初めての孤児院①
「へぇ〜!今度の休み、クリスティナ様は孤児院の訪問に行くのか!すごいな!!」
あれから私たち4人は、いっしょに食堂で昼食を食べるようになった。
いまは、昼食を食べながら休みの日は何をしているのか話している。
「すごいってほどでもないよ!お母様が慈善事業に力を入れているから、私も勉強してみたくて。今回が行くのも初めてなんだ!」
お母様に慈善事業を勉強したいとお願いしてみたら、喜んで「連れてくわ!」と言ってもらえたのは、つい先日のこと。早速、今度の学園が休みの日に孤児院へ行くことになった。
これはお母様の言葉だが、
『ーーー孤児院や治療院に慰めに行っているわけではないから、私は”慰問”という言葉が好きではないのよ』
”慰問”ではなく”訪問”なのだと、お母様が教えてくれた。
「ロバート領も、、ワグナー領も、、領地経営も安定していて、、治安もよくて、、住みやすいところだって、、お父様が、、言ってた」
「ロバート領の領地経営は参考になると、わたしのお父様も言っていたわ。わたしの領地でも、まだ領民全員に平等な教育が行き届いているわけではないから.....」
「そうそう!わたしも、クリスティナ様とミレーネ様が友達になったと父上に報告したら、2人とも素晴らしいところのお嬢さんだぞ!って喜んでいたぞい!わたしは、休みの日は鍛錬ばかりだから、少しは皆を見習わないとですな!」
「スカーレット、、語尾が変、、わたしは、、グスタフソン邸に、、入り浸ってる」
「そうそう!モアナは、よく鍛錬を見にきてるぞい!」
「だから、、変、、お菓子が美味しい、、から」
「ぷっ!お菓子めあてなのね!ミレーネ様は何してることが多いの?」
「わたしは、本を読んでいることが多いかな。王立図書館も大きいから、お父様に連れてってもらうこともあるわ」
「王立図書館か~。私たちだけで王都の街に行くのは1年生だからムリだけど、もう少し大きくなったら4人で行ってみたいな〜」
「うん!行こうではないか!!」
「うん、、行きたい」
「わたしも行ってみたい」
その約束が果たされるのは、そう遠くない未来である。
ーーーーーお休みの日。
今日はついに、孤児院へ訪問に行く日だ。
朝食のあと、お母様が用意してくれた装飾のない新緑のような若草色のワンピースに着替える。
玄関前でお母様を待っていると、赤い髪を一つに纏め、こちらも装飾が一切ない落ち着いた紺色のワンピースを着たお母様がやって来る。パッと見ただけでは、公爵夫人と分からなそうだが、その誇り高い佇まいは明らかに貴婦人である。
「ティナ、待たせてごめんね。それじゃ、行きましょうか!」
「はい!よろしくお願いします!」
家紋がついていない馬車に、私とお母様、メアリーが乗り、護衛のカーティスが単騎でついてくる。
カーティスはお父様の護衛だったが、私が外へ出掛けるようになるからと「ティナには信頼できる者をつけなきゃね」と言ってくれて、いまは私とお母様の護衛をしてくれている。
前世のカーティスは、ずっとお父様の護衛だったため、お父様同様にほとんど公爵邸にはいなかったから、ほぼ関わったことはない。
今世でカーティスと接してみると、朗らかで気さくな青年だ。歳は20才くらいかな。結婚したばかりで新婚ホヤホヤらしい。
孤児院は王都に程近い場所にある。
孤児院に到着して馬車から下りると、すぐに元気な声に包まれる。
「アリアナさまだ〜!」
「こんにちは〜!アリアナさま〜!」
私と同じくらいの歳の子供や、もっと幼い子供たちが駆け寄ってくる。彼らの後ろには、年長組だろうか、私よりも大きい子供たちがいた。
ここの孤児院は、0〜6歳が年少組、7〜10が年中組、11〜15歳が年長組と呼ばれていることも、お母様から教わっていた。
「みんな!こんにちは!今日はね、このあいだ話したとおり、私の娘を連れてきたわよ!」
すると、子供たちの前に進み出てきた60代くらいの女性が私たちに声をかけてきた。
「ロバート公爵夫人、そしてロバート公爵令嬢、本日はお越しいただき誠にありがとうございます」
丁寧にお辞儀をする女性は、とても優しそうな顔立ちで目元の笑い皺が印象的だ。
