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天使のほほえみ  作者: L
38/72

※グレイソンとアリアナの青春時代2⃣




ーーー誰だ?グレイソン・ロバートが冷静とかなんとか言ったのは?






 あの日から、学園のお昼休みは、グレイソンもアリアナといっしょに木の上で過ごすようになっていた。


 毎日までとはいかないが、リュベルト王子が学園を休む日には必ずグレイソンは現れる。


 リュベルト王子は、あれから正式に立太子されることが決まり、さらに隣国の王女と婚約を結ばれることも決まったため、それらの準備で忙しくされているらしい。



「リュベルトのストレス発散のために、王宮に呼び出されるのは勘弁してほしいよね~」



 ケラケラ笑いながら愚痴をこぼしているのは、ロバート公爵家嫡男のグレイソンだ。


 ”勘弁してほしい”と言いながらも表情は緩んでいることから、友人でもあるリュベルト王子の立太子と婚約を心から喜んでいるのだろう。






ーーーーー秋も深まり、初冬を迎える頃。



 今日も、グレイソンはアリアナのいる木に登ってきた。


 最近では、グレイソンも公爵家からお弁当を持ってきて、アリアナが作ったお弁当と交換して食べている。


 アリアナは、公爵家の料理人が作ったお弁当を食べることに最初は恐縮しっぱなしであったが、これほど豪勢なお弁当を食べられることもないし、グレイソンが「アリアナが食べないなら捨てるだけになっちゃうよ」などと言うものだから、今ではありがたく頂戴している。


 グレイソンも、アリアナの作ったお弁当をいつも美味しそうに残さず食べてくれる。寮にある食材のため、貴族より庶民に近いメニューにも関わらず、だ。



 アリアナは、訳あり令嬢である理由を聞いてこないグレイソンに好感を抱いていた。まぁ、噂にはなっているから知っているのかもしれないし、べつに隠しているわけでもないため、聞かれたら答えるのだが、グレイソンは自ら聞いてこない。あくまでも、アリアナから話してくれるのを待っているのだ。


 だから、グレイソンと過ごす時間は穏やかで和やかに感じられた。




 しかし、この男が冷静ではないことも知った。


 「ケラケラ」、「ぷぷぷぷ」よく笑うし、生徒会に属しているグレイソンとリュベルト王子は、同じく生徒会に属している1歳年上の伯爵家ウェバー先輩に「いいかげんに、生徒会に顔を出せ~!」と、よく追いかけられているし、こうやって木にも慣れている様子で登ってくるし。


 王族と公爵家だからという理由もあるだろうが、2人とも剣術の腕前は言わずもがな、テストの成績も1位、2位を独占するものだから、誰も文句は言えない。面と向かって文句を言えるのは、いつも追いかけているウェバー先輩だけではないだろうか。


 それに、自由奔放な2人が、やる時にはやる男だと見せつけるため、男子生徒からの羨望の眼差しは特に凄い。リュベルト王子は婚約が決定したが、グレイソンはまだ婚約者がいないため、女子生徒からのアプローチも凄いらしい、と噂で聞く。


 きっと、リュベルト王子が王族として破天荒すぎるから、隣にいるグレイソンがまともに見えてしまうのだろうと、アリアナは思う。

 

 

「そういえば、アリアナは学園の食堂には行かないの?」



 アリアナが作ったお弁当のイングリッシュマフィンサンドを頬張りながら、グレイソンが聞いてくる。



「本当は食堂でいろんなものを食べてみたいんだけど、私には自由に使えるお金が少ないから。将来のために、少しでもお金は蓄えていたくて」



 アリアナは、思っていることを正直に話す。


 いつの間にか、アリアナはグレイソンに対して敬語を使わなくなっていた。

 

 それくらい、2人は時間を共に過ごしていたのだ。



「将来のため?」

「うん。私はきっと、いつか貴族ではなくなるわ。だから、平民になっても生活できるように、少しでもお金を蓄えていたいの」

「貴族じゃなくなるのは......確定?」

「たぶん。私の祖母がねーーー」



 アリアナが説明しようとした時、グレイソンではない声が遮った。


 

「グレイ~!いた~!!やっぱり、アリアナちゃんといっしょだった!ヘルプ!ヘルプ!」



 リュベルト王子だ。


 どうやら、グレイソンを探していたらしい。グレイソンとアリアナがいる木の下から、2人を見上げて叫んでいる。しかも両手を大きく振って。




 アリアナは、グレイソンと過ごすようになってから、なぜかリュベルト王子とも会話するようになった。


 気づいたら”アリアナちゃん”と呼ばれていて、グレイソンがリュベルト王子のこめかみを拳でグリグリしながら、「なんだ?その呼び方は?」と不機嫌になっていたが、リュベルト王子は「痛い!痛い!」と言いながらも顔をニヤニヤさせて、結局はその後も呼び方を変わらなかった。


