※リュドヴィック目線(今世)
今回は、入学したばかりの頃の今世版★リュドヴィック目線をお届けします。
よろしくお願いします!
『ーーーーーなんだ?あの、かわいい人間は?』
それは、コフィア王立学園の入学式の日。
学園に到着して早々に、オレはうんざりしていた。
学園の玄関前で生徒に囲まれてしまい、挨拶のラッシュだったからだ。
王族が入学するのだから、こうなることは予想していたが、実際に体験してみると『キリがないな.....』と思い、一層のこと全校生徒を集めて大声でオレの自己紹介をして、強制的に終了させたくなった。
一番最初に挨拶してきた、どっかの侯爵令嬢なんて、体をクネクネクネクネさせていた。なんだ?そのクネクネは?母親にでも教わったのだろうか。
学園の案内役として付き添っていた、3才年上のシャーマは助け舟を出すこともなく、
「王子様は大変だね〜」
なんて言いながら、ケラケラ笑って学園内へと行ってしまったし。
『あいつは、オレの側近にはしないぞ』
まぁ、オレの側近とならずとも、己の力で騎士団長クラスまで昇りつめるのだろうが。
シャーマは、第二騎士団長でもあり、オレの父上からの信頼も厚いグスタフソン侯爵の次男だ。すでに同年代のなかでも剣技の頭角を現しているのだから。
やっとの思いで1-Dの教室の前までくると、シャーマが隣の教室の前にいるではないか。
『そういえば、シャーマの妹も入学したんだっけ』
「スウ、迷子にならずに到着できたか?」
「兄上!!わたしは、迷子になるほどアホではないですぞい!!」
シャーマは、またケラケラ笑いながら妹を揶揄っていた。
『わざわざ揶揄いにきたのか・・・』
「あっ、王子様。無事に到着できましたか」
げっ、オレがいることに気づかれてしまった。
「スウ。第一王子のリュドヴィック殿下だよ、ご挨拶を。あっ、モアナもね」
スウと呼ばれた女子生徒が、パタパタとオレの前まで来る。
「殿下にご挨拶申し上げます!グスタフソン侯爵が長女、スカーレット・グスタフソンと申します!!よろしくお願いします!!!」
『声が・・・デカい』
グスタフソン侯爵令嬢の声が、廊下に響き渡る。
カーテシーではなく、左胸に右手を当てた騎士の礼をするとは、さすがはグスタフソン家といったところか。
「スカーレット、、声、、デカい。ウェバー伯爵が、、次女、、モアナ・ウェバー、、と申します。よろしく、、お願い、、します」
『なんだ、この、まったり、ゆっくりな話し方は。新手の手法か?』
ウェバー伯爵令嬢は、カーテシーをするわけでもなく、グスタフソン侯爵令嬢より3歩後ろで眠たそうに気怠そうに立っている。
『これは・・・オレに興味ないな』
「あぁ.....2人ともよろしく」
「こんな感じで独特の2人ですが、よろしくお願いしますね、殿下」
シャーマはそう言うと、騎士の礼をとり去って行った。
『や、やっと、教室に入れる・・・』
ようやく、自分の席にたどり着き一息つく。
隣の席に、シャーマと同じように付き添ってくれていたダミエレが座る。ダミエレはシャーマと違い、任務を放棄せずオレの側にいてくれた。
唯一、ダミエレと同じクラスになれたことが救いだ。
ダミエレは、現宰相でもあるシュルーダ侯爵の孫だ。ダミエレの両親は、3年前に馬車の事故で他界しており、ダミエレは祖父であるシュルーダ宰相に育ててもらっている。
ダミエレはオレと同じ年齢だからと、3才の時から遊び相手兼勉強や剣術の特訓仲間だ。
『ーーーーー親がいないからと舐められないように、厳しく育て上げます』
父上と宰相の会話を聞いてしまったことがあるが、宰相は自他ともに厳しい人だ。
厳しすぎる教育で、ダミエレの逃げ場がないのではと心配してしまったが、
『ーーーーーお祖母様は優しいですから』
と、ダミエレは言っていたので、鞭だけでなくちゃんと飴もあるならよかった.....と安心した。
ダミエレは、顔の表情筋があまり動かないほうだが、目を見ていれば分かる。
