※グレイソンとアリアナの青春時代5⃣
若かりし頃のグレイソンとアリアナが、出逢いから婚約に至るまでのお話。
最終話です!
よろしくお願いします!
ーーーそれから、1週間後。
なんの前触れもなく、アリアナが生活する寮に客人が来訪してきた。
客人は、アリアナの叔父だと名乗った。
アリアナの父の弟で、父とは昔から仲が悪く、絶縁状態だったらしい。
アリアナは叔父の存在を知らなかった。
祖母も、叔父のことを話したことはない。
それでも、叔父だと信じることができたのは、祖母の顔と叔父が瓜二つだったからだ。
叔父がアリアナに会いにきた理由は、叔父が領主代理になるためであった。
領主である父が、領民に対して不正に税金を値上げして、父の懐に入れていたこと、それに義母も加担しており、さらに両親は隣の領地アンヘルで詐欺未遂で捕まった。
いま、両親は貴人の塔へ幽閉されているが、爵位剥奪は免れないだろうと。
そのため、フォンターナ侯爵はアリアナの弟が継ぐことになるが、弟はまだ未成年のため叔父が後見人となり、弟が学園を卒業するまでは叔父が領主代理を務めるという。
不幸中の幸いだったのは、弟はまともに育っているということだった。
むしろ弟は以前から、いつか両親がこうなるのではないかと、心配していたそうだ。
会ったことはない弟だが、まともに育っていてよかったとアリアナは思う。
これから、学園が長期休暇となる時は、弟は侯爵領に帰省して、叔父といっしょに領主の勉強をするらしい。
”いっしょに”と言うところが、叔父の人柄を表しているように思えた。
「僕も、領主になるための勉強を全てしてきたわけではないから、いっしょに勉強しないとね。フォンターナに助力してくれるという、奇特な方が声を掛けてくれたんだよ」
と、叔父は朗らかに笑う。
その奇特な方が叔父を探し出して、フォンターナ侯爵家の危機を教えたのだそうだ。
そして叔父はアリアナに、「とても苦労をかけて申し訳なかった」と謝り、森に住む祖母も侯爵家に戻って叔父といっしょに住めるように準備を進めていると聞き、アリアナは心優しい祖母に想いを馳せ、嬉しく思う。
叔父は最後に、
「君の周囲には素晴らしい人たちがいるようで安心だよ。アリアナ、これからは侯爵令嬢として堂々と生きていいんだよ。僕も、アリアナの味方の1人に加えさせておくれ」
ーーー叔父が帰ったあと、アリアナは1人で物思いに耽る。
”侯爵令嬢として堂々と生きていい”、という叔父の言葉。
アリアナは、遅くても学園を卒業したら貴族籍を抜けて平民になるつもりでいたため、その準備を着々と進めてきた。
そもそも、そうしようと決めたのも、アリアナの父と義母が理由だった。
その両親がいない今、侯爵家の一員として生きていいのだ。
だからといって、そう考えたことがないアリアナは非常に困る。
どうしたらいいのか、どうしたいのか。
すぐに答えを出すのは難しいと判断したアリアナは、考えるのを一旦放棄した。
祖母の口癖だった、「ケセラセラ〜なるようになる〜」
その言葉を呟いて。
ーーーーー学業に加え、剣術大会に向けての生徒会の準備や、公爵領の孤児院での仕事で忙しく過ごしていると、悩むヒマもなかった。
そして、剣術大会の当日まであっという間に過ぎ去った。
剣術大会当日、生徒会は主催者として、よく見渡せる関係者席に座ることができる。
アリアナは、ウェバー先輩やカイラ先輩たち生徒会メンバーといっしょに関係者席へと着席する。
高等部の試合となると、中等部とは比べるまでもなく凄まじい迫力だ。体格も大きくなり、技やスピードも洗練されたものとなる。
高等部の試合が進むにつれ、会場の熱気も声援も膨れ上がった。
ーーー高等部決勝戦。
やはり、グレイソンとリュベルトだ。
1年生同士の決勝戦でも、もはや誰も驚きはしない。
グレイソンもリュベルトも、中等部の時より背は伸びたが、どこか少年の顔つきをしている2人だ。
試合開始とともに、会場の熱気はさらに膨れ上がり、とくに男子生徒の野太い声援が、あちらこちらから響いている。
アリアナはグレイソンを見つめ続けていると、グレイソンの動きがいつもと違うことに気づく。