 さらには、グレイソンとリュベルト王子が王都の下町に繰り出す時に、アリアナを案内したこともある。


 王子が護衛もつけずに下町を歩く姿に、ハラハラ・ドキドキしたアリアナだが、3人で散策する時間は思いのほか楽しかった。


 雲の上の存在だと思っていた人たちと親しくなるなんて、去年までのアリアナが知ったら信じないだろう。だけど、その楽しい時間は期限付きなのだとアリアナは知っている。いつかは、気軽に会えなくなる人たちだ。だからこそ、学園生活の思い出に、いっぱいいっぱい楽しいことをしたいと、考えるようになったアリアナである。






 両手を大きく振るリュベルト王子は王族に見えない振る舞いだが、グレイソンよりも明るい金色の髪、グレイソンよりも濃いスカイブルーの瞳の持ち主は、このコフィア王国の王族以外の何者でもない。


 そんなリュベルト王子を見たグレイソンは、イングリッシュマフィンサンドを持っていないほうの手を額にあて、「ハァ〜〜〜〜〜」と、長い溜息をついている。


 木の下に王族がいるにも関わらず、グレイソンとアリアナが木の上で座ったままなのは、いつものこと。以前、今日のようにリュベルト王子がグレイソンを探しに来た時に、「僕が来ても下りる必要はないからね~」と、言っていたからである。



「グレイ、アリアナちゃん、聞いてよ?僕はね、久しぶりに学園に来れると思ったら教師陣に囲まれて、今までの課題を提出しろって言うんだよ!?僕は近々ね王太子になるんだよ!?その僕にだよ!?」



 身振り手振りを交えながら訴えるリュベルト王子を見て、そういえば先ほどグレイソンが、「リュベルトが午後から来る」と言っていたなと、アリアナは思い返す。



「リュベルト、それは普通だろ?俺は、お前に呼び出されて王宮に行った時、課題もいっしょに渡したよな?」

「そうなんだけどね、公務なら免除になるかな?と思うでしょ!?」

「もうじき王太子になろうがなるまいが、学園の授業には関係ない。王族だろうと、学園では平等を謳っているんだから。それに......お前は成績が良くても授業態度がダメだろうが。つまらなくて寝てるだろ?だから、課題くらい出して挽回しないとだろ?学園の教師陣を舐めないほうがいいぞ」

「う゛っ、、、それなら......グレイのノート貸して!!」

「はぁ?あれくらいの課題の量なら、リュベルトならすぐ出来るだろ!?」

「今すぐなんて、ヤル気でないよ~!お願い!グレイ!!」

「はぁ~。巻き添えくらうと分かってたから、早めに課題を届けたのにな......」


 グレイソンは、リュベルト王子に向けていた顔を隣のアリアナへと移す。グレイソンの顔は、困ったような寂しいような、子犬の顔をしていた。


「ごめんね、アリアナ。このままだと埒が明かないから行ってくる」

「私も、そのほうがいいと思うわ!私のことは気にせずに行ってらっしゃい!」

「お弁当は持ってってもいい?」

「もちろん、いいわよ!」


 「ありがとう」と言ったグレイソンが、そのまま顔をアリアナの耳に近づけて、「話の続きは、また明日ね」と囁くものだから、グレイソンの息が耳に吹き付け、顔を真っ赤にしたアリアナはコクッと頷くのが精一杯だった。



 グレイソンがお弁当を持って木から飛び降りようとした時、アリアナはグレイソンにどうしても伝えたいことがあったことを思い出し、慌ててグレイソンの腕を掴んだ。伝えたいことは明日でもいいのだが、なぜか早く伝えたくて。


 腕を掴まれたグレイソンは、驚きながらも優しく問いかけた。


「おっと!どうしたの?」

「あっ......ごめんね。伝えたいことがあって」

「うん?」


「・・・先日の剣術大会、グレイソン様はわざと負けたでしょ!?先日だけではないわね、この3年間ずっと!」



 アリアナの言葉に、グレイソンは目を見開いて固まってしまった。


 まさか、そのことについてリュベルト以外で気づく者がいるとは思わなかった。


 学園の剣術大会は、グレイソンとリュベルト王子は結果なんて本当にどうでもいいのだ。楽しければ、それでいい。


 ただ、グレイソンはリュベルト王子の護衛騎士に選ばれたくないだけ。それだけの理由で、グレイソンは勝ちたくないのだ。


 グレイソンとリュベルト王子の実力は、おそらく五分五分。幼い頃から、ずっといっしょに鍛錬してきた。お互いの癖も、得意、不得意も熟知している。だからこそ、本気で勝ちにいかなければいいだけ、そうグレイソンは思っていた。