ダミエレはオレを、1人の人間として見てくれている。王族のオレに媚を売るでもなく、言葉数は少ないが率直な意見を言ってくれる、オレにとって数少ない貴重な人間だ。
このまま、オレの側近・・・友として側にいてほしい、なんて恥ずかしくて言えないが。
席へ座れたものの、すぐに先生から大講堂へ移動するため廊下へ並ぶようにと指示が出る。
オレとダミエレは廊下に出て、クラスの一番前に2人で並ぶ。すると、隣のC組からも生徒たちが廊下へと出てくる。
ーーーーーそして、冒頭へと戻る。
C組から出てきた1人の女の子に目を奪われた。
髪に飾った星形の深く澄んだ青い花も、目を奪われた一因かもしれない。
星形のかわいい花が、あの子のストレートの髪にとても似合っていた。
あの髪の色は、王家の血筋のもの・・・ということは、今年入学してくるのはロバート公爵家の者しかいない。
ロバート公爵はよく王宮で見かけるが、あの髪の色はロバート公爵と同じだ。たしか、ロバート公爵令嬢の名前は・・・
"クリスティナ"
名前まで、なんてかわいいんだ。
友達と楽しそうに話している横顔もキラキラと輝いて見える。
妖精なのか?天使なのか?
いや、ロバート公爵家も天使族の血が入っているはずだから、あの子は本当に天使なのかもしれない。
『あぁ、前を向いてしまった・・・』
あの子の横顔が見えなくなってしまった。
髪に飾った星形の青い花をそっと触る仕草も、なんてかわいいんだ。
あの子とは、まだ挨拶してないよな?あんなに目を奪われる子と挨拶を交わしていたら、忘れるはずがない。
朝は、たくさんの生徒に囲まれてしまっていたから、挨拶のタイミングを逃したのかもしれない。
オレは、あの子と挨拶を交わせるのを心待ちにした。
少しだけ、学園生活に楽しみができた。
ーーーしかし、帰りに馬車の待機場でも多くの生徒に囲まれてしまい、あの子は友達といっしょにオレの前を素通りして行ってしまった。
オレは、あの子に声をかけるどころか、ただただ見つめることしかできなかった・・・。
ーーーーー学園に入学して2週間。
まだ、あの子とは挨拶すら交わせていない。
それどころか、目も合わせていない。
オレがC組の前を通り過ぎる時や、食堂で昼食を食べているあの子を遠くから見るくらいだ。
昼食を食べている席なんて、オレと対角線上だ。
よりによって、なぜそこ!?
オレが昼食を食べる席は、王宮の管理面から勝手に変更することはできない。
せめて、近くの席だったならば・・・。
ーーーーーー入学して1ヵ月も経過すれば、同級生のほぼ全員と挨拶は交わしている。
それなのに、あの子とはまだ目も合わせられない。
『もしかして、オレって嫌われてる・・・?王族には興味ないとか・・・?』
いやいや、まだ一度も話せていないのに、嫌われるってあるか?オレが入学してきてるの知らないとか?
ウェバー嬢のように、あからさまにオレに興味がない態度はありがたいと思うのに、あの子に興味がないと思われるのはイヤだ、と思ってしまう自分がいるのは、なぜだろう。
ロバート公爵にあの子のことを聞きたくても、なぜか夜は王宮に来なくなった。オレが学園に行っている昼間に来ているらしく会えていない。
「それほど気になるなら、話しかければいいじゃないですか?」
ダミエレは簡単に言うが、急に話しかけたら不自然だろうが。
目を合わせられれば、自然と挨拶もできる。
どうにかして目を合わせようと、移動教室などでC組の前の通る時はあの子を探してみたり、食堂であの子が座っている横を通って、いつも自分が座っている9列先まで遠回りしてみるが、あの子がオレを見ることはなかった。
『グスタフソン嬢もウェバー嬢も、あの子といっしょに食べられてイイナ』
あの子の横を通り過ぎた時、孤児院に訪問したような話が聞こえた(スカーレットの声が大きい)が、あの子は孤児院に訪問に行っているのか!?この年齢で!?
