとダイには初めて会うが、すでに意気投合していた。
スカーレット様がミルルへ授けた木刀は、ザックたちが使っている木刀の長さは半分で、とても軽い。私も持たせてもらったが、あまりの軽さに驚いてしまったくらいだ。徐々に重さを増やすのだそう。『私もミルルといっしょに訓練してみようかな』と思ったのは、まだまだ秘密である。
そして、柄の部分にはスカーレット様の髪色と同じ炎の色が塗られていた。どこを握るのか明確にするためだろうが、その色を選んだグスタフソン侯爵の娘への愛情が感じられた。
ミルルが疲れてしまったため私と休憩していると、お父様の指導でスカーレット様はザックと打ち合いをしていたが、いつのまにかザイやダイも加わっている。
私とミルルは、声を出して応援する。
「「がんばれー!!」」
朝日が燦々と降り注ぐ中、彼女、彼らの汗が光り輝いていた・・・・。
それぞれが、学園祭から帰宅した夜④
~ワグナー伯爵家編~
「ロバート公爵様から?」
ミレーネから、「学園祭でロバート公爵様にお会いして、お土産をいただきました」と差し出された紙袋を見て、ミレーネの父であるワグナー伯爵は、鳩が豆鉄砲を食ったような顔する。
娘のミレーネが、ロバート公爵令嬢と親しくさせていただいているのは知ってはいる。それだけでも身のすくむ思いなのに、そこにロバート公爵まで出てきてしまうとは、さらに身を縮めてしまう。
何度か夜会などでロバート公爵とお話させていただいたことはあるが、緊張のあまり変な話し方になっていないか心配した。ワグナー領の特産品について聞かれた気もするが、特大の緊張のせいで話の内容はあまり覚えていない。
だって、ただの公爵ではないから。リュベルト陛下の親友でもある公爵なのだから。
今は王宮勤めのワグナー伯爵は、身をもって知っている。
いつまでもミレーネに紙袋を持たせているのも悪いので、ミレーネから公爵様のお土産だという紙袋を恐る恐る受け取る。
「せっかくだから、あけてみようか」
「はい!家族で食べてほしいと仰っていました。あと、お父さまにもお世話になっているから、とも」
ワグナー伯爵は、頭を「?」にしながら、紙袋から長細い箱を取り出す。
「お世話?・・・あぁ!たしかに最近は、よく書庫管理室に来られているね。文献を探すお手伝いをしているくらいなんだけどね」
「それでも、公爵様のお手伝いをができるお父さまは凄いです!」
キラキラとした眼差しを娘から受けても、父は困る。
我が家は伯爵家といっても、北の大地に酪農を主とする田舎領地。先々代のリュバン王に助けられ、緑豊かな土地となり酪農が盛んにできるようになった領地だ。娘ミレーネの親しい友人は、ロバート公爵家だけでなく、代々騎士団長を務めあげるグスタフソン侯爵家、そして切れ者と評判のウェバー伯爵家である。親しい友人ができることは喜ばしいが、なんの取り柄もない我が家で娘が肩身の狭い思いをしているのではないかと、申し訳なくなってくる。
父は苦笑いしながら、細長い箱の蓋をあける。
「これは、お菓子ですか?」
「そうだね、チュロスというんだよ」
「初めて見ました!」
「庶民向けのお菓子だからね。学園のカフェテリアにあったはずだよ」
「ロバート公爵様が夫人との青春の味だ、と仰ってました。お父さまも食べていたのですか?」
「いや、僕はあまりカフェテリアには行ったことないんだ。ほとんど、昼休みも図書室に行っていたからね・・・」
「ふふふ、お父さまらしいですね」
「ミレーネは中等部になったら、たくさんカフェテリアに行ってみたほうがいいよ。知らない食べ物とか、まだまだあるだろうから。僕みたいに図書室で研究ばかりしてたら、貴重な学生生活がもったいないからね」
するとミレーネは、きょとんとした顔をする。
「お父さまが領地のために、たくさん研究してくれたから、美味しいものがたくさん生まれたのです。ミルクプリンなんて特に友達にも大好評でした!お父さまのおかげで、友達の嬉しい顔、笑った顔を増やせたのです!そんなお父さまを、やっぱり凄いと思います!」
父は娘がそう思ってくれているとは知らず、頭をかきながら照れてしまう。
「ありがとう、ミレーネ。さて、プレーン、チョコレート、シュガーだね。ミレーネはどれがいいかな?」
「ま、迷ってしまいますね・・・。お母さまとレベッカにも食べてもらいたかったな」
レベッカとは、知恵熱を出してしまい学園祭に来ることができなかったミレーネの妹である。
「好きな味を選んでいいんだよ」
実家では、いつも妹を優先するミレーネのため、こんな時くらいは自分を優先してもらいたいと願う父の想いを込めて。
「全部の味を食べたいです」
「へっ?」
まさかのミレーネの返答に、思わず変な声が出てしまう父。
「全部の味を食べるには、チュロスを細かく切ればいいと思うのです!そうすれば、わたしとお父さまだけでなく、みんなも食べられると思うので!」
ミレーネがここで言う”みんな”とは、ワグナー伯爵家にいる使用人たちのことだろう。ワグナー伯爵家は、もともと王立学園に通うため以外には王都のタウンハウスをあまり使用しないため、タウンハウス自体が小さい。そのため、使用人の数も少ないのである。
そうして、細かく切ったチュロスをお皿に綺麗に盛りつけて、ワグナー領産のホットミルクといっしょに、ミレーネは全部の味のチュロスを堪能しましたとさ。
使用人たちといっしょにチュロスを堪能するミレーネを見ながら、父は思う。
『娘は、やっぱり最高に優しい子だ・・・』 と。