何が?と聞かれてしまうと上手く説明できないが、いつもはリュベルトとの試合を楽しむだけの笑みを浮かべているが、今日はリュベルトを見る目が真剣な眼差しをしているように見える。
一方その頃、鍔迫り合い中のグレイソンとリュベルトはというと・・・・。
「へぇ〜。グレイ、本気だね」
「今日は、ただ楽しむわけにはいかないからな」
「なるほどね〜。勝たせてあげたいのは山々なんだけど、僕もカワイイ婚約者が見に来てくれてるから、負けるわけにはいかないんだよね〜」
「望むところだ」
お互いにニヤッと不敵に笑い合い、同時に飛び退いて体勢を整える。
そこから攻撃を繰り出すまで、お互いに早かった。
アリアナの目には追いつけないほどのスピードで、2人の試合は繰り広げられていく。
アリアナにわかることは、ただ一つ。
グレイソンが本気だということ。
本気で戦っているということ。
アリアナは、両手を胸の前で強く握り合わせ、グレイソンの名を叫ぶ。
会場は、鼓膜を震わせるほどの大歓声だ。
辺りを砂が舞い踊る。
ただただ、グレイソンを見失うまいと、目を追いかけるアリアナ。
最後は、いつも飄々としているリュベルトが、どこにそんな力があるのかと思わせるほどの一撃を、グレイソンへと放つ。
グレイソンは吹き飛ばされ、地面に仰向けで倒れた。
一瞬の出来事だった。
大歓声に包まれていた会場は、嘘のように静まり返る。
「フハッ」
大の字に倒れたまま、グレイソンは笑ってしまう。
その瞳には、どこまでも広がる青空が映っている。
そこへ、青空と同じ目の色をしたリュベルトが覗き込んできた。
「いや〜、よく飛んだね〜」
「あぁ、笑いしか出てこない。くくっ、本気でやって負けても、こんなに清々しいもんなんだな」
「僕も、こんなに清々しい気分は初めてだよ。たまには、本気でやるのも悪くないね〜。グレイ、ほらっ」
そう言ったリュベルトが、グレイソンへと手を差し伸べる。
負けたはずなのに清々しい顔をしたグレイソンは、そのまま迷わずにリュベルトの手を握り立ち上がった。
そして2人は、改めてガシッと握手を交わし、騎士の礼をとる。
とても、眩い姿で礼をとる2人。
すると、静まり返っていた会場から、少しずつ拍手が湧き起こる。
それは、どんどん大きく連鎖していき、歓声も徐々に増えてくる。
あっという間に、拍手と歓声の嵐。
剣術大会の歴史に残る、それはそれは圧巻のスタンディングオベーションであった・・・・。
ーーーーー剣術大会、決勝戦のあと。
グレイソンとアリアナは、生徒会室から続く屋上庭園に来ていた。
屋上庭園は、いつか見た夕陽と同じように、花も木も王都も橙色に染め、王都の街並みを2人で眺める。
「お疲れさま!本当に凄かったわ!カイラ先輩は想像がつくと思うけど、ウェバー先輩の騒ぎようったら!両手を挙げての大声援よ!グレイソン、本当に格好よかった!」
「あはは!あのウェバー先輩が!?それは見たかったな!」
「でしょ〜!?本当に見せてあげたかったわ!それに......」
アリアナが少し言い淀む。
「んっ?」
グレイソンが聞き返すと、アリアナは照れながらも顔をそらしてボソッと教えてくれる。
「グレイソンが......本気で戦ってくれたのが、1番嬉しかった」
『あぁ、やっぱりアリアナは、公爵家嫡男でもなく王太子の友達でもなく、俺自身を見ててくれるんだな』
そう改めて思いながら、顔をそらしたままのアリアナを見つめて、ずっと胸にしまっていた言葉たちを伝える時がきた。
「本当は......勝って、もっと格好よく言いたかったんだけどなぁ......」
「えっ......?」
不思議に思ったアリアナは、目をパチパチさせてグレイソンへ顔を向けると、微笑みながらアリアナを見つめているグレイソンと目が合う。
その微笑みは反則だ。
これでもかというほど優しい顔をして、薄い金色の髪が夕陽に輝いているせいか、見たことはないが『天使様だ』と思えるほどの清廉された姿。
アリアナは、胸の高鳴りを止められなかった。
「本気で戦えたのは、アリアナ、君のおかげだよ」
「わ....たし?」
