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天使のほほえみ  作者: L
27/72

課外授業


 露店での課外授業を提案した日から、3日後。




 今日から、課外授業が許可された。



 お母様が院長先生にお話したら、院長先生は泣いて喜ばれたという。


 そして、何度も感謝の言葉を述べられたそうだ。



 いつの時代も、子供たちだけで露店で働いてもらっていることに申し訳ないと感じているそうだ。時間があれば、院長先生も様子を見に行きたいそうだが、幼い年少組を施設に残していくわけにもいかず、露店に心ない人がきても助けることができないと、いつも悔しそうに話されていたという。けれども、露店を辞めるわけにもいかない。だから、勉強できることはもちろん、子供たちを守る目的でも大変感謝されていたと、お母様が教えてくれた。




 『私にも、できることがあってよかったわ』



 そう思いながら、学園から馬車に乗る。



 今日は、護衛のカーティスは単騎ではなく、いっしょに馬車に乗っている。露店が立ち並ぶ場所で、単騎の馬を繋いでおくのは危険だからだ。


「お嬢様、すごく楽しそうですね」

「えぇ!だって、すごくワクワクするもん!」


 そう言うと、カーティスに笑われてしまった。



 いつもは通り過ぎる場所で馬車が止まり、私はカーティスの手を借りて馬車から下りる。



「クリスティナさま〜!」


「みんな〜!」


 露店にいる彼らのもとに駆け出していく。


「ここで勉強ができるって聞いて、楽しみにしてたの!」


 ロラが学校で使っている教科書を見せてくる。


「私もです!学校に行けるのも、あと1年もないから、本当に嬉しいんです!」


 ココは椅子を用意してくれながら、いつも以上に笑顔になっている。


 今日の露店の当番は、ココ、ザイ、ダイ、ザック、ロラの5人のようだ。


「早く教えて!教えて!」

「どれからやる!?」

「オレのも見て!見て!」


 全員、ヤル気満々だ。


 カーティスは護衛として傍に立ち周囲を警戒しているが、剣術大好き男の子3人が、全くカーティスに見向きもしない。


 本当に彼らは、勉強もしたいと望んでいたのだろう。


 それに、ここでは剣術禁止だしね。




 まずは、皆がどれくらいのレベルの授業を受けているのか把握しなければならないため、それぞれが今一番分からない箇所の教科書のページをひらいてもらう。


 彼らは年齢もバラバラだが、17才までの前世の記憶があるから、ちゃんと教えられるはず・・・。



 そう思って、皆がひらいたページを覗いてみると、ザックとロラは私と同じ年齢だけど、まだコフィア王国の王国文字を習っている初期段階だ。


 ザイとダイは私の5才年上だから、王立学園では初等部6年生になるが、2人の段階は初等部3年生くらい。


 ココは私の8才年上だから、王立学園では中等部の最終学年でもある3年生だが、ココも初等部6年生くらいの段階である。



 お母様の言っていた意味が分かった。




 公爵領の学校は15才までだ。


 領民全員が学べるようにと学校運営をしているが、平民である領民は18才まで学校に通っていられるほどの余裕はない。


 だから、私が通っている王立学園にも平民はあまり入学してこれないのだ。


 早く働いて収入を得なければ、家族全員が生活できない。15才までが限界だ。


 それでも、孤児院の彼らのように働きながら学校に通う子供たちもいる。


 その子供たちは、午前や午後だけだったり、1日学校に行けない日もある。


 同じ年齢だったとしても、学力の差が出てしまう。


 それぞれの学力に合った教え方ができるほど、教師の数も足りていない。


 これも、今世で初めて知ったことだが、教師の数が足りないため、お母様自らが教鞭をとることもあるらしい。



 ーーーーーあぁ、本当に私は無知だ・・・。




 それでも、ロバート公爵領の識字率は、他の領地に比べると高いほうだ。


 これは、ホテルなどの宿泊施設をメインとする領地経営に関係している。


 ここで実際に働くのは領民たちが多いが、字が読めない、書けないでは、宿泊客の予約もとれないし、チェックインの確認もできない。宿泊施設には食堂やレストランも当然併設しており、メニューが読めない、注文をとっても書けなければ忘れてしまう。


 計算もできなければ、発注書などの作成も難しくなるし、計算間違いがあれば取引先との信用問題に発展する可能性もある。


 そのため、公爵領では昔から領民への教育教養には力を入れていた。


 教養においても、最低限の礼儀作法もできなければ、お客様に対して失礼だからだ。



 お祖父様もお父様に爵位を譲る時、お祖父様とお祖母様の生活に困らないほどの財産だけ残し、学校運営費に寄付したくらいだ。


 それを受け継いだのが、お母様である。



 だから王立学園で例えれば、初等部卒業程度の学力を領民全員に身につけてもらうことを、総合的に判断したのだろう。




 まず、課外授業初日の今日は、分からないことへの不安を取りのぞくのが最優先と考え、1人ひとり丁寧に分からないという箇所を、いっしょに考えながら教えていく。


 今後は、教え方の段取りも考えていかなければ。



 真剣に勉強を教えていると、1時間なんてあっという間だった。


「すごい!わかった!」

「オレ、すげー!書けたー!」

「ありがとうございます!クリスティナ様!」


 皆にそう言ってもらえると、課外授業を提案してよかったと、心から思えてくる。


 『少しでも、彼らの将来に役立てばいいわ』


 時々、お客様が買いにきてくれて、初めて彼らの接客を見ているのは楽しかった。



「また明日ね!これから忙しい時間帯になると思うけど、気をつけて帰ってね〜!」



 いつも通り、ブンブン手を振ったあと馬車に乗り、公爵邸へと帰宅する。




「お嬢様は、教え方が上手ですね」

「えっ!?そうだった!?それなら、よかった〜!」


 カーティスがそう褒めてくれて、ホッと一安心する。


 だけど。


 『まだまだ、これからよ。教え方の改善点は、たくさんあるわ』




 課外授業は始まったばかりであった・・・。





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