学園の食堂事情
今世で目覚めて2週間が経過した。
学園に入学してからも2週間が経過したことになる。
「ミレーネ様!食堂に行こう!」
「は.....うん!」
『いま”はい”と言いそうになったわね。恥ずかしそうにして言い直すところなんて、本当に可愛いわ!』
「学園内では敬語はなし!」と伝えてから早1週間。
最初は戸惑っていたミレーネ様も、だんだんと慣れてきたようだ。まだ、お互いに”様”はついたままだが。
昼食を食べるために、ミレーネ様と学園内にある食堂に向かう。教室がある棟ではなく隣の棟へと移動する。
1週間前から午前中だけだった授業も丸1日となり、昼食は学園内の食堂で食べるのだ。
ここコフィア王立学園の初等部の昼食は、生徒全員が同じメニューを食べることになっている。
メニューは、貴族が食べるような肉料理のお皿、サラダのお皿、パンのお皿と別々になっているのではなく、平民が食べるようなメニューをワンプレート皿に盛られている。
これは、平民への偏見を持たないようにするため、幼い頃から平民のことを知ることが目的とされている。また、平民が学園に入学してきても気負うことなく楽しく食べられるようにと。
もちろん、学園にはマナーの授業もあるので、貴族の食事のマナーなど学べる機会は平民にもある。そこで習得すればいいだけの話だ。将来、王宮など貴族が多い場所で働く場合には役立つから。
そして、食堂の厨房はオープンとなっている。オープンキッチンと呼ばれるものだ。
広いオープンキッチンとなっており、そこで大勢の人たちが調理している。ほとんどが平民の人たちだ。貴族の家では家人が厨房へ行く機会は少ないが、どのように料理が調理されているのか、どのように平民たちが働いているのか、生徒たちが自分の目で見て感じるためだ。
そして、生徒全員分の昼食を調理するためには大勢の人を雇わなければならないが、それも平民たちのいい就職先となっている。さらに、料理に使用される食材も大量に必要となるが、野菜、果物、お肉、パンの原料の小麦などの農家や生産者は、学園が取引き先となれば平民たちの大きな収入源ともなる。
また、それぞれの食材は違う領地で生産されていることから、どの領地にどのような特産品があるのか生徒たちは学べる。食堂には”本日のメニュー”と記載された黒板が設置されており、食材一つひとつに生産された領地が記載してあるのだ。例えば小麦一つにしても、パンに向いている小麦、お菓子に向いている小麦、パスタに向いている小麦など多種多様である。それらを学び、もし気に入ったものがあれば、生徒たち自身が大人になってから自分で取引きをすることも可能だ。そうすれば、平民たちも新たな収入源を得られる。
ワンプレート皿を使用しているのも、平民への理解を深める意味のほかに、大勢の生徒たちが使用した食器の洗い物を少なくすること、片付けを簡単にする意味もあり、働く側への配慮もある。貴族然とした食事のように1枚ずつ別の食器を使用するとなると、洗い物の量も多くなるし、片付けるのも同じ食器ごとに重ねなければならないため時間も労力もかかってしまうからだ。
この環境のおかげで、貴族でも自分で調理することに興味をもつ者や、貴族の家でもワンプレート皿で食事が用意される家もあるくらいだ。
本当に、これを考えた先々代王であるリュバン陛下は素晴らしいと思う。
15才で王座に就き、18才の時には改革を成し遂げていたと伝えられているのだから、その発想と手腕には畏敬の念を抱かざるを得ない。
この政策のおかげで、実際に経験済みである今の生徒の親や祖父母の世代は、平民に対して差別するような貴族はほとんどいない。前世で、ミレーネ様を虐げていたような愚かな者が極少数いることには残念であるが。
私の両親も、前世で娘に対してどうだったかは別として、公爵領の領民たちの生活を真剣に考えている。領民たちが働けるような宿泊施設などの運営、知識教養を身につけるための学校運営、生きていく不安をさせないための孤児院や治療院の運営。心から領民を大切にしているのだ。領民たちが一生懸命働いてくれるからこそ、自分たちが存在していることを決して忘れてはいない。
それに、食堂の昼食は本当に美味しいのだ。貴族の家では凝った料理が多いと思うが、食堂の昼食はシンプルだし調味料も限られているなかで、どこか懐かしい温かみのある味なのだ。前世の私も、この食堂の昼食を楽しみにしていた。
ちなみに、中等部や高等部になると、食堂も複数ありメニューも数種類あって、自分で食べたいものを選べるようになっている。メニューの内容は初等部のようなものだし、オープンキッチンなところもワンプレート皿なところも変わりはない。
あと、カフェテリアもあるから、平民たちが愛用するお茶やお菓子なんかも食べられるようになる。
昼食を自由に食べられるようになるため、家からサンドウィッチなどお弁当を持ってくる生徒もいる。学園の中庭は綺麗な花壇となっており、中庭のベンチに座り食べたりするのだ。
前世の私は・・・悲しいかな、ほとんど中等部からは食堂には行かなかった。あのような状況だったため、家からお弁当を持って1人で花も咲いていない学園の裏庭で食べていた。食欲がない時もあったから、そんな時は図書館でお昼休憩をずっと過ごしていた。
今世では、全ての食堂やカフェテリアにも行ってみたいものだ。
私とミレーネ様は食堂へ到着し、中央にある扉から中へと入る。
広い食堂内は、右側がオープンキッチンとなっており、オープンキッチンの前には、すでに料理が盛りつけられたワンプレート皿がズラーーーっと並べられている。各学年ごとに置かれていて、学年が上がるごとにワンプレート皿も大きくなる。
