初等部1年生の学園祭⑤
”大切なこと”とは。
”信じること”とは。
それに気づいたクリスティナ。
学園祭も終盤です。
よろしくお願いします!
小講堂から中等部のクラス屋台のほうへと戻り、フレイム様とシャーマ様と別れて初等部の校舎へ戻ろうと歩いていると、
「ティナ!」
「お父様!!」
たくさんの荷物を抱えたお父様が駆け寄ってきた。
「「クリスティナさま〜!!」」
「「クーしゃま〜!!」」
お父様の後ろから、孤児院のザック、ロラ、チロ、ミルルも走ってくる。
「みんなも来てたんだ〜!」
「こうしゃく様が乗り合い馬車を出してくれたんだぜ!」
「今日、来れなかった子のために、こうしゃく様がお土産のお菓子を買ってくれたの!」
「がくえん!しゅごい!」
「たのちいの!いっぱい!」
「はははっ!久しぶりの学園だから、俺も楽しくなっちゃってね。アリアナにも頼まれていたから、屋台やらカフェテリアでいっぱい買ってしまったよ.....おや?もしかして、そちらはティナのお友達?」
「そうなの!お父様は、まだ会ったことがなかったもんね!」
そこで友人のほうを向くと、3人とも顔をポカーンとさせて、お父様を見ていた。突然の公爵家当主の登場で驚いているのだろうか。
「こちらから、ミレーネ様、スカーレット様、モアナ様だよ!」
私が3人を紹介すると、最初にハッと我に返ったのはスカーレット様だった。
「ロ、ロ、ロバート公爵にご挨拶を申し上げます!グスタフソン侯爵が長女、スカーレット・グスタフソンと申します!!クリスティナ様とは仲良くさせていただいてます!!!」
少し噛んでしまったスカーレット様が騎士の礼をとると、続いてモアナ様とミレーネ様がカーテシーをする。
「ウェバー伯爵が、、次女、、モアナ・ウェバー、、と申します。ロバート公爵、、お会いできて、、光栄です」
「ワグナー伯爵が長女、ミレーネ・ワグナーと申します......。クリスティナ様には、大変良くしていただいております」
「クリスティナの父のグレイソン・ロバートだ。さぁ、ティナの可愛いお友達、顔をあげていいよ。やっとティナのお友達に会えて、俺は嬉しいよ」
顔をあげた3人は、お父様の言葉に恥ずかしそうに笑っている。
「すげー。おきぞく様のあいさつだよ」
「なかなか見れないもんね。みなさん、かわいい」
「かわいい!かわいい!」
「ミルルもする!」
お父様の後ろから、ヒソヒソとザックたちの声が聞こえる。
お父様が後ろを振り返り、
「さぁ、君たちも前においで」
「「えっ!?」」
ザックとロラが驚きながら前に出され、あまり状況を理解していないチロとミルルはニコニコしながら前へと出る。
「この子たちはね、我が公爵領にある施設の子供たちなんだけど、今日は社会見学も兼ねて連れてきたんだ。ザック、ロラ、チロ、ミルルだよ。よろしくね」
「ザックとロラは私たちと同じ年で、チロとミルルは4才なんだよ」
「ということはぞいよ?クリスティナ様が課外授業をしてるっていう.....」
「そうだよ!」
「なんと!会ってみたかったぞい!わたしは、スカーレット・グスタフソンぞい!スカーレットと呼んでぞい!!」
スカーレット様が、ザックから順番に握手を求める。
貴族の令嬢から握手を求められたザックとロラは、「ザックです.....」とか、「ロラです.....」と、目を点にしながら小声で答えているのに対し、チロとミルルは「キャッ!キャッ!」言いながら喜んでいる。
「クリスティナ様と友達なら、わたしにとっても大事な友達だぞい!みんな、今日から仲間だぞい!!」
「スカーレット、、みんな、、ビックリ、、してる。わたしはモアナ、、よろしくね」
「わたしはミレーネです。クリスティナ様から課外授業のこと聞いていたから、わたしも会ってみたかったの」
「みんなね、課外授業も剣術も頑張ってるの!」
「あの....発言しても....いいですか?」
「ロラ、どうしたの?もちろん、いいよ!」
ロラが緊張した面持ちで言葉を紡ぐ。
