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天使のほほえみ  作者: L
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夏の知らせ



ーーー8月のある昼下がり。


 夏休みも半分ほど過ぎ去った。



 私は今、ミレーネ様から届いた手紙を読んでいる。


 8月初旬に、ミレーネ様は領地であるワグナー領へ帰省した。


 手紙には、「毎日、妹に連れ出されて牧場を走り回っているよ。久しぶりに、家の図書館の本を読みたかったけど、ゆっくり読めていないの」ーーーーーという内容が書かれている。


 ミレーネ様には、2歳年下の妹さんがいる。妹さんも、久しぶりにお姉様と過ごせて嬉しいのだろう。


 ゆっくりと本を読みたいとは言っているが、優しく妹さんに接しているミレーネ様の姿が、容易に想像できてしまい微笑ましくなる。



「ふふふっ」


 私はひとりで笑いながら、ミレーネ様からの手紙を封筒へ戻し、もう一通の手紙の封をあける。


 これは、スカーレット様からの手紙だ。スカーレット様はお兄様方といっしょに、鍛錬の旅に行くと言っていた。


 手紙には、「朝日とともに砂浜で鍛錬をしているぞい!モアナは、パラソルの下で優雅にお菓子を食べているぞい!くぅ~!!うらやましいぞい!!」ーーーーーという内容が書かれている。


 スカーレット様たちは、海があるコフィア王国の東側に今は滞在しているようだ。


 モアナ様も同行すると聞いていたが、やはりモアナ様は鍛錬には参加しないで、パラソルの下でお菓子を食べながら鍛錬の光景を眺めているのだろう。


 逆に、そんなモアナ様の光景をスカーレット様はうらやましく眺めてしまい、お兄様であるシャーマ様あたりに「スウ!集中しろ!!」とでも言われていそうだ。こちらも、容易に想像できてしまい笑いがこみあげてくる。



 手紙の返事を書こうと思ったところで、部屋の扉がノックされた。


「どうぞ~!」


 入室してきたのは、侍女のメアリーだ。一礼をしたメアリーは、ニコニコしながら顔を上げた。


「お嬢様、失礼いたします。奥様より、中庭へお散歩に行くので、お嬢様にもお誘いがきておりますが、いかがいたしますか?」

「えっ!?お母様とお散歩!?行くわ!!」



 私は椅子から急いで立ち上がり、メアリーにかわいい花の飾りがついた麦わら帽子を用意してもらう。


 真夏の陽射しは強いため帽子は必須だが、この麦わら帽子は真夏になる前にお母様が選んで買ってくれたものだ。だから、陽射しのためにかぶるのではなく、お母様が選んでくれた帽子だからこそ嬉しくてかぶるのだ。さすがに家の中ではかぶれないため、外に出る時はこの麦わら帽子を今年の夏は必ずかぶっている。



 準備が整い、玄関ホールに向かうと、つばが広がった白い帽子をかぶるお母様が待っていた。


 そして、お母様の隣には、仕事に行っていたはずのお父様までいるではないか。


「お母様!お父様まで!」


 私は、タタタッと小走りで2人のもとへ駆け寄る。


 すると、お父様がしゃがんで両手を広げる。


「ティナ!」


 私も両手を広げながら、迷わずにお父様の胸へと飛び込む。


「お父様!お父様がいるとは思わなかったから、ビックリしちゃった!おかえりなさい!お父様!」

「ただいま~、ティナ!早く会議が終わったから、今日はもう帰ってこれたんだ。帰ってきたら、これからアリアナがティナと散歩しに行くって聞いたんだ。俺もいっしょに行っていいかな?」

