贈りもの
11月となり、少しずつ寒さも増してきた頃。
私は、公爵邸の自室にいた。
『そろそろ、あの時期ね・・・・』
そう思い、私は小さな木箱を持って執事のセバスチャンのもとへ向かった。
「お嬢様、どうされましたか?」
セバスチャンは、私の目線に合わせて屈んでくれる。
「あのね、実はお願いというか、相談があって.....」
「私に、でございますか?」
「うん。冬も近づいて寒くなってきたし、これで毛布とかを孤児院や治療院に・・・と思って」
私は、持っていた木箱をセバスチャンに差し出す。
「あけてみても、よろしいですか?」
「うん!」
セバスチャンは、受け取った木箱の蓋をあけた。
「これは・・・お嬢様のお小遣いでございますか?」
「そうだよ!貯めていたから、何かの役に立てたくて!」
「お嬢様は、孤児院や治療院に”寄付”をされたいということで、よろしいですか?」
「うん!」
すると、セバスチャンは木箱の蓋を閉じてニコッと優しい笑みを浮かべて、
「お嬢様。それでしたら、私ではなく、旦那様にご相談されるのが、よろしいかと存じますよ」
「お父様に?」
前世ではセバスチャンに任せていたため、お父様の名前が出て驚いてしまう。
「はい。お仕事のお話となってしまい申し訳ございませんが、少しお話させていただいても、よろしいですか?」
「うん!」
「ありがとうございます。では、寄付をされる場合なのですが、寄付をされた品物、その品物にかかった金額を、財務局に報告をする決まりがございます。何故、そのようなことをするのかと申しますと、寄付に使用した金額は、領地が国へ支払う税金が免除されます。そのため、本当は寄付をしていない者が、寄付をしたと嘘の報告をして、そのお金を自分のものにしてしまう者がいるかもしれない、からでございます」
「なるほど」
「そのため、寄付をするものがお金だったとしても、品物だったとしても、どのようなものを寄付されたのか、細かく、報告する必要があるのでございます。お嬢様が寄付される場合も同様に、ロバート公爵領として、領主である旦那様が報告する必要がございます。そのため、旦那様にご相談されたほうが、よろしいのではないかと、申し上げさせていただきました」
セバスチャンは、子供の姿の私にもわかりやすいように、ゆっくりと、丁寧に、説明してくれた。
「お父様に.....相談.....」
前世では、お父様に寄付の相談をしたことはなかったため、戸惑った声が出てしまう。
セバスチャンは、さらに優しい笑みを深めて、
「お嬢様、大丈夫ですよ。旦那様は、お嬢様のお考えに、耳を傾けてくださいますよ」
「そうかな.....」
「はい。絶対に大丈夫でございますよ。このセバスチャン、嘘は申しません」
前世の無知だった私は、寄付をした後のことは何も知らない。
王太子妃教育でも習わなかったからだ。
寄付について、領主であるお父様に報告義務があるならば、もしかしたら前世のお父様は知っていたのかもしれない。年齢が上がるにつれて、自分だけのために使いきれないほどのお小遣いをいただいていたが、それは寄付をしていることを知っていたからなのだろうか。
前世では、何も言わなかったお父様。
ーーーーーそんなお父様と、今世の私は話してみたい、とも思う。
「そうだね!お父様に直接、相談してみる!」
セバスチャンは、私の言葉に笑顔で頷いてくれたのだった。
ーーーその日の夜。
お父様は、仕事が長引いてしまったようで、夕食時間のあとに帰宅された。
お父様の帰宅をセバスチャンに教えてもらい、お父様の執務室へ木箱を持って向かう。
執務室の扉をノックして入室すると、お父様がしゃがんで両手を広げていた。
「ティナ!ただいま!」
「お父様!おかえりなさい!」