「もしかして.....モアナ様は白いプリン、スカーレット様は赤いバーベナ、ミレーネ様は青いカンパニュラの刺繍ですか?」
「大正解よ!!」
「やっぱり!クリスティナ様のクラスも見に行って、モアナ様の白いプリンは本物みたいで美味しそうだったし、スカーレット様の赤いバーベナは力強くて、ミレーネ様の青いカンパニュラはカワイイから覚えてたんです」
「あっ、あのプリンか。たしかに、うまそうだったよな〜」
「おいしそう!おいしそう!」
「お花もキレイ!キレイ!」
「どうして、、わたしたちのって、、わかったの?」
「あっ、刺繍の前に置いてある名札を見たんです」
モアナ様とミレーネ様が驚いた様子だったが、
「名前も覚えてるなんて、すごいぞい!」
スカーレット様の言葉にモアナ様とミレーネ様も、うんうん頷いている。
きっと、孤児院の子供たちが字を読めることも、それを覚えている記憶力にも驚いたのだろう。
真剣に勉強を励んでいるし、とくにロラは覚えも早くて優秀だ。今まで、学べる環境がなかっただけなのだ。
私は、なんだか誇らしい気持ちになり、
「みんな、凄いでしょ?それにね、みんなと一緒に勉強するのも楽しいんだ!」
「たのちい!たのちい!」
「わたしも課外授業に行ってみたいな」
と、ミレーネ様が言うとミルルが、
「剣もたのちいよ!」
「剣ぞいか?」
スカーレット様が目を丸くする。
「ミルルはね騎士になりたいんだよね!ミルル、前に話した騎士を目指している女の子のお友達は、スカーレット様のことだよ」
ミルルは、スカーレット様のことをキラキラした瞳で見上げる。
「しゅごい!」
すると、スカーレット様がミルルの視線に合わせるように屈んだ。
「剣を持つと、このように手がタコだらけになるぞい?このカワイイお手手に傷がつくぞいよ?」
そうしてスカーレット様は、自分の掌をミルルに見せる。
するとミルルは、スカーレット様の掌を撫でながら、
「これは、がんばってる手でしゅ!いっしょーけんめー、がんばってる人の手でしゅ!いんちょーせんせーも、ねーちゃんもにーちゃんも、この手でしゅ!ミルルも、いっしょーけんめー!この手になりたいでしゅ!」
「チロも!」
チロもミルルの真似をして、スカーレット様の掌を撫で始めた。
スカーレット様は、目を大きく見開く。
「そうぞいね....そうぞいよ.....一生懸命に頑張っている証ぞいよ!忘れていたぞい!ありがとう!ミルル!チロ!いっしょに騎士になろうぞい!!」
「「うん!!」」
もしかしてスカーレット様は、フレイム様のクラスメイトに言われたことを、本当は気にしていたのかもしれない。あの時は、微塵も気にしているようには見えなかったのに・・・。
「オレも騎士になるぞ!」
そこへザックが参戦する。
「そうぞいか!よし!ぜひ、手合わせしようぞい!」
「えっ!?」
「「ふふふっ!!」」
スカーレット様とザックの会話に、みんなが笑い合う。
それまで、私たちの会話を温かく見守っていたお父様が、
「そろそろ、他の子たちとも合流して帰らないとね」
「他にも来ているの?」
「うん!ザイ兄ちゃんとダイ兄ちゃんとココ姉ちゃん!いま、カーティス兄ちゃんといっしょに高等部のほうに行ってるんだ!」
「高等部の騎士科の人と、第三騎士団の警備隊の人で、模擬試合をするからって、見に行ったの」
「警備隊との模擬試合!?それは見たいぞいね!」
「あー、そろそろ終わるころじゃね?」
「がびーん、だぞい.....」
「スカーレット、、いつも、、第二騎士団、、見てる、、でしょ」
彼らが仲良く話しているのを微笑ましく眺めていると、
「ティナは何時までだい?そろそろ帰るなら、いっしょに帰ろう」
「うん!これから一度、教室に戻って点呼をとったら終わりなの!」
「それじゃあ、馬車の待機場で待ってるよ。いっしょに帰れるなんて、滅多にないことだからね。では・・・ティナの可愛いお友達に、俺からお土産を」
そう言ったお父様は、たくさん抱えていた荷物の中から同じ大きさの紙袋を、学園の友人たちへ渡していく。
「ありがたき幸せ!ありがとうございます!!」
「ありがとう、、ございます」