生徒は自分でワンプレート皿をトレイにのせて、フォークやスプーンも置いてあるため、それも自分でトレイにのせて好きな席に着いて食べるのだ。並べられたワンプレート皿が少なくなれば、オープンキッチンの奥から、どんどん新しいワンプレート皿が置かれていく。カラフェに入ったお水も置いてあるが、お水も自分でグラスに注いでトレイにのせる。貴族の家では使用人にしてもらうことばかりだが、それを当たり前とは思わずに周囲へ感謝の気持ちを忘れないためだ。
これらを幼い頃から実践していれば、貴族だろうと苦にはならない。
私とミレーネ様は、昼食とお水をトレイにのせ席に着く。食堂のテーブルは縦長の長方形で向かい合わせに座れるようになっている。1つのテーブルに30名分の椅子があり、片側に15人、もう片側に15人といった感じだ。そのテーブルが入口へ向かって縦に4つ並んでいて、それと同じものが横に9列並んでいる。
私は、1週間前から同じ席で食べている。食堂の入口から一番右側の一番奥の席だ。リュドヴィック殿下は入口から一番左側の一番手前の席で食べることを知っているため、一番離れている席にした。
食堂の入口から右側はオープンキッチンもあり、必ず生徒が通る場所でもあるから、殿下は一番左側の席を使っている。右側は生徒が多く往来するため、左側のほうが不必要に声を掛けられたくない殿下にはピッタリなのだ。それに、入口から一番左側はオープンキッチンから一番離れているため、昼食を持って9列先のテーブルまで行こうとする生徒は少ない。
入学してから2週間、まだ殿下とは顔を合わせていない。殿下の行動パターンは前世のおかげで把握しているため、会わないように、見ないように徹底しているのだ!
長くなってしまったが、これが学園の食堂事情である。
そして、私が入口から一番右側の一番奥に座り、ミレーネ様が私の向かい側に座る。
”いただきます”と言おうとしたところで、ミレーネ様が「あっ...」と、オープンキッチンのほうを見ながら小さな声をあげた。
「どうしたの?」
私もそちらへ振り返ってみる。
『あぁ、そういうことね』
ミレーネ様が声をあげた理由が分かった。ミレーネ様へ『いい?』と尋ねるような目線を送り首を傾けると、ミレーネ様はコクっと頷く。
「グスタフソン様!ウェバー様!ここが空いてますよ!」
2人の女子生徒が昼食をのせたトレイを持ったまま、空いている席が見つからないのかキョロキョロしていた。私の呼ぶ声に気づくと2人ともパタパタと寄ってくる。
スカーレット・グスタフソン侯爵令嬢とモアナ・ウェバー伯爵令嬢。2人ともクラスメイトだ。
「ロバート様!!ありがとうございます!先生のお手伝いで職員室に寄っていたため、食堂に来るのが遅くなってしまい、席が見つからず困っておりました!お声を掛けていただき大変助かりましたぞ!!」
初等部1年生らしく、元気にハキハキと、そして騎士のような、偉いおじ様のような口調で話すのがグスタフソン様。
「スカーレット、、最後の言葉の、、語尾がなんか、、変」
まったり、ゆっくりとした口調で、すかさずツッコミを入れているのがウェバー様。
「そうか!?変なの!?」
ウェバー様の言葉に、グスタフソン様は男の子のような女の子のような言葉遣いを混ぜて狼狽えている。
「ふふっ。私たちの隣が空いてますので一緒に食べましょう!」
「ありがたき幸せ!!!」
「ありがとう、、スカーレット、、やっぱり、、変」
たしかに、ほとんどの席が埋まってしまっていたが、たまたま私とミレーネ様の隣は空いていたので、グスタフソン様が私の隣、ウェバー様がミレーネ様の隣に座り、4人で昼食を開始した。
「「いただきます!!」」
「「いただきます」」
今日のメインメニューは、チキンとブロッコリーのグラタンだ。グラタンは前世でも大好きだった。
ワンプレート皿には仕切りがついていて、まず皿半分のところに横へ仕切りがあり、上半分がさらに縦に仕切りがある。下半分にメインが盛りつけられていて、上半分の右側にコンソメスープのカップ、左側にコールスローサラダだ。
コールスローサラダは細かく切った具材でキャベツがメイン、きゅうりや人参、ハム、コーンが混ざっており、味付けにはマヨネーズが使われいる。このシャキシャキ感がたまらない。そして、大きな器で作ったであろうグラタンは取り分けて、ワンプレート皿のメインの場所に盛りつけられている。ホワイトソースのグラタンに舌鼓を打ちながら、私はクラスメイトたちに話しかけた。
「グスタフソン様。ウェバー様。私のことは、どうぞクリスティナと名前で呼んでね!」
「それは誠に光栄である!わたしのこともスカーレットと呼んでください!」
スカーレット様はグラタンをフーフーフーフーしていたが、一旦手を止めて返してくれた。意外と猫舌らしい。
「わたしのことも、、モアナ、、とお呼びください」
「あ、あの、わたしもミレーネと呼んでいただけると.....嬉しいです」
4人で顔を見合わせて、ニカっと笑い合う。
「あと、敬語もなしね!」
私が追加して言う。
「承知した!!」
「スカーレット、、もっと静かに。まぁ、、そのほうがラクだし、、わかった」
「あ、あの、頑張りま.....頑張るね」
それぞれの個性あふれた返答である。
前世の入学式で、リュドヴィックがクリスティナのことを初対面で「クリスティナ嬢」と呼んでしまってますが、あまりの妖精のような天使のような可愛さに、つい名前で呼んでしまった・・・そうです。