「ナターシャ、今日もよろしくね。この子が、私の娘のクリスティナよ。クリスティナ、みんなに挨拶を」
「はい!」
お母様の隣に並んでいた私は、一歩前に進み出る。
「初めまして皆さん!こんにちは!クリスティナ・ロバートです!今日は、いろいろ教えてください!よろしくお願いします!」
すると、どうしたことだろう。
幼い子供たちだけでなく、後ろに控えていた年長組の子供たちも駆け寄ってくるではないか。
あっという間に、私とお母様は囲まれてしまった。
「わぁ!おじょうさまだ〜!」
「すごくカワイイ〜!」
「おめめがアリアナ様といっしょでキレイだね〜!」
「あそぼー!あそぼー!」
年少組の子供たちに、グイグイと手を引かれる。
「こらこら。そんなに一度に話しかけたらお嬢様が困ってしまいますよ。申し訳ありません、公爵夫人、お嬢様」
「大丈夫です!」
私がそう返すと、ナターシャと呼ばれた老齢の女性は、ニッコリと笑い皺を刻み込む。
「そう仰っていただき、ありがとうございます。改めまして、私はこの孤児院の院長を務めさせていただいております、ナターシャと申します。至らぬ点も多いかと思いますが、今後ともよろしくお願い申し上げます」
そうして、私へも丁寧なお辞儀をしてくれる。
「こちらこそ、よろしくお願いします!」
ーーーーーパン!パン!
お母様が二度、手を叩いた。
「さぁ!さぁ!挨拶は終わったわね!みんな、追いかけっこの時間よ!私が鬼よ!10秒数えるあいだに逃げなさい!」
「えっ!?」
私は驚いた声を上げる。
『いきなり!?』
「ほらっ!ティナも皆といっしょに早く逃げなさい!!」
孤児院の子供たちは、待ってました!と言わんばかりに一斉に走り出す。
私は、私の手を引いていた年少組の子といっしょに手を繋いで走り出した。
こんなに幼い子供と手を繋いだのは初めてかもしれない。
お母様の「い〜ち、にい〜、さ〜ん」と、数える大きな声が後ろから聞こえてくる。
木の陰に隠れてる子、草むらに隠れてる子、ひたすら走り回って逃げる子。
子供たちの笑い声が響き渡る。
いつの間にか、メアリーや護衛のカーティスまで加わっているではないか。メアリーなんて、すぐお母様に捕まってしまっていた。
お母様があんなに走っている姿を見るのは、前世で両親とピクニックに行ったとき以来だろうか。
私も、こんな走っているのは前世から数えても、かなり久しぶりだ。
”淑女たるもの走ってはならない”
そんな教えがあるから、これほど走るのが楽しいことを忘れていた。
私は、両手に繋いでいる小さな手といっしょに、それほど広くはない孤児院の庭を走り回った。
「あ〜あ、捕まっちゃった!」
とうとう、私たちもお母様に捕まってしまった。孤児院には12名の子供たちがいるが、既に他の子供は捕まっている。
『お、お母様、ぜんぜん息が上がってないわ・・・』
私なんて、ゼーハーゼーハー、言っているというのに。
「ティナ!どう!?楽しいでしょ!?」
「う、うん!た、た、たの、しい〜!」
息が上がって、うまく喋れない。
その後、皆で孤児院の建物の中へと移動する。
ダイニングルームへ入ると、年長組やメアリーが休憩用のお水を準備してくれていた。
それほど広くないダイニングルームには、12名の子供たちと院長先生がギリギリ座れる広さのテーブルがあり、椅子と椅子がくっつきそうになって並んでいる。
そこへ子供たちが座っていき、年少組のなかでも最も幼い子供たちは年長組の膝の上に座らせてもらっている。
私も、普段は院長先生が座っているであろう誕生日席をすすめられ、お水をいただく。座ってみると皆との距離感が近くて、なんだか嬉しくなる。
「はぁ〜、走ったあとのお水は美味しいね!」
走りすぎて火照った体にお水が沁み渡り、私はつい声に出していた。
「ね〜、おいしね〜!」
「お水ならいっぱいあるから、何杯だって飲んでいいよ!」
子供たちがそう返してくれて、ただのお水を飲んでいるはずなのに、皆で飲むお水が高級な何かの飲み物に感じてきたのだった。
そんなクリスティナと子供たちを、母アリアナ、侍女メアリー、護衛カーティス、院長ナターシャは、優しい眼差しで見守っていたのである・・・。