それは、純粋に凄いと思った。
さすがは、あのロバート公爵夫婦の娘だ。
自分も見習わねばと思う。
それにしても、あの侯爵令嬢はまたいるのか・・・。
なんだっけ、マケラ嬢だったか。入学式で、やけにクネクネしてた女子生徒だ。
オレの隣で昼食を食べようとするが、煩わしいので「王宮から使者が来るから」と言って、いつも他の席に移動させている。オレはダミエレと静かに食べたいのだ。
その日の夜。
夕食の席には、現王の父上、現王妃の母上、第二王子の弟リュシルの4人が揃う。
最近は、父上が夕食の席に着く日が増え、母上の機嫌もいい。
そりゃそうだろう。隣国との関係をそれまで以上に強固なものとするため、隣国の王女であった母上と婚姻を結んだ父上は、ここ1年ほど、ことあるごとにロバート公爵を呼び出し、ロバート公爵と過ごす時間のほうが多くて、母上の機嫌は急降下していた。
王妃としての役目は全うしているのに、妻として蔑ろにされれば、世の妻たちは不機嫌にもなるだろうと、まだ子供であるオレでも分かる。
それでも、父上のことは嫌いにはなれないが。
父上は一見、ヘラヘラしてて王の器がないように振る舞っているが、その腹の内では何を考えているのかは息子のオレでも分からないことは多く、父上の決断能力や裏で不要なものを切り捨てる潔さは、密かに尊敬している。
「リュド、どう学園は?慣れてきた?」
父上が話しかけてくる。
「はい。だいぶ慣れましたよ」
「ふむふむ。ダミエレ以外に友達はできた?」
『父上なら.....あの子のこと知ってるかも?』
「ち、ち、父上は、ロバート公爵令嬢のことを、ご存知ですか!?」
『よし!ついに聞いたぞ!よくやった!オレ!」
フォークとナイフを持つ手に、つい力が入ってしまう。
「ロバート公爵?グレイソンの?クリスティナ嬢のこと?」
『まさかの名前呼び!?』
「そ、そうです。父上は、会ったことがある.....のかなぁ.....と」
最後のほうは、だんだん声が小さくなってしまう。
「クリスティナ嬢とは、もっと幼いの時には会ったことあるけど、ここ数年は会ってないかな〜。なに?クリスティナ嬢と仲良くなったの?」
「いえ.....まだ.....話したことも.....ありません.....」
すでに最初から声が小さい。
「まだ話してないの!?リュドも赤ちゃんの時にクリスティナ嬢とは会ってるんだけどねぇ。あっ、赤ちゃんだったから覚えてないか」
「会ってるのですか!?」
『なんで覚えてないんだ!?オレのバカ!!』
ガタッ!と、椅子から立ち上がってしまったオレを、父上は『おもしろい獲物を見つけた!』という目でニヤニヤしている。
『しまった!!!』
そう思ったものの、時すでに遅し。
「へぇ〜。ふ〜ん。これは.....恋?恋だね。初恋ってやつ?」
「あらっ!まぁ!まぁ!まぁ!」
「あ、兄上が....こ、こい?」
父上が揶揄い、母上が嬉しそうな驚きの声を上げ、弟のリュシルなんて目を見開き、信じられないものを見るような目でオレを見てくる。
「ち、ちがっ!!」
『ちがくないかもだけど!』
「そ、そ、そんなんじゃありませ〜ん!!!」
この日を境に、王宮では王と王妃、第二王子の大きな笑い声と、第一王子の大きな叫び声が、ときたま響き渡るように、なったとか、ならないとか・・・・・。