「あ、あ、あり、ありがとうございます.....」
お父様はニッコリと笑いながら、
「それは、俺と妻の青春の味なんだ。ご家族で食べてくれたら嬉しいな。みんなのお父上にも、世話になってるからね。これからも、ティナをよろしくね」
「「「はいっ!!!」」」
一旦、お父様たちとは別れて、私たちは初等部の教室へと戻ってきた。
「ロバート公爵にお会いするなんて、ビックリだったぞい!」
「うん、、あんなに、、気さくな方で、、ビックリ、、した」
「孤児院の子供たちをご自分で連れてくるなんて、クリスティナ様のお父様は素晴らしい方だわ」
「しかも、イケメンだぞい!」
「同感です」
「帰ったら、、自慢、、しなきゃ」
そんな3人の会話を、私は隣で笑いながら聞いていた。
『お父様は、まだ20代後半だからね。これから、もっとイケオジになるわよ』
そして、馬車の待機場では約束通り、お父様が待っていた。カーティスの姿は見えないため、孤児院の子供たちといっしょに帰ったのだろう。
向かい合わせに座ったお父様に、
「お母様のお土産に何を買ったの?」
身重のため学園祭に来られなくて、残念がられていたお母様。
「ほとんどが、俺とアリアナが学生の頃に食べていたお菓子だよ。食べたことのない新しいメニューもあったから、それも買ってみたけどね。どんなものかは帰ってからのお楽しみだ!」
「うん!」
「そういえば、アリアナが作ってくれたサンドイッチ、最近は食べてないよなぁ。あのソースが美味しいんだよ。そうだ!ティナの弟妹が生まれたら、アリアナにサンドイッチを作ってもらって、みんなでピクニックに行こう!」
「わぁ!嬉しい!行きたい!行きたい!」
ピクニックは、ここ数年行っていない。
以前、お母様がお弁当を作ってくれたような気もするが、幼すぎてお弁当の内容まで覚えていなかった。
家族4人でピクニックに行ったら・・・・あれもしたい、これもしたいと、お父様と妄想しながら、お母様が待つ公爵邸へと帰ったのである。
それぞれが、学園祭から帰宅した夜①
〜グスタフソン侯爵家編〜
「この長細いのは、なんぞい?」
「チュロス、という菓子だな」
スカーレットの問いに、父であるグスタフソン侯爵が答える。
「私が学生の頃は、学園のカフェテリアに置いてある菓子のなかで、一番人気があったな」
「父上、今でも人気があります」
中等部からカフェテリアがあるため、長男フレイムは知っているのだろう。
「生徒会では、いつもプレーンを食べていたな」
グスタフソン侯爵は、懐かしそうに笑みを深める。
「でしたら、わたしはプレーンが食べたいぞいです!」
「じゃあ、俺はチョコ〜」
スカーレットと次男シャーマが、それぞれ手を伸ばす。
「父上は、プレーン、チョコレート、シュガー、どちらがよろしいですか?」
「そうだな.....やはり、プレーンか」
「では、私はチョコレートを」
そして、チュロスは残り1本。
グレイソンが持たせたお土産は、プレーン味2本、チョコレート味2本、砂糖がまぶしているシュガーが1本の、計5本のチュロスだった。
「誰も食べないなら、俺がもらっちゃおうっと〜」
「あっ!シャーマ兄上、ダメですぞい!これは、わたしがもらってきたんですぞい!!」
スカーレットとシャーマが、最後の1本を取り合い始めた。
そこへ、フレイムが助け舟を出す。
「こらこら2人とも、取り合いしない。半分にして食べたらどうだ?」
「なるほど」という顔をしたスカーレットとシャーマは、フレイムが半分にしてくれた砂糖がまぶしてあるチュロスを受け取る。
『やれやれ、手の焼ける弟と妹だ』と、心の中で呟いたフレイムだったが、この後の2人の行動に目を見張る。
スカーレットもシャーマも、受け取ったチュロスをさらに半分に折ったのだ。
「はい!父上!」
「はい、兄上」
スカーレットが父へ、シャーマがフレイムへ、さらに半分に折ったチュロスを渡す。
「みんなで半分こ、ですぞい!」
それを受け取った、父と兄は思う。
『『なんだかんだ、優しく育ってくれた・・・』』と。




