※リュドヴィック、公爵領へ
夏休み前日のリュドヴィック目線です☆彡
よろしくお願いします!
オレは今、学園の玄関で立ち止まっている。
なぜ立ち止まっているのかというと、目の前に刺繍されたものが展示してあるからだ。
オレは、展示されているなかでも一点だけを見つめていた。
『この青い星形の花、あの子が入学式で髪に飾っていた花か?』
オレは花に詳しくないから、花の名前はわからない。
だけど、刺繍にするくらいだから、きっとあの子はこの花が好きなのだろう。
『リュシルなら、この花の名前を知ってるだろうか?』
一瞬、花好きの弟に聞いてみようかと思ったが、年下の弟にも笑われてしまうのがオチだと思い、その思考はすぐに消し去った。
ーーー今日は、期末テストの結果発表があった。
オレが1位でダミエレが2位だったが、オレは王族として以前から学んでいるし、ダミエレもオレとともに学んでいるから、当然の結果だ。もし、それよりも低い結果であったほうが、将来は国を統べる者として問題である。
それにしても、あの子は7位だったな。
なかなかに優秀だし、しかも刺繍は3位だ。
刺繍が得意なんだな。
オレは、刺繍の良し悪しもよくわからないが、この青い花の刺繍はとてもキレイだと思えるし、星形の花を選ぶあたりもカワイイ。
入学式で髪に飾っていたのも、よく似合っていた。
・・・・・このハンカチをもらえないだろうか。
いつかオレも、あの子が刺繍したものをもらってみたいものだ・・・・・。
ーーーーー気づけば、明日から夏休み。
結局、あの子とは挨拶すら交わせていない。
『当分、あの子と会えないんだな』
オレは、憂鬱な気持ちになりながら王宮へと帰ったのだった。
ダミエレと馬車に乗り王宮へ到着してすぐ、父上が呼んでいると知らせが入った。
なんだかイヤな予感しかしないが、国王である父上からの呼び出しを無視するわけにもいかず、父上の執務室へと向かう。
執務室の扉をノックすると、
「入れ」
いかにも国王らしい言い方をする父上の声がした。
「父上、お呼びでしょうか?」
入室して父上に問いかける。
「リュド、急に呼び出しで悪かったね」
その顔は、ぜんぜん悪いと思っていない顔ではないか。
執務室には、オレと父上の2人だけだ。父上は、いつもの調子の口調と顔つきをしている。
「実は、リュドにお使いをお願いしたくてね」
「は・・・?お使い?」
「そうそう。サクっと、この大事な書類を届けてほしいんだ」
「お断りします」
「断るの早くない!?えぇ〜、親のお使いは子の役目でしょ〜」
「これから、ダミエレと剣の稽古がありますので。では、失礼します」
そう言ったオレは、踵を返して扉へ向かおうとした。
『あの子に会えなくなるっていうのに、なぜオレがお使い!?書類を届けるだけなら、王宮勤めの者に頼めばいいだろうが!ダミエレとの稽古のほうが、よっぽど大事だ!』
”あの子に会えなくなるというのに”は、完全に八つ当たりである。
すると、後ろから父上の呑気な声がする。
「そっか〜、稽古なら仕方ないか〜。ロバート公爵家にまで持ってってほしかったんだけどな〜。誰か、別の者に頼むしかないか〜」
扉へと向かっていたオレの足は、ピタっと止まる。
もう一度、父上のほうへと向き直った。
「・・・・・ロバート公爵家?」
「そう。ロバート領にある、ロバート公爵家」
父上は、書類が入った封筒をヒラヒラさせている。
「行きます!!!」
オレは元気よく返事して、父上から封筒を受け取った。
そして、早足で執務室を退室し、扉の前で待機していたダミエレに声をかける。
「今から!すぐに!ロバート公爵家へ行くぞ!!」
「はい?」
「父上から、この書類をロバート公爵家に届けるようにお使いを頼まれたんだ!急げ!」
「はい〜?書類だけ持ってですか・・・って!殿下〜!!」
目を白黒させて何か言おうとしたダミエレと、数名の護衛を連れて、オレは王宮を出発した。
ーーーーー再び馬車に乗ったオレは、肘掛けに頬杖をついて、手は口を隠すように置いている。
なぜなら、口元が勝手にニヤニヤしてしまっている自覚があるからだ。
斜め前に座るダミエレにはバレてしまっていると思うが、それには気づかないフリをして、オレは何事もないように馬車の窓から外を眺めていた。
15分ほど馬車を走らせた頃、王都とロバート公爵領の境界まで来た。
ここは、交通量が多いため露店が立ち並ぶ場所だ。そのため、馬車のペースを落として進んでいると、見慣れた姿が目に飛び込んできた。
「あれは・・・」
「ロバート公爵令嬢ですね」
ダミエレがオレの声に反応して、すぐ返してくる。
「なぜ、露店にあの子が・・・」
何をしていたかまでは見えなかったが、周りには平民の子供たちがいたように思う。座って、皆で何かしていたようだ。
そのなかで、学園の制服を着ているあの子は、とても目立っていたし。
露店の端には、ロバート公爵家の馬車も止まっているし。
オレとダミエレは、???になりながら顔を見合わせたのだった。
そして、さらに少し馬車を走らせると、大きな屋敷の門が見えてきた。
おそらく、あれがロバート公爵邸だろう。
門番と御者が話している感じがするが、事前に先触れが出されていたようで、すぐに門を通された。
先触れの確認をせず急いで出発してしまったから、一抹の不安があったのだ。
あの父上のことだから、おもしろがって先触れを出していないのではないか?と。
