入学式の夜
「お嬢様、夕食の準備が整いました」
メアリーが夕食の時間だと知らせに来てくれた。
思考に耽っていたら、それほど時間が経っていたらしい。
「ありがとう!今日の夕食は何かな?」
「ふふっ。それは行ってからのお楽しみです」
メアリーが、やけに嬉しそうだ。
そして食堂へ入った私は、朝と同じように立ち止まり目を見開いてしまった。
メアリーが、あんなに嬉しそうにしていた理由がわかった。
目の前にーーーお父様とお母様がまた座っていたからだ。
朝と違うのは、私から両親のもとへ走り寄って行ったことだろうか。
「お父様!お母様!」
「あぁ、ティナ。今日はティナの入学のお祝いだからね。早めに帰ってこれてよかったよ」
「おかえりなさい!お父様!お母様!お祝いしてくれるの?」
「ただいま、ティナ。そうよ、今日は入学式だったんだから、新たな門出をお祝いしなきゃ!」
「ありがとう!とっても嬉しい!」
そして、席につくと料理が運ばれてくる。
両親にはワインが用意され、私には希少なマスカットの果実水が用意された。
「では、改めて」
家族3人でグラスを持ち、お父様がそう切り出す。
「「ティナ、学園入学おめでとう!!」」
お父様とお母様にそう言ってもらえて、目頭が熱くなってくる。
「ありがとう!」
私にとって前世も含めると、10年以上ぶりの家族3人での乾杯だった。
「それにしても、グレイソン。今日は陛下に呼ばれなくてよかったわね」
「本当だよ。まぁ呼ばれたとしても、こんな大事な日なんだから逃げたけどね」
「へいか?」
両親の会話に、思わず口を出してしまった。
両親はとくに気にする様子もなく、会話を続ける。
「そうよ。私もグレイソンも、今の国王、リュベルト陛下と同級生なのよ。グレイソンは、とくに陛下と仲良しだから、よく王宮から呼び出しがあるのよ。陛下に捕まって、なかなか帰してもらえないのよね〜」
「まぁ、ほとんど陛下の愚痴に付き合わされてるだけなんだけどね・・・」
そう言ったお父様は、遠い目をしている。
お父様とお母様がリュベルト陛下と同級生ということは知ってはいたが、これほどまでに仲良しだったとは知らなかった。
家に帰ってこなかった理由には陛下も関係していたとは・・・。
私は、本当に両親のことを何も知らないんだな、と思った。
それから両親は、学園でどこの中庭が綺麗だとか、どこの食堂には行ったほうがいいとか教えてくれた。
まさか、私も知っていますとは言えない。
それでも、両親のお気に入りだった場所とか聞けたおかげで、知っている学園であっても違った風景で見れそうだ。
もちろん、いい意味で。
「そういえば、第一王子のリュドヴィック殿下も入学したはずだけど、ティナは会ったの?」
お父様の言葉に、ギクっとしてしまう。
「え〜っと、殿下とは別のクラスだから会えてないよ」
嘘はついてない。
別のクラスも本当だし、帰りに馬車の待機場で横を通り過ぎたが、殿下へ顔を向けないようにして歩いていたから、まだ会ったわけではない。
「そうか。そうか。別のクラスか!」
なんだか、お父様がホクホク顔だ。
なぜか、お母様が呆れた顔でお父様を見ている。
『あっ、お父様は私に婿をとろうと考えているから、殿下とは親しくしてほしくないのもしれないわ。あら?でも、お父様は陛下と仲が良いのよね?今までの話を聞くかぎり、ただの仲良しではなく、王宮へ呼び出しがあるくらい、ものすごく仲良しなんだと思う。それなら前世の時も、事前に陛下から婚約の話を聞いている可能性は高いのに、どうして断らなかったのかしら?さすがに仲良しと言えども、陛下からお願いされたら断れなかったということ?』
その後も、両親の学生時代の話などを聞きながら、入学式お祝い夕食は和やかに進んだのだった。
自室へと戻ってきた私はベッドに腰掛けて、家族3人での夕食の余韻に浸っていた。
「お父様とお母様と、朝も夜もいっしょにいられるなんて夢のようだったな。急にどうしたのかな?」
思わず本音を口にしてしまった。
それを聞いたメアリーが、私の前に屈んで頭を撫でてくれる。
あの日の約束は、継続中らしい。なんだか恥ずかしいな。
「それは、お嬢様が"素直"になったからですよ」
「素直?」
「はい、そうです。お嬢様が心の中で想っていることを、素直に表現なされたおかげで、旦那様も奥様も嬉しかったのではないでしょうか」
”素直な表現”とは、今朝のことを言っているのだろうか?
「それじゃあ、我儘な子ってこと?」
「お嬢様。”素直”と”我儘”は違うのですよ」
メアリーが頭を撫でる手を止め、優しい少女の目で見つめてくる。
前世で17年間生きていたが、違いがわからない私は困った。なにせ”素直”とも”我儘”とも無縁だったのだから。
「お嬢様は、これから知っていけばいいのです。大丈夫ですよ、お嬢様はもっともっと素直に表現していいのです」
”素直”と”我儘”
なにがどう違うのか。
今世での新たな課題が追加となった。
そろそろ寝ようかと思った時、髪に飾っていたボリジの花のことを思い出す。
入浴するために外してもらって、ベッド脇のサイドテーブルに置いていたのだ。
「この可愛いお花、萎れちゃうかな?」
「それでしたら.....お嬢様、少々お待ちくださいね」
一旦、部屋を出たメアリーは、小皿を持ってすぐに戻ってくる。
小皿には水が入っており、そこにボリジの花を浮かべてくれた。
「お花は自然のものですから、いつかは萎れてしまいます。しかし、お花を可愛がって手入れをしっかりすれば、新たなお花が咲いてくれます。また、綺麗なお花をジャン様にいただいて、髪に飾りましょう」
「うん!なんだか今日は、いい夢が見れそう!」
「ふふっ。おやすみなさいませ、お嬢様」
「おやすみ、メアリー」
そうして、星形の可愛いボリジといっしょに眠りについたのだった。