私はお父様のもとへ駆け寄ったが、両手で木箱を持っているため抱きつくことができず、お父様の目の前で立ち止まる。
「ティナ?んっ.....その箱は?もしかして、セバスチャンからティナが相談したいことがあると聞いたけど、それかな?」
「うん!」
「そうか。そうか。それじゃ、ソファに座ろう」
「はい!」
私とお父様は、隣同士にソファに座る。
私はお父様のほうに体を向けて、私の想いが伝わるように、しっかりとお父様の目を見た。
「それで、どんな相談かな?」
「実は......これからの真冬に備えて、孤児院や治療院に毛布などを寄付したいと考えたのです!それで、こちらから使えないかと!」
私は、普段より丁寧な言葉で、でも子供らしく元気よく話しながら、お父様に木箱を差し出した。
お父様も私のほうに体を向けて、木箱を受け取る。
「あけてもいいのか?」
「どうぞ!」
お父様が木箱の蓋をあけると、
「これは.....ティナのお小遣い?」
「はい!いただいたお小遣いを貯めました!何かのお役に立てたくて!」
「ふむふむ。ティナは、どのくらい寄付に回したいと考えてるんだい?」
「えっ?全部?です」
お父様は、私の言葉に目を丸くしたあと、優しく微笑んで、優しい声色で私の名前を呼んだ。
「ティナ」
「はい!」
「ティナが誰かのために役に立ちたいという気持ちは素晴らしいよ。だけどね、このお小遣いは、確かに父親である俺があげたものだけど、これにはティナが努力した対価も入ってるんだ」
「努力した対価?」
「そうだよ。ティナは公爵領の領民のために、たくさんの努力をしているんだよ?課外授業や孤児院への訪問。それらがあったから、領民への剣術訓練にも繋がったんだ。ティナは”努力した”という感覚はないかもしれないが、その努力の、頑張りへのご褒美でもあるんだよ」
「えへへっ、なんだか恥ずかしいです」
私は、自分の頬が熱くなっていくのを感じる。
「かわいいな、ティナは」
そう言ったお父様は、私の頭を撫でながら言葉を続けた。
「ティナは、自分で努力して掴んだお金で、お友達の誕生日プレゼントとか、あげたくはないかな?」
「あっ.....誕生日.....プレゼント」
「そうだよ?お友達への贈り物や、生まれてくる弟妹への贈り物、アリアナへの贈り物だって選べるんだ。俺もティナからの贈り物、ほしいな〜」
「!?」
今までの私は、”贈り物をする”、という発想がなかった。
前世では、誰かの誕生日を祝ったこともなければ、自分の誕生日ですら贈り物をもらったことは、ほとんどない。
私から贈り物を準備した時はあったけど、それは渡せないままだったから。
だから、贈ることすら諦めたのだ・・・・。
ーーーーだけど、今世は違う。
ミレーネ様、スカーレット様、モアナ様。
贈りたい友達がいる。
お父様、お母様、これから生まれてくる弟妹。
贈りたい家族がいる。
「私.....贈り物、したいな......」
「ぷぷっ、そうだろ?ティナが寄付をしたい気持ちは尊重するよ。だから、この貯めたお小遣いのどれくらい寄付に回すかは、いっしょに相談しよう?」
「はい!」
「それじゃあ、今日は遅いから明日にしよっか」
「はい!ありがとうございます!お父様!」
私はお父様に抱きついて、お父様は木箱をテーブルに置いてから、私を抱きしめてくれた。
「おやすみなさい!お父様!」
「おやすみ、かわいいティナ。いい夢を」
ーーーーーそして、夫婦の寝室。
「ーーーティナが?」
「そうなんだよ。貯めた小遣いを全て、寄付に使いたいって。でも、家族や友達に贈り物をしたい時が来るかもよ?って、聞いてみたんだ。プレゼントのことは考えたことがなかったみたいで、考え直してたけどね」
「そう.....それで夕食の時に、なんだかソワソワしていたのね。去年、ティナの誕生日のお祝いができなかったから.....プレゼントのことを忘れさせてしまうなんて、とても可哀想なことをしてしまったわ」