「もちろん!ねっ!?お母様!?」

「ふふっ!もちろんよ!さぁ、()()()()で行きましょう」



 そして、私を抱っこしていたお父様は、私を床に下ろすと、私と手をつないでくれた。


 お父様は私と手をつないでいない反対側の手で、お母様の腰にしっかりと腕をまわし支えている。


「ふふふっ!グレイソンが真ん中って」

「だって、こうしないと()()()を守れないだろう?さぁ、行こう!」


 お父様の立ち位置が真ん中という、非常に珍しい光景となっているが、私はこの光景がおもしろくて、執事のセバスチャンがあけてくれた玄関から散歩へと向かったのだった。






 公爵邸の中庭には、夏の花が華やかに咲き誇っている。


 その中には、先月刺繍したバーベナやカンパニュラ、マリーゴールドもあり、その時の話もしながら散歩を楽しんだ。


 クリスティナの話を、グレイソンもアリアナも優しい眼差しで聴いている。


 時折、小鳥たちの合唱が聞こえて、小鳥たちを眺める家族の風景を、少し離れた場所からメアリーや庭師のジャンが温かく見守っている。


 中庭を進んでいくと東屋があり、すでにお茶の準備が整っているようだ。



「少し、休憩をしましょう」



 お母様に促されて東屋の椅子に座り、続いてお母様もお父様のエスコートで椅子に座った。


 そして、お父様も椅子に座ったところで、果実水がテーブルに置かれた。


 真夏の暑い日には、冷えた果実水が美味しすぎる。


 こうして、お父様とお母様といっしょにお庭で飲んでいることも、いつもより美味しく感じさせる理由だろう。




 一息ついたところでお母様が、


「ティナ。実はね、ティナにお知らせしたいことがあるの」

「うん?なぁに?」


 私に知らせたいこととは、なんだろう?


 わざわざ”お知らせ”と聞くと、前世からの癖なのか嫌な予感がしなくもないが、お母様から嫌な雰囲気は見受けられない。


 私は、子供らしく首をコテンっとさせてみせたが、心の中では何を言われるのだろうとドキドキしている。




「ーーーーーあのね、ここに赤ちゃんがいるのよ」


 そうして、お母様が自身のオナカをさする。


「えっ......?」


 私は目を見開いて、さすっているお母様のオナカを凝視した。



「ティナの弟かな?妹かな?その子が、ここにいるのよ」


 

 私は、やっと理解した頭で、


「本当?本当に?」

「えぇ、そうよ。ティナも触ってあげて?」


 私は椅子から立ち上がり、お母様に近づいて、おずおずとお母様のオナカに手を触れた。


「ここに、私の弟妹がいる......本当に、ここにいるんだよね?」

「ふふっ、本当にいるわよ。まだオナカの膨らみが分かりにくいかもしれないけど、どんどん大きくなるのよ」

「ふ......ふぇ......う......うれしい......私......お姉ちゃんになれるの?」


 私は、涙を流しながら、お母様のオナカを優しく優しく抱きしめた。



 お父様が、私の頭を撫でながら、


「ティナが、こんなに泣いて喜んでくれるとは」



 お母様が、オナカに張り付いている私を抱きしめながら、


「本当にね。こんなに喜んでくれて私も嬉しいわ。もっと早く教えてあげたかったけど、安定期に入るまでは待つようにとお医者様にも言われてしまったのよ。やっと、ティナに教えることができて、本当によかったわ~。言いたくて言いたくて、仕方なかったんだから!」



 私は、うれし涙を流していた顔を上げて、お母様とお父様を交互に見る。


 それから私たちは、うれし涙と笑い声を真夏の陽射しに負けないくらい、真っ青な大空へ舞い上がらせたのだった・・・・・。






ーーーお散歩から戻る時には、「私はお姉ちゃんだから!」と言ってお母様を真ん中にして、お母様の手をしっかりと握って、お母様が転ばないように慎重に歩いた。


 お父様が反対側からしっかりと支えてくれているから、簡単に転ぶことはないと思うが、私だってお母様も弟妹も守りたいのだ。




 夏の知らせは、思いもよらない嬉しい知らせだった・・・。






 ーーーーー前世では、なかったはずの命。


 なかったはずの命が、今ここに、たしかに存在しているのだ。


 両親や友達は、前世では関りが浅かった人たち。


 それでも、たしかに前世でも存在していた人たち。


 今世では関りが深くなり、新たな命が誕生する。


 こんな奇跡が起こるのだろうか。


 前世とは違う道を、たしかに歩いている。


 人生は変えられるのだと、改めて2度目の生に感謝する。






 冬に生まれる予定の、まだ見ぬ弟妹へ




「ありがとう」 







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