「うん、そうだよ。戦えたことも、本気で何かを成し遂げたいと思ったことも、本気で何かを手に入れたいと思ったことも、全て、アリアナがいてくれたからだよ。アリアナが全部、俺に”初めて”を教えてくれたんだ」
グレイソンは、アリアナに向けて跪き、右手を左胸に置いて言葉を続ける。
「アリアナにとっての”初めて”も、俺であってほしい。エスコートするのも、アリアナに触れるのも、全ての”初めて”を俺は欲しい。将来は、俺の妻として隣にいてほしいと願う。そして俺と.....婚約しても結婚しても、私、グレイソン・ロバートの”永遠の恋人”でいてくれないだろうか?」
そしてグレイソンは、上着から小さくて白い箱を取り出し、その蓋をあけてみせる。
それは・・・指輪だった。
その指輪には、エメラルドとアクアマリンの宝石が品良く装飾されている。
宝石は小さくて、決して華美ではない。
それでも、エメラルドとアクアマリンの輝きは、”美しい”、その一言であった。
「私で......本当に、私でいいの?侯爵令嬢として生きてこなかった私なんかで......」
「”なんか”じゃない。君がいいんだ。アリアナじゃなきゃダメなんだ。アリアナ......あなたを愛している」
アリアナは、信じられなくて、でも嬉しくて恥ずかしくて。
もう、その瞳から流れる涙を止められなかった。
『ねっ?なるようになったでしょ?』と、祖母が笑って言ってくれているような気さえする。
「はい......私、アリアナ・フォンターナは、グレイソン・ロバートの......”永遠の恋人”になります....」
アリアナの返事を聞いたグレイソンは、目を見開いたあと泣きそうにして笑う。
そして、アリアナの左手の薬指に指輪を嵌めてあげた。
「本当にありがとう」
そのまま、2人は抱きしめ合う。
夕陽に照らされたお互いの顔を見つめ合いながら、どちらからともなく唇が重なる。
それは、まぎれもなく2人にとって”初めて”の口づけであった。
抱きしめ合ったまま、アリアナは言葉を紡ぐ。
「大好き......グレイソン。今日は、私にとって最高の日よ」
「くくっ、俺もだよ。まぁ、俺は大好き以上に、”愛してる”、けどね」
「!?なっ!?わ、私だって、あ、あ、愛してるわよ!!」
アリアナの大きな叫び声と、グレイソンの大きな笑い声が、夕陽の空に響き渡る。
こうして、グレイソンとアリアナの婚約は結ばれた・・・・。
ーーーーーその後、開催されたデビュタントの舞踏会においても、グレイソンにエスコートされたアリアナは、婚約者として堂々と出席したのでした。
以上、『グレイソンとアリアナの青春時代』でした。
筆者の妄想が止まらず、あれも!これも!となってしまい、当初の予定より長くなってしまいました......。
お付き合いくださり、ありがとうございました(*'ω'*)
ちなみに、アリアナのデビュタント用のドレスやネックレス、イヤリング、靴など、全て当然のごとくグレイソンが準備をして贈ったものですが、試着をした覚えのないアリアナは『なぜ、こんなにも自分のサイズにピッタリなんだ?』と、不思議に思います。
それをグレイソンに聞いてみると、アリアナと仲良しの友人である商会の娘に依頼したのだと教えてくれました。
その友人も寮にいっしょに生活しており、そういえばグレイソンと婚約が決まる頃に、その友人がアリアナの寮の部屋に突撃してきて、「商会で売り出すドレスの戦略を考えたいから試着してほしい」と頼まれ、着せ替え人形のごとく何十着も着たことを思い出しました。
きっと、あの時にサイズを測ったんだと思い至ります。
そして何より、グレイソンがアリアナの友人の商会を選んでくれたことにも感謝しました。
公爵家なら、懇意にしている大店があるだろうに・・・。
友人の商会は、品質も良く値段も適正価格で、これから大きくなるであろう商会だとアリアナは思っていました。
アリアナは、グレイソンに惚れ直しちゃいましたとさッ☆彡
さてさて、次回は執事セバスチャン目線をお届けします!
クリスティナ本編まで、もう少しおまちください!('◇')ゞ
セバスチャン目線で、少しずつ前世の謎が解けるかも!?です('◇')ゞ