「あぁ.....そうだったな.....今年は、盛大にお祝いしよう。去年の分まで」
「そうね.....誕生日は、楽しい思い出にしてほしいもの」
そうして、アリアナは一段と大きくなったオナカをさすりながら、
「あなたのお姉ちゃんは、とても優しいの。領民のために頑張っているのよ」
すると、
「あっ!蹴ったわ!!」
「本当に!?」
そして、グレイソンもアリアナのオナカに触れてみる。
「あっ!本当だ!元気だな〜」
「ふふふっ、この子はお姉ちゃんのことが好きなのね〜!ティナの話をすると、いつも蹴るのよ!」
グレイソンはオナカをさすりながら、
「お姉ちゃんのティナはね、本当に可愛いんだ。そして、とても優しい。きっと、君の自慢のお姉ちゃんになるよ」
グレイソンもオナカの子に話しかけると、
「ほら!蹴ったわ!!」
「蹴った!蹴った!すでに、ティナのことが大好きなんだな〜」
こうして、グレイソンとアリアナは、クリスティナのことをオナカの子に話しかけながら、オナカの子が蹴る様子を堪能して、ロバート公爵家の夜は更けていった・・・・。
それぞれが、学園祭から帰宅した夜③
〜ウェバー伯爵家編〜
「はう!?なんですって〜〜〜!!ロバート公爵様からのお土産ですって!?」
「お姉さま、、うるさい、、あけるよ」
「あら〜!ロバート公爵様も粋なことしてくれるわね〜!!私も会いたかったわ〜!!!」
ウェバー家の女性陣が騒々しいのは、いつもの光景である。モアナの父であるウェバー伯爵は、妻カイラ、長女マリエ、次女モアナを順に見る。
「これ、、お菓子?」
「あらっ!チュロスよ!!」
「公爵様と、、公爵夫人の、、青春の、、味、、って、、言ってた」
「キャ〜!チュロスが青春の味なのね〜!!」
「生徒会でよく食べたものね〜!ねっ、あなた!?」
「あぁ.....。しかし、私もチュロスを贈ったぞ」
「あらっ!?お父様はプレーンを2本だけだったじゃない!公爵様は5本もあるし、3種類の味があるわよ!!そこが、お父様と違うのよ〜!!!」
「うぐっ」
夏休み、モアナが公爵邸へ行った時に持たせたチュロスは、ウェバー伯爵がマリエに頼んで中等部のカフェテリアで買ってきてもらった。マリエは、父の頼みだから引き受けたのではなく、ロバート公爵夫婦に贈るものと聞いたから、喜んで引き受けたのだ。
財務官として恐れられているウェバー伯爵だが、家では女性陣に頭が上がらない、尻に敷かれている父である。
「わたし、、チョコが、、いい」
「私は、ロバート公爵家の青春の味!プレーンにするわ〜!!」
「私も久しぶりに、チョコにしようかしら!」
「私も生徒会に入ろうかな!?フレイムも入っているし!ロバート公爵様と夫人の青春を、私も謳歌したいわ〜!!」
「あらっ!いいじゃない!!屋上庭園もあって楽しいわよ〜!!!」
ウェバー伯爵は、先ほどのマリエの言葉が突き刺さり、胸を押さえたままだ。
「はい、、お父様」
すると、モアナが砂糖をまぶしているチュロスを父へ渡そうとする。
「・・・え?」
「え?じゃないわよ!可愛いモアナが!!せっかく渡してくれているのに!!!お父様、甘いの好きでしょ!?」
「あなた、本当はシュガーが好きなのに、生徒会の時は砂糖が書類に溢れてしまうから、いつも我慢してたのよね〜!懐かしいわ〜!!」
「あ、ありがとう」
「チュロス、、おいしいね」
モアナからシュガー味のチュロスを受け取り、父は思う。
『なんだかんだ、ちゃんと父のことも見ていてくれてるのだな』
と、甘いシュガー味のチュロスを口にしたのだった。
残った1本のプレーン味は、家族全員が「モアナが食べていいよ」と譲ってくれたため、次の日にモアナがニマニマしながら美味しくいただきましたとさ。




