暗闇での目覚め①
ここから、クリスティナが生きた17年間の回想編です。
『チッ。最後の最後に力を覚醒するなんて、忌々しい』
そんな、誰かの呟きが脳内に流れる。
...ち...から...か...くせ...い...だ...れ...?
泥沼の底にいるような感覚が、だんだんと軽くなる。
まぶたを少しずつ、少しずつ上げていく。
目の前は真っ暗だ。どうやら仰向けに寝ていたようで、上半身だけ起こし周囲を見回してみる。
右を見ても黒。左を見ても黒。前も後ろも上も黒一色。何も見えない。
「私、死んだのよね。・・・ということは、ここは俗に言うあの世?」
思わず、自分の首に手を当ててみる。首がつながっている。確かに、私は処刑されたはず。
でも、手足も動く。脈は...ない。やっぱり死んだようだ。
それなら、やはりここはあの世なのだろう。
どう見ても天国ではないが。
さて、これからどうしよう。
ここには、見えないだけで何かあるのか、それとも永遠にこのままなのか。
永遠ならば、それは私への罰ということなのだろう。
では、座ったままでも仕方がない。
まず歩いてみよう。
何かあるかもしれない。
どちらへ歩くのが正解なのか全くわからないが、とりあえず自分が立った正面へ歩き出す。
体の違和感はない。ただ、ひたすら歩いた。
音一つない真っ暗な空間。
長い時間歩いた感覚だが、時間がわからないため、何時間もたってるかもしれないし、本当は数分かもしれない。
死んでるからなのか、疲れもしないし、オナカも空かない。
ただ、これが永遠なのかと思うと途方に暮れる。
「いいえ。これは罰なんだから、きちんと自分を省みなさい、ということよ。きっと」
誰もいないが、声を出さないと息が詰まりそうだ。
あっ、もう死んでるんだった。
自分でノリツッコミしてしまったが、きちんと省みよう。
私は、変化のない黒一色の暗闇の中に再び座り、目を閉じる。
そして、これまでの自分を見つめ直してみる。
➖私は、クリスティナ・ロバート。コフィア王国ロバート公爵家に生まれた。
父グレイソン、母アリアナのひとり娘だ。
父譲りの黄緑がかった薄い金色の髪に、母譲りのエメラルドグリーンの瞳。
コフィア王国は、天使に守護されている国だ。
この世界には、人間のほかに、天界を統べる天使族、地底を統べる魔族がいると言われている。
今から三千年前、まだ国と呼べるものがなかった時代。魔族が人間を支配しようと攻め込まれた。
それを救ったのが天使族の大天使アーリエル様だ。
今でも、国の大天使殿にはアーリエル様の大きな像があり崇められている。
大天使殿とは、他の国で言えば神様を崇めているのなら神殿のようなものだ。
アーリエル様に救われたあと、今後も人間を護るために天使族の姫が人間の男性と結婚した。
その人間が、コフィア王国の始祖である。
そのため、王家は天使族の血を受け継いでいると伝えられ、天使の力を使うことができると言われている。
だが、私は王族と近い関係にいたが、その力を見たことはない。
詳しくは知らないが、天使族は救いの力、魔族は攻撃する力らしい。
そういえば、国の大天使殿は王都ではなく、隣国の国境に近い場所にある。
他国は重要な大神殿は主要な都市にあるのに、どうしてコフィア王国は王都から離れた場所にあるんだろ?国の端から端まで離れているわけではないが、王都から馬車で2日間は要したはずだ。王族の方々は、建国記念日に大天使殿を訪れ祈りを捧げるのが慣わしだが、私は王太子の婚約者という身分だったので行くことは叶わずに終わった。
生きてる頃は、それほど不思議に思わなかったけど、学園の授業でも天使族は善、魔族は悪、みたいなレベルでしか教えてもらってない。国が大天使を崇めてるのに、そのレベルでいいのだろうか?と疑問に思ったところで、今さら遅いが。
さて、少し見つめ直しが脱線してしまったが、元に戻そう。
生を失ったはずが、なぜか目覚めてしまったクリスティナ。
生を失ったためか、本来の自分が戻りつつあるのか、一人でノリツッコミしちゃうような、くだけた感じもあり・・・(*´ω`)