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天使のほほえみ  作者: L
36/72

愛されて




 お母様のオナカの中に、私の弟妹(きょうだい)がいると知った次の日。




「ふっふふ〜ん♪」


 私は、鼻歌を歌いながら友達に手紙の返事を書いていた。


 もちろん、生まれてくる弟妹のことも書き記している。


 手紙を書きながら、昨日の出来事を思い返すーーー。






ーーー昨日、お散歩から戻ってきたあとの私は、大はしゃぎしてしまった。


 廊下で行き交う使用人たち、それだけでは飽き足らず、厨房にまで行き料理人たち、しまいには執事室にいるセバスチャンにまで報告しに行ったのだ。



「セバスチャン!聞いて!聞いて!私、お姉ちゃんになれるの!」

「そうでございますか。それは、大変喜ばしいことでございますね。お嬢様なら、きっと立派なお姉様になられますよ」


 セバスチャンは、私の目線に屈んでくれて、ニコニコと穏やかに笑いながら言葉を続ける。


「これも、お嬢様のおかげですね」

「んっ?どういうこと?」



「入学式の朝、旦那様と奥様は、お嬢様に寂しい想いをさせていたと反省されて、お二人はきちんと話し合いをされたのです。お二人は、()()()()()()()意見の食い違いがありましたが、話し合うことでお互いの考えや誤解されていたことを改めて知り、これからは、きちんとお二人で相談して協力をしていくとお決めになられたのです。ですから、ご夫婦の仲が深まったのは、お嬢様のおかげなのですよ」


「そうだったんだ・・・。それじゃあ、お父様とお母様といっしょにいられなかったのは、他に好きな人がいたのではなくて、お仕事のことが理由だったの?」


「そうでございます。お仕事のことですれ違いはございましたが、他に好いた方がいるなど決してあり得ません。旦那様と奥様は、恋・愛・結・婚、でございますから」




 前世の時、両親は「お互いに愛人宅へ入り浸っている」という噂が流れた。


 その記憶があり、愛人がいたのではないか?的なことを質問してしまったが、両親は恋愛結婚だと教えられてしまった。


 両親は学園の同級生ではあるが、仲睦まじいのは結婚してからだと思っていた。


 学生の頃から恋人だったということだろうか。


 セバスチャンは人を傷つけず柔らかい話し方をするが、決して嘘を教えるような人ではない。


 わざわざ”恋愛結婚”ということを強調したのは、愛人をつくるなど本当に考えられないからなのだろう。



 では、前世での噂は、本当にデタラメだったのかもしれない。


 たしかに、愛人とされる相手の噂は一切なかった。


 公爵家の夫婦がお互いに愛人をつくっていたのであれば、相手の噂もすぐに広まるはずだ。仮に、相手が平民だったとしても、相手の家に貴族が入り浸っていれば、すぐに露見するだろう。


 冷静に考えれば、愛人相手が特定されていない噂に、信憑性などない。


 前世の両親が冷えきった関係性だったのは、男女関係からではなく、本当に仕事関係からだったのかもしれないと、今なら思う。



「ですから、お嬢様の()()な行動が、旦那様と奥様に響いたのです。ご弟妹を授かられたのも、お嬢様のおかげなのですよ。ご弟妹にお会いできるのが楽しみですね」



 口に人差し指を当てながら、「このことは、旦那様と奥様にはナイショですよ」と言うセバスチャンに、私は笑顔で頷いたのだった。





 執事室を出て、自室に戻ろうかと廊下を歩く私は、ふと今世で目覚めた日のことを思い出す。



 

 あの日は、暗闇の世界から泣いて起きた。


 泣きながら寝ていたから、心配したメアリーが起こしてくれたのだ。


 そして、食堂には前世ではいなかったはずの両親がいた。


 きっと、メアリーが起こしてくれたから、前世の入学式の日よりも早く起きて、両親がまだ仕事に行ってなかったのだろう。


 それに、あの日の朝は廊下でセバスチャンにも会わなかった。


 前世では、廊下でセバスチャンに会って、すでに両親は仕事に向かったことを教えてもらったから。今世で起きた時間は、まだ両親が食堂にいたためセバスチャンも側に控えていたのだ。