オレは安心して、馬車の窓から公爵邸の雰囲気を興味深く眺める。
実は、ダミエレの家以外で他者の家に行ったことがないのだ。
ダミエレのシュルーダ侯爵邸の庭は落ち着いた色合いの花が多かったが、ロバート公爵邸は華やかな色合いの花が多いようだ。
花の色合いによっても、雰囲気がぜんぜん違うものなんだなと感心した。
こうして、落ち着いて眺めていられるのも、あの子が今は露店にいて家にはいないことがわかっているからだろう。
もし、家にいて会えるのではないか?という期待があったら、心臓がバクバクしすぎて景色を眺める余裕なんてなかったと思う。
馬車が玄関前に到着し、先にダミエレが降りる。
続いてオレも、あの子が家にいないことを残念に思いながら降りると、公爵夫人と執事が出迎えてくれた。
「まぁ!リュドヴィック殿下ではありませんか!!」
「公爵夫人、ご無沙汰しております。急な訪問をお許しいただき、感謝します」
「殿下、私にそのような言葉は不要ですわよ。それにしても、リュベルト陛下から使いを送ると連絡はありましたが、まさかリュドヴィック殿下がお越しになるとは驚きましたわ!」
「王都以外の場所に行くことが少ないため、社会勉強もかねて見てこいということです。あっ、こちらが父から預かったロバート公爵宛の書類です」
「ありがとうございます。あいにく主人は仕事で留守にしているため、妻である私が確かに受け取りました。必ず、主人にお渡し致します。殿下、陛下からは玄関先での受け取りで構わないという内容でしたが、よろしければ休憩されていきませんか?」
「..........いえ、大変ありがたい申し出ですが、すぐに城へ戻らねばなりませんので」
父上が、わざわざ”玄関先での受け取りで構わない”という内容にしたのには、ゆっくりせずに戻れという意味なのだろう。
「そうですか・・・」
公爵夫人が残念そうに言うものだから、お言葉に甘えて休憩していればあの子が帰ってくるかもしれないという邪な考えが横切る。
そうだ!露店で見かけたあの子のことを聞かねば!
「そういえば、ここに来る途中、露店でロバート公爵令嬢に似た人物を見かけたのですが・・・」
「あぁ!それは、娘のクリスティナで間違いないですわ!」
「一体、露店に座って何を・・・」
「それはですねーーーーー」
公爵夫人は、あの子が孤児院の子供たちに”課外授業”をしていることを教えてくれた。
”課外授業”に至るまでの経緯も・・・・・。
あの子が孤児院へ訪問していることは、食堂での会話から聞こえてはいたが、まさか勉強まで教えていることに驚きを隠せない。それも、ほぼ毎日だそうだ。
あの子は公爵領や領民のために今できることをしているのに、オレ自身はどうだろうと考える。
オレは、確かに将来の王として勉学や剣術など励んではいるが、国や民のために今できることをしているだろうか。
いや、していないな。
少なくとも、自分が暮らす王都の孤児院や民のことだってわからない。
・・・・・なんだか、急に自分自身が恥ずかしくなってきた。
あの子と挨拶したい、あの子と話したい、などと悩んでいた自分が恥ずかしい。
今のオレでは、あの子の前に堂々と立てない。
どんなに学年1位の成績だったとしても、それを世のため人のために役立たねば意味がない。
将来のために学ぶことも大切だが、今の子供のオレにもできることはあるはずだ。
そして、誇れる姿で、あの子の前に堂々と立つんだ!!!
「殿下、やはり休憩されませんか?もう少しで、クリスティナも帰ってくると思いますので・・・」
「いえ、本当はロバート公爵令嬢と話してみたいことはたくさんありますが、ロバート公爵令嬢の活躍に負けてはいられませんので、今日は帰るとします。公爵にもよろしくお伝えください。出迎え、ありがとう」
もうオレは、邪な考えは一切なく、誇れる自分になるために前だけを見据えていた。
公爵夫人が、ジっとオレの目を見つめる。そして、ニコっと笑った。
あの子と公爵夫人は同じ瞳の色だから、あの子の笑った顔を目の前で見たらこんな感じなのだろうかと、想像してしまったではないか。
「殿下の力強い目を見られて安心いたしました。では、次回こそはお茶に付き合ってくださいませね!公爵領も案内したいですわ!殿下、本日は我が公爵領まで来ていただき、誠にありがとうございました」
そう言った公爵夫人は、見事なカーテシーを披露してくれた。
ーーーーーロバート公爵邸からの帰りの馬車。
オレは、民のために今の自分にできることを、あれこれ考えていた。
考えている途中で、ふと気づいたことがある。
「あれ・・・もしかして、何か手土産を持っていくべきだったのか?」
花でも王宮の菓子でも持っていけば、あの子と話すきっかけにできたのではないか?
明日から夏休みだから、もしかしたらお礼の手紙をもらえたかもしれない。そしたら、文通相手になれたかも・・・・・だよな?
ロバート公爵領に行けるからあの子に会えるかもしれないと気分が高揚しずぎて、すっかり手土産というものを失念していた。
「あ"ぁ~~~~~!!!!!」
頭を抱えてしまうオレ。
「はぁ~~~~~」
馬車の中は、そんなリュドヴィックの姿を見たダミエレの盛大な溜息が木霊していたのだった・・・・・。
ヘタレだったり、力強い意志をもったり、せわしない心情のリュドヴィックです(笑)