 グレイソンは、目を見開いて固まったままだった。


 木の下では、リュベルト王子が顎に指を当てて「ほぉ~」と言いながら、興味津々の目をして見上げている。


 グレイソンの腕を掴んだままのアリアナは、その腕に力を込めて言葉を紡ぐ。



「グレイソン様、忘れないでください。負けなくてはならない理由があるのかもしれませんが、それでも、あなたのことを、真剣に応援している人がいるということを」



 紡がれた言葉の瞬間、グレイソンは破顔した。



「あははっ、まいったな。こんなに見ててくれている人がいたなんてね......絶対に忘れないよ。ありがとう、アリアナ」



 アリアナが掴んでくれいてる手に、グレイソンも手を重ねながら。



 そして今度こそ、グレイソンは木から飛び降り、リュベルト王子の隣に立つ。



「ごめんねぇ、アリアナちゃん。ちょっとグレイを借りてくねぇ!2人をジャマしちゃったお詫びは、今度するから!」

「リュベルト殿下、お気になさらないでください。課題、頑張ってくださいね!」

「ありがとう!あっ、今度ね僕のかわいい婚約者をアリアナちゃんに紹介するね!この国に来るの初めてだから、仲良くしてあげてね~!」

「はい!楽しみにしています!」

「ほら、さっさと行って、さっさと終わらせるぞ」

「グレイは、せっかちだな~」

「誰のせいだと思ってんだ!!」


 2人はギャイギャイ言いながらも、アリアナに「またね」と笑顔で手を振って校舎へと向かった。




 校舎へと走っている途中、


「グレイ、顔がニヤけてる」

「えっ!?・・・って、ニヤけてるのはお前だろ」

「僕はね、面白いものを見させてもらったからね~。グレイ、嬉しかったんでしょ?」

「あぁ......あんなふうに言ってもらえるのなんて、初めてだからな。本心からの言葉って、それが苦言であっても、なんでこんなに嬉しいんだろうな。しかも、あの上目遣い......反則だろ......」


 リュベルト王子に恥ずかしい本音を言うわけがないグレイソンだが、正直に心の内を話すなんて、しかも片手を口もとに当てて耳まで真っ赤なんて、相当なダメージだったのだろう。


「ぷぷぷっ。グレイの、そんな顔を見れる時が来るとは。これから、ますます楽しみだな!」




 この2人に対して堂々と苦言を呈するのは、生徒会のウェバー先輩だけではなく、アリアナもその1人だということを、アリアナ本人は気づいていない。それが、どれほどに貴重な存在かということも。


 アリアナがグレイソンに対して紡いだ言葉は、嘘偽りのない本心からの言葉だ。だって、アリアナはグレイソンを心から応援していたから。だからこそ、そういう人がいることを忘れないでほしいと、グレイソンに1秒でも早く知ってほしかったのだ。


 リュベルト王子よりもグレイソンを応援していた理由(気持ち)についても、アリアナは気づいていない・・・。






ーーーアリアナは2人の姿を見送ると、途中だった公爵家のお弁当を食べ始めた。


 さっきまで騒がしかったためか、いつもより静かに感じる。


 静かな空間は好きだったはずなのに。


 1人の空間も慣れていたはずだったのに。


 いつのまにか、この木に2人で並んで座っていることが当たり前になっている。


 「ごちそうさまでした」と、1人で残さず食べ終わったが、このまま本を読む気にはなれなかった。


 お昼休みは、まだ半分以上は残っているが、今日は早めに教室に戻ろうかと思った。






ーーーーーそして、教室に戻る途中、なぜか先ほど別れたばかりのリュベルト王子に捕まってしまい、アリアナもリュベルト王子の課題を手伝わされるハメになったのであった・・・。



 アリアナは、初めて授業をサボりましたとさ。








 



 



 

2⃣で終わらせるはずが、3⃣まで続きます('◇')ゞ


次回は、なぜアリアナは「貴族ではなくなる」と考えていたのか、その理由が明らかになります!

そして・・・それを知ったグレイソンが、どう動いていくのか☆彡




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