 ひとつの行動で、ひとつの選択の違いで、未来は大きく変わるのか。


 人生の選択は何度もあり、選択肢は無限にある。



 やはり人生とは不思議なものだな・・・と考えていると、食堂の隣にあるリビングから話し声が聞こえてきた。


 リビングの扉が少しあいていたので、ソ〜っと中の様子を伺うと、ソファに両親が座り、お父様がお母様のオナカに手を当てながら話しているところだった。



「この子も冬生まれかぁ〜。ティナも12月だったから、うちの子供たちは冬が好きなのかなぁ〜」

「ふふふっ。ティナが生まれる時、雪を頭にもコートにも積もらせたまま駆け込んできたわよね。あの時のグレイソンを見て、初めての出産で緊張してたけど、笑っちゃって、笑っちゃって」


 当時を思い出したのか、お母様はケラケラ笑っている。


「だって、俺たちの初めての子供だよ!?陣痛が強まってきたって連絡がきて、あのリュベルトでさえ”早く帰れ!”って騒いで、早馬まで準備してくれてさ。途中で雪が降ってきたけど気にしてるヒマなんてなかったもんね。1秒でも早く、君と我が子のもとに飛んでいきたかったんだから」


 お母様が、ブーっと膨れているお父様の頬を撫でながら、


「ふふっ、わかってるわよ。あなたのおかげで、私は緊張せずにお産に挑めたの。あぁ、この人が待っててくれてる……早くこの子にも素敵な父親を見せてあげたい……って」



 その時、私の脳裏には『ーーーーーあなたのお父様が待っているわよ。いっしょに頑張ろうね』と、ベッドに横たわるお母様が大きなオナカをさすり、優しく語りかけている光景が溢れ出す。



「ティナの産声を聴いた時は、涙が止まらなかったな。泣いたのなんて何年ぶりだったけど、初めて”嬉し涙”というものを知ったよ。生まれてきてくれたティナは、宝石のようにキラキラ輝いていた。あぁ......俺がこの子を守るんだって、心からそう思ったよ」

「そうそう。グレイソンが泣きながら喜んでくれて、驚いたのなんのって。だから、私も本当に嬉しかったわ。天使のようなティナが、私たちのもとへ来てくれて」

「この子は男の子かな?女の子かな?」


 お父様の頬を撫でていたお母様の手が、お母様のオナカに手を当てているお父様の手に重なるように移動した。


「どちらかしらね?ティナのように、元気よく無事に生まれてきてくれれば、それが一番よ」

「あぁ、そうだね。みんな待ってるからね、元気に生まれてきておくれ」 


 お父様がオナカの子にそう呼びかけて、両親はお母様のオナカを優しく撫でていた。




 私は、嗚咽に気づかれないように、ソ〜っとリビングの扉を閉めたのだった・・・。






ーーーーー私は、ちゃんと愛されていた。


 愛されて、生まれてきた。


 前世の途中からは、両親に愛されなくなってしまったけれど、私が生まれた時は、たしかに愛されていたんだ。


 何が原因で、私と両親の関係性が壊れてしまったのか。


 これから生まれてくる弟妹のためにも、これだけは回避しなければと、何があっても私だけは弟妹の味方でいようと、心に強く誓ったのだった・・・。






ーーーーークリスティナがリビングの扉からソ〜っと立ち去ったあとも、夫婦の会話は続いていく。



 グレイソンは、アリアナのオナカを撫でながら、


「そういえば、ティナが生まれた時って夕方の4時くらいだったよね?あの頃、リュベルトが言ってたんだけど、ティナが生まれた時間帯に、リュドヴィック殿下の泣き声が凄まじかったんだって。すでに殿下は8月に生まれてたけど、後にも先にもあれほど凄まじい泣き声はなかったらしいよ。王宮中に響き渡るくらい。だけど、顔は笑ってたとか。凄まじい泣き笑いだったらしいよ」


「そのこと、私も王妃様から聞いたわ。泣いているのに笑っているから、なにかの病気じゃないかって心配したらしいわよ。殿下の泣き笑いが響いて、王宮内にいた文官も、外で訓練していた騎士たちも、手を止めて大騒ぎになったとか。もしかしたら……殿下はティナが生まれてきたことに、祝福を贈ってくれたのではないかしら?ご縁があるのかしらね?」


「・・・・・・ないだろ」



 グレイソンの返事に、アリアナは苦笑いしたのである・・・・・。







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